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自身の姉と連絡が取れないことから異常性に気づき、姉の無事が分からないのならばAPTX4869の研究を中断し返答次第で凍結すると薬を盾に要求していた様だが、当然宮野明美はこちら側にいるので組織は彼女の要求を飲むことが出来ない。
組織は業を煮やし、彼女を拘束監禁して拷問まがいの脅迫を執行するも彼女は頑なに拒んだ様だ。それからしばらくして彼女は突如として姿をくらました。
組織は血眼になって彼女を捜索するが未だに足取りがつかめていないのか今日になって俺のところにも捜索するようにと指令がやってくる始末。無事に逃げ果せることが出来たのだと確信を持つことが出来たのであった。
「どうしたの? 嬉しそうね、ジン」
「よく分かったな……そうだな、懸念事項がまた一つ減ったからそう見えたんだろ」
「へぇ、それ何が起きたのか聞いても良いかしら?」
「(お前の妹が幼児化して組織を脱出しただなんて言えるわけねぇだろ。会いに行くとか言い出しかねんし、仮に会わせるとしても最低でもピスコの奴を処理してからじゃないと危険すぎる)何、大したことじゃない。それより届いた服の方はどうだ? サイズは合っているか?」
「ええ、問題ないわ。それよりどうかしら。似合っていると思う?」
つい先程届いたばかりのダンボール箱から取り出した可愛らしいフリルの付いたワンピースに身を包んだ少女はその場でくるりと一回転して微笑んだ。
「馬子にも衣装だな。流石に高いだけのことはある」
「何よそれ、私は可愛くないってこと?」
俺の言葉が気に食わなかったのか少女は膨れっ面を晒し、外見と合わさって余計に子供っぽく見えた。中身まで幼児化していないだろうか。
「さぁな。……仕事が入った。しばらく出かけてくるが不用意に外に出たりするな。万が一外出する場合は
「はいはい。わかってるわよ心配性なんだから。私だってせっかく拾った命ですもの、おとなしくしてるわよ。……一年だけおとなしくしてれば良いんでしょ?」
「ああ、勿論お前の妹の安全も保証する」
「お仕事頑張ってね。パパ?」
「俺はそこまで年食ってねぇよ。じゃあ行ってくる」
なんて下らない会話を終えてマンションを出る。スマホを操作してウォッカに電話を繋げつつエレベーターで下へと降りていく。
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背を向けて走る男をゆっくりとした足取りで追う。死神が段々と近づいてくるかのようなコツコツという音が静寂の中響いた。しばらくの間追いかけっこが始まり、男は行き止まりにクソッと悪態を吐きこちらへと観念したかのように振り向いた。
「やめてくれ、一体俺が何をしたって言うんだっ!?」
眼前には名も知らぬ男が壁際に追い詰められ、なにやら言い訳がましく命乞いをし始める姿があった。歳は二〇半ばくらい、そこいらにいそうなホストあるいはチンピラの様な風貌をした男は突如としてジャケットの内側から拳銃を取り出してこちらへと向けてきた。が、遅い。
「ぅ、ぐぉおおおおおおッ」
先んじて撃った弾丸は男の腕を貫き、握っていた銃は落下しアスファルトの上を滑る。痛みに堪えて銃を拾おうとする男に近づき、その頭に銃を突きつける。男は恐る恐るこちらへと振り向き、震えながら助けてと口にする。
「今更、遅えよ」
答えは拒絶。せめて楽にあの世へ逝けるようにと引き金を引く。放たれた弾丸は脳天を貫き血飛沫を上げ、その生命を散らした。
「相変わらずアニキは容赦のねぇ。……惚れ惚れするほどですぜ」
「世辞は良い。さっさとずらかるぞ」
「へい。了解しやした」
仕事は順調に進んだ。組織の情報を流したとされる男を追い詰め始末するだけの簡単な作業であった。人を殺めたというのに何の感情も湧いてこないことからやはり俺は
せめてもの救いはこれがジンになったことによるものなのか往来のものなのかがわからないということだった。
……無性に伊吹に会いたくなったのは何故だろう。どこか抜けている少女の姿を思い出し、毒されたかと肩をすくめる。
「そういや、アニキ。宮野明美って女のこと覚えてやすかい?」
「ああ、俺が死に絶えるその最後まで見ていてやったからな。そいつがどうした」
「なんでもそいつの妹が組織から抜け出したって話がありやして」
「フン、使えねぇ連中だ。それで、俺たちに探せとでも言ってきたのか?」
へい。と返答するウォッカ。どうやらウォッカの方にも指令が来ていたらしい。これからまた少し騒がしくなるなとハンドルを握る腕に力を込めて気合を入れた。