魔法夫婦リリカルおもちゃ箱   作:ナイジェッル

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機動六課サイド。


第06話 『mystery』

 悔しい。ただ、その言葉だけがティアナ・ランスターの胸を締め上げる。あの貨物列車での戦闘は、自分にとって待ちに待った実戦だった。初の、正式な任務だった。だというのにあんな無様な醜態を晒そうとは……失敗は覚悟こそしていたがなかなかキツイものだ。

 最も重要だったレリックの確保は隊長陣営が尽力してくれた。だが、その反面自分はどうだ。一人の魔導師に不意打ちを仕掛けられたとはいえ、為す術もなく無力化された。もはや戦力として数えられるかどうか。

 これは屈辱なんてレベルのものじゃない。憤るとしてもそれはフードの男に対してではなく、少しでも油断をした己自身である。

 

 ティアナは機動六課に設備されてある射撃場でただひたすら魔力を編み、撃ち続ける。ストレスを解消するように。蟠りを激流で洗い落とすように。

 ―――嗚呼、なんて醜い弾道だろうか。銃身も見事なまでにぶれて的には弾が一発も当たらない。元々狙っているかどうかも怪しい射撃だ。当たらないのは当然だろう。

 

 「なーに無茶苦茶やってんだオメェは。全然命中してねーじゃねぇか」

 

 背後から突然男の声がし、反射的に素早く振り向き訓練用の銃型デバイスを向けた。

 

 「おいおい物騒だな」

 

 声を掛けてきた男はヴァイス・グランセニック。機動六課のヘリパイロットだった。

 

 「す、済みません!」

 

 ヴァイスだと分かるとティアナはすぐにデバイスを下ろし、頭を下げた。ヘリパイロットと言えど階級は彼の方が上なのだ。失礼があってはいけない。それに、反射的とはいえデバイスを向けて威嚇してしまったことには階級関係なく謝らなくてはならない。

 

 「いや、いいって いいって。いきなり声かけた俺も悪いからな」

 

 口では優しく言うが、彼の眼は呆れた眼差しで自分を見ていた。イライラしていたことも相まって、無性に腹立たしい気分になる。

 

 「………それで、私に何か用ですか」

 「何ってそりゃぁ、あんまりにもひどい射撃だったもんでな。少し落ち着けよ、て言いたかっただけだ。おっと、勘違いするなよ。決して冷やかしなんかじゃぁねぇぜ」

 

 魔導師でもない癖に、何故そのようなことを吐けるのだろうか。先輩面するのは結構だが、あまり関わりは持たないで欲しい。それがティアナの本心だ。だがしかし彼の階級は陸曹。たかが陸士の自分が反論していいはずがない。

 

 「ご指摘、ありがとうございます」

 

 ただ頭を下げ、言いたくもない礼を言う。そう、これが世間で生きていく術だ。感情に流されてはいけない。常に冷静になって物事を判断していく。全ては自分のため。そして、今は亡き兄の汚名を晴らすため。耐えねばならない時など幾らでもある。

 

 「…………」

 

 ヴァイスは歯切れの悪い顔をする。どうやら自分の本心に気付いているようだ。暫くして彼はハァ、と溜息を吐いて訓練用のデバイスを無造作に奪い取った。そのあまりにも理解できない行動にティアナは呆気に取られる。

 

 「どうやら気分を悪くしちまったらしいからな。特別に面白いもん見せてやらぁ」

 「い、いきなり何を……て、ちょっと待ってください。それは魔導師じゃなければ使えませんよ!」

 「あァ? だったら何の問題があんだよ。俺は“元”魔導師だぜ? 使えねぇ理由は――――ねぇ」

 

 そういって彼はバン! と射撃開始のボタンを強く叩く。瞬く間に射撃場には幾つものガジェットに扮した的が現れた。全ては唯のビジョンであり、本物のガジェットではなく、勿論AMFもない。

 的から此処までの距離は50mほど。ヴァイスが選んだ難易度はなんと―――『鬼』。普通の魔導師がどうこうできるレベルではない。それこそSランク級の狙撃技術を有さなければ平均点すら叩き出せないほどの難易度だ。またそれに恥じぬ速度でガジェットは飛び回る。到底肉眼では捉えられない速度である。

 

 ティアナは馬鹿な人だ、と内心で苦笑する。女の前でよほど恰好を付けたかったのだろう。魔導師だったことには驚きはしたが、所詮は唯の元魔導師だったというだけの話。並みの魔導師ではこのレベル『鬼』に設定されたガジェットを撃ち落とすことは不可能だ。

 

 「ほぉ。こいつは――――」

 

 ヴァイスは未だ拳銃型デバイスを構えず、口から小さな言葉が漏らした。まさか撃つ前から、諦めるつもりなのか。挑む前から、降参するとでも言うつもりなのか。もしそうであるのなら、とんだ口先だけの男だ。せいぜい赤っ恥を掻くが良いさ。

 しかし、ヴァイス・グランセニックはティアナの予想を大きく『裏切った』。

 

 「思った以上に簡単そうだ」

 

 彼の雰囲気が一瞬にして“変化した”……!!

 これは決して魔力が吹き荒れたとか、何か特殊な能力を発動したとか、そんな目に見える変化ではない。肌で分かる。不可視の圧倒的な圧力が本能で理解できる。

 この人は、先ほどのチャラけた男とは思えない、人殺しもかくやという冷徹な空気を、身に纏ったのだ。

 

 「宣言してやる。俺は、一発も外さねぇ」

 

 ティアナが呆けた意識をはっきりとさせた頃には、ヴァイスはもう既に拳銃型デバイスを構えていた。そして、彼は引き金を引いた。なんとも軽い、自然体な仕草で。まったく気負いというものが感じられない。

 一体、また一体と魔弾が高速で動いているガジェットに直撃していく。自分とは比べものにならない、圧倒的命中率だ。いや、命中率だけではない。魔弾の生成も常軌を逸している。

 なんだあの極小量の魔力で編まれた魔力弾は。燃費が良いとか、もはやそんな問題じゃあない。何せ彼は自分の四分の一ほどの魔力で弾丸を生成している。しかしながらその威力はティアナとあまり変わらない。まさに、無駄だけを削ぎ落とした完璧な魔弾だ。

 

 「俺の魔力量はお前の半分以下だからな。兎に角魔力が少ないのよ。だから魔力はできるだけ節約しなきゃならんし、当然無駄撃ちなんかもできねぇんだ。難儀なもんだろ?」

 「―――――――」

 

 ヴァイスの自嘲染みた言葉をティアナは返すことができなかった。それほど、彼の射撃にのめり込むように意識を集中させていた。

 そう、自分はただ見惚れていた。嫉妬を抱くことさえも許さないその射撃に。ただ、憧れた。その美しい魔弾の弾道に。

 嗚呼、何ということだ。彼の射撃には無駄というものが全くない。洗礼され尽くされている、正真正銘プロの御業だ。

 

 「さーて、コイツで終いだ」

 

 いつの間に取り出したのか、膨大な魔力が内包したカートリッジが彼の左手に握られていた。しかし、あの訓練用のデバイスにはカートリッジシステムなんてものは取り付けられていなかったはず。なら、何故彼は必要のないカートリッジを持ち出してきたのか。その内心での問いの答えを、ヴァイスはすぐに行動で教えてくれた。

 

 「そ――ッりゃぁぁぁぁ!!」

 「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 彼は魔力の込められた弾丸がたらふく詰め込まれているカートリッジを前方にぶん投げた。――――残り五体となったガジェットが飛び回っている場所に。

 

 「shot」

 

 そして、地面に墜ちる前にヴァイスはすかさずカートリッジを射抜く。結果、カートリッジに内包されていた膨大な魔力は暴発し、飛散した。それはまさに強力無比な爆弾『C4』四個分と同等の威力はある。五体のガジェットがその暴発から逃れるわけがなく、見事に直撃して消えて無くなった。

 

 ―――なんて、無茶苦茶な使用方法だ。カートリッジを爆弾替わりにするなど、聞いたことがない。

 

 「ま、大道芸ってやつだな。どうよ、凄いだろう?」

 「………………」

 「言葉もでないって顔だな。ああ、スッキリしたぜ。あんなシラケた面を見せられちゃあ驚かしたくもなるもんさね。んじゃな、小娘。訓練、精進しろよ」

 「ま―――待ってくださいヴァイス陸曹!!!」

 

 彼には聞きたいことが山ほどある。―――いや、そうじゃない。そうじゃないだろう。自分は、そんなことの為にヴァイスを引き止めたのではない。ティアナが彼を引き留めた本当の理由は、

 

 「私を弟子に」

 「断る!!」

 「はやっ!?」

 

 言い終える前に断られた。それもハッキリと、バッサリと。

 

 「あのなぁ、分かってるとは思うが俺はただのヘリパイロットだぜ? お前達を戦場に送りつける&回収することだけが仕事なのよ。ギャラにもならんことはせん! 何よりめんどくさい!!!」

 「ちょっとそれあんまりじゃないですか!? 可愛い後輩のためだと思って、なにとぞ! というか何が唯のヘリパイロットですか!! 明らかに普通じゃないでしょう!!!」

 「ばっか、あんなのは単なる大道芸だって言ってんだろうが。俺はお前のシラケた面をただぶっ壊したくて披露しただけなの。二度目は無し!………だいたいなぁ、俺は人に教えられるほど立派な人間じゃあないんだよ。残念だが他当たれ、他に」

 

 近くに設置されていた自動販売機に小金を入れ、珈琲を購入したヴァイスはそそくさと射撃場を出て行った。ティアナは諦めんと言うように彼を追いかける。

 

 「本当にお願いします!」

 「嫌だ」

 「そこをなんとか!」

 「NO!」

 「どうか慈悲を!」

 「いや、だから断ると何度も」

 「逃げても私は男子トイレまで着いて行きますよ!?」

 「それは止めろ!!」

 

 粘りに粘るティアナにヴァイスは心底うんざりした顔をして振り返った。

 

 「…………」

 「…………」

 

 高身長なヴァイスはティアナを見下しながら、数秒見つめ……否、睨め合う。

 そして、その静かな激闘(?)の末に折れたのは―――

 

 「はぁ、意外と頑固だよなぁお前。ったく仕方がねぇ」

 

 ヴァイスだった。

 

 「まぁそこまで頼まれたんじゃーなぁ。トイレまで着いてこられちゃ流石に迷惑だし」

 「弟子にしてくれるんですか!?」

 「おっと、気が早すぎるぜ。そうさなぁ………あの射撃場の難易度『鬼』でスコアが平均以上叩き出せたら弟子にしてやってもいい」

 「……………ッ」

 

 ティアナは唇を強く噛む。恐らく、これが彼の最大の譲歩。妥協点だ。もしこれを「無理」と言えば二度とチャンスは訪れないだろう。しかし、果たして自分の腕であの難易度『鬼』の平均以上のスコアを取れるのだろうか。とてつもない不安がティアナを襲う。だが、やらなければならない。

 

 「先ほどの言葉、本当ですね?」

 「本当だとも」

 「ありがとうございます!!」

 

 深く、深く頭を下げた。最初のその場凌ぎの礼ではない。本当に、心の底から感謝を込められた礼だ。これで、確かなチャンスは得た。自分が新たな高みへと昇る機会を手に入れたのだ。あとは、それを潰えさせぬよう努力を一層重ねるだけのこと―――――。

 

 

 確固たる覚悟を目に宿したティアナは元来た道を戻り、射撃場へと急いで行った。若いものだ、とヴァイスは思う。自分もそれなりに若い方だが、彼女には負ける。

 少し羨ましく思い、憂愁に浸っていたところに自身の上官、シグナムが曲がり角から姿を現した。相変わらず凛々しい闘気を放っている。

 

 「いいのか。ティアナは、本当にお前の提示した条件をクリアしてくるぞ」

 「そん時はそん時ですよ。てかいったいどこから聞いていたんですかい」

 「お前が大声で断る! と言ったところからだ」

 「……こりゃあ年甲斐にもなく叫ぶんじゃなかったぜ。恥ずかしいったりゃありゃしねぇ」

 「ふん。ところで貴様、戦場に復帰する気にでもなったのか? 私は喜んで歓迎するぞ。お前なら、安心して私の背中を任せられる。それに―――」

 

 シグナムは好戦的な目で自分を見る。あれは、騎士の目ではない。獣の眼光を宿した目だ。すぐにでも「模擬戦を申し込む」とでも言いそうである。

 ―――彼女は昔からそうだった。何一つ変わっていない。少しでも女らしくしていれば、自分より良い男など幾らでも寄ってくるというのに勿体ないものだ。

 

 「ご勘弁を。俺は戦なんぞに復帰する気はさらさらございやせん。今まで通り、運び屋のヘリパイロットを続けさせてもらいます」

 「………そうか。それは残念だ。まだ、あの誤射のことを引きずっているのだな」

 「女々しいと言ってもらっても構いませんよ。事実ですから」

 「いや、これ以上は言うまい。私は人の心傷を斬り抉る趣味は無いからな。ただこれだけは言わせてくれ。―――――信じているからな。お前が私のいる戦場に戻って来るのを」

 

 今度は純粋で、真っ直ぐな視線を向けられ、つい目を背けたくなった。自分は、そこまで信頼されていい人間ではない。彼女の背を護るのも、億劫というものである。

 

 「ま、何にしてもそろそろ飯時ですぜ。姐さん、一緒に飯食いにいきましょうや。一人ってのも味気ないっすからね。なんなら俺の驕りでもいいっすよ」

 「む……そうだな。久しぶりに、お前と共に飯を食うのも悪くない」

 「そうと決まれば、さっさと食堂に行きましょう。混雑する前に入るが吉っす」

 「ああ、そうだな」

 

 

 

 ◆

 

 

 

 機動六課の部隊長室には3人の女性が集っていた。スターズ分隊隊長高町なのは。ライトニング分隊隊長フェイト・F・ハラオウン。そして機動六課部隊長八神やはて。時空管理局が誇る最高戦力の内の三人だ。

 

 「………やっぱりクロノ君は白やったわ。まぁ当然ではあるんやけどな」

 

 はやての言葉に二人は安堵する。旧式量産型ストレージデバイスS2U。高等白兵戦魔法ブレイクインパルス。黒衣のバリアジャケット。長身体躯の身体。高い戦闘力を持つ魔導師。その全てに該当する男クロノ・ハラオウンは貨物列車の事件発生時、聖王教会に足を運んでいたというアリバイがある。つまり、彼は今回 散々自分達を引っ掻き回したフード男の正体ではないことが証明された。

 

 「しっかし、本当に何者なんやろうなぁ、あのフード男は。まさか機動六課自慢のエースが二人掛かりでも捕まえれへんかったのは流石にビビったんやけど」

 「「め、面目ございません………」」

 「いや別に責めとらんよ。ありゃしゃーないわ。得体が知れなさすぎる」

 

 素顔は勿論、魔力の波長すら判明していない。時空管理局にさえ登録されていない魔法も幾つか確認されている。知ろうとすればするほど分からなくなっていくような錯覚すら覚える。

 

 「そんで一番謎なんは、コレや」

 

 はやては部隊長室の明かりを消し、大型スクリーンを展開させた。そして、手に持っていた投影機のリモコンの再生ボタンを押す。

 大型スクリーンに映されたのは時空管理局偵察機『サーチャー』が捉えられたフード男の姿だ。それもなのはとフェイトのバインドにより身動きが封じられている場面である。彼は一等空尉と執務官が練り上げたバインドを右手に課せられたものだけ解除し、腰に取り付けられたポーチから二つの宝石を取り出した。

 

 「………え」

 

 なのはの表情が困惑したものとなり、声を小さく漏らした。それもそうだろう。フードの男が取り出した宝石の内一つ、真紅の宝玉は本来彼の手には在ってはならないもの。この世に二つとない“はず”のものであるのだから。

 

 『イデアシード……レイジングハート(・・・・・・・・・・)。僕に、僕達に、もう一度力を貸してくれ………!!』

 「「―――――――ッ!!」」

 

 再生された若い男の声が部隊長室を響かせる。なのはとフェイトは驚愕の表情を露わにした。もはや信じられないといった形相だ。

 高町なのはの相棒レイジングハートの待機モードと酷似している『レイジングハート』と呼ばれたヒビの入った紅い宝玉。これは、単なる偶然では済まされない事実だ。

 

 「フェイトちゃんは安全圏まで移動しとったし、なのはちゃんはスターライトブレイカーの準備に急いどったから見逃しとると思っとったんよ」

 「……………」

 「そう深刻そうな顔せんといてや なのはちゃん。私達を混乱させるために奴が単にレイジングハートの形状と名前を真似しとるだけの、偽物を使っとるだけやもしれんのやから。それに、同型って線もありえへんことでもないんやで」

 「……そうだよなのは。あまり気にし過ぎると相手の思うつぼなのかもしれない」

 

 はやての言葉にフェイトも同乗する。しかしその声色は酷く弱弱しかった。

 

 「それにな、気にするならこの後や」

 

 一時停止していた映像をはやては再開させる。丁度、スターライトブレイカーが発射される数秒前の場面。そこでフードの男はあらん限りの声で叫んでいた。画面越しでも伝わる、覚悟の籠った声で。

 

 『イデアシードに告げる! 僕の記憶を喰え! レイジングハートが稼働できるまで、可能な限りくれてやる!!』

 

 それは、あまりにも衝撃的な台詞だった。そして、神秘的な光景を彼女らは目にする。

 彼の言葉に応えるように、イデアシードと呼ばれる宝石は光輝き、レイジングハートと呼ばれた宝石にその光が注ぎ込まれる。大きなヒビなどが目立っていたレイジングハートは時間が逆行していくように破損が修復されていき、なのはの持つレイジングハートと瓜二つの形状にまで再生された。光の照り具合などはむしろあちらの方が勝っているのかもしれない。

 そして、彼の持つレイジングハートが光を取り戻したその時、なのはの持つ最大の砲撃魔法『スターライトブレイカー』が発射された。そこで映像は光に包まれ全く見えなくなった。光が晴れ、映像が鮮明に見えるようになった後は、もう既にフードの男の姿はサーチャーの目から消えていた。

 はやては投影機を停止させて、大型スクリーンをしまい込んだ。部隊長室の明かりもつけ、ふぅと溜息をつく。

 

 「私はイデアシードっちゅうのは『喰った記憶分、莫大な魔力に変換する』効力を持つ悪質な魔道具やと予測しとる。そして、奴の持つレイジングハートは………全く分からん。どんな力があるのかさっぱりや。バインドに縛られていても転移を可能とする魔道具ってのが一番ありえそうなんやが、不可解なことにあの場での『転移痕』が何一つ見つからんかった。次元の歪みも皆無。まるで、疑似魔法科学を使って転移したのではなく、正真正銘ファンタジーな『魔法』を使って消えたかのように、な」

 

 もう何から何まで謎である。正体は勿論、魔法も魔道具も不明なものばかり。しかも偽物か同型か、レイジングハートまで引っ張りだされるのだから困ったものだ。もういっそのこと魔導師ではなく、何でもアリの幻想的な魔法使いであってくれた方が、逆に納得できてしまう。

 

 「まぁ、奴が何者であろうとレリックを付け狙う『犯罪者』であることだけはハッキリしとる。ジェイル・スカリエッティの仲間やろうが第三勢力やろうが、関係ない。次出会ったときは捕縛の文字しかあらへん。どうせフード男の謎はひっ捕らえさえすれば全て分かることなんやからな」

 

 はやての力強い宣言になのはとフェイトは呆けていた意識を覚醒させる。確かにはやての言う通りだ。フードの男が何者であれ、捕まえれば全て分かるではないか。

 

 ―――嗚呼、彼はとうとう彼女達の魂に火をつけてしまった。絶対的な力で数々の犯罪者を潰してきた一騎当千のエースに、フードの男は好敵手と見定められたのだ。もう彼には油断も、慢心も、情けも、何一つかけられないだろう。あるのは、『全力全壊』でぶつかられることのみである。

 

 

 


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