ストライクウィッチーズ~愛の夢~   作:プレリュード

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第3話 ちゅうさ

 出撃が終わったあとには、必ずやらなくてはいけないことがある。それは夜間哨戒だろうと、通常時の迎撃だとしても、絶対にやらなくてはいけないこと。

 それは報告だ。

 元の世界でも『ホウレンソウ』を大事にしなくてはいけない、と言われたことはある。もちろん、食用野菜のことじゃなくて、『報告・連絡・相談』の略のほうで。

 だから私が基地に帰ってきて真っ先にやらなくちゃいけないことはミーナ中佐への報告だった。

「失礼します」

 控えめなノック。なんだかとても立派な立て付けのドアは響く音も重厚感がある気がする。

「入って」

 よく通るミーナ中佐の声がしてから、ドアを開ける。でも部屋の中はミーナ中佐だけじゃなくて、坂本少佐もいた。この人とはあまり接触かない。よくミーナ中佐といっしょにいるところを見るけれど、やっぱり難しい話をしているんだろうか。

 

 どのみち私にはあまり関係ない話だし、関係を広げることはバレるきっかけになりかねない。それに、サーニャが戻ってきた時に違和感を与えるような結果にもなりかねない。

「おお、サーニャ。報告か?」

「はい。ミーナ中佐、哨戒任務は完了しました。異常は特に見られません。哨戒中にネウロイと接触することもありませんでした」

「そう、わかったわ。いつもごめんなさいね」

「そんなことはないです」

 ならナイトウィッチの数を増やしてくれてもいいのにと思ったけど、軍の詳しい事情を私は知らないから黙っておこう。余計なことを言ってボロを出してしまっては、なんの意味もない。

「報告ありがとう。ゆっくり休んでちょうだい」

「はい。失礼しました」

 廊下に出てから張り詰めていたものを緩めた。すでになんども報告はしてきたけれど、やっぱりこの時間は緊張する。それ以前に私は人と長い時間、話すことが苦手という理由もあるけど。

 私は昔から内気な性格だったと思う。だからこそと言うべきかもしれないけれど、とにかく私は人と話すことがそんなに得意ではなかった。今でこそだいぶ改善されたけれど、以前は話すことすら拒絶していた。今になって考えると、親に暴力を振るわれていたことにも、原因があったのかもしれない。

「ふわぁ……」

 あくびを出した口を手でおおう。はやく部屋に戻ってベットに潜り込みたい。だから急いで部屋に向かった。

        ♤

「ふう……」

「ずいぶんと疲れてるな、ミーナ」

「そう見える?」

「ああ」

 きっぱりと坂本美緒少佐に言い切られて、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐は肩をすくめた。実際に疲れていないと言えば嘘になる。部隊長という立場は責任も重い。それだけではなく、全体を見て動かなくてはいけない。出撃が減りはしたけれど、やらなくてはいけないことはむしろ増えた気がする。そしてその分、気疲れもしやすくなっている。

 美緒はそういうところが本当に鋭いと思う。だからこそ、つい現場指揮などをまかせがちになってしまうのだけれど。

「大丈夫よ。これくらいは平気だから」

「そうか。ならいいんだが」

「で? わざわざこんな時間に私の仕事部屋に来たからにはなにかあるんでしょう?」

 なにもないなら、たいてい誰かの訓練を見ているか、自主鍛錬をしているのが坂本少佐という(ウィッチ)だ。つまりミーナの部屋に来たからには何かしらの理由があるはずだった。

「なに、大したことじゃない。ただ、最近の部隊の様子を知るならミーナに聞いた方が早いだろう?」

「そうね……宮藤さんが来てから少し乱れはあったけど、全体的に見るなら今はだいぶ落ち着いたかしら」

 あごに手を当ててミーナが眉をひそめた思案顔をする。様になっている姿ではあるが、これでもミーナは18歳のうら若き乙女。決して疲れた中間管理職のようだなどと言ってはいけない。

「バルクホルンもか」

「ええ。トゥルーデもいろいろ思うところがあったんじゃないかしら」

 たぶん妹のクリスを重ねてしまったのだろうと察しはつけていたが、ここで口にする必要をミーナは感じなかった。それにこれは、かなりプライバシーに踏み込む内容だ。推測が当たっている確証がミーナにあるわけでもなし、そして話さなくてはならない状況でもない。

「ペリーヌも調子を取り戻し始めた。リーネに至っては実戦において撃墜(スコア)をあげた。一時の混乱はあったが、結果的に見れば宮藤の参加はいい効果をもたらしたんじゃないか?」

「まあ、そうね。それに彼女にしてもだんだん戦力になってきているし、いいことだとは思うわ」

「思わせぶりな言い方だな」

「そうかしら?」

 とは言え、引っかかるものが何もない訳でもない。意図せずしてそんな言い方になってしまったのかもしれないとしたら、悪いことをしたと思う。

「ミーナ、何が気にかかっている?」

「サーニャさんのことよ」

「サーニャが? 今しがた報告を聞いたところだが、特に変な様子は見受けられなかったぞ?」

「これを見て。つい先日、夜間哨戒中に起きた戦闘のログよ」

 ミーナが差し出したのはサーニャが単独で夜間の哨戒中にネウロイと交戦した記録が記された書類。サーニャのストライカーに搭載されている計器とレーダーの記録を解析すれば、サーニャがネウロイとどう戦ったかわかるのだ。

「ふむ……」

「どう思うかしら?」

「はっきり言ってサーニャらしくないな。動きに精細を欠いている。サーニャの腕があればこの程度ならすぐに落とせるはずだ。それなのに手こずりすぎている」

「やっぱりそうよね。これ、ちょうど宮藤さんが来た時くらいからなのよ」

「宮藤が影響していると?」

「トゥルーデのこともあるから……」

「だがサーニャはナイトウィッチだ。宮藤とは話したことすらほとんどないんじゃないか?」

「それはそうなんだけど……でもトゥルーデだって深く関わったりはしていなかったわ」

「む、それはそうだな」

 そして例はこれだけではない。ひとつひとつの哨戒行動において、サーニャの動きは鈍くなっている。大きく影響が出ているわけではないが、部隊長としてミーナは見逃すわけにはいかない。何かがあってからでは遅いのだから。

「どうする、バルクホルンの時みたいに組ませてみるか? すぐにとは言わないが」

「そうね……そうしてみようかしら。宮藤さんはできそう?」

 ミーナが訪ねたのは、宮藤に夜間哨戒をさせることは可能か、ということだ。夜間飛行をするというのは、昼に飛ぶことと比べておそろしく難易度が高い。彼女とサーニャだけで行かせて問題ないか、ということを暗にミーナは教官を務めている坂本少佐に聞いていた。

「わからん。私がつこうか?」

「……そうね。美緒がついているなら安心できるわ。お願いしていいかしら?」

「任せろ」

 坂本少佐が言い切った。それならばミーナも安心できる。階級はミーナの方が上ではあるが、年齢は坂本少佐の方が上なのだ。

「なら近いうちに夜間哨戒のシフトを組み直すわ」

「頼む」

 また仕事が増えた、と内心でため息。でもこれは必要なことだ。だからシフトの組み直しだって止む無いことなのだ。少しばかり負担が増えるだけで部隊の問題が解決できるならいいことではないか。

 

 ついつい愚痴のようになってしまった思考をミーナは首を横に振って追い払った。

「では私もそろそろ寝るとしよう」

「そう。おやすみなさい」

「ああ」

 ひとりきりになった部屋でミーナが一息をついた。レーダーの記録に残ったサーニャの動きがミーナの胸にはしこりのように残り続けている。

「宮藤さんと組ませることで好転するといいけれど……」

 いくらバルクホルンの一件では成功したからといって、次も同じ手で上手くいくとはかぎらない。これで、貴重なナイトウィッチの戦力が減ってしまうことはミーナとしてはなんとしても避けたい事態だった。

 

 世界的にみても、ナイトウィッチは貴重だ。そして501に専門として夜間に動けるのはサーニャだけ。一応としてバルクホルンやエイラなど夜間飛行もできるウィッチを交代要員にしてはいるが、本職のナイトウィッチであるサーニャがきちんと機能した方がいいに決まっている。

 だからミーナとしてはサーニャが不調という事態は、エースであるバルクホルンが不調であるということとイコールで早急に解決したい問題だった。

「ただ美緒の言い方からするともう少し時期を見た方がいいかしらね……」

 急いだ方がいいことではあるが、事を急ぎすぎたせいで誰かが傷つくような結果になってはいけない。何より宮藤はまだ新人だ。慎重に慎重を重ねるに越したことはない。

「しかも近いうちに本部への報告で呼び出し……本当に勘弁してほしいわ」

 どちらかというとミーナとしては報告のために呼び出される方が憂鬱だった。どうせまたロクでもないことを言われるに決まっている。戦果は十分すぎるくらいに出しているし、基地防衛もしっかりとできているのだから、これ以上に口を出すのはやめてほしいものだ。

 そしてここまでいろいろなことが積み重なれば、ミーナのため息が増えるのも必然だった。

 




はやくペテルブルグ見に行きたい……

時間が、時間がないんじゃぁぁぁ……なんとか見に行きたいんですよ。友人がめちゃくちゃよかったって言われて、最高にエイラーニャしてると聞いて見に行くしかねえ! とは思っているんですけどね。実際、時系列的に話へ組み込めそうな気がしなくもないのでネタ集めとしてもいいかもしれませんし。

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