どうも、キャプテンタディーです。
前回第10話に入ると言ったな?
あれは全部まるっきり『嘘』である。
いやでも本当は第10話に入りたかったんです。
でも頭の中に梨子とピアノの話を入れたかった
ので、この際に上げてみようと思いました。
少し短い展開ではありますが、最後まで
読んでいってくだされば、とても幸いです!
それでは、本編へどうぞ!
正直に言うと、俺は凄くドキドキしている。
何故なら、今日初めて彼女の家を訪ねるから。
ピンポーン♪
「よっ、梨子」
「あっ!いらっしゃい遼くん!」
彼女の家の玄関。
インターホンをポチッと押し鳴らすと、その音に反応した梨子が軽快に玄関を開けてくれた。玄関から顔を出した彼女は、俺が来るのをすごく待ち遠しかった表情をしていた。
梨子も梨子で今日を楽しみにしていたのかもしれないなって、俺はそう感じることが出来た。
「さっ、上がって上がって!」
「あ、あぁ。失礼します……」
笑みを浮かべつつ、俺を中へと促す梨子。
俺は彼女の勢いに押される形で、彼女の家の玄関に入る。靴を脱ぎ、ピカピカのフローリングに足をつけて彼女の部屋へ足を運んだ。
梨子の部屋は2階だから、階段を一段一段踏みしめていかなければならない。そう考えた瞬間には、また更に心臓がバクバクと鼓動が早くなる。
すると梨子は、俺に告げる。
「私、飲み物持ってくるから、遼くんは私の部屋で待ってて。すぐに行くから」
「分かった。そうさせてもらうよ」
飲み物。多分麦茶か何かを梨子は持ってきてくれるんだろう。そう思った俺は階段前で梨子と別れ、ゆっくりとした足取りで彼女の部屋へ赴いた。
階段を一段一段と踏みしめるたびに、初めて入る梨子の部屋へ近くたびに、俺のこの早まるドキドキは収まらず、止まらない。
そうしてるうちに俺は部屋の前に来て、一度深く深呼吸をする。
曜や千歌、果南にダイヤと、今まで何度も女子の部屋に上がり込んだことはある。だが梨子は、あの東京からやって来た女の子。千歌や曜なんかよりも凄い女の子らしい部屋なんじゃないかと、俺は不意に、無意識に考えてしまっていた。
「…………入らないの?」
「うわぁ!?」
そうしたら突然、悶々と考えていた俺の背後からコップ2つと、2L程のペットボトルのお茶を持って来ていた梨子の姿があった。
俺が一向に部屋に入らないことに首を傾げていた梨子の発言に、俺はビクッと驚いて身体をつい飛び上がらせた。
「わっ!だ、大丈夫!?」
「あ、あぁ!大丈夫。ちょっと梨子の部屋に入るの初めてだから、少し緊張しちゃってさ……」
俺はそれでその後、梨子にどうして部屋に入らなかったのか事情を洗いざらいに話をすると、梨子は驚くどころか、唐突に笑い出して口を開く。
「ふふっ。なんだ、遼くんも緊張するんだ?」
「何だよ?俺が緊張しないとでも?」
「うん。遼くん、あんまり緊張とかしないでずっと冷静でいられる人なのかなって、そう思ってた」
「悪かったな。梨子のイメージに添えられなくて」
どうやら梨子から見た俺のイメージというのは、どんな状況でも冷静沈着で、周りを見て行動出来る人だとイメージしていたらしい。
それを目の前で聞かされた俺も、梨子が俺のことをそんな風に思っていたなんてと驚いた。
だが俺が口にした言葉に対して、梨子は言う。
それは彼女からの感謝の言葉だった。
「でも、嬉しいの。今日みたいに私のピアノに付き合ってくれるだけで嬉しい。ありがとう遼くん」
「……その言葉、快く受け取っておくよ」
満面な笑みでそう言われてしまうと、その笑顔にやられてどういう言葉を返せばいいのか、俺個人の中でなんか分からなくなってしまう。
けれどなんというか、俺から言えることはたった1つだけで、梨子はやっぱり綺麗だ。
こういう子がやっぱり、『“美人”』という言葉がよく似合うんだなって思った。
「じゃあ、部屋に入らせてもらうよ」
「うん。特に何もない部屋だけど……」
そう話をした後で、俺は梨子の部屋に入る。
本当に初めてだから、ちょっと恐る恐るで部屋のドアを開けていく。すると、最初に目に飛び込んできたのは部屋の奥にある黒く煌めくピアノだ。
部屋の奥にあるのにも関わらず、それの存在感が圧巻で、1番に目を惹かれた。
その他にも、壁紙だったり布団だったり、あとはカーペットがピンク色で、とても女の子らしい部屋だなって感じることが出来た。綺麗に本棚も机の上も整理されている。
「そんな事ないんじゃないか?俺が見る限りでは、統一感があって、とても綺麗な部屋だと思うぞ?」
「えぇ〜?嘘、じゃない……?」
「俺が嘘つくように見える?」
「うっ……見え、ない」
何も自信なさげな表情をする必要もないのに。
どうも梨子がモジモジと恥ずかしそうな表情を俺は見てしまうと、ちょっとなんともいえない感情に悩まされる。
なんというか、う〜ん、可愛い。
……って、全然違う。そうじゃない。
「なにも気にする必要はないさ。いつも通りの梨子でいてくれたら、俺はそれだけで安心するからさ」
「……ふふっ。ありがとう……」
…………………………かわいい。
あれ?俺、今なんか変なこと考えてたか?
「じゃあ、ゆっくりしてってね?」
「うん。お言葉に甘えさせて頂くよ」
まぁ、いいや。
とにかく気にしないでおこう。
今日の目的は、あくまで梨子のピアノの手伝いに来たわけだから、梨子に変な手出しはしないようにしようと、心の中で俺はそう決めたのだった。
〜〜〜〜〜〜※※※※〜〜〜〜〜〜
「〜〜♪」
「……」
目の前でピアノを弾く梨子。
その横顔と、ピアノを華麗に俺の目の前で弾いているその姿は、一言で例えるなら女神のよう。
「…………ふぅ」
パチパチパチパチパチパチパチパチッ!
彼女が披露してくれた演奏に俺は感激し、梨子に対してスタンディングオーベーションで讃えた。
それくらい凄かった、彼女の演奏。
「すごい、本当に凄いよ梨子!感激した!」
「本当?嬉しいなぁ……!」
褒められることに慣れてないせいか、彼女は両手を合わせ、少し恥ずかしそうな表情をする。けれども梨子は褒めてくれたことに対し、とても嬉しそうに微笑んでいた。
「……………………」
そんな俺がピアノを聴いて感じたこと。
ここまでのピアノの実力がありながら、どうしてピアノから手を引いてしまったのかだ。
その実力は、Aqoursのみんなからのお墨付きでもあるというのに……。
そうそう。俺がまだ梨子のピアノを聞く以前に、いつの間にかみんな、既に聴いていたのだ。
ただただ羨ましかったよ、その時は。でもこうして目の前で聴くことができたから、こうして今はとても満足しているのだが……。
そしてこのときの俺は同時に、梨子の身に起きた過去が気になって仕方がなかった。決して、触れていいものではないと心の底から分かっていながら。
「でも梨子」
「んっ?」
「そんなにもピアノが上手なのに、どうしてピアノから一度手を引いたんだ?」
「……っ!」
そのことを口にした瞬間、彼女の表情は変わる。
ピアノから一度手を引いたことは、千歌から話を聞いたのだ。
内浦に引っ越ししてくる前の話で、梨子は何やら上手くいかないことがあったらしくて、その過去を聞く上で、それを話に交えながら俺は聞いた。
「……………………」
「…………」
だがあまり話をしたくないと、梨子の表情はみるみるうちに暗くなっていく。下に俯き、太腿の上で両手を弄っているだけになってしまっていた。
……う〜ん。やっぱやめるべきだったな。
彼女にとって、もしかしたらトラウマともいえる過去を持っていて、それを俺のせいで思い出させてしまったかもしれない。
あぁ、やっぱりやめておくべきだったな……。
「……悪い。今のはなかったことに……」
そう思い、俺は口を開いた。
が、その瞬間に彼女から言い放たれた。
「怖いの……」
「えっ……?」
「怖いの。人の『期待』を裏切るのが……!」
「……っ!」
『期待を裏切るのが怖い』
梨子は今、胸に秘めていた思いを、『苦しさ』を混じえながらそう言った。
ふと見れば、彼女の身体は小刻みに震えている。やはり彼女にとって、とても辛く、重い過去を思い出させてしまったようだ。
これは反省……しなければならない……。
彼女の深い闇に触れてしまった事を後悔し、俺は梨子から一旦視線を逸らそうとした。何より、思い出したくもないことを、梨子の脳に呼び覚まさせてしまったのだから。
けど梨子は、自分から話を切り出していく。
その話は少しずつ、勢いが増していった。
「私、一度だけコンクールでピアノを弾けなかったことがあるの」
「えっ……?」
「みんなから、“応援”はすごくされていたの。でも本番でピアノの前に手を置いたら、突然指が震えて止まらなかったの……」
「……………………」
『緊張』
まず、話を耳にして考えられたのはそれだ。
ピアノは1人。コンクールと言うのだから、会場は多くのお客さんで観客席は埋まっているはず。
その多くの観客から見つめられる中で、たった1人で成長を披露する。梨子は多分、その『期待』という目に見えないものの『重圧』に押し潰されてしまったのかもしれない。
試しに俺は、彼女に話を揺さぶった。
「梨子に1つ、聞きたいことがある」
「……?どうしたの?」
「応援って、いろんな人から応援されたの?」
「…………うん、いろんな人から言われたよ。同じクラスの生徒とか、先生からも。あと、同じピアノをやっている知り合いからも言われた」
どれくらいの人々が彼女に期待し、どんな言葉を投げかけていたのか?
気になって仕方なくて、俺はそのことも口にして梨子に尋ねてみた。その結果、逆にその結果は、俺の想像を遥かに超える言葉だった。
『梨子ちゃんなら“大丈夫”!』
『貴方は我が校の“誇り”よ!』
『先生は“期待”していますよ!』
『みんなね、梨子のこと“信じてる”から!』
「……………………」
正直、こんなの聞くじゃなかった。
胸をギュッと掴まれてグッと抉られるような感覚があって、逆に俺の心も苦しくなっちまった。
それで彼女の話を聞いていて分かったのは、梨子に向けた言葉の数々が、逆にかえって梨子への重圧になってしまっていたこと。教えてもらった言葉がそれを物語っているし、梨子の過去を聞いてて、俺は本当に心が苦しくなった。
そして梨子がピアノから手を引いた理由も、それを聞いて理解することが出来た。
「辛かった……よな?」
「大丈夫……といえば、『嘘』になるかな?」
「うん。そうだよな……」
苦笑いを浮かべて、明るく振舞おうとする彼女。
だけど俺からしてみれば、もう辛いことは、俺やみんなに包み隠さないで欲しいと思った。
「梨子」
「……?」
「とりあえず、ハグしようか?」
「えぇっ!?」
何より『桜内 梨子』という女の子は、もう既にAqoursのみんなにとって大切な仲間なのだから。
「梨子は俺たちにとって大事な
「……っ!」
「みんな、仲間1人1人の気持ちを、みんなで分かち合う『義務』がある!」
「……っ。うっ……」
「もう梨子は、1人で辛い思いをするな」
そう言って俺は、梨子の前で両手を広げる。
梨子の過去も受け入れる意味では、果南の十八番の『ハグ』で受け入れた方が1番良いと思った。
「ひっく……うぅ……」
そしてそれが功を奏する。
俺が伝えた言葉に、梨子は涙を流した。
ギュッ!
「うっ……うぅ……遼、くん……!」
「あぁ。俺の胸にドンとこい」
俺は梨子に抱きつかれ、梨子の涙腺は崩壊。
もう“1人じゃない”。それを初めて認識した梨子は、嬉しさのあまりに俺に泣きついた。
今初めて梨子に抱きつかれたものの、今は梨子の身体がどうこうとか色々考えている暇はない。自分の両腕で彼女の身体を優しく包み込み、右手で梨子の頭を優しく撫でる。
梨子が泣き止み、落ち着くまではね。
でも、やっぱり梨子の身体美形だな。
体型がスラッとしてて、ザ・美人って感じ。
「……ぐすっ。遼くん、もう大丈夫……」
「んっ、分かった……」
しばらくして、梨子は涙を拭いながら俺に対してそう告げる。
梨子の涙が俺の服に少し滲んでしまっていたが、そんなことは言っていられない。今は梨子のことを最優先に考えて話をしないといけないのだ。
何よりピアノをすることが、梨子にとっては一番好きなことなのだから、俺が変なことを考えていたら梨子に失礼だろ?
「ねぇ、遼くん?」
「うん?なんだい?」
するとそのとき。梨子は俺に視線を向け、少し弱々しく俺の名前を呼んできた。
ただ、あまりにも声が弱々しかった。だから俺は梨子の言葉に誘導されて視線を向けると、彼女の目は潤み、俺に問いかけてきた。
「遼くんは、ないの?」
「えっ……?」
「辛かったこと。遼くんはないの?」
「……っ」
とんでもない唐突な質問だったから、梨子の質問にちょっと驚いてしまった。
でも、彼女の意図を理解したときの俺は、自分の辛かったことをすぐさま梨子に打ち明けた。
個人的には、あまり口にしたくはないことだ。
それでも梨子が聞きたいと訴えかけている。俺は答えないわけにはいかなかった。
「……あるよ、もちろん」
「……っ。そう、なんだ……」
誰にだって、辛い経験はあるものだ。
俺の場合、梨子の話よりもかなり辛い。その時の俺は中学3年で、サッカー部のキャプテンだった。
「中3の時の、サッカーの大会の時だ」
「……うん」
「大事な大会だったんだ。そのPKで、俺が外したらチームが負けるっていう場面で、俺はとてつもないプレッシャーを受けてたんだ」
「……………………」
している“もの”は違う。
ピアノとサッカー。名前だけ聞いてみれば、全然することは違うと思うはずだ。サッカーは競技で、ピアノは演技。
けれども、場面は梨子と同じなんだ。
不思議なほどにね。びっくりだ。
「それで外して負けた。俺のせいで……」
「……っ。ごめん遼くん。私があなたの過去を聞きたかったせいで……」
「梨子が気にすることない。お互い辛かった過去を打ち明けたんだから、これでおあいこだよ」
俺の辛かった過去の話を聞いた梨子は、少しばかり落ち込んでしまう。過去を聞き出したことを悪く思ってるのかもしれなかったから、俺はそう言って彼女を開き直させる。
俺は全然何とも思ってないし、梨子も悪いことは言っていないのだから、気にすることはない。
「それに……」
ギュッ!
「……っ!?」
「一番好きなピアノを諦める梨子なんて、俺は全く考えられない。だから梨子は、好きなものは好きでいてほしい。特に何より、“一番”なものにはね」
「……っ!」
俺は梨子の手を両手で握って、真剣に、且つ笑みを浮かべては彼女へそう言い放つ。
梨子にとってピアノは1番好きなもの。俺の中での個人的な解釈になるけど、でもそう感じれるし、そう確信も出来てしまう。
俺の前でピアノを弾いていた梨子の表情を見て、それが全てを物語っていたよ。
「……ありがとう。私、凄く嬉しい!」
「あはは。また涙出てるぞ」
「うん。遼くんに言われて、嬉しいから……!」
再び涙を流す梨子。
でも、それは嬉し涙。明らかにさっきの悲しい涙よりも明るく、彼女は自信を漲らせている。
うん。もう決心がついたような表情だった。
「私、もう一度ピアノ頑張ってみる!」
「そっか。とりあえず涙拭け」
「うん。遼くんにはいつもお世話になっちゃって、なんか色々と……ごめんね?」
「もういいさ。梨子がまた好きなピアノを頑張ってするっていう決心に、俺はもう大満足さ」
「ふふっ。ありがとう!」
俺は梨子の涙を人差し指で拭ってあげて、梨子の意志に対して素直に喜びの言葉を述べる。
もう今の梨子なら、いろんな人からの重圧を受けても大丈夫だろう。『もう“1人じゃない!”』ことをちゃんと胸に秘めていれば、1人でも、どんな困難にも乗り越えていけるだろう。
梨子の背中、少しは押してあげられたかな?
「はぁ、なんか少しお腹が空いたな」
「ふふっ。もう遼くんったら!」
「ちょうどお昼の手前だけど、近くの松月に行ってみないか?来るときに『“新作”が出ました!」ってポスターが貼ってあったからさ、どうだ?」
「本当!?うん!行きたい!」
「決まりだな!」
そして、お昼なら普通はご飯なのだが、俺が梨子の家に向かっているときに、ちょうど松月が新作を出したというポスターを見かけたのだ。
俺も松月のケーキは嫌いじゃない。だから新作が出たってなると気になって仕方がないからさ、休憩がてらにちょうどいいかなって思ったのだ。
「じゃあ、早速行ってみるか」
「えぇ!私も新作がとっても楽しみ!」
梨子も満更でもなさそうだ。良かった。
それで俺と梨子は家を飛び出し、歩いてものの5分で辿り着く松月へと足を運んでいった。
とりあえず、梨子のピアノの手伝いは一先ず休憩に入る。手伝いは、午後からでも大丈夫だろう?
そんな風にて、ことを後回しにして考えることにした俺であった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
遼と梨子の過去。お互いに曝け出したお陰で、
更に2人の仲が良くなったように感じですね。
さて、今度の今度こそ!
第10話『シャイ煮はじめました!』編へ
お話に入っていこうと思います!
ある意味、水着回でございます!
頑張って書いていこうと思います!
次回も是非、楽しみにしていてください!!!