どうも、キャプテンタディーです!
今回は、前回『前編』の続編となり、
久々に1万字を超えるお話となりました、が!
あらかじめ言っておきますね?
この話、実は『終わらない』のです(笑)
じゃあどうして『後編』なのか気になる方も多い
と思いますが、それは後書きにて説明したいと
思っていますので、まずはこの話を是非とも読んで
いってくだされば、とても嬉しく思います。
それでは、本編をどうぞ!
「いや〜!無事に助かって良かったよ!」
「ばかぁ〜!本当に心配したじゃない〜!」
正午の夏空
雲が一つもない空の下、大波に飲み込まれた私と遼は、無事に浜辺に戻ってくることが出来た。
ギャンギャンと私に抱きついて泣き喚く鞠莉。
仕方ないよね。最悪、目の前で2人の友人を失うことになってしまっていたのだから。
本当、無事に助かって良かった。鞠莉とダイヤのもとに、こうして生きて戻って来られたのだから。
神様と、彼に心から感謝しないと……。
「すぅ……すぅ……」
「全く。安心しきって寝るとは……」
「でも、いいんじゃないダイヤ。私も、遼と果南が戻ってきてくれて良かったもの」
「まぁそうですけど……」
私を大きな波から守ってくれた遼は、私を守って戻ってきたことに安心し、私たちで用意したレジャーシートに横たわって眠っていた。
私の意見を真っ向に受け入れ、そしてそれに何の恐怖を抱かずに私を守ってくれた彼は、ある意味で化け物みたいにしか思えなくなっちゃうのだけど、彼の暖かさに、私は救われた。
もうこれで、“2回目”だよ。
「じゃあとりあえず、私とダイヤはまだ海で遊んで来るから、果南はゆっくり休んでて。あとは、遼のこともよろしくね〜♪」
「なっ!?ちょ……鞠莉!」
そうやって鞠莉は私にそう指示する。遼の面倒を押し付け、ダイヤと2人でまた海へ遊びに向かって行ってしまった。
「……すぅ……すぅ……」
「もう。人の気も知らないで……」
でも、すぐにまた『遊びたい』と思っているわけじゃない。私だって少し休みたいよ。
ただ彼が私を差し置いて眠っているから、何だか少しムッって不満に思っちゃって。助けてくれた彼に、思わず愚痴をこぼしちゃった。
けれど遼は寝ているし、聞こえないだろうから、別に大丈夫……だよね?
「あはははっ♪ダイヤ〜!それ〜!」
「くっ!鞠莉さん、やりましたわね!?」
「ダイヤがやられるのが悪いんだよ?」
「こうなれば仕返しですわ!鞠莉さん、お覚悟!」
そんな中、海では楽しそうに遊んでいるダイヤと鞠莉の姿が見える。
笑顔は絶えず、2人ではしゃぎながら海水をお互いに掛け合う姿に、その様子を見て羨ましかった。
「……………………」
本当なら、私もあそこに混ざりたい。
なのに私は、彼から
別に鞠莉の言いつけを守ってまで、こうして今眠っている遼の面倒を見なきゃいけないなんて思っているわけじゃない。離れようと思えば、いつだって離れることは出来た……はずなのに……。
私の中で、目まぐるしくある『感情』が渦巻いていて、彼に凄く申し訳ないとさえ感じていた。
「………………はぁ」
おもむろに、目を瞑って深いため息をつく。私の身体に重い罪悪感がのしかかり、今にも自分の身体が粉々に壊れてしまいそうなくらいに感じた。
そんな、ある時だった。
「ため息なんかついて、どうしたんだよ?」
「…………えっ?うわぁっ!?」
私の左耳から唐突に聞こえたその声は、私を大波から守ってくれた遼の声だ。私は彼が起きたことを驚いて慌てふためき、思わず遼を正面にして尻餅をついてしまう。
遼に対して凄く恥ずかしい格好になってしまったけれど、遼がいつ起きたのかを、私は尋ねられずにはいられなかった。
「い、いつ起きてたの!?」
「今さっきさ。目を覚ましたら果南が溜息をついていたから、どうしたんだろうって思ってさ」
「……そ、そう」
今さっき。私が抱くある『感情』に促され、深いため息をついた頃から彼はすでに起きていたということになる。
私は彼から海へ目を背け、一瞬だけこの『感情』のことを遼に話すべきかを考えた。
頭をフル回転させて、どういう風に話を切り出したら、私も
結果、何も言わないのが得策だった。
多分話したら、曜には本当に申し訳なく感じて、きっと
「い、いきなりでびっくりしたよ……」
「そうか。悪かったな」
そう言って彼は、一度仰向けのまま伸びをする。
大きな欠伸も一つして、彼は自分の身体をゆっくり起こすと、鞠莉とダイヤが海で遊んでいる様子をしばしと眺め始めた。
眺めている彼のその目は、なんだか嬉しそう。
すると彼は突然、私に話を振ってきた。
「にしても、良かったな果南」
「えっ……?な、何が?」
それが一体どういう事なのか?最初は私にもよく分からなかった。
けど遼が次に発した言葉を耳にした時は、すぐにそれを理解することが出来た。
何となく、あぁ……そうだねって感じた。
「またあの時みたいに、こうして楽しい時間を4人で過ごすことが出来る。果南もそう思わないか?」
「……うん。私もそう思う」
前にも話を聞いたことがあったような気がするんだけど、こう思っているのって私だけかな?
べ……別にその話を聞いて嫌って思っているわけじゃないし、遼の言ってることには私も本当にそう思っている。
だって、鞠莉とまた、一緒にいられるんだもん。
や、やだっ!な、なんか恥ずかしいっ!
「んっ?なんで顔赤くしてんだ?」
「なっ!?ち、違う!何でもないから!」
そんな羞恥にまみれた私の表情は、いつの間にか彼にも分かるくらい外に露われてしまっていた。
恥ずかしくなって慌てて顔を両手で伏せるけど、もう手遅れに近いくらいに顔は朱色のように真っ赤に染まっていて、彼は私の顔色に興味津々だった。
「そういう慌てぶりはあるんだろう?」
「な、何でもな……わっ!?」
「あっ!果南っ!」
そんな彼に迫られ、私は彼から離れようとした。
そしたら私とあろうかとか、視界を両手で遮っていたせいで砂浜に足を取られ、私は背中から地面へ体勢を崩してしまった。
ギュッ!
「……っ!」
そんな倒れそうになった私を見た彼は、今一番に早く反応して私の右手を掴んでくれた。その瞬間に一瞬だけドキッとしちゃったんだけど、私が体勢を崩したことの反応に遅れたおかげで、遼も私に巻き込まれるように一緒に砂浜に倒れてしまう。
「ダメ!起き上がれな……!」
「うわぁ!?」
結果、とんでもない状況を招いてしまった。
「………」
「わ、悪い果南……」
「………………」
やばっ。心臓がドキドキしてる。
私は今仰向けに倒れ、彼は四つん這いで私に覆い被さるように倒れ、私と彼の顔は、わずか数センチの距離しかなかった。
次第に遼の顔を見るのが恥ずかしくなって、だんだん私の顔は、私自身でも分かるくらいに真っ赤に染まっていた。
「果南、顔、真っ赤だけど……」
「だ、大丈夫……だから、平気……」
私は恥ずかしさのあまりに、彼から目を逸らす。
でも彼は私を一点に見つめてきて、また私が彼にもう一度目を合わせたら、私の気がどうにかなってしまいそうになる。
そんな彼は、私に事を切り出してきた。
「果南、目、瞑っててくれ……」
「えっ……?」
「頼む。少しだけだから……」
どことなく、彼の顔もほんのり赤い。
直射日光が当たる私から見て、逆光で彼の表情が見えにくいのだけど、だからといって顔の色まで見分けられないわけじゃない。
それで分かってはいるのに、私は彼の言うことに従ってしまう。目をギュッと瞑って、迫りくる彼にドキドキ耐えながら、私は素直に従ってしまった。
「我慢……してくれよな?」
「……?」
けど、私は彼の行動が気になってしまう。
右目だけを恐る恐る開いていくと、私の目の前には彼の右手がすでにあって、それにゾッとした私はまた目を再びギュッと閉じる。
『何かをされる』
そう直感した私は我慢した。彼に何をされても、決して何も文句は言わないって……。
そう心に決めた途端、私の顔に何かが触れた。
サッ、サッ……。
「……?」
額。私の額に、何かが触れている感覚があった。
指で撫でられてるような感覚。仄かに優しくて、心が安心するくらいに暖かかった。
その上で私は、またゆっくりと瞼を開いた。
恐る恐るな感じにだけど、私が彼に何をされているのかがとても気になって仕方がなかった。
「……遼?一体何して……」
「………………」
トンッ
「……!?!!?!!??!?!!?」
そしたら彼は、私のおでこに自分のおでこを当てていたのだ。私が顔を真っ赤にしていたから、彼は私が熱を出していると思ったのかもしれない。
だから額に感じた感覚のアレは、多分私の前髪を掻き分けた彼の指だった。
「……あっ」
「……」
彼が目を開けていることに気づいたのは、私が目を開けて10秒もあと。彼は、私に今の状況を説明することはしなかった。その後の10秒間、おでこ同士を当てあって、その後でおでこを離した。
そして彼は私を真っ直ぐに見つめて、少し苦笑いをし、申し訳なさそうに話した。
「……熱があると思ったんだ。悪い」
『あはは…』と彼は頬を掻く。私に対してやってしまったという思いが、彼の表情から見て取れる。
だから、怒るにも怒れなかった。
正直に言うと、私をこんなにもドキドキさせた分や、私のこの胸の
「……分かったよ。今回ばかりは、許す」
彼も悪気はなかったようだし、今回は許す。
でも次はない、って思ってほしいところ。
そんなことを考えている時だった。
「あ〜な〜た〜た〜ち〜!!!」
「「……っ!?」」
私の頭上から、ダイヤが私と遼の2人に向かって大声で声を荒げている。というか、怒っている。
怒りの目が、それを物語っているから。
「こんなところにまで来て、よくもまぁ破廉恥なことが出来ますね!2人にはお説教ですわ!」
「いやダイヤ。私たちは別に……」
「お黙りなさい果南さん!」
「あっ……ハイ……」
こうなってしまったダイヤは、もはや誰にも彼女の怒りを止められる術はない。ダイヤの後ろから顔を出している鞠莉は、右手を口に当てて『プフッ』と私と遼に対してからかうように笑っていた。
弁解する余地もない。彼もダイヤの表情を見てはきっぱり諦めているし。ていうか、元はといえば遼のせいでこうなったのだから、せめて怒られるのは遼だけにして欲しかった。
なんで、私まで……。
「さぁ、お説教の時間ですわ!」
それでダイヤの説教は、日が暮れるまで行われることになった。
私も遼も砂浜の上にて正座でダイヤの説教受けたから、足のあらゆる場所が悲鳴を上げていた。
「いっ、いたたたた……」
流石の私でも長時間ずっと正座をして、足が痺れないわけがない。説教が終わって正座を崩した途端から、ずっと足が麻痺している。
そんな私の隣で同じようにダイヤから説教を受けていた彼も、逆にどうして私に問いかけられるのか不思議でしかなかった。
「果南、大丈夫か?」
「う、うん。まぁ何とかね……」
遼の足も、長時間の正座で足が麻痺している。
ダイヤの説教がとことん長かったおかげで、日も沈みかけて空も朱色。東の空からは、少しずつ夜の空が顔を出していた。
「空、暗くなってきたわね……」
「そうですわね。そろそろ日も暮れそうですし、鞠莉さんの別荘はここから近いのですか?」
「えぇ!ここから徒歩10分からかしら?」
「そうですか。それなら、そろそろここからが退散した方がいいかもしれませんね!」
そんなこんなで、私たち2人を十分にお説教したダイヤは、とても清々しい表情をしている。そしてダイヤの発した言葉で、私たちはこの砂浜をあとにすることになった。
それを聞いた遼は、念のためにと尋ねる。
「じゃあ、もう別荘に移動する感じ?」
「はいっ!海で遊び疲れたこの身体を、鞠莉さんが用意してくれた別荘で存分に癒しましょう!」
「……そ、そうだね」
私は遼の質問の答えを聞いてホッとした。
だって、足が痺れて身体もすごく疲れているし、正直もうこれ以上は動きたくなかった。
だから良かった。これで少し楽になれる。
すると痺れが収まったのか、私より先にゆっくりと立ち上がる遼。そしたら彼は、真っ先にまだ立ち上がれない私に歩み寄ってくれた。
「立てるか?」
「あっ。う、うん……」
私の目の前に差し伸べるその大きな彼の手を、私は躊躇わず手に取る。それからゆっくりと私を優しく立たせてくれて、私の身体も支えてくれた。
そしてあの時のことを思ってなのか、彼は優しく笑って謝ってきた。
「あの時は悪かったよ」
「……うんっ」
このときの私は、遼に何かしら許すような言葉を投げかければ良かったのかもしれない。
でも私は、彼の優しさで言葉が出てこなかった。理由のそれさえ、思い浮かばなかったほどに……。
どきっ……どきっ……
「……っ!?な、なにこれ?」
「んっ?どうした?」
「や、な、なんでもない……!」
「……?」
やばい!なに、これ!?
心臓の鼓動が、全然収まらないっ!
なんで!?なんでなんで!?
また、私の胸が高鳴り始める。
心臓に手を当てると、今度は前より大きく鼓動も早かった。それに気づいて驚いた私は、つい口から声を出してしまい、危うく彼にばれてしまいそうになってしまった。
「……………………」
今日の私、なにか変だ……。
遼に対して、こんなにドキドキするなんて。
〜〜〜〜〜〜※※※※〜〜〜〜〜〜
「んん〜!Delicious♪」
「おい鞠莉、英語になってるぞ」
「だって遼が作ってくれたカレーライスが美味しくて美味しくて仕方ないんだも〜ん♪」
「まぁ……それは嬉しい気持ちではある」
鞠莉の別荘での晩御飯。
特別に鞠莉から許可を得て、別荘のキッチンで俺は彼女たちのためにカレーライスを作った。食材は買い出しに行く必要もなく、隣接した食品庫に食材全てが揃っていた。
驚いたのが、カレーのルーも普通にあったこと。
「聞きたいのですが、遼さんはいつから料理をするようになったのですか?」
「そうだな。俺もいつからだったか詳しくは覚えてないんだけど、母さんの料理を手伝うようになってから……かな?」
今に思えば、俺が料理を始めたきっかけは小さい頃から母さんの料理を手伝ってたことがきっかけなのかもしれない。
俺でさえはっきりとは覚えていない。でも、思い当たる節はそれしか思い浮かばないんだ。
「はっきりとは覚えていないんだが……」
「いいですわ。こんなに美味しいお料理を作ってくれた遼さんですから、何か料理が上手に出来る方法を知ってるのかと思いまして……」
ダイヤってば、料理をする事に少し興味を持っているような口調ぶりだな。
何気に俺を見て、料理が出来ることを羨んでいる表情が見てとれる。ダイヤ、そんなに料理が出来るようになりたいのかな?
「ダイヤは、料理出来るようになりたい?」
「…………まぁ、少しは……」
あぁ、どうやら上手になりたいらしい。
俺から視線をそらして、にわかに顔色が少し赤くなっている。なんとなく察したわ。
「じゃあ気が向いたら、俺がダイヤに料理のコツを教えてやる。それで良いか?」
「……いいんですか?」
「俺が教えてやるってんだ。良いんだよ」
「……………………」
その瞬間、彼女の表情は緩んだ。
なんだっ?ダイヤはそんなに料理が出来るようになりたいのか?ってツッコミたいくらい、彼女には何ともいえない表情だった。
なんつうか……ウキウキしてる。
「あらら〜?ダイヤったら、お料理を教えてもらうだけなのにどうしてそんなにウキウキしちゃってるのかしら〜?」
「……っ!べ、別に私は……!」
「もう照れちゃって〜!」
「ま〜り〜さ〜ん!」
しかしそれを鞠莉に見られ、ダイヤは弄られる。清楚で品のある彼女のわりには、とてもそういう風には見えないときがたまにある。まぁそれも彼女の一面といえば、ある意味納得はできるだろう。
そんでもってダイヤは、自分を言葉で弄ってくる鞠莉に対してガミガミと説教をする。
ガタッ!
「「……っ!?」」
その合間、唐突に果南は立ち上がった。
「……ごちそうさま」
「あら果南?もう食べたの?」
「うん。お風呂入ってくる……」
すでに果南が平らげた食器には、わずかなカレールーの残り。そして果南が食べる際に口をつけたであろうスプーンがあった。
果南はそれをキッチンの流し台に置いたあとで、足早にリビングをあとにする。そのとき一瞬だったが、果南は俺に目を配ったような気がした。
「「「……………」」」
一連の果南の動きに俺たちは目を向けてたおかげで、さっきまでの鞠莉とダイヤの会話も一瞬のうちになくなってしまっていた。
というよりか、今日の果南の様子を見ていて、変だと思わない彼女たちではない。鞠莉もダイヤも、今日の果南の行動を不思議に捉えていた。
「ねぇ。今日の果南ってば変じゃない?」
「えぇ……変でしたわ」
「……あぁ。それは俺も思った」
満場一致。
ただ、今日の果南の言動に違和感を覚えていた俺たちは中で、一番そう感じることが特に出来たのは俺自身だと自負できる。
何故ならば、今日の朝からずっと、果南の隣には必ず俺がいたからだ。
ビーチボールで遊んでいた時も
大波に飲み込まれた時も
俺がレジャーシートで寝ていた時も
ダイヤに説教されていた時は、それも含むべきかどうかは判断し難いが、果南の隣には、ずっと俺がそこにいた。
あらかじめ言っておくが、自慢ではない。
「もしかして果南さんは、私たちには絶対話せない何かを隠しているのでは……?」
「What!?また果南は、私たちに黙って隠しごとをするつもり!?しかも、今度は自分1人で!?」
それでダイヤがジト目でそう呟くと、それを聞いた鞠莉はテーブルを叩いて文句を垂らす。
確かに果南ならば、そうやって自分1人で何かを抱え込むことはよくやる。もうすでに1度しているがな。だから鞠莉はこうして怒っているのだ。
けれども、ここで今、怒ることじゃない。
そうして俺は、鞠莉の怒りを鎮めた。
「落ち着け鞠莉。もしそうだとしても、またあの時みたいに強引に聞き出すのは元も子もないぞ?」
「うっ……。それは、分かってるけど……」
そうだよなぁ。やっと自分の本心を語ってくれたというのに、またこんな状況になるなんて思ってもみなかったからな。普通に、俺もそうだ。
鞠莉の気持ちは、分からなくもない。
そういや果南は、今お風呂だったよな?
よしっ。こうなったらヤケクソだ。
「だから、果南は俺に任せてほしい」
「えっ……?」
「これでも果南と鞠莉の仲直りのきっかけを作ったのは俺だ。な〜に!心配すんな。あいつが抱えていること、俺が全部暴いてやる」
2人の前でそう言った俺は、キョトンと俺を見つめてくる鞠莉とダイヤを尻目に食器を片付け、洗面脱衣所へ足を運んでいく。
だが俺が向かおうとしている場所を俺の行動で知った鞠莉は、俺を制止させてきた。
きっと鞠莉は、俺を『デリカシーがない』とか言ってくるんだろうな。
「ちょっと待って遼!どこに行くの?」
「どこって……風呂だよ」
「なっ!?今お風呂には果南さ……っ!?」
「おいダイヤ。なに顔赤くしてんだよ?」
「は、ははは破廉恥ですわ!」
と思ったら、変な妄想をしたダイヤがめっちゃ顔を赤くしていた。男女で一緒にお風呂だ。ダイヤにとって破廉恥なことを考えてしまったんだろう。
そして若干、鞠莉も顔が赤い。
「今しかないと思ってるんだ。頼む」
「……………………」
ダイヤは顔を抑えて、彼女から許可を貰うどころではないから、きっと鞠莉が許可してくれるだろうと思っていた。
けど彼女の口からは、許してくれなかった。
「…………ダメよ」
「……そうか」
シーンと静まりかえる広いリビング。
まぁ俺がいきなり果南がいる風呂に押しかけるのはダイヤの言う通り破廉恥なことではある。鞠莉の言葉に俺は仕方なくやめる決意を心の中でした。
が、すぐに鞠莉は言う。
「だから、代わりに私が行くわ!」
「……え"っ!?」
「ま、鞠莉さん!?」
とんでもない発言だったよ。
ただ鞠莉の目は赤く燃え、いかにもやってやろうという意気込みが感じられた。多分あれから、鞠莉は果南とはちゃんと本音で語り合いたい。そう思うようになったんだろう。
「必ず私が暴いてみせる!」
「出来るか?鞠莉……?」
「ふふっ!任せて!」
やる気満々でウインクをしてみせる鞠莉。
鞠莉のやつ、成長したな。
「じゃあ果南に突撃してくるわね!」
「あぁ。俺とダイヤは外から聞いてるよ」
「オーケー!」
そして鞠莉は、鼻歌交じりに果南のいる風呂へと向かっていった。果南にいきなり鞠莉が押しかけたとして、果南がどんな反応を見せるか楽しみだ。
あわよくば、あっちの展開に行ってほしい。
『んっ。鞠莉、やめ……んっ』
『ふふっ。果南ってば気持ち良さそうな声が出てるわよ?もしかして……興奮してる?』
『興奮なんか、して……あんっ』
おっと、つい変な事を考えてしまった。
ダイヤの冷徹な目が痛い。
「遼さん?」
「なんだ?」
「今、いかがわしいこと……」
「お前みたいに破廉恥なことは考えてねぇよ。俺はただ、果南の真意を聞きたいだけだ」
嘘は吐く。でも聞きたいことは本当のこと。
果南の物事の隠し事は下手くそだから、どうしてもそれが目について気になっちまう。
今回は鞠莉のやる気ある姿勢を見込み、裸の付き合いで託すことになったけど、今の鞠莉なら何とかしてくれると思う。
やり過ぎはとても禁物だが、あれから本音で語り合おうとする姿勢は、見るべきものがある。果南も鞠莉と同じように素直に言いたいことを言えるようになればいいのになぁ……。
バァン!
「ハァイ果南!一緒にお風呂入ろ〜!」
「ま、鞠莉!?なんで!?」
「なんでって、私は果南と一緒にお風呂に入りたいからよ〜!」
気がつけば、意気揚々と鞠莉は果南がいるお風呂に姿を現しているようだった。
俺の想像が正しければこのあと……
「それっ!」
「ひゃん!鞠莉、どこ触って……!」
「んんっ?果南またBIGになった?」
「なってないよ!訴えるよ!?」
やっぱり予想通りだった。
鞠莉は入って早々に果南の胸を触ってる。すぐに触れたってことは、果南はまだ頭か、身体を洗っていたに違いない。果南の声も直後に聞こえたから、隣のダイヤは顔を真っ赤にしていた。
ていうか、俺よりは余程ダイヤの方が破廉恥だと思うがな。また彼女は変な妄想をしていやがる。
「は、はは破廉恥ですわ……」
「ダイヤ顔真っ赤だぞ?大丈夫か?」
「えぇ、問題ありませんわ」
俺、そう言ってくるダイヤが逆に心配だ。
何気に果南と鞠莉、2人のやり取りに耳を傾けているし、ダイヤも何かと気になってるようだった。
「まぁそれは置いといて、っと!」
「……?今度はなに?」
「まぁ、ちょっとしたことよ」
すると、鞠莉は本題に話を切り出した。
雰囲気も、その瞬間から一変した。
「果南、今日は少しどことなく変だったわね」
「なに突然?藪から棒になにさ?」
「まぁまぁ、話はしっかり聞きなさいよ」
チャプン……チャプン……♪
水の音……いや、お湯の音かな?
波立つ音が2回鳴ったから、きっと鞠莉がお風呂に浸かったのだろう。床に打ちつくシャワーの音が続くから、まだ果南が身体のどこかを洗っているに違いない。
女の子は、美容に敏感だからな。
あっ、波立つ音2回っていうのは、片足ずつ足を湯船に入れた時に鳴った音だ。一気に両足でお風呂に入ってみろ。最悪転んで『The End』だ。
「私ね、今日の果南を見ててずっと思ってた」
「私を見て?どういうこと?」
そんなとき、鞠莉は思い思いに話し出す。
鞠莉も今日の果南の言動を不審に思ってた場面があった。だから、彼女自身も早く果南の真意が聞きたいんだろう。
そんでもって俺もダイヤも風呂で繰り広げられる話に耳を傾ける。さっきも言ったけど、俺もダイヤも果南の本心を知りたいわけだから、これは本当に仕方のないことなのだ。
そしたら鞠莉は開口一番、果南に対してーー
「果南
「えぇ!?わ、私が……恋してる!?」
「「……っ!?」」
俺らも信じられない言葉を言い放った。
いや、うん。本当にまさか鞠莉からそんな言葉が出てくるとは思わなかったから正直驚いてる。
……『恋』ねぇ。
「ほら、顔が赤くなった♪その果南の表情が何よりも証拠だから、確実に間違いないわ」
「な、なな、ななな何で私が恋なんか……!」
「果南が恋してるなんて、マリーは顔を見ただけではっきり分かったわよ?このマリーは、果南が考えてること全てがお見通しなんだから♪」
今、鞠莉がドヤ顔してるのが安易に思い浮かぶ。そして鞠莉に指摘され、顔を真っ赤にしている果南さえも容易に想像が出来る。果南も年頃の女性だ。やはりあいつも恋はするんだなって思った。
そういや、鞠莉は果南に対して『果南“も”』って言っていた気がする。もしや、果南以外のAqoursメンバーの中で誰か恋をしてて、それを鞠莉はすでに知っているということか?
……もう少し、話を聞いてみよう。
「それで?果南は告白はするの?」
「うっ、私は……無理だよ……」
「どうして?自分の想いをその人にそのまま伝えるだけなのよ?」
「それが出来ないから私は無理だって言ってるの。それに、
「……………………」
な、何なんだこれは?
やや話が拗れてきているような気がする。
な、なんか鞠莉までも実は恋をしてました発言を繰り出す果南。鞠莉も恋してたんだって内心すごく驚きながらも、ただいつそんな事をしていたのも少し気になった俺である。
隣で話を聞いていたダイヤでさえも驚き、また俺とダイヤは2人の話に耳を傾けた。
したら次の瞬間、果南は衝撃の発言をした。
「遼のこと、“好きだった”くせに……」
「………………えっ?」
「………………はっ?」
鞠莉が……俺のことが好きだった?
その時俺にとって、果南の口から発せられた思いもよらない言葉に驚きを隠せなかった。そして同時に、俺に色んな感情が押し寄せてきて、鞠莉が俺に好意を抱いていたことを、どんな風に捉えればいいのか全く分からなかった。
驚けばいい?それとも嬉しく思えばいい?
一つ年上の女友達から好意を抱かれるなんて事、俺には唐突過ぎて考えられなかった。
すると鞠莉は口を開く。
「果南。もう私は彼に好意は
「……………………」
「胸に手を当てて、しっかり考えてみなさい」
「……………………」
鞠莉が言うにはだけど、今はもう俺に対しては好意を抱いてはいないらしい。
どうしてそうなったのか?不思議なところはあるけれど、必ず理由は何かしらあるはずなんだ。ただこれは多分、今は聞けないかもしれない。
てか、『彼女』って誰だ?
俺の知ってる人物か?それとも鞠莉だけが知っていて、俺には全く面識のない人物か?鞠莉が言っている言葉が気になったが、よく分からなかった。
「でも、私は告白なんかできない。私を後押ししてくれる鞠莉には悪いけれど、もう私は告白する権利なんてない」
「なんでよ果南。どうしてそんなこと……」
「私は、やっちゃいけないことをしちゃったんだ」
「……?」
自分は告白する権限はないと、果南はきっぱりとそう言い切る。それなりに、彼女はそう心に決めた理由はあると思うんだけど、気になる。
隣で必死になって聞いてるダイヤでさえ、小学生からの友達が恋愛話でいざこざを起こしていることに驚いているし、この話には言うまでもなく、彼女も気になっていた。
チャプン……チャプン……♪
また、湯船が波立つ音。
今に思えばシャワーの音がなくなっていたから、果南は身体を洗い終えたんだろう。
すると果南は風呂に入った後、きっと正面を向き合っているであろう鞠莉に向かって話を切り出す。
「鞠莉、聞いて……」
「……なに?」
この時は俺でも口調で分かった。
こういう真っ直ぐで、キレのある口調を言う時の果南の表情は、真剣で、眼差しも鋭い。
そして果南は言い放った。
俺もダイヤも、夏なのに背筋が震え上がったよ。
きっと鞠莉は絶望し、怒るだろう……
パシンッ!
バシンッ!!
バシンッ!!!
言うまでもなかったかもしれないね?
前書きの記載で、少し理解に苦しむ人も
多かったと思いますので、ここで追記をして
申し上げさせていただきますと、
・この話は『後編』として
・この話は『3年生回』として
これで終わりになるということです。
ご理解していただけたでしょうか?
そしてこの次のお話ですが、そもそもここで
次から第10話に入ろうと計画していたことが
もう総崩れになって『ピギィ!』になってます。
ただ言えることは、次は『果南』が絡むお話に
なるのはまず間違いないので、首を長くして
待っていてくれれば、とても嬉しく思います。
次回も是非楽しみにしててください!
感想や評価、誤字・脱字等お待ちしています!