少年と少女達の輝き目指す物語   作:キャプテンタディー

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どうも、キャプテンタディーです。

第9話も無事に終わり、ここからはアニメでは
語られなかった夏祭りのお話を書いてみました。
そしてとある彼女も、自分の気持ちや想いに
とうとう気づいたようで……?

是非最後まで見ていってください!
それでは、本編をどうぞ!!!





#52 夏祭りと自覚

 

 

 

 

 

 あれからしばらくの月日が流れた。

 果南と鞠莉姉が無事に仲直りをして、その後千歌たちは、次の日から夏祭りのライブに向けては日々練習に取り組んでいった。

 

 毎日の毎朝、そして放課後。俺は部活があって、あまりみんなに顔を出すことは出来なかったけど、練習の合間には必ず連絡を入れ、彼女たちのことをずっと気にかけていた。

 厳しい指導をするダイヤと果南だからさ、色々とみんなが弱音を吐くんじゃないかって思っていたんだが、思いのほか、全くそうじゃなかった。

 もちろん、良い意味で……。

 

 その話を聞いていた俺は、みんなが無駄な時間を過ごしてないことに安堵し、充実な練習をしているならライブは何の問題もないだろうとすぐに感じることが出来た。

 

 

 でもなんか、あっという間だったよ。

 

 

「遼くん!早く早く〜!」

「はいはい。分かってるよ」

 

 

 なぜなら、今日が沼津夏祭りの当日であり、9人になって初めてのライブの当日だからだ。

 あれから本当に時間が過ぎるのが早すぎて、本当にあっという間だったよ。俺も正直驚いている。

 

 それで朝っぱらからいつもの元気さを見せている曜は、今日は夏祭り使用で浴衣を身に纏っている。全身が水色に彩られ、ところどころにピンクと白の花柄が施されていた。

 ライブにおいても浴衣をモチーフにした衣装を曜は作ったらしいけれど、どんな感じの衣装なのかは俺も未だに分かっていないから楽しみでもある。

 

 そんでもって、曜が俺に言ってきた。

 

 

「今日はライブの時間までみんなとたくさん遊ぶんだから、はぐれちゃダメなんだからね!?」

「へいへい。言われなくてもそうするよ」

 

 

 爽やかな印象を持たせる浴衣をふわりと揺らし、曜は俺に対してガミガミと説教じみたことを言ってくる。ただその言葉の裏には、今日をすごく楽しみにしていたことが俺には丸わかり。

 呆れているわけでもないけど、他のみんなも同じことを思っているはずだ。

 

 なにせ、『夏祭り』なのだから。

 

 

 ドテッ!

 

 

「うわぁ!?」

「あぁっ!なに転んでんだよ!?」

「ごめんごめん。久しぶりに浴衣着たから、嬉しさで思わずはしゃいじゃって……」

「……ったく、気をつけろよ」

 

 

 曜は久しぶりに浴衣を着て、それに嬉しさを覚えはしゃぐのは別に構わない。しかし怪我でもしたらライブが中止になり、みんなに迷惑をかけてしまうのは全くもってごめんだ。

 何より、今までの時間とみんなの努力が水の泡になってしまうことがね。

 

 本当に気をつけて欲しいもんだよ。

 

 

「ほれ。手を貸せ」

「う、うん。ありがと……」

 

 

 俺は曜に手を出し、彼女をゆっくりと立たせる。

 浴衣で足の動きが制限されるから、あまり素早く立たせようとすると浴衣が破けるケースがある。

 

 

「ありがと、遼くん」

「別にいいよ。ほら行くぞ」

 

 

 だから慎重に、丁寧に曜を立たせたそのあとで、俺は曜を連れて夏祭りの会場へ歩き始めたが、曜はなぜが俺を呼び止める。

 

 

「ま、待って遼くん!」

「何だよ今度は?」

「あっ、えっと……その……」

 

 

 俺に対して、何かを話そうとしているのは彼女の様子を見てすぐに分かった。だが曜は口を噤んで、何を言おうとしているのか分からなかった。

 するとすぐに彼女は、俺に対して言った。

 

 

「……ううん、何でもない!」

「……………………」

 

 

 それは裏に何かがありそうな発言で、そんな風な言い方に作り笑う彼女は、俺を追い越し、先を急ぐように会場へと足を運んで行ってしまった。

 

 

「何なんだ?今日のあいつは……?」

 

 

 今日が夏祭りのせいなのだろうか?

 いや、それは違うな。曜の後ろ姿を見て、率直に思った事をそのまま口に出した俺は、その場で立ち尽くし、徒歩からスキップに足取りを変えていく曜の姿を見つめていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜※※※※〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うわああぁぁああん!!!

 

 

「はぁ…はぁ、はぁ…はぁ……」

 

 

 無理ぃ!無理無理無理ぃ!

 せっかくデートの誘い方を鞠莉ちゃんから手取り足取り教えてもらったのに、私は恥ずかしくなって逃げ出してしまった。こんなのどうやって遼くんを誘ったらいいの?

 今日は年に一度の夏祭りで、今の場面は遼くんを誘える絶好の機会だったはずなのに……。

 

 

「はぁ……ごめん。鞠莉ちゃん……」

 

 

 色々と教えてくれた鞠莉ちゃんに私は謝る。私がどうして鞠莉ちゃんに謝っているのかというと、色々とカクカクシカジカなんだけれども、ちゃんとした理由があるんだ。

 ちょうど夏祭りの1週間前のことなんだけど、私が鞠莉ちゃんと部室で2人っきりの時、鞠莉ちゃんに度肝を抜かれる言葉を言われたんだ。

 

 

「曜、あなた“恋”してるでしょ?」

「えぇ!?こ、恋!?」

「そうよっ!」

「えぇ〜!?」

 

 

 その言葉には私も衝撃的だった。けれども、その言葉に思い当たる節とかや場面とかは、私の中にはたくさん思い浮かんでいた。

 でもそれを『恋』だなんて私は思いもしなくて、すごく戸惑っている自分がいた。

 

 すると鞠莉ちゃんは私に対しニヤリと悪戯っぽく笑うと、私をからかうように話をしてくる。

 

 

「な〜に?もしかして自覚してなかった?」

「自覚も何も、私がこ、恋してるなんて……」

「あらあら♪そうは言っているけれど、もしかして曜は、無意識に“彼”を見ているのかしら?」

「えっ?彼……?」

 

 

 鞠莉の言う“彼”という言葉に、私はその人物が誰なのか予想すら出来なかった。

 ただし鞠莉ちゃんはというと、私が誰に恋をしているのかを既に知っているような口調ぶりで、自分のスマホで“彼”の画像を私に見せてきたのだ。

 

 

「曜ってば、彼と幼馴染みの関係なんでしょ?」

「えっ、えぇっ!?」

「うふふっ♡反応がすごく可愛いわよ、曜♡」

「か、からかわないでっ!」

 

 

 鞠莉ちゃんが私に見せてきたのは、部活で練習に取り組んでいる遼くんの姿の画像だった。

 いつ、どこで彼の写真を撮ったのかの話は別としてね、私は彼に対して恋を抱いていることの認識は全くしていなくて、私は鞠莉ちゃんに弄られ、軽くからかわれた。

 

 それで私は、鞠莉ちゃんに尋ねる。

 私が、恋をしている理由。

 

 

「でも、どうして私が遼くんに恋を?」

「そんなの決まってるじゃない!曜は、遼のことを『LOVE』の意味で好きなのよ!」

「えぇ!?私が、遼くんのことを……好き!?」

「イェース!もう鞠莉も胸キュンよ〜!」

 

 

 私は、いわゆる『愛してる』という『LOVE』の意味で、遼くんのことが好きなんだって鞠莉ちゃんにそう言われる。

 だから私は思い返した。私が遼くんのことを好きである、確固たる証拠になる行動。

 

 するとそうしたら、“とても”と言えるくらいに、たくさんの行動があった。

 全部が全部、恥ずかしいと思うくらいに……。

 そうして私は顔を真っ赤に染め上げた。

 

 

「〜〜〜〜〜っ!」

「うふふ♡やっと自覚できたみたいね♡」

「なんか、変な感じだよ……」

 

 

 本当に変な感じ。幼馴染みでお隣さん。ましてや学校でもモテモテの遼くんに、私は、『“L()O()V()E()”』で好意を持っているなんて……。

 

 まるで、自分が自分じゃないみたい……。

 

 

「それで〜?この後どうするの?」

「え……ど、どうするって?」

「も・ち・ろ・ん、するのよね?」

「す、するって何を!?」

「うふふっ♡分かってるくせに……♪」

 

 

 そうしているうちに鞠莉ちゃんからそう言われると、不覚にも私は、遼くんに告白をしている場面を妄想してしまった。

 

 

『遼くん!私、遼くんのことが好きっ!』

『好きで好きで堪らないの!』

『だから、遼くんの彼女にして♡』

『私を、遼くんのモノにして♡』

 

 

「〜〜〜〜〜〜っ!」

 

 

 おかげで私の顔は辱めを受けたかのように真っ赤になって、鞠莉ちゃんでさえも、今私がどう思っているのか分かってしまう。

 

 

「あらあら♪曜ってばもしかして、遼と何か如何わしいこと考えちゃってた?」

「うっ!もうグゥの音も出ません……」

 

 

 心に突き刺さる言葉を言い放たれ、何も反論することすら出来ない私。

 死んでしまいたいくらい恥ずかしくなって、部室には鞠莉ちゃんだけだったから良かったものの、他のみんなには見せられない顔をしていた。

 

 でもそんな時に、鞠莉ちゃんは私の肩に手を置き優しく声をかけてくれた。

 

 

「でも良いのよ曜。恋をする女の子は、みんな同じことを考えているんだから!」

「えっ?みんな……?」

「イェス!」

 

 

 恋をする少女はみんなそうと、鞠莉ちゃんは私の妄想を擁護してくれた。でも、恥ずかしいことには変わりはないんだけどね。

 でもそれでも尚、鞠莉ちゃんが自分の昔のことを話してくれた。鞠莉ちゃんが言うには、2年前に私と同じように恋をしていたみたい。

 

 

「私だって、2年前に曜と同じように恋をしていたわ!本当、あの時が懐かしく思う」

「鞠莉ちゃんも、恋をしていたの?」

「えぇ。()()()に対して心を奪われてね、私も凄く胸キュンだったの」

「へぇ〜!そうだったんだ!」

 

 

 鞠莉ちゃんが昔に恋していたのは、話を聞いてて素直に私は驚いた。確かに鞠莉ちゃんは綺麗だし、恋人がいても全くおかしくない。

 

 ただ私は“逆”だと思っていた。

 鞠莉ちゃんはとにかく、男の人から告白されてるものだと思っていた。

 けどただそれは私の思い違い。鞠莉ちゃんも恋をする女の子なんだって、私は改めてそう感じた。

 

 そして、私は鞠莉ちゃんに尋ねられる。

 

 

「だから私は、曜には失敗して欲しくないの」

「えっ?じゃあ……」

「曜は、遼のこと好き?」

「えっ?あっ、うぅっ……」

 

 

 一瞬、私は鞠莉ちゃんに聞かれる前の言葉に考えさせられた。だけど遼くんのことが『好き?』って尋ねられたら、その質問に対して答えないわけにはいかなくて、自分が遼くんに恋をしている事を自覚した上で、恥ずかしいけれど鞠莉ちゃんにちゃんと意思を伝えた。

 

 

「……うん。私は、遼くんのことが好き!」

「……ふふっ♪」

 

 

 私の意思、私の想いを聞いた鞠莉ちゃんは、何か少し嬉しそうに笑って、優しくはにかんだ。

 そうしたら鞠莉ちゃんは、私に対してある決心をしてみせる。それは私にとって、もの凄く得をするようなことだった。

 

 

「それじゃあ私は、曜の恋の成就を願って、恋愛におけるやり方を手取り足取り教えてあげるわ!」

「えっ!?本当!?」

「もちろん!可愛い後輩のためだもの!」

「えへへ♪ありがとう鞠莉ちゃん!」

 

 

 恋の成就なんて、聞いただけでも凄く恥ずかしいことだけど、ただ鞠莉ちゃんが応援してくれているから、なんとなく頑張れそうな気がした。

 

 それから1週間、私が遼くんに告白できるようにと、鞠莉ちゃんは自分が持っている恋愛の知識全てを徹底的に私に叩き込んでくれた。

 デートで男性が好む仕草とかも教えてくれたし、鞠莉ちゃんだけが知っている遼くんのことも話してくれた。

 

 

 『あとは自分の“勇気”次第!』

 

 

 そして恋愛の知識の全てを教わったあとで、鞠莉ちゃんに言われたその言葉は、今の私の心に、深く深く突き刺さっている状態だよ。

 

 

「曜?さっきから元気ないけど?」

「う、ううん!私は全然大丈夫だよ!」

「それならいいけど……」

 

 

 本当に“勇気”って大事なんだねって、鞠莉ちゃんが言ったその言葉と意味を、私は改めて感じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜※※※※〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日の(こいつ)は、どうも様子がおかしい。家で最初に会ってからずっとだ。

 俺に話すことがあるのかと思えば、曜は顔を赤くして何も言わないし、モジモジとその場で変な動きをしていて、行動も何かと変だ。

 

 ただそんな行動は俺だけに見せていて、みんなと沼津駅において集合した時には、今のところはその行動を誰にも何一つ見せていない。

 

 こいつは一体、何がしたいんだ?

 

 

「遼くん!遼くんってば!」

「おわっ!?な、何だよ千歌」

「“何だよ”じゃないよっ!さっきから遼くんの名前呼んでるのに、ずっと無視してくるんだから!」

「あっ、あぁ。悪い悪い」

 

 

 曜に関して思い悩んでいたら、何度も俺の名前を呼んでいた千歌に怒鳴られてしまった。

 年に一度の夏祭りだから、千歌も千歌で夏祭りを楽しみたい気持ちが強いのだろう。だから俺は千歌の機嫌を損ねないようにしっかりと謝った。

 

 沼津駅で定刻通りにみんなと合流し、何気に9人全員が浴衣姿なのには正直驚いている。いや、女子全員が浴衣を着るのは必然的なのかもしれないが、目のやりどころに少し迷う。

 でも、浴衣を着ているみんなの姿はとても可愛く見える。それに合わせて変えている、みんなの髪型も含めてね。

 

 

「それにしても、みんなの浴衣姿には髪型も含めて凄く似合ってる。なんつうか、みんな綺麗だよ」

「「「「「「「「えぇ!?」」」」」」」」

「もう遼ったら、私たちの浴衣姿を見てメロメロになっちゃってるの?遼はとんだ変態さんね♪」

「うるせ〜()()!俺は変態じゃねぇ〜!」

 

 

 本当、“鞠莉”には世話が焼ける。こう言うのもなんだが、世話の焼け具合は千歌以上だ。ただ、千歌以上に頭がいいからまだマシか。

 

 というか、お分かりに頂けただろうか?

 俺は今、“鞠莉”と呼んでいる。さっきから鞠莉とそう呼んでいるのは、彼女からそう呼んで欲しいとお願いされたからだ。

 ○○姉と言われると、なんか年上扱いされている感じがして嫌だと彼女が駄々をこねるので、彼女を仕方なくそう呼ぶことに決めたのだ。

 

 

「もう〜!遼は素直じゃないんだから!」

「だからっ!俺はそうじゃないって!」

「ル、ルビィが……綺麗……?」

「ルビィちゃん!?し、しっかりするずら!」

「ルビィ〜!!!」

 

 

 そんでまぁ、俺が言い放った言葉のせいでルビィちゃんが顔を赤くして倒れ、花丸ちゃんとダイヤの2人が介抱をする。けれどもルビィちゃんは、何というかある意味嬉しそうな表情をしていた。

 満足気に、優しい笑顔を浮かべて……。

 

 

「えへへ……ルビィ、綺麗……」

「なんか、満更でもなさそうな顔ね」

「うん。そうずらね……」

「えへ、えへへ〜♪」

 

 

 とりあえず、俺はこれ以上みんなには言わないでおくことにした。ルビィちゃんのように、嬉しくて倒れる人を増やさないためにね。

 

 

「じゃあみんな!夜のライブの時間まで、みんなで夏祭りをたくさん楽しもう!」

「イェス!屋台の食べ物を食べまくるわよ〜!」

「こら鞠莉っ!食べるのはいいけど、食べ過ぎたら太っちゃうんだからね!」

「果南、それはちゃんと分かってる♪」

 

 

 こうして俺たちは、朝からもの凄い盛り上がりを見せている夏祭りのところへと足を運んでいった。

 屋台が立ち並んでいるところは、沼津駅から少しばかり離れた香陵広場。お祭りだけあって、屋台がずらりと立ち並んでいるところには多くの人だかりが出来ていて、特に大人気のたこ焼きや焼きそばの屋台には、多くの人が大行列を成していた。

 

 だが色々と食べる気満々の鞠莉と千歌は、大行列などお構いなしに列に並びやがる。炎天下の空の下で長時間待つことを、彼女たちは大変だとは思っていないのだ。

 

 なんてったって、“夏祭り”だからな。

 

 

「みんな、焼きそば食べる?」

「は〜い!ヨハネも焼きそば食べる!」

「マルも焼きそば食べるずら!」

「曜は食べる?」

「うん。私も焼きそば頂こうかな?」

「りょーかい!」

 

 

 千歌と鞠莉はみんなに焼きそばを食べるかどうかを尋ね、結果的に焼きそばを5つ買うことに。

 まだ朝の9時を過ぎたころなのだが、こいつらの食欲の欲求は意外にも高い。俺はもちろん朝の食事は取ったのたが、こいつらが美味そうに食べているのを見ていると食べたくなる衝動に駆られる。

 

 だがまぁ、我慢するんだけどね。

 

 

「んん〜!やっぱり焼きそば美味しいね!」

「焼きそばはいつ食べても絶品ずら〜!」

 

 

 頬っぺたを落とすくらいに、満足気に焼きそばを食べている千歌と花丸ちゃん。そしてその裏では、ダイヤが未だにニヤけているルビィちゃんをベンチに座って介抱していた。

 まだルビィちゃんの頭には、どうやら俺の言葉がグルグルと駆け回っているようだった。

 

 

「ルビィちゃん、まだ笑ってるね」

「そんな事を言っていられる場合ですか?遼さん、ルビィがこうなってしまったのは紛れもなくあなたのせいなんですから、少し反省してください!」

「……あぁ。悪かったよダイヤ」

 

 

 正直あのときに言った言葉は、別に何気ない言葉だったんだけどな。まさかルビィちゃんが倒れて、こんな状況になるとは思わなかった。次はこうならないよう少し控えなければならないな。

 

 ……ってか、俺が悪いのか?

 

 

「よしっ!次はたこ焼きを食べるよ!」

「はぁ!?お前まだ食うのかよ?」

「もっちろん!ライブの時間までに全部回るつもりなんだから!」

「おいおい、正気かよ……」

 

 

 そんで千歌は千歌で、またとんでもない事を言い出しやがる。この屋台と人の数だ。ライブの時間までに全部の屋台を回れるとは思えない。そう思えるのは絶対千歌だけだろう。

 

 

「よ〜しっ!次はたこ焼きだぁ〜!」

「たこ焼きずら〜!」

「はぁ……」

 

 

 そうやって意気揚々と次の屋台へと突き進む千歌の背中を見て、俺は深い溜息をつく。花丸ちゃんもなんかノリノリの様子であったが、花丸ちゃんならきっと大丈夫……なはず、だよな?

 

 

「まったく、相変わらずね……」

「そういえば、果南さんと曜さんは?」

「2人は別の屋台に行ったそうだ。だけど、どんな屋台に行ったのかは俺も知らない」

 

 

 曜と果南の2人はたった今別行動中で、俺たちとは別の屋台を回っている。

 どういうわけかも知らないけれど、どこの屋台に行くかも説明せずに姿を消してしまったのだ。連絡はすぐに取れなくはない。この人混みようで、2人を探すにはとても骨が折れるからな。

 

 

「でも2人なら大丈夫だろう」

「そうですね。千歌さんや鞠莉さんと違って、2人はしっかりとしていますから」

 

 

 少し千歌と鞠莉のことをdisるようにダイヤはそう話す。ダイヤの言うことは正論だから、あの2人は何も言えないだろう。ダイヤの前に限らずね。

 

 

「うゅ……んんっ……」

「……っ。ルビィ!」

 

 

 すると、さっきまでダイヤの膝の上で倒れていたルビィちゃんが、やっとの思いで目を覚ました。

 俺のあの言葉でずっと笑っていた彼女は、まるで眠っていたように重い瞼を擦り、ゆっくりとダイヤの膝の上から起き上がった。

 

 

「うゅ、あれ?お姉ちゃん?」

「やっと気が付いたのですね。良かった」

 

 

 ホッと胸を撫で下ろすダイヤ。

 

 俺もルビィちゃんの様子を覗き込むように伺う。俺やダイヤをじっと、ボーッと見つめてくるルビィちゃんだけれど、特に問題があるような様子は何も見受けられなかった。だから、俺もルビィちゃんの表情を見て少しホッと安心した。

 

 

「ルビィちゃん、大丈夫?」

「遼さん、ごめんなさい。ルビィ、遼さんに迷惑をかけちゃいましたよね?」

「ううん。迷惑なんて思ってないよ。むしろルビィちゃんが無事で元気になってくれて良かった」

「…………っ!」

 

 

 自分が倒れてしまったことで、俺に迷惑をかけてしまったんじゃないかと、ルビィちゃんは深々と頭を下げて謝る。

 ただそれは、俺がみんなに対して『可愛い!』と言ったことが原因なだけで、それでルビィちゃんが責任を感じることはない。俺はルビィちゃんを笑顔にするため、優しく笑いながら言葉を投げかける。

 

 だがそれが、またルビィちゃんが大変な事になる原因になってしまう。

 それを見た俺は、もの凄いデジャヴを感じた。

 ルビィちゃんは再び顔を真っ赤にすると、湯気を立ち上らせながら、またダイヤの膝の上へとバタンと倒れてしまったのだ。

 

 

「うゅ……」

「…………っ!?」

 

 

 目の前で妹がまた倒れる瞬間を目の当たりにしたダイヤは、突然の出来事に慌てふためく。

 俺は挙動不審になるダイヤを落ち着かせたかったけれど、彼女はこの状況をなんとかしようと躍起になり、興奮気味になっていた。

 

 

「ル、ルビィ!しっかりしなさい!ルビィ!」

「落ち着けダイヤ!」

「落ち着いてなんかいられませんわ!」

 

 

 多分ダイヤは、この夏によく起きる“熱中症”なんじゃないかと思っているんだろう。ただ今いる場所は運良く日陰のベンチだ。それでも、熱中症になる可能性は低いはずなんだ。

 

 そんでもって、ルビィちゃんが倒れた原因は少なからず俺にあると思うんだ。うん、確実に……。

 

 

「遼さん!」

「な、なんだ!?」

「早く!早く水を買ってきてください!」

「えっ!?水だって!?」

「ルビィの命が危ないのです!ですから、早くルビィのために水を買ってきてください!」

 

 

 あぁ。これはマジなやつだ。

 これは俺、今ダイヤに話したら殺されるかもしれないから今は言わないでそうしておくか。ダイヤにはもの凄く申し訳ないのだけど……。

 

 

「あ、あぁ!今すぐ買ってくる!」

「至急にお願いしますわよっ!」

 

 

 そうして俺は、近くにある自動販売機へと走っていき、ルビィちゃんのためにペットボトルのお水を2つほど買うことになったのだ。

 とりあえず後でだが、()()()からカミナリを落とされる覚悟で謝ることにしよう。

 

 

 

 ……どうしてダイヤだけに謝るんだと思う?

 

 

 

 慌てまくるダイヤ、倒れたルビィ、そしてたこ焼きを食べに行った千歌と花丸ちゃん以外で、同じ状況を見ていた人物がその場に3人いるからだ。

 

 

 梨子、善子、鞠莉

 

 

 この3人は、水を買いに行く時にダイヤの近くに行かなかったのだ。その何もしない行動が、さっきの状況を把握している何よりもの証拠だった。

 その3人には少し安心している。何せあの3人まで誤解されたら、合計4人から大きなカミナリを落とされることにからな。

 

 

「本当……運がいい……」

 

 

 自動販売機でペットボトルを買いながら、他愛もなく、変なことをボソッと呟いた俺だった。

 

 

 

 

 

 

 







バタバタする感じで終わってしまって
なんかすごく申し訳ないです。

次回にはこの夏祭り編の終わりに向けて
またひたむきにやっていきたいと思います。
次回も是非楽しみにしててください!
感想や評価、お待ちしております。



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