無能アニキ憑依録   作:にわにわか

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前話に引き続き語り部はジン(オリ主)ではありません。

ご注意ください。




第6話

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 追跡メガネのレーダーを頼りに発信源を探したのだが、反応のあったパチンコ店に入るや否や追跡メガネのバッテリーが切れてしまうと同時、店員につまみ出されてしまった。クソッ、博士の発明品はいつも肝心な所で……っと恨み言を言っても仕方がない。

 

 悔しさを胸に江戸川コナンとしてお世話になっている毛利探偵事務所に帰ると見知らぬ男がそこにいた。話を聞くとどうやら彼は小五郎のおっちゃんと同じく広田健三氏の所在を探るように依頼された探偵で、先程パチンコ店でオレが見かけた大男から依頼されたのだと告げた。

 

 彼はその男に昨日調査結果を報告したのだが、翌日つまり今日になって広田健三氏が亡くなったことを知る。余りにも不自然な出来事だと依頼人である広田明(おそらく偽名)を名乗る大男に疑惑を持ち、同じ境遇である小五郎のおっちゃんにコンタクトを取りに来たのだと語る。

 

 阿笠博士に追跡メガネのバッテリーを十分に充電してもらった後、オレ達は広田明の所在を探るべくタクシーに乗り込み追跡メガネを用いて発信源であるホテルまでたどり着いたのだった。

 

「本当にここに居るんだろうな?」と終始疑わしげにしていた小五郎のおっちゃんだったが、ホテルのフロントに広田明の写真を見せて尋ねると八〇二号室に宿泊していることが判明。すると直ぐ様エレベーター乗り場に直行した。

 

 その途中、スーツケースを大量に積んだ女性とすれ違い、その時何故か既視感を覚えたのだが今は八〇二号室に行くのが先だと後回しにしてしまった。

 

 八〇二号室にたどり着き、ドアを叩きながら大声で広田明を呼び出そうとするが何時まで経っても返事がない。

 意を決しておっちゃんがドアノブを回すと鍵が空いており、中には青酸性の毒物を服用したのか血を吐いて亡くなっている広田明の姿がそこにはあった。

 

 室内には空になったジュラルミンケースが散乱し、広田健三氏は独身で妻子はいないということが目暮警部へとかけた電話により判明する。

 

 では、広田雅美を名乗る女性は一体誰なのか。何故、名前を偽ってまで広田健三氏を探していたのか。

 ……その答えは先日起きた一〇億円銀行強盗事件が関係しているのだろうと今までの細かな違和感や謎を繋ぎ合わせると克明に物語っていた。

 

 すべてを理解したオレは先程すれ違った女性こそが広田雅美その人であるとここでようやく既視感の謎が解け、一〇億円を持って高飛びする気だと思い至り、彼女を追うべく蘭を伴いタクシーに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

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 タクシーの運転手に事情を説明して広田雅美が乗るタクシーを追ってもらうと彼女が下車した場所はコンテナが立ち並ぶ港だった。夜空には三日月が浮かび、辺りには小さくさざ波の音が響いていた。

 

 まだ遠くにはいっていないはずだと蘭と一緒に広田雅美を探していると一発の銃声が大きく響いた。蘭と顔を見合わせ、警察と救急車を念のため呼ぶように指示を出すとオレは一人銃声がした場所へと急いだ。

 

「なぁに、妹が作った毒薬で死ねるんだ。……姉、冥利に尽きるだろう?」

 

 それは聞き覚えのある声だった。背筋が凍る様な、低い男の声。忘れもしない、オレがこうなってしまった原因を作り出した黒ずくめの男の声だ。

 

 コンテナの影に身を潜め、様子を伺うとそこにはトロピカルランドでオレを襲った銀髪の男が倒れた広田雅美に近づき、薬を飲ませようとしているところだった。

 男の近くには以前見た取り引きを行っていたもう一人の大男がおり、迂闊(うかつ)に動けばオレの存在がバレる可能性がある。

 

(まさか……オレに飲ませた例の薬を!? しかし、あの薬は毒薬だと言っていたのにもかかわらず死ぬことはなかった。なら、奴らが去るのを待てば…………)

 

「くっ、私を殺したら一〇億円の在り処は永遠にわからなくなるわよ!」

 

「生憎だが金の在り処は既に絞り込んである。お前が生きていようが死んでいようが変わらん」

 

 そう言って無理矢理口に錠剤をねじ込み、水で流し込んだのか彼女の咳き込む音が聞こえる。しばらくして痛みを堪えるかのような悲痛な叫びが鼓膜を打つ。

 

「アニキも人が悪い、銃で楽にしてやれば良いものを」

 

「フン、組織を抜けようなどと考えるからこうなるんだ。それよりウォッカ、先にホテルへ行って金を回収して来い。おそらくはフロントにでも預けてある筈だ」

 

「わかりやした。それで、アニキはどうするんで?」

 

「決まっている。裏切り者の(ライ)に自分の恋人の死に様が、どんなものだったか教えてやるためにコイツがくたばるまでじっくりと眺めるとするのさ」

 

「うへぇ、ライの奴も気の毒に」

 

「無駄口叩いてないでさっさと行けッ! それともお前も飲むか?」

 

 それは勘弁、と逃げるようにウォッカと呼ばれた大男はこちらへと走ってくる。慌ててコンテナとコンテナの隙間に入り込み、大男が走り去るのを見送るとホッと一息吐いて再び銀髪の男と広田雅美がいる方へと視線を戻すと既にそこに彼らの姿はなく。

 

 広田雅美のものと思わしき着衣(、、)と少量の血痕だけが残された現場に警察と救急隊を連れた蘭がやってくると近辺を捜索したのだが、結局その後銀髪の男とその仲間である大男も広田雅美の行方も分からないまま時だけが過ぎていく。

 

(何故、奴は広田雅美を連れて行ったのか? そもそも彼女は本当に幼児化してしまったのか? 薬の本当の作用は? オレの事はバレていないのか? 工藤新一が生きているとバレたとしたら?)

 

 ぐるぐると思考が悪循環するように彼女(、、)がやってくるまで、もやもやとした日々が続くことになるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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