麦わら帽子の英雄譚   作:もりも

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年をまたいでしまった。

ひっそりと再会します。


度を過ぎた攻撃戦

「ルフィくんの体が氷漬けに・・・・!」

 

「・・こ、これはもう・・」

 

飯田と緑谷たちA組の面々は眼前の光景に轟の勝利を確信したが、その中で唯一爆豪だけはまだ決着の審判がくだされていないリング盤上を未だ食い入る様に見つめている。そして爆豪と同様に、一部のプロヒーローや審判含む教師陣はむしろこれからの展開に目を光らせていた。

 

「・・普通ならここで終わるが、お前は普通じゃないからな。」

 

そして轟もまたその一人。これまで自惚れでもなく最強だと思っていた自分が何度も苦汁を嘗めさせられた相手だ。そんな相手が自分の個性をフルに活かし壁を超えたとしても、まだまだ使い慣れていない未熟な力に早々やられるなら初めから炎は使っちゃいない。

 

「にしし。同い年ぐらいでこんなつえぇ奴がいるなんて、エースやサボ以来だ。全部出し切る前に終わっちまうところだった。」

 

未だ氷を身に纏わせ、身動きが取れないはずのルフィの声が確かに会場に響く。これに観客がどよめき、だんだんと彼の体の氷が溶け出していく。

 

「ギア・セカンド!!!」DON!

 

溶けた氷が水に、そして次第に水は水蒸気に。熱を纏い赤く変化したルフィの体の周囲は燻したかのように煙が立ち込める。これは騎馬戦の時に見せたルフィの必殺技。無意識だった先程とは違い今度は意図的に、そして凍らさせられる直前に発動させていた。

この姿に観客はどよめき、A組の面々は自分たちがやられた光景を思いだす。爆豪に至っては柵に両手をかけ身を乗り出している。興奮した時以外は意外と冷静な彼だが、周りの視線も気にならない程に食い入るようにリング上を見つめる。おそらく決勝で当たるであろうどちらかの動きを見逃さないように。

 

「出たな。そいつを出したお前に勝てなきゃ意味がねぇ。」

 

轟は炎と氷を発動し身構える。

 

(しかしこれほどの個性の練度とは・・・彼らは学生の枠を逸脱しつつある。轟少年はこの大会で壁を一つ超えてきた。そして人生で初めての格上との会敵。さらなる成長が見込まれるな!!)

 

オールマイトは未だ現役ながら、どこか感傷的に二人を見つめている。

にわかには信じられないが、ルフィは体がポンプのように血液を循環させることで身体能力を上げてる。副作用として激しい血の巡りが体温を上昇しており、体表の氷はすでに溶けきった。

 

(どの道氷だけでは奴には通じなかったな。・・・確かにこだわった先に頂点はねぇ。こいつに勝てない未来に頂点はあり得ねぇ!!)

 

轟はジリジリと前進する。先の騎馬戦での唐突のルフィの動きは捕らえられなかったため、ルフィの一挙一足を警戒しながら距離を詰める。両手を横に広げ、右には氷で、左には炎でルフィの横の動き限定させ退路を断つかのように構える。

 

「攻撃の速さこそ完全には見切れないが、『体の動き』自体は反応はできる。動き回ってもこの間合いならさっきの再現になるぜ。」

 

ルフィと轟の位置はリング両端だ。つまり後方からの攻撃はない。ならば集中するのは前方のみ。

ルフィは腰を落とし、脚に力を溜める。両者見つめあって一分は経とうか、緊迫した空気が張り詰める。そして、それを破るのはもちろん・・・ルフィだ。

 

「・・・JETピストル!!!」wBOH!!!

 

空気が切り裂かれるような音が鳴った。常人には目で追うことさえできない拳がルフィから放たれる。轟は己の顔面に迫る拳を間一髪で避けるが、体勢を崩す。が・・・

 

(正面からの攻撃、騎馬戦のように不意ならばいざ知らず、今なら避けること自体は無理ではねぇ。・・問題はこちらの反撃機会・・引き手の速さがことさら厄介だ!)

 

ルフィのギア2の一番の利点は何より伸ばした拳を体まで戻す引き手の速さだ。ボクシングの経験者と素人ではこの点が大きく違うそうだ。引き手の速さはつまり手数の多さ、攻撃の回転数が増すと言うこと。手をゴムのように伸ばすルフィはこの点が弱点になり得るからだ。この弱点がなくなり、何倍もの強化された今のルフィに死角はない。

目にも止まらない速さとはこのこと、ルフィの攻撃は数十メートル離れた観客席からも捉えられないほどに苛烈で幾度となく轟を襲いかける。しかしこの攻防で皆を感嘆させているのは、防戦一方にひたすら攻撃を避け続ける轟のディフェンス能力だ。その超人的とも言える反応は観客の目を奪わせる。爆豪とは別に反射神経と言うよりも、幼い頃の訓練からの経験からによる予測であろうか。ルフィの僅かな予備動作から逆算して彼はにわかに傷は追っているものの避け続けた。

 

「くっ・・・ギア2の攻撃がこんな当たんねぇのか!?やっぱすげぇな!」

 

(・・・なんとか躱せてはいるが、このままじゃ全く埒が明かねえ!どっかでキッカケを!)

 

『轟としてはどっかでなんとか近寄りたいだろうな。氷と炎も今のルフィの攻撃に比べ遅い。中距離以上では当たらねえ上に隙を相手に与えちまう。』

 

そう轟には個性を発動する暇さえない上に分が悪い間合いだった。まさに極限とも言える防御で意識された脳内に攻撃を思案する余裕は僅かもない。彼が己からアクションできることは何もない。ルフィの動きから受動的に動くしかなかった。

轟がそのような状態の中、なぜか焦れ始めたルフィは、出した拳が戻ってきた瞬間に地面を蹴り、少し飛び上がって攻撃に変化をつけた。

 

「ハァ・・ハ・・ゴムゴムの・・JET鞭!!」

 

まさしく鞭のようにしなる伸びた脚が高速で放たれる。これまで直線的な攻撃で膠着仕掛けた局面に横からの変化を加えた。

 

「ここか!」

 

良くも悪くもキッカケを掴みたい轟にはこの変化を好機と捉え、この攻撃をどう凌ぐかと言うよりも、攻勢に回るためにどう利用するかで頭を回転させた。

 

「ぐあっ・・・・!!」

 

ドバン!!!と重く弾けた打撃音が響く。完全に反応しきれなかった轟の脇腹にルフィの蹴りが捻じ込まれた。

 

「入った!」

 

緑谷が声をあげたと共に観客が大きく騒めく。轟は猛烈な攻撃を受け、彼の普段の澄まし顔からは想像しにくい程に顔を歪ませた。

 

『きょ~烈な一撃が入ったー!!!こんなん受けたら立っていられるのかーー!?』

 

(肋の何本かイったかもしれんな。)

 

誰もがこの攻撃が決定的だと確信した瞬間、ルフィがくぐもった声を発した。

 

「うあ”あ”・・!!??」

 

「これは・・・轟少年!攻撃を受けながらもルフィ君の足を氷結させたのか!」

 

なんと轟は右脇腹に食い込むルフィの足を抱え込み、そのまま脛から膝にかけて氷を這わせたのだ。

 

(ノーリスクでどうにかできる奴じゃねぇ。肉を切らせて骨を断つ。・・・骨を断ってんのはこっちだが。)

 

「ヤベェ!!?足凍らされたァ!!」

 

思っていなかった反撃にルフィはたじろぐ。そしてルフィに次の行動を考える時間はなかった。ゴムが伸びたら元の形に収縮されるように、彼の足は自身の体へ轟を引き連れながら舞い戻ってきたのだ。

 

(痛みに悶絶してる余裕はねぇ。ようやく能動的に動けんだからよ!!!)

 

ルフィの足が戻りきる直前、轟は左手を前に突き出す。彼にとって念願の間合いだ。

 

「少しは加減してやる・・!!」

 

ルフィは目を見開き、どうにか回避を目論んだが、接近してきた彼の名前のように轟とうねりをあげた炎はルフィの全身を覆い、そしてその延長線上の後方まで焼き焦がした。

エンデヴァーから受け継いだ炎が炸裂し、皆が勝負が決まったかと頭によぎった。が、しかし皆の想像の範疇の中にルフィは収まってやいない。ぐうぅぅぅ、と歯を食いしばる声が聞こえると共に残火の中から轟へ拳が飛来する。

 

「・・ゴムゴムのJETブレット!」DON!!

 

「ごふっ・・!!!!????」

 

メキメキ・・・、鈍く重く凶悪な打撃音がおおよそリング上の人間にしか聞こえない程度に響く。

 

『ま、マジかー!!??轟会心の炎から、さらにルフィの反撃ーー!!?』

 

ルフィは炎を受けた際、回避が無理だと判断した瞬間、本能で拳を繰り出していた。そしてその一撃は轟の意識の全くの外。その唐突の攻撃は既に数箇所ヒビが入った肋を完全に砕いた。轟はリング中央でのたうち回り、腹部を抱え込む。

 

「ゼェ・・・ゼェ・・・全身ヤケドだ・・イテェ・・。」

 

そしてさすがのルフィも轟の炎で再度焼かれ、まさしく満身創痍であり、肩肘をついて倒れこむ。むしろ何度も凍らされ焼かれていながら意識を保っていること自体が驚異的であるのだが。そして体力も底を尽きかけていた。ルフィが使っていたギア2は未だ途上の必殺技であり諸刃の剣であったからだ。身体能力を爆発的にあげることを代償に、そもそも体に大きな負荷をかけるこの技は長期戦には向いていない上に、まだ15歳で体ができていないルフィには発動時間は僅かしか残されていなかった。

リング上二人は倒れており、ダブルノックダウンの状態に陥っている。しかし審判であるミッドナイトはダウンのコールをすることはなかった。いや、そのことを忘れていた。この僅か数分の攻防に呆然としているのだった。ある者は顔を青ざめ、ある者は呆然としている。とても学生の、体育祭には似つかわしくないこの戦いに言葉が出ていなかった。静寂となった会場内で聞こえるのは、ルフィと轟の疲弊しきって吐き出す呼吸音だけだ。

 

「凄まじい・・・一言に尽きる。どちらの攻撃も死を一瞬でもチラつかせるには十分なものだ。それを正面から受けきり、なお前進を止めないとは。・・最高のヒーローになるぞ、彼らは。」

 

オールマイトは自分の後継をこの二人とは違う少年に託した。しかし、しかしだ。次代の象徴は一つではなかった。ワンフォーオールという紡がれたバトンが無くとも、ここに間違いなく輝く巨星が存在しているのだ。恍惚に近い感情が今の彼を占めていた。

 

「ハァ・・・ハァ・・にっしっしっし。轟、まだ立てるだろ?早く始めようぜ。まだ・・この後に・・決勝戦が残ってんだからよぉ。」

 

「か、簡単に言ってくれる・・ぜ。・・フゥ・・フゥ・・まぁ、当然立つがな。」

 

二人とも肩で息をしながらのそりと体を起こしあげる。

 

「「優勝するのは俺だ!」」

 

覇気を纏わせ二人は宣言する。

 

「・・・・・このクソ野郎どもが、どんだけ滾らせんだコラ。ざけんな!優勝は俺のもんだ。」

 

ガチリ、と歯を鳴らし体を身震いさせるのは決勝で当たるだろう爆豪であった。認めたくはなかった。しかし体は否定しきれなかった。爆豪の本能は認めざるを得なかった。この二人は自分の上にいると。

だが、それが彼を立ち止まらせる理由には決してならないだろう。むしろこの二人の存在は彼を更なる高みへ吹き上げる爆風であるからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしながら、準決勝第一試合はこれ以上行われることはなかった。

 

 

 

 

 

 




ちなみにこのルフィは剃はできません。というか剃はないです。だってあれ、できたら個性なくても勝てるんだもん。

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