麦わら帽子の英雄譚   作:もりも

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バギー一味

海沿いの工業地帯の中、昔ながらの自前の大きなテントを張り巡らせ眩しくて目がチカチカするド派手な電飾で彩られているのは、今巷で噂のサーカス団「バギーサーカス団」である。

スタンダードなサーカスをベースとしながらも個性の力をふんだんに織り交ぜたド派手な演出はエンターテイメントとしてなかなかのレベルだ。

特にその中でも普通の軽く倍以上の体躯を持つライオン、個性を使わない一輪車に乗った超人的な曲芸師、体をバラバラに動かす派手なピエロは観客の目を惹いた。その中にA組の7人の姿も含まれていた。

 

公演終了後、今だに軽く興奮している生徒らはワイワイしながら席を立つ。

 

「すっごかったねーーー!!正直予想以上!!」

 

「そやね!サーカスて初めて見たけど、こんな楽しいやなんて思わんかった!」

 

「ウチもすごい個性は雄英行ってから、いっぱい見てきたけどああいう風に演出に個性を使うって発想はなんか新鮮だわ。」

 

女子陣の感想から聞くに評価は上々のようだ。隣でそれを聞く緑谷もウンウンと頷く。しかし一方で峰田と上鳴は違った点に盛り上がっていた。

 

「確かにサーカスそのものもおもろかったけど・・・」

 

「・・何より一番衝撃だったのは!!」

 

「「MCの美女!!!」」BAAAN!!

 

だらしのない顔をした二人の脳裏には、司会をしていた絶世の美女の姿が思い浮かんでいた。完璧と言わざるを得ない端正な顔に一切無駄のない体、そして会場の末席にいる観客まで魅了する色気。リアル峰不二子と揶揄できる美女に二人は首ったけだ。

 

「うわっ!流石にもう9時回ってるよ!急いで帰ろう!制服のままだし!」

 

「確かに雄英の制服着ながら補導とかされたらシャレになんねえな!」

 

学校帰りのままでサーカスを見に来たので、あまり遅くならないように人草をかき分けてそそくさと帰ろうとするが、峰田が一人残ると言いだした。

 

「オイラあの美女に直に会いたい!!!なんとかお近づきになりたい!!」BAAN!!!!

 

欲望を一切隠さないその言葉に清々しささえ感じる一同。

 

「おいおい・・わかるけどよ。帰ろうぜもう遅いし。」

 

「そうだよ。会うったって関係者以外中には入れないよ。」

 

「裏口に張ってたらもしかしたら会えるかもしんねぇ!!オイラは何時間でも待つぞ!!」

 

「なんて執念・・。」

 

峰田の断固たる意志に一同溜息をつきながら呆れた声をあげる。中でも女子陣はほっといて帰ろうかと話し合っていた。

 

「上鳴、緑谷!!お前らそれでも男かよ!?あんな美女を前にしてお前らそれでいいのか!?よいご関係になりたいと思わねぇのかよ!!」

 

峰田のよくわからんゴリ押し意志に二人はたじろぐ。

 

「「・・お、思わなくもない。」」

 

つい緑谷までも本音が出てしまった。

 

「思うんだ・・・。デク君。」

 

ぞくりと背を震わせた緑谷に女子たちの冷たい視線が刺さる。

 

「結局そーなんだ。男子って・・。」

 

「草食っぽく見えて緑谷もねぇ〜。」

 

「しょーもな。帰ろ帰ろ。」

 

呆れ倒した女子は男子をほっといてサッサと帰っていった。そもそも女子に大した耐性の緑谷は終始向けられた視線にガチでショックを受けた。

 

「気持ちは同じだぜ。緑谷・・。」

 

こうなったら峰田の目当ての美女にあってやろうと上鳴は峰田とともに、傷心の緑谷を引きずって会場裏口に回って出待ちをするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜最悪、せっかく楽しい気分だったのに、気分なんか害したわ。」

 

「まぁまぁ響香ちゃん。そんなイライラしないしない。」

 

「ほぉ!普段仲のいい上鳴が他の女に現を抜かすのが気に入らないと!!」

 

「ま〜たあんたは。無理くりそういう話に繋げてくんのやめな。そういうんと違うから。」

 

「冷めてるなぁ〜。やっぱこういう話題は麗日いじった方が面白いわ!」

 

「や、やめぇや!?」

 

芦戸の無理やり持っていこうガールズトークが口火を切ろうとしていた時、四人に声をかけて来た男が現れた。

 

「あ〜、すんません。道、聞きたいんダすけどよコしいですか?」

 

特徴的なハットを被った若い青年が片言の日本語で話しかけて来た。

この夜更けに声をかけて来た男に対し、四人は少し警戒する。

 

「・・・ん〜警戒するなっていうほーが、無理てモんが。ほんと道というが場所教へてくれたらいいだけなんヤが。」

 

「弟に・・会いに来たんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裏口に回った男子三人が人気を感じたテナントを覗き込むと、そのテナントの中はどんちゃん騒ぎでかなりの喧騒な模様だ。雰囲気的には打ち上げ的なものであろう。それぞれが仕事道具を酒の勢いに任せてハッチャケている。その中に例の美女がいないか入念に観察する峰田であったが、予想もしていなかった会話を聞いてしまう。

 

「おうおうおう野郎ども!!!派手に盛り上がってやがるか!?ああぁ!!?呑めや騒げや!結構結構!公演はまだあと10日!この我らバギーサーカス団この日本で一花咲かしてやろうじゃねえか!!」

 

おそらくリーダー格、いや団長であろうピエロ役だった男が団員たちに檄を飛ばす。その声に反応して皆が手を掲げ威勢良く声を張り上げる。

 

「まさに渡りに船。バギー団長、ようやく俺らにも力が手に入るんですね?」

 

長髪に片側だけ刈り上げた細身の男、カバジがニヤリとほくそ笑みながら団長バギーへと言葉をかける。

 

「あぁ。表向きはサーカス団として裏稼業を長きに渡ってきたが、ようやく成り上がる時がきたゼェ。あの男の言うことが本当ならば、この日本で覇権を取れるかもしれねぇしな。」

 

これからの計画がうまく進めば異国の地で成功することを思い描き、バギーは高らかに笑いこけた。

このでかい赤鼻が特徴のバギーは元はフランスのギャング出身で裏社会を転々とし、現在はサーカスを隠れ蓑に着々と組織を拡大してきたのだった。

 

「しかし団長、あの男は本当に信頼できるのでしょうか?」

 

「・・なんだモージ?まだてめえ疑ってんのか?」

 

「正直言って得体の知れない男です。あの話にどこまでの信憑性があるか・・。」

 

着ぐるみの様な体毛をしている副団長であるモージが心中の不安を口にするが、バギーにはなんらその心配は必要がないようだ。

 

「ダーッハッハ!!何、心配するこたぁねぇぜモージ!俺らと取引することで奴らにもメリットがあるんだからヨォ!」

 

高らかに笑うと、バギーはポケットから一つの薬莢を取り出した。

 

「俺らが開発したこのバギー玉・・通常の弾丸と同等の体積でありながら、C4爆弾以上の破壊力を発揮するコイツを欲しがっているんだ。裏取引ってもんは、信用が何よりも優先される。下手な事はしねぇさ。何より、奴の様な男は姿は見なくとも声だけで信用できる。」

「あのオールフォーワンて男はな。」

 

 

バギーの狙いは独自開発した武器類の密輸だった。

ヨーロッパ界隈の裏ルートを生業としていたが、ヨーロッパには「ジョーカー」と言われた闇市場のボスことドンキホーテ・ドフラミンゴがいるため独自ルートを形成する事が困難であった。そこで声がかけてきたのは日本にいる「オール・フォー・ワン」だ。

バギーたちにとっても謎の存在とされるこの男だが、バギーたちが大量の武器を日本へ持ち込めたことをみると、相当な影響力があることは十分に理解できた。

 

 

 

 

 

((や、や、やべえええええええ!!!????))

 

この一幕をこっそりと覗き見ていた峰田たちは大量の冷や汗を噴き出していた。

 

(ま、まじでヤバイ現場見ちまったぁああああ!!?美女とか言ってる場合じゃねぇええ!!!一刻も早くここから逃げないとーーーー!!??)

 

いくらヒーロー候補生といっても一学生の峰田たちにはあまりに重いゴシップ。少しでも声を漏らさないよう口を手で抑え込んで腰を引かす。

 

「・・・オールフォーワン・・。オールマイトが言ってた全ての始まり。そんな奴が絡んでいるのか。」

 

緑谷は何か驚愕したようにブツクサと口に出した。

 

「緑谷!何ぼーっとしてんだ!?サッサとここからズラかるぞ!やばすぎる!」

 

上鳴が緑谷を引っ張りそーっと、そーっとこの喧騒の中多少音をたてても気づかれないだろうが三人は隠密に出口を目指した。

しかし彼らの目線の先のスラリと長い白い足が彼らの逃走を阻んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「この方面を進んで行って、6駅ぐらいしたら新宿駅着くんで、そこでまた交番にでも聞いてくれたらわかると思いますよ。有名な事務所ですし。」

 

「いやぁ〜、お優しいお嬢さんたチだ。」

 

背がそこそこ高いソバカスが特徴的な外国人の青年に女子四人は親切に目的地まで行く順路を教えていた。

 

「でもこの事務所って確か・・・。」

 

「ルフィのおじちゃんの事務所じゃない?」

 

この外国人の目的地はどうやらガープの事務所のようだ。

 

「おっ!ルフィのこと知ってるカ!?」

 

「同じ学校だよ!」

 

「すげえぐんぜん!確かになんかミタことあるなと思ったんだ。キミらのこと!」

 

「じゃあお兄さんはルフィのお兄さんてこと!?」

 

「ああ!ルフィの兄貴のエースってんだ!」

 

この青年はルフィの兄のエースであった。並びに白ひげの一団2番隊隊長の肩書きを持つ彼だが、その温和さはその世界的な肩書きを思わせる威圧的な雰囲気を感じさせなかった。当然芦戸たちはそのことを知らない。

 

「・・手のかかる弟だけド、よろしくやってくレ。」

 

「おお・・・。あのルフィのお兄さんとは思えない社交性だ。」

 

「常識人だ。」

 

「兄弟って素晴らしい・・・。」

 

謎の感動を覚える芦戸、耳郎、葉隠だった。

その裏で麗日は一人緑谷に連絡を取っている。なんだかんだエースを案内してるうちにそこそこに時間が経っていたので、そっちはもう終わったのか確認の電話だ。やっぱりこの時間に残して行ったのも少し心配だった。しかし電話が繋がらない。

 

「う〜ん・・繋がらへん。」

 

「ほっときゃいいじゃん。あいつらだって雄英だよ?」

 

「まぁ〜、男子ら自身の心配というより迷惑かけてないかの方が心配だよ。」

 

「「「「・・・・」」」」

 

「もぉ〜しゃあない。引きずってでも連れて帰るか。」

 

やっぱりヒーローの卵、クラスメイトの迷惑行為を見過ごすわけにはいかないと思い返して帰路を引き返そうだ。

 

「なンだ、ツレがいたのか。この時間まで女の子でいるカラ少し心配だったんだが。」

 

「むしろあっちの方が心配っすよ!」

 

「オレもいこウか?」

 

「いいですよ!そんな!身内で解決しますんで!」

 

女子たちはエースと程々に別れをすませてサーカス場へと向かう。その姿を見てエースは微笑ましそうに口角をほんのり上げる。

 

(しかし、なんか嫌な感じがすんな・・・。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダッハッハッハ!!派手に抵抗しやがって!このクソガキャア!このチビの命惜しくなきゃ大人しくしてろ!」

 

バギーの小脇の男が恐怖のあまり泡を吹いている峰田を抱え人質に取っていた。

 

先ほど逃走を試みた3人であったが、すでに一味の者に背後を取られており峰田が捕らえられた。緑谷・上鳴の二人はその中でも一味の数人を相手取ったが、峰田を脅しに動きを封じ込められてしまっている。

二人は会場内の隅に追いやられ、数十人の軍団に囲まれている。

 

「おい、ヤベェぞ。緑谷。俺漏れそうだ。」

 

「ちょっと我慢してて・・・・。」

 

二人は大量の冷や汗をかく。緑谷からすればオールマイトから伝えられた天敵オールフォーワンに繋がる悪人たちだ。バギーたちの危険度が推し測れた。

 

「しかしまぁ、ウチの野郎どもをノシちまうとはいってぇ何モンだ?」

 

バギーの質問に緑谷たちは答えない。

 

「とりあえず団長、気絶したこいつらどうします?」

 

「こんなガキにやられるカスなんざ、ウチには必要ねぇ。海にでも捨て置け。もちろん派手に殺してからな。」

 

「了解。」

 

淡々と殺人という行為のやり取りをするバギーに緑谷は戦慄する。

 

「ぼ、僕らを一体どうしようっていうんだ!?こんな事してタダで済むわけないのに!」

 

「そうだぜ!どうせあんたらすぐに捕まっちまうぞ!」

 

「・・どうせお前らを逃したところで通報されて終わりだ。ならここで始末をつけるのが最善!この程度揉み消す手段をこっちも持っているしなぁ!」

 

奥歯を噛み身悶えする緑谷。オールフォーワンの後ろ盾であろうか、一切の迷いの無いバギーたちに幾許かの希望もないことに半歩後ずさる。

 

『おい緑谷。俺が電気ブッパするからその隙になんとかやれねぇか?』

 

小声でここを抜け出す案を出した上鳴だが、その案を緑谷は少し頭を振った。

上鳴の個性は強力だが、数十人以上いる相手に対し全員をノックアウトできるとは思えない。上鳴の個性の反動でアホになってしまうリスクを考えればそれが正解とは思えなかった。

 

(ここは僕の100%で道を作るか・・・その隙に峰田くんを救出。これも一か八かではあるけど、やるしかない!)

 

バチリ、と緑谷の腕に紫電が光る。

 

「超パワーの力を使ってここを切り抜けようって腹かい?」

 

「!?」

 

突如緑谷が今からやることを見透かしたかのようにズバリと言い当てた声がバギーの後方から聞こえた。

その声の主は、サーカスでは司会をした絶世の美女、アルビダであった。

 

「ふふ、なんで分かったって顔だねぇ。」

 

妖艶な笑みを浮かべるアルビダ。

 

「この癖毛の坊やは体を壊すほどの超パワーに、そっちの電気の坊やはただ放電するだけの個性のようね。」

 

二人の個性はなぜか筒抜けになっていた。なんでバレたのかと思案しているとアルビダが答えを教えてくれた。

 

「この小さい坊や、起こしてあたしが聞いたらなんでも教えてくれたわよ?」

 

彼女の人差し指で峰田の顎をくいっ、と持ち上げる。それに峰田は興奮のあまり鼻息がこの場の全員に聞こえるほどに荒れる。

 

「峰田!?テメェ!!裏切りやがったなぁ!?」

 

「ち、チゲェんだって!?こんなもん!不可抗力じゃないか!!」

 

絶叫する峰田であったが、その顔には恍惚の表情が見てとれ説得力は一切ない。なまじ否定できない上鳴はヌググと押し黙った。

 

「でもバギー、この子たちを始末するのは少し待った方がいいよ。」

 

「なんでだ?レディーアルビダよ?」

 

「この坊やによれば、この子らは日本では有名なヒーロー学校の生徒らしいわ。思ったよりこの後が面倒なことになるかもしれないよ?」

 

「ほう?なるほどな、さっきの立会いはヒーロー志望ゆえか。ヒーローに出しゃ張られちゃ面倒だ。なら、こいつらの処遇は揉み消してくれる奴らに決めてもらおうか。死柄木に連絡しろ。」

 

(し、死柄木弔!?)

 

オールフォーワンを師と仰ぐ死柄木は、以前雄英のUSJ事件の首謀者だ。再び奴は緑谷たちの前に姿を現す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみにエースはポルトガル人設定。ポートガスとポルトガルが似てるからなんだけど、大航海時代はポルトガル出身の人が多いのでロジャーを父に持つエースは割としっくりくるね。

基本的に麦わら海賊団の国籍は原作のSBSの通りに考えてるんで、ゾロは出したいんだけど、だせるかなー?だってゾロ絶対ニートやん。単純に働く意思のないニート兼ホームレスだもんなー。

先にネタバレすると、この先アラバスタ陣営でます。わりと先長いと思うんで気を長くして待ってくれたらうれしいです。

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