少年と少女達の輝き目指す物語   作:キャプテンタディー

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どうも、キャプテンタディーです。

皆様本当にお待ちどうさまでした。
今回の話から2話ほど、前回の波乱の続きを
書いていこうと思います。

いわば、あの夏祭りの『真実』が暴かれます。
あの時にルビィちゃんが発した『あの言葉』の
本当の意味が丸裸になります。

そして彼女と彼、決着へ……!

最後まで是非、楽しんで読んでください!
それでは、本編へどうぞ!





#57 天罰と真実と黄昏

 

 

 

 

 

「………………はぁ……」

 

 

 枕に顔を埋め、ネガティブなため息をするたびに顔を一度離す。私は何の意味のないこんな行動を、何度も何度も繰り返していた。

 

 ただね、こんな風にどうしようもない状況を作り出したのは、紛れもなく自分自身であることは自覚していた。

 というのも、今日はあれから数日後。今日はAqoursの練習もなにもない、単なる休日である。

 

 

「……………………」

 

 

 鉛みたいに重たい自分の身体を起こし、カーテンをゆっくり開いて外を見る。

 

 

「……雨か」

 

 

 午前9時。今日は生憎の大雨。

 

 雲もいつもよりどんよりしてて、私の感情がそのまま天気に現れてるようで、今日は外に出ようにも出られないような天気模様だった。

 でもそれでいいや。今日はなんか外に出たくない気分だし、家でゆったり過ごすのも、たまにはいいかもしれないしね。

 

 

 うん。今日は家にいよう。

 

 

 そう心に決め、私はカーテンを閉じ、再び布団にくるまって深い眠りにつこうとした。

 けど、その眠りを妨げる人物がやって来た。

 

 

 トンッ!トンッ!トンッ!

 

 

「…………?」

 

 

 最初はお父さんかと思った。私に用事があって、何かしらで部屋に訪ねてきたんだと思っていた。

 でも、それはただの私の思い違いだった。

 

 

「果南?いるのか?」

「……っ!」

 

 

 部屋の外から聞こえたその声を聞いて、それが誰なのかを間違える私ではなかった。

 その声は間違いなく、彼の声そのものだった。

 

 

 ガチャ!

 

 

「よっ、果南」

「遼……」

 

 

 私が自ら部屋のドアを開けると、目の前には遼の姿があった。あの大雨の中で来たせいか、着ていた服もところどころ濡れていた。

 何しに私のところにやってきたのか?私は、彼を部屋に招き入れた後でそんなことを尋ねた。

 

 

「何しに来たの?」

「別に。果南と話に来たのさ」

「……話、ねぇ……」

 

 

 話をしに来たって……。

 そもそも、こんな朝はやくから来るなんて思わないよ。しかもこんな大雨の中にも関わらず……。

 

 

「なにでここまで来たのさ?」

「傘をさしながら自転車で船着場まで来て、あとはなにで来たかもう分かるだろ?」

 

 

 うん、そう……だよね。

 船着場からこっちまで来るには、手段はフェリーしかないんだもの。それしか方法はないもんね?

 

 あ、あははは……。

 

 本当……私はなにをやってるんだろ?

 こんな他愛のないやり取りをしてるだけで、彼とは何の会話にもなってない。

 

 

「……なん!果南っ!」

「……っ!な、なに遼?」

「なに?じゃねぇよ。さっきから呼んでんのに」

「あっ。あぁ……ごめんごめん!ちょっとぼーっとしちゃって、何でもないよ?」

「……………………」

 

 

 そしてこんな風に彼に名前を呼ばれても、反応がついつい遅れてしまう。本当に、あれから私ってばどうしちゃったんだろう?

 そう物思いに悩んでいた矢先、彼は口を開く。

 

 私の胸を撃ち抜くに等しいその言葉に、私は何も言うことが出来なかった。

 

 

「まだ、落ち込んでんの?」

「……っ!」

「まぁ仕方ないよな。俺もダイヤも聞いちまった。それにダイヤが怒り狂うには申し分ないことだとは思うけどな……」

「……うん」

 

 

 あの時、私は久しぶりにダイヤに怒られた。

 そして、鞠莉に3回頬を叩かれた。

 

 記憶に新しい。私にとってはとても惨めな出来事で、正直遼に対して顔を合わせたくなかった。

 だって、遼も知ってしまったからさ。本当に彼にも申し訳なく感じているんだ。

 

 あの夏祭りの()()を。

 

 

「でも、遼は何も思わなかったの?」

「えっ……?」

 

 

 再び私は口を開いて、彼に気持ちを尋ねる。彼から何かを言われる、その覚悟を持って。

 

 

「だって遼は、曜から告白されそうだったんだよ?それを……私がルビィを“利用”して……」

「……あぁ。そうだったな」

 

 

 あの時に口にしたことを繰り返し話をして、それ聞いてた彼は、言葉を口にしながら『うんうん』と首を縦に降る。

 もう私は、あの時の夏祭りのことをもの凄く後悔しているの。別に何も、ルビィを()()してまで曜の告白の邪魔をしなくても良かったのにって……。

 

 はぁ、私って本当バカ……。

 ばかなんって言われても文句も言えないよ。

 

 

「俺も最初は正直驚いたさ。まず曜が、俺のことを好きだったってことがさ……」

「……うん」

「それで俺たちを呼びに来たルビィちゃんが、実は果南の指示で告白の邪魔をしに来たってこともさ」

「あの時は……うん」

 

 

 あぁ。何となく彼の気持ちが分かる。

 遼が『怒ってない』のは、彼の口調や雰囲気で何となく分かった。ただ今の彼の言葉に対して、私がどういう言葉を返せばいいのか分からなかった。

 

 でも私自身が感じたことは、彼よりももっと大事な友達に謝らなければならないということ。

 鞠莉にダイヤ。そしてルビィと曜の4人。

 

 そんな時、彼は私に口を開く。

 それは怒りではなく、優しさ溢れる言葉。

 

 

「でも俺は怒ってない。逆に何というか、いろんな意味で考えさせられたよ」

「えっ?それって、どういう……?」

「それはな……う〜ん……」

 

 

 そう言いながら、彼は下に俯き考える。

 今回の一連の中で起きたことで、色んな『意味』で考えさせられたって、どういうことなんだろう?

 

 すると遼は、私にある事を尋ねてきた。

 

 

「ていうかその前に、果南に聞きたい事がある」

「聞きたいこと?一体なに?」

「果南はさ、曜の告白の邪魔をルビィにさせたって言っていたけど、ルビィちゃんはそれを『否定』はしなかったの?」

「……!」

 

 

 私がルビィちゃんを利用する時、彼女に私の思いを話し、ルビィちゃんは躊躇いなく『分かった』と了承してくれたのかどうかを彼は尋ねてきた。

 何かしらでそれを聞く意味があるのかもしれないと思いつつ、私は全てを彼に話した。

 

 

「……うん。ルビィに事情を説明して、2人の会話に割り込むように邪魔してきてって話をしたんだ」

「そうか。なるほどねぇ……」

 

 

 首を縦に振り、相槌を打つ遼。

 こんな話を聞いて、遼は一体なにを考えているんだろう?彼にとって大事なことなのかな?それともただ聞いてみただけなのかな?

 彼にしか分からない事だらけで、正直、自分の頭がこんがらがってきちゃった。

 

 彼のことで思い悩んでいると、遼は私を見かねては、自分の思ったことを私に向けて話をしてきた。その言葉には遼自身が自信を持ってそう言えると、私はそう感じることができた。

 

 でも、幾ら何でもそれは『嘘』だと信じたい。

 

 

「なぁ果南。もしかしたらルビィちゃんもさ、実は俺のことが“好きだった”んじゃないか?」

「えっ……!?えぇ〜!?」

 

 

 まさかのルビィまでもが、遼のことを好きだったなんて思えなくて、私は彼の発言に驚かされた。

 そして彼はそう言うと、次に私に向けてその根拠だったり、その理由を話してきた。

 

 

「な、なんでそんなことになるの!?」

「理由としては、果南のお願いになんの躊躇いなくルビィちゃんは請け負ったことだ。普通ならそんなお願い、すぐ請け負うはずないだろ?」

「……あぁ、うん。確かにそうだけど……」

 

 

 彼の言うことは理に適っている。

 何故かというと、当時のルビィが実は本当にそうだったからだ。

 

 

 

 あの日

 

『よ、曜さんの告白の邪魔をしてほしい?』

『うん。遼と曜が少し深い茂みの中に入っていったから、出来るだけ自然に、2人のことを探しにきた感じで告白の邪魔をしてほしいんだ』

『…………分かりました』

 

 

 

 普通ならそんなお願い、私なら躊躇う。

 人の告白を邪魔するなんて出来るわけがない。

 

 なのにルビィはやってみせた。茂みから遼と曜とルビィが出てきて、彼女からOKサインが出たときは本当に驚きを隠せなかった。

 って、今そんな感心してる場合じゃないけどね。

 

 

「そうじゃなきゃ、果南のお願い聞かないだろ?」

「うん。そうだけど、でもそれが本当なのかルビィに直接聞いてみないと分からないよ?」

「そうだな……」

 

 

 そもそも、ルビィがそんな思いがあって行動したとは限らない。だから遼の考えは当たっているかもしれないし、外れてるかもしれない。

 この事は、本人に聞いてみるしか……。

 

 

「じゃあルビィちゃんの家に行ってみるか?」

「…………えっ?」

「そうすればダイヤに必ず会えるはずだし、そこでダイヤにきちんと謝らないとね」

「……………………」

 

 

 私の思っていたことが……今現実になった。

 いや、これは私から地雷を踏んだんだ。

 

 今からダイヤに謝りにいくのと、ルビィにあの時の事実を確かめにいく2つのこと。

 ただそうしなければならない時が来たんだと考えたら、案外、自分が抱え込んでいたことが少し楽になったような気がした。

 

 

「果南、もしやビビってる?」

「……まぁ、少しだけ……ね?」

「俺もフォローしてやるし、何とかなるさ」

「えぇ……なんか不安だなぁ……」

 

 

 遼もまたね、私を助けてくれる言葉を投げかけてくれた。だからなんだろうな?なんだか彼がいるだけで心が暖かくなってきた。

 やっぱり……これが『恋』なんだろうね?

 

 

「でも……ありがとう」

「…………まぁ、気にする事ないよ」

 

 

 私はにこりと笑み、彼に対し感謝のお礼を言う。遼は知らん顔でそっぽを向くけれど、少し恥ずかしそうに頬を赤くして、頬をポリポリ掻いた。

 

 それを見て、また私は笑った。

 彼の優しさを感じたおかげで、心の奥底からものすごく晴れやかになった気分だった。

 

 

 やっぱ私、遼のことが『大好き』みたい。

 

 

 ただ恋人には()()()()。理由はない。

 ただ一つ言えるなら、私は彼の恋人になる資格はない。あんな酷いことをしちゃったし、これは私に対する神様からの天罰。

 

 

 なんか、悲しい……かな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜※※※※〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 家を出た俺と果南は、淡島からダイヤの家まではものの40分くらい時間がかかった。

 天気が雨じゃなかったら俺の自転車でもっと早くダイヤの家に着くことが出来たのだが、今はそうもいってられないので我儘は言わないでおく。

 

 ひょんな説明をしていたら、俺たちはダイヤの家の目の前までやって来た。

 

 

「ほれ果南、着いたぞ」

「うん。やっぱり……やめた方が……」

「ここまで来たんだし、帰る選択肢なし」

「うぅ……」

 

 

 約40分かけてやっと来たのに、いざダイヤに会うと考えてしまった果南は、追い返されると思ったのだろう。いつもより随分と萎縮している。

 色々と厳格なダイヤだからな。仕方ないよな。

 

 ただ大切な妹を友人に()()()()()って、ダイヤが勘違いしているんだけなんだどさ……。

 

 

 

 ピンポーン♪

 

 

 

「は〜い!あら?あなたたち……」

「こんにちは、金子さん」

「こ、こんにちは……」

 

 

 家のインターホンを鳴らし、玄関からはダイヤとルビィちゃんの母、金子さんが顔を出した。

 最初は俺たちがやって来てキョトンとした表情を見せたが、すぐに打って変わり、俺と果南に対して訪ねてきた用件を聞いてきた。

 

 

「今日はいかがなさいました?」

「ダイヤとルビィちゃんに話があって……」

「2人なら、今部屋にいるはずですよ」

「ありがとうございます」

「あ、お邪魔します……」

 

 

 俺が金子さんに用件を話し、2人が家にいることを金子さんの話で知った俺たちは、家に上がり2人がいるであろう部屋に足を運んだ。

 いつになくたどたどしさが滲み出てている果南。また自分が怒られるんじゃないかと、多分果南自身もそう思ってるんだろう。

 

 ただあの時のダイヤは、果南が発した言葉だけに捕らわれ、怒りに身を任せていた感があった。

 だからルビィちゃんがあの事を隠していたなら、ダイヤにもちゃんと話をしてもらって、尚且つこの問題も早々と解決したいところ。

 

 あわよくば、鞠莉のところにも……。

 

 

「それは一体どういうことですのっ!?」

「「……っ!?」」

 

 

 そんな時、廊下にも聞こえる怒声が響く。

 ビクンッと、俺も果南もその怒鳴り声には身体を反って驚いたが、その声を主が分かった以上、俺は足を部屋へと急いだ。

 

 

「だからお姉ちゃん!ルビィの話を聞いて!」

「そんなお話は全くの嘘っぱちですわ!私は絶対に信じませんよ!」

「……………………」

 

 

 なんとなく俺は察した。多分果南も。

 俺は視線を後ろに運ぶと、果南もこっちを向いていて、俺に視線を送っていた。果南も俺と同じことを考えていたようだった。

 

 それで俺と果南は部屋の前まで辿り着き、すぐには開けずに2人の会話を耳にする。

 

 

「本当だよ!ルビィは果南さんの話を聞いて、何も知らなかったわけじゃない。ルビィはね、遼さんのことが好きだからそうしたの!」

「だからそれが嘘だと言っているのです!」

 

 

 姉妹喧嘩の過激さは伊達じゃないようだな。

 けれど、まさかルビィちゃんがここまでダイヤと言い合いが出来るとは思わなかった。勿論だけど、いい意味でだよ。

 

 ぶっちゃけ、俺たちが知りたかったことをダイヤにも話してくれてある意味助かったと思っている。『1対1』という誰にも邪魔されない雰囲気の中で、ルビィちゃんはダイヤに話をしている。

 

 その最中に、俺たちが割って入った。

 

 

「いいや、それは嘘じゃないらしいぜ?」

「なっ!遼さん!?か、果南さんまで!?」

「や……やぁ、ダイヤ……」

 

 

 部屋の襖を颯爽と開いてなかに入ると、ルビィの両肩を両手で掴んでたダイヤは、俺と果南を見るや驚きの声を上げた。

 まぁ、連絡もなしにダイヤの家にやってきたわけなのだから、ダイヤが驚くのも無理もない。

 

 そしたらダイヤは立ち上がると、俺の後ろから顔を出している果南に対して、ズカズカと迫りながらルビィちゃんの事について口を開いてきた。

 

 

「どういう事ですか!果南さん!」

「ダ、ダイヤ!まず私から話を……!」

「まさかルビィに口封じまでしていたなんて、もう果南さんは最低です!帰ってください!」

 

 

 鬼気迫るように、そして超獰猛に、ダイヤはまた怒り任せに果南へ文句を言いまくる。さっきルビィが言っていたことを、ダイヤは全く真に受け止めていないようで、全くやれやれって感じ。

 際には『帰れ』とダイヤは言うもんだから、今とても貧弱な果南とダイヤの間に入って、俺が代わりにダイヤと話をした。

 

 

「待てよダイヤ。俺と果南は、ルビィちゃんにあることを尋ねたくてやってきた。今はそんなことは後にしてくれ!」

「ですが!果南さんはルビィを……!」

「お姉ちゃん!!!」

「……っ!」

 

 

 そしたら今度は、ルビィちゃんの怒声。

 俺とダイヤの会話に割って入り、ルビィちゃんはダイヤの正面に来ては、姉に対して帰り張り上げながら何度も同じことを説明した。

 

 それを聞いて俺も果南も納得した。

 何故、聞きたいことが聞けたからだ。

 

 

「ルビィは何度も言ってるよ!ルビィは果南さんのお願いを聞いて、それでルビィの意志で、曜さんの告白を邪魔したって!」

「…………やっぱりそうだったのか」

 

 

 ルビィちゃんは、そうダイヤに告げた。

 でもそれは俺たちが来る前からだ。ルビィちゃんは必死にダイヤに対してずっと話していたはずなのに、ダイヤはそれを信じず、真実を受け入れない。

 

 いや違う。今のダイヤの心情に当てはめるなら、『認めたくない』というのがしっくりくる。

 単にルビィちゃんが果南に利用されていたたわけじゃなく、ルビィちゃん自身が意思を持って、果南のお願いを真っ先に受け入れてしたという真実に、ダイヤはそれを受け入れたくないようだ。

 

 

「ルビィ……」

「すごく悪いことだってルビィも分かってる。でもルビィは……遼さんのことが大好きだから!」

「……………………」

 

 

 ルビィちゃんは、俺の目の前でそう言い放つ。

 曜の告白の邪魔をする。そうしようとルビィちゃんを突き動かしたのは、やっぱり俺に対しての好意によるものだった。

 

 それを聞いたダイヤは戸惑いを隠せない。何しろ妹が自分の友人に好意を抱いていたこと自体に驚いているはずだ。

 だがダイヤは妹の話に対して一つ呼吸をすると、一連の話の中で自分が考えたことをルビィちゃんに向かって話を始めた。

 

 

「……分かりました。ルビィ、あなたが遼さんのことをとても好きだということは理解しました」

「お姉ちゃん……!」

「ですが、例え好意あっての行動だとしても、同じグループメンバーの告白の邪魔をしたということは、到底許されることではありません!」

「うん……ごめんなさい……」

 

 

 ダイヤはルビィちゃんがした行動は許されることではないと、彼女の口からはとても強い口調で言い放たれた。

 ダイヤの言葉にルビィちゃんは萎縮し、頭を下げて謝り、俺も果南もそれに口を出さなかった。

 

 するとダイヤが、ルビィちゃんに告げる。

 

 

「だからルビィには、『お仕置き』です!」

「……っ!」

「お仕置き……?」

「なんだよ、お仕置きって?」

 

 

 『お仕置き』

 

 途端、ルビィちゃんはビクリと身体が跳ねる。

 その言葉にとても恐怖を感じている様子で、俺も果南も彼女の発言に思わず唾を飲み込んだ。

 

 

「これは貴方たちが知ることではないので、どうか2人は帰っていただけますか?」

 

 

 そしてダイヤは俺たちには帰って欲しいとお願いしてきた。『お仕置き』というものを少しだけ見てみたい気もするが、彼女がそう言うので、仕方なく立ち去ろうと思う。

 

 果南がダイヤに、ちゃんと謝ったあとでな?

 

 

「分かった。でもその前に一つだけ……」

「……?なんですか?」

「……ダイヤ、私からなんだけど……」

「果南さん……」

 

 

 俺が発見した言葉に合わせてくれた果南は、俺の背後からゆっくりとタイヤの方に近づいていく。

 俺からしてみれば、雰囲気がピリピリとした緊張感に包まれていくような感覚は、俺の肌にヒリヒリと伝わってくる。

 

 

「……………………」

「……………………」

 

 

 しばらく2人は見つめ合った。それで俺もルビィちゃんも何も言わず、ただ2人の行く末を見守ることだけに徹した。

 

 そうして果南は、ダイヤに謝った。

 深々に頭を下げ、申し訳ないと素直に。

 

 

「ごめん。私……ダイヤを悲しませることをした。だから、本当にごめん!」

「……………………」

 

 

 ルビィちゃんが許されないことをしたなら、私はもっと許されないことをしたと果南は思っている。ダイヤは果南が謝ってきたのを正面に見て、表情は全く変わらず、彼女は何も話さない。

 

 そう思っていた矢先、ダイヤはまた一つため息をついたあとで、果南に向かって話をする。

 腕を組んで、頭を深く下げたままの果南を見下すように……。

 

 

「果南さんも果南さんですわ」

「うん。それは分かってる……」

「反省……していますか?」

「それは勿論!反省しないわけ……」

「ならば分かりましたわ」

「えっ……?」

 

 

 ダイヤの超意味ありげな言葉に、果南はふと顔を上げる。果南との2人とやり取りを聞いていると、どうやらダイヤは少しだけ果南のことを許したようだった。口調で何となく分かったよ。

 

 

「少しだけですけど、果南さんのことは……許して差し上げますわ」

「……っ!ありがとうダイヤ〜!」

「……ほっ」

 

 

 安心した。ひとまずホッとした。

 許してもらえないかもしれないという悪い雰囲気ではあったけど、何とか許してもらえたようだ。

 

 と思っていた瞬間、そんな安心も束の間だった。

 

 

「ですが、果南さんも受けていただきますわ!」

「……えっ?な、何を?」

「決まっていますわ!お仕置きです!」

 

 

 ガチャン!

 

 

「……!?」

「え、えっ!?」

 

 

 俺は目の前で起こっていることに絶句。

 果南はダイヤから発せられた言葉に驚愕している間に、ダイヤによって両手を背中で拘束された。

 

 

「フッフッフ。これでもう逃げられませんわ」

「ダイヤ!?こ、これって!」

「手錠です。鞠莉さんから頂いたのですわ」

「ま、鞠莉から!?」

 

 

 使用した道具は手錠。これは俺も驚いた。

 まさか、お仕置きにそんなものを使うなんて思いもしなかったし、ていうか鞠莉から貰ったなんて今初めて聞いたことだし……。

 

 

「ていうかこれ、ダイヤ外してよ!」

「こら、暴れてはいけませんわ」

 

 

 俺が考えている間にも、ダイヤはそっちのけでお仕置きの準備が進められていた。果南が暴れるのを防ごうと彼女をベッドへ寝転がし、仰向けの体勢にダイヤはさせていた。

 でもそれでも尚、手錠を外そうともがく果南。

 

 

 ガチャン!ガチャン!

 

 

「外してダイヤ!私、お仕置きやだよっ!」

「そのお願いは拒否しますわ。なにせ、果南さんも受けて当然のことをしたのですから!」

「そ、そんなぁ……」

 

 

 あぁ……絶体絶命。

 そして何より、凄く“デジャヴ”を感じた。

 

 手錠で拘束しベッドに寝転がし、抵抗も出来ないあいつをひたすら愛撫していたことを思い出した。

 

 

『私ね、ずっと……ずっと遼くんのことが……!』

 

 

 そしてふと思い出す、あいつが言い放とうとしていた言葉。果南が事実を話してくれたあの時から、あいつが一体なにを言おうとしていたのか?それも何となく、ある程度予想もついた。

 こういうのもアレだけどさ、ここで果南を置いていき、今からあいつの家に行こうと思う。いい加減にこっちもそろそろ決着をつけたいとだから。

 

 果南のことはダイヤに任せておこう。

 なにより果南なら、この後で鞠莉の家に行って、ちゃんと謝ることは出来るだろうから。もうあいつは大丈夫だろう。

 

 そうして考えているうちにだが、ダイヤの果南に対するお仕置きが始まったのだった。

 それはまさに、『地獄』と呼ぶに相応しい。

 俺の背筋が、氷漬けされたように凍るくらいに。

 

 

「それでは、お仕置きのスタートですわ!」

「や、やだ!私、やだあぁぁぁああっ!」

 

 

 じゃあな果南。無事であることを祈るよ。

 そして、鞠莉とまた仲直りが出来ることもな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜※※※※〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空が青い。そして日差しが強い。

 今まで空は曇っていて、雨さえ降っていたのにも関わらずだ。今では太陽が顔を出して、沼津の街を燦々と照りつけていた。

 

 

「……………………」

 

 

 そんな中で、私こと渡辺曜は、家の近くの防波堤の上であぐらをかき、涼しい海風に当たっていた。

 

 

 クァッ!クァッ!

 

 

 鳴き声とともに私は頭上を見上げると、私の真上でカモメが2羽飛んでいた。

 じゃれあうように。追いかけっこするように。

 

 

「……………………」

 

 

 その2羽のカモメに、私は無意識に手を伸ばしていた。届かないことは分かっているのに、私はそれをあの2人として見た時、ふと悲しい思いになってしまった。

 

 

「……っ」

 

 

 川を跨ぐように飛んでいる2羽のカモメは、次第に海の方へと飛んでいってしまった。『遠く』へ、行ってしまったのだ……。

 

 

「……はぁ…………」

 

 

 2羽のカモメを見届けた後で、私は俯いて思わずため息をつく。

 あれから私は、彼とも全く話せていない。理由は凄く単純。彼と話をしようとすると、どうしても頭に“あの日”と“あの場面”を思い出してしまうから。

 頭から切り離すことが出来ないくらい、私はアレを衝撃的に感じてしまっていた。

 

 だから正直に言ってしまうと、ここでのんびりと海風に当たってるなんて全くの嘘。

 ただ単に私は、ここで黄昏ているのだ。

 

 ただよくこうして風に当たるようになったのは、多分“あの日”からだと思う。

 もしそうじゃなかったら、こんなにも“哀愁”という感情を私は感じることなんてない。こんなことは全部……

 

 ダメだダメだ。()()()()考えてちゃ……!

 

 頭の中で思い立ってはいけない『感情』を出してしまったことに、私は頭をブンブンと横に振る。

 ()()なのに、あの子に対してこんな感情を抱いていたら、彼女……いや、みんなに嫌われる。

 

 そんな風に私が頭を抱えていると、私は背後から声をかけられた。

 

 

「おい。そこで何やってんだ?」

「……っ!」

 

 

 私はその声に酷く驚いたけど、すぐに後ろを振り返ると、自転車を停めて、私へと視線を向けていた彼の姿があった。

 

 

「曜がそんなところで黄昏てるなんてな」

「遼……くん……」

「そんなに何かで悩んでるのか?」

「……っ」

 

 

 それで彼はそう言って、私の元へゆっくりと歩み寄ってくる。本当なら彼を見た瞬間、私はここから彼から逃げようと思った。

 

 

 何故なら、彼の隣は()じゃないから

 何故なら、彼の隣はもう既に満席だから

 

 

 だから逃げたかった……のに……

 

 

「…………わかっちゃう?」

「あぁ。振り返ったとき、悲しい顔してた……」

「……………………」

 

 

 『全て』を見透かしたような声で私に尋ねてくるから、私は彼から逃げられなかった。

 なんかもう……いろんな意味で辛いや……。

 

 優しく私を介抱してくれる彼に対して、逆に私は罪悪感がものすごい勢いで溢れていた。

 遼くんには梨子ちゃんがいるのに、どうして私をこんなにも優しくしてくれるのか分からなかった。

 

 すると彼は、私に向かって話す。

 

 

「別に、無理に話さなくて良い」

「えっ……?」

「ただ俺は、お前に……話が聞きたくてここに来たかっただけだからさ」

「はな、し……?」

 

 

 左手の人差し指で頬をかきながら、遼くんは私に向かってそう言ってくる。横顔だからか、はたまたは太陽のせいなのか?彼の顔が少し赤かった。

 

 というか彼の言う話って、一体なんだろう?

 

 

「なに?話って……?」

「まぁ、別に大したことじゃないよ。でもこの質問には、2つの選択肢で答えて欲しいんだ」

「どういうこと?」

「つまり『Yes』か『No』で答えてほしい」

「……っ!」

 

 

 その話の事を尋ねながら、私は遼くんの話を聞いていくと、どうやらとても大事な話のようだった。

 だから私は遼くんの話に耳を傾け、彼の問いかけに答えようと思った。

 

 

「分かった。その2つのどっちかで答えるよ」

「サンキュー。とても助かるよ」

 

 

 そしたら、私もすごく驚いちゃった。

 彼が発したその言葉それ以前に、話をする内容がそんな話だったとは思わなかった。

 

 度肝を抜かれるって、こんな感じなんだ。

 

 

 

 

 

「曜は、俺のことが『好き』か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えええぇぇぇえええええぇぇぇぇ!!!???」

 

 

 

 

 

 






まぁ、最後はそうなるよねw
終わりが見えなくて、全く区切りが付かなかった
ので、今回はここで終わらせてみました。

次回でこの恋愛編は本当に終わりにするので、
皆さん是非ともよろしくお願いします!!!

次回も是非楽しみにしていてください!
感想や評価等、お待ちしています!



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