■
俺たちを乗せたコースターが戻ってくるとコースター乗り場は阿鼻叫喚の嵐だった。それもそのはず。人の頭が無くなってコースターは血で真っ赤に染まっているのだから当然である。普通の感性をしていればパニックに陥るのが
正直に言って俺は俺自身のことが空恐ろしいとすら思う。今もなお記憶が定かでないが常人であれば他の乗客や野次馬と同様にパニックに陥って然るべきであろう。もし、記憶が蘇ったらどうなってしまうのかと漠然とした不安が脳裏をよぎる。
そんなことを頭の片隅で考えながらも心は冷静そのもので周囲の人々を観察していた。そして、同乗者の中に居たであろう中高生程度の少年と不意に目があった。彼もまた同年代の(おそらくは彼女だろうと思われる)少女を
目が合うと少年はまるで蛇に睨まれた蛙のように
(俺はあの少年と少女を知っている。……そんな気がする)
おそらく向こうは
(何かきっかけでもあれば……)
「ア、アニキ。さっさとこんな場所ずらかりましょうぜ」
俺をアニキ呼ばわりする大柄の男は面倒事はゴメンだとばかりに早く場所を移動しようと腕を引きながら提案してきた。俺も容疑者扱いされるのは流石に勘弁願いたいので男の話に乗るべくにその場を後にしようと背を向けた。
「待て! これは事故じゃない! 殺人だッ!」
すると背を向けた俺たちに対して声変わりして間もないだろう少年の声が背に突き刺さる。嗚呼、そうだろうとも。事故にしては不自然にすぎる。続けて声の主は犯人はコースターに乗っていた自分たちの中に居るとさえまで言ってのけた。
「ガキの探偵ごっこなんざ付き合ってらんねぇぜ。行きやしょう、アニキ」
知ったことかと有無を言わさぬ物言いで立ち去ろうとする連れの男に「警察だ!」と再び待ったの声がかかる。
「おぉ、
刑事は親しげに少年の元へと近づき何故ここに居るのかと問いかけ、少年の方も親しげに刑事(目暮警部と言うらしい)に愛想よく答えていた。そして周囲の人々は少年、工藤の名に大袈裟なほど色めき立った。
(工藤? ……工藤新一。高校生探偵。サッカーボール…………ぐッ!?)
工藤という名前に連鎖するように次々と
どうやら俺は秘密結社の幹部。それもアンダーグラウンドで人殺しが常の様な非日常に生きる男に成り代わってしまったらしい。コードネームはジン。信条は疑わしきは罰せよ。とかなり非情で残忍な性格な様だ。連れの男の名はウォッカと言うらしく、だいたいいつもツーマンセルで行動していた様である。
そうこうしているうちに高校生探偵は自身の推理を繰り広げていた。犯人は被害者の友人だという女の一人。殺害方法はコースター搭乗時、容疑者が身につけていたはずの
「フン、くだらねぇ。さ、行きやしょうアニキ」
時間を無駄にしたとばかりに男ウォッカはスタスタと歩き出した。遅れて俺も歩を進める。少し先を行くその背中を見ながら、これから起きるであろう数多ある問題に頭を悩ませることになるのであった。