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ベッドの上に横たわる
(……なんとか上手くいった。だが、油断は出来ない。あと少しでもウォッカを追い払うのが遅ければ見られていたに違いない。奴は何かと
少なくとも俺が所持している
その上、工藤新一や宮野明美が生存しているとバレれば面倒なことになる。一度ならず二度までわざわざAPTX4869を飲ませて始末したと報告した俺の身もただではすまないだろう。
前回、そして今回と一応の証人としてウォッカにAPTX4869を宮野明美に飲ませるところを見せていて良かった。奴ならばもし、疑惑の目がこちらへと向いたとしても多少なりともフォローしてくれるだろう。敬愛する
(精々付き合ってもらうとしよう。俺のごっこ遊びに)
「ここは……? ッ!?」
きっと、ろくな最後を迎えられないなと自嘲気味に苦笑いしつつ、ベッドの上で眠りから覚めたらしい小学生ほどの少女を見る。
少女いや、宮野明美は見知らぬ部屋で眼を覚ましたことに疑問を持ったのか周囲に視線を配る。俺と目が合うと彼女にかけてあったシーツを抱き寄せ、何故お前がここに居るのかと言わんばかりに顔を強張らせた。
「眼が覚めたか、気分はどうだ? 宮野明美」
「最悪ね。あなたがいなければきっと悪い夢だったんだと思っていたのでしょうけど。それで? どうして、私は生きているのかしら」
「フン、気丈に振る舞うのは良いが体も声も震えているぞ。……少し待て、コーヒーでも入れる。話はその後だ(そんなに警戒するなよ。まるで、俺が悪者みたいじゃないか。いや、でも下手に抵抗させないように足を撃ったりAPTX4869を無理に飲ませたりしたから警戒しても仕方がないといえばそうなのだが)」
一応、命の恩人なんだがなぁ。と内心ため息を吐いてサイドテーブルの上に用意しておいた電動ポットから湯をコップに注いでインスタントコーヒーを作って手渡す。
俺の分も注ぎ、口つけようとしたが彼女は何時まで経ってもコップに口をつけようとしないことに気づく。
嗚呼、なるほど。そりゃそうか、ついさっき毒薬を無理やり飲まされたんだから飲み物にも何か仕込んでいると考えるのも無理はない。
「ハァ……。毒なんざ入れちゃいねぇよ」
「あなたの言葉なんて信用するとでも?」
「チッ、じゃあ俺のと交換するか? わざわざ自分のものに毒入れる馬鹿はいねぇだろ」
「そうね。でも、私がそうすることを見越してそっちに毒を仕込んでいるという事も考えられるわよね?」
「(どんだけ信用ねぇんだよ……話が進まねぇじゃねぇか、って震えが止まってやがる。まんまと嵌められたってわけだ)もういい、くだらねぇ押し問答を続けるつもりはねぇんだ。早速だが本題に入る。お前はAPTX4869という毒薬を服用して身体が幼児化したのさ」
「服用と言うけれど無理やりあなたに飲まされたのだけど……って、幼児化ってどういうこと!?」
恨みがましげに俺をジト目で睨みつけていた宮野明美だったが、耳ざとく幼児化という部分に激しく反応した。
子供特有の声の高音が耳に痛い。これまた事前に用意していた手鏡を彼女に手渡すと恐る恐る手に取り、小さく変化した自身の姿を
(まぁ、そうなるだろうな。一体どういう化学変化が起きたらこうなるのか目の前で実際に起きてもさっぱり分からなかったのだから本人ならばなおさらだ)
「元の身体に戻るにはどうすればいいの……?」
「さぁな。だが、老けたわけじゃねぇんだ。同じ年月をかけて地道に歳をとればいい」
「そ、そんな…………大君」
頭を垂れ、気落ちした様に
「この薬を作ったのは前にも言ったが、お前の妹だ。逆を言えば
「あの子が組織に居る限り、私は元の姿に戻れない」
「その通りだ」
「じゃあ、やっぱり無理じゃないっ」
そう叫んで大粒の涙を零す少女に俺は意地悪くニヤリと口の端を吊り上げて見せる。
「クククッ、そいつはどうかな」