麦わら帽子の英雄譚   作:もりも

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閉幕

一つ打撃音が響けば、すぐに爆発音が鼓膜を揺する。

その順番は所々入れ替わるが、鳴った回数はほぼ同じ。お互いがその回数を争うかのように隙間なく音が反響する。

 

リング中央、小細工無用と言わんばかりに踵をベタリと地面につけお互いに拳を振り上げる。

雄英体育祭決勝、決して評価の高い試合模様ではない。悪くいうならば泥仕合。しかし誰もが目を離せない。やはり闘争本能というものは人間誰しも心奥底で持っているものだ。

心の琴線に触れるものは何か?

間違いなくそれは「熱さ」。相手を叩きのめすといった攻撃的衝動だ。

小手先の技術でもない。そういった表面的な皮を剥いで素が剥き出しとなった人間の根っこに人は魅了される。

体面ばかりに抑制された現代社会においてそれは一層輝かしく見えることだろう。何より身体的特徴である個性を抑圧された社会においては。

 

「実に面白いよ。目が見えない私であっても、テレビ越しからこの試合の熱が伝わってくる。」

「人々はさぞかし胸踊る戦いだろう。しかしそれはつまり人間の暴力性の証左となる!己も暴れたいという欲求があるからこそ演者に感情移入してしまう!」

 

「先導者と扇動者が必要なのさ。弔、君がそうなるんだ。君がそれを完璧に演じることができればこの世など最も簡単にひっくり返せるんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

『アアーーーー!!爆豪のクロスカウンターだぁあああああ!!!』

 

ルフィの右ストレートに爆豪の大振りの左フックが上手く噛み合い結果クロスカウンターとして強烈な一打がルフィの横っ面を吹き飛ばした。

完全な死角からの一打。意識を刈り取るには十分な一打だ。

しかしルフィは踏鞴を踏みながら爆豪の脇腹に左拳を捩じ込み返す。爆豪も奥歯を噛み締め息を吐き出すことに耐えたが、ものの3秒動きが停止する。戦闘において致命的なタイムログが発生したにも関わらずルフィの動きもない。その3秒が一連の流れを区切られた。

両者は目線こそ外さないが、打ち疲れが目に見えるように肩で息をしている。そしてまたその緊迫感に観衆は息を飲んだ。

 

「なんて試合しやがる。」

 

ルフィ・爆豪共に顔は血で染めており、上半身は運動着が破け晒している状態だ。

しかしその光景に凄惨さはない。

お互いが口角を上げ、よもや楽しげでさえある。

 

「・・・日本に来てよかった。こんな楽しい試合初めてかもしんねぇ。」

 

「はっ!今の内にしっかり楽しんどけや!俺は後で!勝利の美酒を味わってるからヨォ!」

 

「飲むな。」

 

キレもなければ、力もない。しかしかつてないほどに意識は研ぎ澄まされている。俗にゾーンに入っているということだろうか。無意識下で最高の精神状態を二人は保っている。

確かに二人の間に差はあった。

ベストの状態であればルフィが完封する展開もあり得ただろう。

爆豪が立ち上がってから、再びギア2を使ったルフィであったが目に見えてその自慢の速度は落ち、工夫もなく爆豪を捉えることはできなかった。

爆豪にしてもダウンさせられたボディブローで足を殺されたことで踏ん張りが利かず、爆破での立ち回りが封じられた。その結果そこから先は逃げも避けることも不可能の超近距離戦が否応無しに始まったのだった。

 

「第3ラウンドだ・・!」

 

「ああ!!ゴムゴムのォ!!!」

 

ブチブチ・・・

未だギア2をし続けるルフィの筋繊維はもはや攻撃の前動作で切れ始めた。痛覚はまだ生きている。それでも噴出したアドレナリンでルフィの意識を割くことはなかったが、その動作の遅さが体の正直さを表している。

それでも爆豪は避けない。・・・いや避けられないのか?

どちらにせよ今の彼らは防御にカケラも注力していない。なけなしの余力は攻撃に全てを注ぐ。

 

そんな戦いが3分以上続いた。そしてその均衡がようやく崩れるときがきた。

 

「JETピストル!!!」

 

渾身のルフィの拳で爆豪は大きく背中を仰け反らした。一瞬そこで止まった爆豪だったが、不安定な体勢を維持することができず、片膝は立てながらも右手で地面についてしまった。

 

「ぐ・・・っぅ・・!!」

(や、やべぇ!!?)

 

「ゴムゴムの〜〜・・」

 

すでに予備動作に入ったルフィに対し、爆豪はこれまでと違い防御・回避に思考を瞬時に巡らす。この一撃を貰えば決定的だと感じたからだ。

判断の良さと速さこそがセンスの良し悪しだ。その点、突出したものがある爆豪は何択かある選択肢を瞬時に割り出し、その一択を選んだ。

 

ドゴン、と中火力の爆破を地面に向かって起こし、ルフィが繰り出した蹴りの寸前に上空に回避した。

 

『つ、追撃の蹴りをここにきて爆破で回避!!?』

 

『奴の戦闘センスは本物だな。局面を見極めてやがる。おそらく・・・・』

 

上空に避けた爆豪は2度3度爆破を続けて、さらに上へと上がる。

 

(さっきのは・・相当効いちまった。正直もう・・・踏ん張る脚が残ってねぇ。あいつも余力は残ってねぇだろうが、こっちが限界だ。)

「なら・・・・余力全て注ぎ込んで決着をつけてやる!」

 

自分のはるか上空の爆豪を見て、ルフィは感じ取る。

 

「バクゴー、仕掛けてくんな。上等!!おれもこの一撃に全部ぶつける!!」

 

爆豪が高く上がったのは大技を繰り出す時間を作るためだ。その時間はルフィも大技を繰り出す時間でもある。

ルフィは空気を風船の技の時のように大きく吸い出し、ゴムの特性を使って体を何回転も捻り込んだ。

 

一方、爆豪は落下の勢いに加え爆発ターボでさらに加速。そこから爆破は続けながら脇を締めて両腕を胸の前で交差させスクリューのように回転し、渦巻いた爆炎が急降下する。

 

榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)!!!!!!」

 

 

爆豪の最大の爆炎にさらなる威力を加えた超必殺に、ルフィは真っ向からぶつかる。

大量に吸い込んだ空気を吐き出し、回転しながら爆豪へ飛び込んだ。

 

「ゴムゴムのJET暴風雨(ストーム )!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きな衝撃の衝突。

 

 

 

 

 

 

特大の爆煙が観客の視界を奪う。中々晴れないそれが規模の大きさを物語る。

 

「・・・う、ど、どうなったんだ?」

 

観客席中段にいる緑谷も煙に巻かれてリング上を確認できないでいた。

 

(特大の・・・お互いの必殺技の衝突だ。これ以上この試合が続くことはないだろう。この煙が晴れた時、どっちが勝者かが決まっているはずだ。・・・僕の心情的にはカッちゃんに勝ってて欲しいけど。)

 

煙がだんだんと晴れてリング上が疎らに姿を現した。

 

観客皆が理解している。この時点で立っている者こそ今大会の優勝者であると・・・。

 

そして煙の隙間から・・・

 

爆豪の頭がかすかに見えた。

 

「カッちゃ・・・・!!!」

 

それを見て、緑谷含めA組を声をあげた。しかし、その声はB組拳藤の声にかき消される。

 

「ルフィの勝ちだ!」

 

「「「!?」」」

 

煙が薄くなり、爆豪の全身が見えてきた。

確かに爆豪が地に伏せているわけではなかった。

 

煙が完全に晴れ、リング上に堂々と佇んでいたのは・・・気を失った爆豪の肩を背負い、満面の笑みを浮かべていたルフィの姿だった。

 

その瞬間、怒号のような歓声と地鳴りが競技場を覆った。

 

『ついに!ついに!!ついに!!!死闘の決着!!!!優勝!!・・・・・』

『ンモン〜〜〜・D・ル〜〜フィーーーーーーー!!!!!』DODON!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで彼はヒーロー科に転入が決定したわけだね。・・・しかし想定した以上の実力だった。これは一年生の教育プランを練りなおさないといけない。」

 

「そして彼を中心に既存のヒーロー科生徒もこの体育祭で大きく成長したように思えます。・・・校長、まさかあなたはここまでの想定を?」

 

「いや、ここまでは想定外さ。でも彼はいい指標になってくれた。雄英に入れただけで満足してしまう生徒も少なからずいる。そんな彼らに一石を投じたはずさ。」

 

リング上を一望できるガラス張りの室内で校長と教頭が閉幕式を一瞥する。

 

 

 

閉幕式の最後、表彰式には体育祭の締め役としてオールマイトが登場した。

オールマイト自身が表彰者にメダルを授与するのだが、表彰台に1位と2位の姿と轟の姿はない。しかしそれこそが今回の体育祭が特異な事を物語った。

 

ただ一人、3位の表彰台に立っている八百万は大層恥ずかしかったのは内緒のお話。

 

 

 

「では皆さん・・・せ〜〜の・・「プル「プ「お疲れ様でした!!!!!!!」トラ」ラ!」

 

「「「「「ええ・・・・」」」」」

 

 

雄英体育祭史上最高の一年の部はブーイングで締めくくったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄英体育祭編 完

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっと終わった・・・・・ふ〜〜〜



次は番外編。A組中心の話になります。

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