どうも、キャプテンタディーです。
お仕事って大変だね(白目)
ただ自分は楽しいからいいんだけど!
さて、長らくお待たせしました!
今回で第9話が終了いたします。
そのつもりで書いたら1万字超えちゃった()
1ヶ月ちょっとぶりの更新です!
最後まで見ていってくだされば幸いです。
それでは、本編をどうぞ!
午後4時、黒澤邸
「ちょっと!それは一体どういうこと!?」
「ダイヤさん、本当なんですか!?」
「えぇ。これは本当のことですわ」
夕方、私から発せられる事実を知るために私の家にやってきた千歌さんたちと鞠莉さん。
私はやって来た彼女たちを部屋に案内し、ほんの少しの間を開けてから本当のことを告げました。
「果南さんは
「だから!それは一体どういう……!」
「鞠莉さん!落ち着いてください!」
「……っ。はぁ、分かっているわよ」
告白した事実に鞠莉さんは興奮します。
ですが私は彼女に落ち着かせるためにそう促すと、鞠莉さんは1つ大きなため息をつき、縁側からガラス戸越しに外を眺め始めました。
外はまるで鞠莉さんの心情が具現化しているかのような曇り空であり、今にも雨が地面に打ち付けてきそうなくらいの天気模様でした。
その鞠莉さんの背中を見つめていた私に対して、ただ唯一1人だけ立って話を聞いていた梨子さんが口を開いて尋ねてきました。
「でも、どうしてですか?」
「……………………」
その質問は簡潔で、答えるのも簡単でした。
ですがこの時の私は、梨子さんの質問にすぐにとは答えられませんでした。
「まさか、闇の魔じゅ……むぐっ!?」
「やめるずら」
「むっ……んんっ……!」
「……はぁ」
理由はとても簡単です。
自らを“堕天使ヨハネ”と名乗る善子さんに、話を遮られてしまったのです。幸い花丸さんが善子さんの口を押さえ、体ごと取り押さえてくれたおかげで、私は梨子さんの質問に答えました。
「全ては鞠莉さん、あなたのためですわ」
「私の、ため……?」
「はい。覚えていませんか?2年前のあの日、鞠莉さんは怪我をしていたでしょ?」
「……あっ」
そうです。2年前のあの日です。
鞠莉さんはライブの前々日に怪我をした右足を、そのまま我慢してまで3人でライブをしようとしたのです。これを気にして果南さんは歌わなかった。これが果南さんが
「そんな。私は、そんな事をして欲しいなんて一言も言ってない……」
「ですけれど鞠莉さん。あのまま進めていたらどうなっていたと思うんですの?怪我だけでなく、事故になってもおかしくはなかった」
あの時あのまま歌っていたら、鞠莉さんは間違いなく怪我をしていたでしょう。
そのせいで鞠莉さんの
「だからお姉ちゃん、鞠莉さんに果南さんは逃げてないって言ってたんだ……」
「えぇ。何度も私はそう言いましたわ」
「そうだったんですか……」
そしてルビィの言う通り、ときに私の家に訪ねてきた鞠莉さんにはずっとそう言ってきました。果南さんは、全て鞠莉さんの為にあんな行動をしていたということをです。
それなのに鞠莉さんは、私の言葉に何一つ信じる様子を見せず、挙句の果てには今日のような行動をしてしまいました。
「でも、その後は?」
「そうですよ!怪我が治ったら、スクールアイドルを続けても良かったのに……」
「そうよっ!花火大会に向けて新しい曲を作って、ダンスも衣装も完璧にして!なのに……」
でも、これは全部私のせいでもあります。
私がちゃんと鞠莉さんに本当のことを伝えれば、あんな事にはならなかったのです。
私の無力さに、とても腹が立ちます。
「……そういうわけにはいかなかったのです」
「……えっ?」
「どういうことですか?」
鞠莉さんの怪我が治ったら、また続ければいい。
千歌さんが言い放ったその言葉には私もまた3人でそうしたかった。ただ、そういうわけにはいかなかったのです。その時の鞠莉さんには、ある事情をたくさん抱えていたのです。
それが果南さんにとっての、
「心配していたのですわ。鞠莉さん、あなたは
「そんなの当たり前でしょ!?」
「果南さんは思っていたのですわ。このままでは、自分たちのせいで鞠莉さんの未来やいろんな可能性が奪われてしまうではないかって……」
「……っ!」
果南さんが鞠莉さんに対して感じていたことや、鞠莉さんに対して思っていたこと。私は鞠莉さんに対して、果南さんが思っていたことを代弁するように話をしました。
鞠莉さんを含め、千歌さんたち7人は果南さんの思いを知り、驚きを隠せませんでした。
そして鞠莉さんは、ハッと何かに気づきます。
「果南、まさか…それで………!」
「えぇ。そのまさかですわ」
どうやら果南さんの思いが伝わったようで、赤く艶やかな唇を潰すようにギュッと噛みしめる。
それは、鞠莉さんにとっての怒りでした。
「……くっ!!」
すると鞠莉さんは、私の部屋を出てどこかへ向かおうとします。それを私は呼び止めました。
「待ちなさい!どこへ行くつもりですの?」
「あいつを、果南をぶん殴る!そんな事、私に一言も相談せずに勝手に決めつけて!!」
胸のあたりで拳を作り、“怒り”という感情を果南さんにぶつけたいと、鞠莉さんの行動や表情を私の目の前で見せていました。
私は、鞠莉さんの怒りを落ち着かせようとして声をかけ、後に鞠莉さんに対してこう言いました。
「おやめなさい鞠莉さん!果南さんはずっとあなたのことを見てきたのですわ!」
「……っ!」
「あなたの立場、あなたの気持ち!そしてあなたの将来!誰よりも深く考えていたのですわ!」
「……………………」
もう小学生の時からずっとです。
転校してやってきた鞠莉さんと友達になったときからずっと、果南さんは鞠莉さんを気にかけていたのです。
そして2年前のあの時も、鞠莉さんの転校や留学の話を耳にした果南さんは、鞠莉さんの将来を考えて決断したことなのです。ただそれを果南さんは、鞠莉さんに向かって直接言えなかった。
彼女も彼女で素直じゃないのです。
「そんなの、そんなの分からないよ!どうして果南は言ってくれなかったの!?」
「ちゃんと伝えていましたわよ。鞠莉さん、あなたが気づかなかっただけ」
「いつよ!?いつ果南が私に伝えたのよ!」
「……………………」
果南さんがいつ、そんなことを鞠莉さんに対して伝えたのか?
それについても果南さんは全く素直ではなかったので、ある場所に果南さんはそれを書き、鞠莉さんに遠回しに伝えました。
今はもう、すでに消されてしまって、なくなっているかもしれませんが……。
「2年前、部室で使っていた“ホワイトボード”です。あそこに果南さんが残した、鞠莉さんへの“想い”があったはずです」
「……あっ、まさか!?」
どうやら思い当たる節があったようです。
私の話を聞いた鞠莉さんはハッとなにかに気づくと、何故かその次に千歌さんが何かに気づき私に話をしました。
「あっ、それ私も見たかもしれないです!」
「千歌ちゃん、それってあの時の?」
「うん。ダイヤさんが今さっき言ったことって、もしかしたらそれなんじゃないですか?」
千歌さんがいつそれを見たのかは私は問い詰めはしませんでしたが、彼女自身が見たならば恐らくはきっとそれでしょう。
ただ鞠莉さんには分からなくて、千歌さんがそれに気づいてしまうのは少し残念でありますが、今はそれどころではありませんね。
「私、学校に行ってくるわ!」
「鞠莉さん!お待ちなさい!」
「止めないで!もう私、決めたから!」
鞠莉さんはそう言うと、私の言葉に耳を貸さず、一目散に私の部屋から走り去って行きました。
外は晴れ間が嘘だったかのような大雨。
私が気遣って止めるよう声をかけるべきだったかと思いますが、今の鞠莉さんには、そんな声を聞き入れてくれるはずがありません。
「止めなくて、良かったんですか?」
「…………そうですね」
きっと今の鞠莉さんには無駄でしょう。
あの人はある意味強引ですから。
それに……果南さんだって本当は…………
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昼にダイヤと連絡を交わしたあと、俺は放課後に果南の家へ直接向かった。
早朝に弁天島で会って、今日これが2回目になるけれど、今はもうそんなのどうでも良かった。
今から俺は、果南と
そしてこの時に、一度ダイヤからメールが送られてきた。どうやら鞠莉姉に全部を話したらしい。
メールの内容に目を通した俺は、フェリーが目的の場所に着くと同時にそこから飛び降り、果南の家は早足へと向かう。
すると果南のダイビングショップの前で、何やら作業をしている人物がいた。でもその人物が自分の知っている人だと分かった時は、すぐに俺はその人に声をかけた。
俺にとってその人には、色々とお世話になってる人だったからね。
「お久しぶりです。堅志郎さん」
「あれ?遼くんじゃないか?こんな時間にどうしたんだい?」
「果南に話があって来ました」
ダイビングショップ前のテラスで作業をしていた人物は、果南のお父さんである堅志郎さん。怪我が治り無事に退院したばかりなのに、雨の中で合羽を着て作業している姿はとても元気そうだった。
俺がここに来た用件を話すと、堅志郎さんは果南は部屋にいると言ってくれた。
本人がいるなら良かった。これで果南とちゃんと話すことができる。鞠莉姉が学校に向かったのなら果南にも行ってもらわないと……。
「では、お邪魔しますね」
「おう。ゆっくりしていけよ」
「ありがとうございます」
相変わらず堅志郎さんは優しい。
そんな堅志郎さんとのやり取りを終えた俺は、果南がいるであろう部屋へと足を運ぶ。
コンッ!コンッ!
「……っ?誰?」
「果南、俺だけど……」
「なっ!?なんで遼が家に!?」
「少し話があって来たんだ」
果南の部屋の前に立ち、なんの躊躇もなくドアをノックすると果南の声がして、俺が来た事を伝えると彼女は驚いた声を上げる。
でもすぐに果南は俺を突き放すような言葉を投げかけてきた。表情はドアで見えないけど、その言葉と口調を聞いただけでも、あいつの表情はすぐ俺には分かった。
朝に見せた、あの表情と口調まんまだ。
「何さ、また鞠莉のことで話しに来たの?」
「あぁそうだ。それ以外に何がある?」
「帰って!遼に話すことなんて何もない!」
ガチャッ!
「……っ!?ダメ!入ってこないで!」
「悪いけど、もう遅いよ」
ものすごい剣幕を撒き散らす果南を尻目に、俺は堂々と果南の部屋に入り込む。駄目だと拒否されるけれども、半ば強引に俺は押し入る。
俺を無理矢理にでも帰らせようとしてくる果南に対して、俺はダイヤからのメールの内容を告げた。
「ダイヤは鞠莉姉や千歌たちに全部伝えたそうだ。果南が鞠莉姉に思っていたこと、全部な」
「……っ。だから、なんだって言うのさ?」
「果南、お前からもちゃんと鞠莉姉に全部を話した方がいいと思う。お前や、鞠莉姉のためにも……」
「分かったようなことを言わないで!」
果南は、やはり鞠莉姉との話を嫌がっている。
俺はダイヤと同じ気持ちだ。こんなにも悪い状況は早く終わってほしいし、果南と鞠莉姉が仲直りをしてまた仲良くなってほしいと思っている。
あとは果南があと一歩踏み出してくれるかどうかにかかっていたが、果南は俺に向かって、信じられない言葉を言い放ってきた。
「遼には言ってないから言うけれど、私はスクールアイドルをすることが嫌になったの!鞠莉とダイヤと3人でするのが、とても嫌になったの!」
「…………」
「だから、私はスクールアイドルをもうしない!!だからもう出て行って!」
「……………………」
自分は、本当はスクールアイドルに対してはこう思っていたとか、鞠莉やダイヤと楽しくやっていたけれど、本当は2人といるのが凄く嫌だったとか。自分が言わないことをとにかく言葉にする彼女は、俺に対してそう言い放った。
これを他の人が聞いたらどう思うだろう?鞠莉姉には絶対に聞かせたくないし、千歌たちやダイヤが聞いたらほとんどの人が驚き、失望するだろう。
まぁつまりは、
きっとこいつは、俺を無理矢理に“失望”させようとそう思って言ったのだろう。
けれど今となってそんな言葉は俺を前では無意味である。俺みたいな付き合いの長い人を除いては、ほんの少しの付き合いがある人だったなら、すぐにその人との関係は断ち切れるだろうな。
「……嘘は言っちゃいけねぇなぁ、果南」
「嘘なんかじゃない!!私の気持ちなんか知らないくせに、知ったよう口を聞かないで!」
「………………」
ここまで来ると、こいつがなぜそこまでこだわるのかが気になって仕方がない。けれど今の果南は、鞠莉姉から逃げている。
それに、俺に対して『嘘なんかじゃない!』って果南は言い張ってはいるけれど、元はといえばよ、こんなことになっているのは全部自分のせいだってことを、こいつは自覚しているのか?
「でもぶっちゃけさ、今こんなことになっているのは全部果南が鞠莉姉に嘘ついたからだろ?」
「……っ!違う!私は嘘なんか……」
「もういい加減にしろっ!」
「……っ。遼……」
どうやら全然自覚すらしていなかった。
“呆れた”
そんな言葉が頭をよぎる。怒りすら忘れてしまいそうなことであって、怒りすら飛び越えてそうなるようなケースもよく見かける。
でも今は、『呆れ』と共に『怒って』いた。
「こうなってるのは、全部お前にある。それなのにお前は知らんぷりで、嘘なんかついていないだと?ふざけるのも大概にしやがれっ!」
「……………………」
これが果南と鞠莉姉、2人を仲直りさせる一番の方法だとは思ってはいない。寧ろ違う意味で逆効果になる可能性が一番高い。
ただそうと分かっていても、俺は果南に言わなければいけなかった。
例え、俺と果南の関係が壊れてもだ。
「……うるさい」
「あっ?」
「うるさいって言ってるの!」
そして俺に言われてばっかりで我慢の限界に来たのであろう。果南の目には涙が浮かんでいた。
「遼に言われなくたってそんなの分かってる!でももう2年も経っちゃったんだよ!?今更そんなこと言えるわけないじゃん!!!」
「…………………………」
「言えない。私には、もう、無理なんだよ……」
なんだ。ちゃんと言えるじゃんか。
それらをちゃんと鞠莉姉に向かって言えるようになれば、仲直りなんて全然簡単なはずなのに。本当に素直じゃねえんだから。
果南が本心を吐露してくれたことに少し安心しながら、果南の話に俺は言葉を投げかける。
「果南、自分で勝手に無理とか決めつけているようじゃ、本当に鞠莉と仲直りすら出来ないぞ?」
「えっ……?」
「無理みたいなネガティブ思考ばっかりを考えて、それを決めるのは果南じゃない。無理なんてもんは存在しないぞ!」
「……っ!」
自分には無理。鞠莉姉とは仲直り出来ない。
そんなネガティブな発言を一切なくさせるようにして、俺は果南に対して喝を入れる。
今の状況なら多分、果南にはこう言った方が得策かもしれない。果南には前を向いていてほしいし、何より果南はそうでないと困る。
果南が果南らしくいてほしい。俺はただただ彼女にそう願った。
「……鞠莉と仲直り、出来るかな?」
「なにを弱気になってるんだよ。大丈夫、ちゃんと自分の本音で話せば、仲直り出来るはずさ。鞠莉姉だって、同じこと思ってるはずだから……」
多分鞠莉姉だって同じこと思ってる。
あの人にとって果南は特別な人で、果南と同じで誰よりも1番に考えていたはずさ。
そうじゃなかったら、まずこの内浦に戻ってくるはずがないし、何よりも俺はそう確信している。
根拠はないけどね……。
「……ふふっ。そうかもね……」
「やっとお前らしくなった。ホッとしたよ……」
「ごめん。私ってば馬鹿だったよ」
「本当にそうだよ、“ばかなん”」
果南に対して『ばかなん』って言ったのはなんか久しい。これを名付けたのは渦中の鞠莉姉だから、なんかとても懐かしく思うところがあった。
そんで、やっと果南は笑った。
今まで暗かったり、怒ったりしていた果南の表情は打って変わって、様変わりするように一変した。
ある意味、良い方向に向かっている。
そしてそれを象徴するかのように、果南は心から決心をした。
「分かったよ遼。私、鞠莉のところに行ってくる」
「やっと決心したな。待っていたよその言葉」
「えへへっ。ごめんね、あんなこと言っちゃって」
「もうそんなことはいいよ、果南」
鞠莉姉と仲直りすることを決めた果南は、優しく和かに笑いつつも俺に対して深々と謝る。
だが、今は呑気に謝っている場合ではない。
果南にはまだ、やるべきことがあるのだから。
「俺に謝ることよりも、早く行かなきゃならないところがあるだろう?」
「うん、そうだね。早く鞠莉のところに行って鞠莉とちゃんと話をつけてこないといけないよね?」
「あぁ。俺はそうさせるつもりで来た」
そう。鞠莉姉と話をつけてこなければならない。
俺の中でのあわよくば、何事もなかったかように2人が仲直りしてくれることを密かに望んでいる。
まぁ本当にそうなってくれる保証はないけどな。
「鞠莉姉は今学校にいるらしいぞ。ダイヤからメールで送られてきたから、まず間違いないだろう」
「あっ、本当だ」
ダイヤから送られてきたメールを果南にも見せてやると、彼女も納得したように首を縦に振る。学校に鞠莉姉がいることを伝えれば、自然と果南は学校に向かってくれるだろう。
すると果南は俺の隣を通って部屋を出ると、俺に振り返って笑みを浮かべながら言ってきた。
「じゃあ私、鞠莉のところに行ってくる」
「鞠莉姉のところに行くのは止めないけど、そんな風に笑ってると鞠莉にキレられるぞ?ぶっちゃけ今は笑ってられない状況なんだからよ」
「うん、分かってるよ」
正直に今は笑っていられる状況じゃない。
果南もちゃんと分かっているはずで、学校にいる鞠莉姉のところに行けば、きっと真剣に鞠莉姉と話をしてくれるだろう。
そんで逆に真剣になり過ぎて、この2人が大喧嘩にならないことを祈るか。
「じゃあ行ってくる!」
「おう。もし果南と鞠莉が仲直りできたら、ダイヤと俺と4人でどっか出かけようぜ。俺ってば、まだちゃんと鞠莉姉に会ってないから」
「分かった。じゃあね!」
「……あぁ」
こうして果南は、鞠莉がいるであろう浦女へと足を運んで行った。
俺はしばらくして、果南の家の前に出て空をふと見上げる。雨は上がり、雲の隙間から朱色の空が顔を出していた。若干紫色と混ざっているけれど、なんかとても幻想的だった。
「はてさて、2人はどうなることやら……」
海を挟んで見える浦女の校舎を眺めながら、俺は2人のことを思いやり、そう呟いたのだった。
〜〜〜〜〜〜※※※※〜〜〜〜〜〜
「……………………」
あんな風に笑ってここまで来ちゃったけど、本当に彼の言う通り、笑ってる場合じゃなかった。
「……はぁ」
浦の星女学院に鞠莉がいる。
そういう情報を受けて私は学校にやって来たけれど、いざ鞠莉と話をつけると考えると、途端に心臓の鼓動が早く感じる。
2年前のことや、こうして今尚も鞠莉を傷つけてしまっていることを思うと、ね?
逆にここで鞠莉と話して、絶交になっちゃったらそれは全部私のせい。私が率先してそれを企てたんだから、そんなの当たり前だよね。
「……よし。行こう」
私は決心し、学校に足を踏み入れる。
校門の門は既に少し開いていた。その意味としては、今千歌たちが使っている部室に行けば、それはすぐに分かった。
「鞠莉……」
「……っ、果南」
私は部室まで迷うことなく足を運ぶと、全身が雨に濡れ、私をじっと睨みつけて見つめる鞠莉の姿がそこにあった。
部室のいたるところに水たまりがあることから、鞠莉はだいぶ前に部室で待っていたことが分かる。ホワイトボードの前にも水たまりがあったから、私が伝えたかった事も分かったのかもしれない。
そしたら鞠莉は、私に向かって話し出す。
「いい加減、話をつけましょう?」
「うん。私もそのつもりで鞠莉のところに来た」
今までのことに“終止符”を打つ。
鞠莉の発した言葉には強い気持ちが現れていて、それに気圧されながらも私もそう言い放つ。
私と鞠莉がいるこの部室と雰囲気には、誰も立ち入ることが出来ないくらい。その中で、鞠莉が最初に私に対して尋ねるようにして話は始まった。
「ねぇ果南。どうして言ってくれなかったのよ!?思ってることとか、考えていることとか、私に何で言ってくれなかったの!?」
どうして本当の気持ちを話してくれなかったのかなんて、話すにも恥ずかしくて話せない。それでも2年前の当時に思っていた事は、今も変わらない。
私にとって鞠莉は、とても大切な友達だから。
「私にとって鞠莉は、ダイヤと同じくらい、とても大切な友達だからだよ……!」
「そんなの、そんなの私だって同じよ!私だって、果南のことを大切に思ってるの!」
そう言った私に対して鞠莉は、私に同様なことを話した。私を大切な友達だって、鞠莉は言った。
その鞠莉の話を聞いてた私は、鞠莉も同じ思いがすごくあって、私も鞠莉もお互いに思いやっていたんだなって感じた。
それなのに私と鞠莉は、本当の気持ちを言わず、大切に思うあまり遠ざけてしまい、こうして2年間も離れ離れになってしまった。
あの時、私が鞠莉に対して言ってしまったことに『後悔』を覚えるなかで、鞠莉は当時から思っていたことを全て私に打ち明けてくれた。
「正直将来なんて今はどうでもいいの!留学?全く興味なかった。だって果南が歌えなかったんだよ?放っておけるはずがないじゃない!」
「……っ」
その内容にもやっぱり、私に対しての思いやりが含まれていた。あのステージで歌えなかったことを気にして、留学はもとより、将来すらも鞠莉は全く考えていなかったらしい。
鞠莉の口から初めて聞いた言葉の数々が、まるで槍のようになって私の心に突き刺さる。
そして私が招いてしまったこの状況に、私は顔を下げてふと考えさせられてしまった。どうして私は鞠莉にあんな事を言ってしまったんだろうって。
「…………」
そのとき私の左頬に、痛みの衝撃が走った。
パァンッ!
「……っ!?」
私自身も衝撃的だった。本当に一瞬の出来事で、鋭い音が部室中に響き渡る。
私を平手で殴ったのは目の前にいる鞠莉。目には大きな粒の涙を浮かべて、今にも泣きそうなところを堪えながら私に言い放った。
「私が、果南を思う気持ちを、甘くみないでっ!」
あぁ。やっぱり私は馬鹿だ。
鞠莉の気持ちをちゃんと考えていたはずのに、私は全然考えていなかった。
でも、これだけは鞠莉に言いたい。
言いたいことがあったのなら、私に素直に言ってくれれば良かった。リベンジだとか、負けられないとか、そんなことよりも大事なことは1番に言って欲しかった。
「だったら……だったら素直にそう言ってよ!」
「果南……」
「リベンジだとか、負けられないとかじゃなくて、言いたいことがあるならちゃんと言ってよ!」
その思いを本能の赴くままに、涙を浮かべながら叫ぶように私も言い放った。
けど鞠莉は私がそう言い放った次の瞬間、彼女はフフッと優しく笑うと、涙を溜めながら何故か自分の左頬を指差す。
「…………だよね?」
「えっ……?」
「だから、ここ……」
さっきのお返しとして「やり返していいよ」と、鞠莉は自ら左頬を私の目の前に出してきたのだ。
きっと鞠莉は、私に殴られておあいこにしたいのかもしれない。突然殴ってしまったことに関してのお詫びと、自分が殴られれば仲直り出来るかもしれないという考えを感じた私は、右手を上げて殴ろうとする仕草を見せても、決して鞠莉のことを殴ろうとは思わなかった。
「……………………」
「………………っ」
鞠莉が私に殴られることに怯えて、身体が震えているのを目の当たりにしたら殴ろうなんて思う?
これは鞠莉の単なる自己満足。
こんな事をして仲直りしようだなんて、鞠莉には悪いけれどそれはできない。
ただ、それよりももっと簡単な方法がある。
「…………鞠莉」
「へっ……?」
「ハグ、しよ……?」
「……っ!」
『ハグ』は私の愛情表現。
鞠莉に向かって両手を広げて『おいで』と誘い、『仲直りしよう』と静かに涙を浮かべる。
鞠莉は私のその行動に驚きはした。でも鞠莉はそれを見て次第にまた涙を零し、堪え切れなくなって私に飛びつき大声で泣いた。
「うっ、うぅ、うわあぁぁあん!!」
「う……うぅ……」
私もそんなに我慢出来なかった。思いっきり抱きついてきた鞠莉を抱きしめ返して、2年越しに鞠莉の優しい温かさを間近に感じた。
「うっ……ぐすっ……」
「ひっくっ、うぇん……」
もうあの日からの2年間の空白は戻らない。
その事をちゃんと理解した上で、私は鞠莉とこれからの日々をいつも以上に大切にしたいと思った。
2年間離れていた分、今まで以上に鞠莉と一緒にいたい。私はこの時からそう思った。
「鞠莉ぃ、ごめんねぇ〜!」
「なによぉ。私もごめんなさいぃ〜!」
私も鞠莉もお互いに謝りあって、私たちは無事に仲直りをすることができた。
私と鞠莉との間にあったわだかまりも消えて、私の奥底にある胸の内も、スッキリ軽くなっていた。
これから私と鞠莉はどうするのかって?
それは多分、言わなくても分かると思う。
「ねぇ果南。またスクールアイドルしよ?」
「そうだね。千歌たちのグループに混ざろっか?」
「えぇ!私もそれに大賛成!」
2年ぶりのスクールアイドルの再開。簡単に千歌たちのグループに混ざって始める事を決めちゃったけど、今の千歌たちなら喜んでくれるかな?
多分、喜んでくれる……はずだよね???
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「良かったな、ダイヤ」
「えぇ。でも、本当に世話の焼ける2人ですわ」
少しばかりホッとしている俺とダイヤ。
部室の外からこっそり覗き、2人が無事に仲直りをしてくれたことに少しばかり安心としていた。
ただ、鞠莉姉が果南に対して頬を引っ叩いた時は本当にどうなるかと思ったぞ。ダイヤもその場面を見て、思わず驚きの声を出してしまいそうになったくらいだからな。
でもそれだけ、2人を思ってる証拠になる。
「それでもダイヤは、あいつらのこと大切に思っているんだろ?良かったじゃねぇか」
「まぁ、そうですけど……」
彼女が否定しないあたり、そういうことだ。2人が抱き合って泣いて、そして無事に丸く収まった。俺もあの状況に納得はしている。
するとダイヤは思いがけないことを呟く。
「ただ遼さん、果南さんと鞠莉さんのこと、あとはよろしくお願いいたしますね?」
「えっ?何でそんなこと言うんだよ?」
「私はもう、やるべきことは終わったのです」
自分の『やるべきこと』が終わった。
そう言ってダイヤはその場で立ち上がると、なにか吹っ切れたように笑みを浮かべて俺の前から消え去ろうとする。もしかしてダイヤは、2人を仲直りさせたあとで、自分は何事もなかったように普通の日常に戻ろうとしているのかもしれない。
「……っ!」
果南と鞠莉姉の2人がスクールアイドルをして、自分は生徒会長として学校生活に戻る。それがどういう事を意味するのか瞬時に理解することが出来た俺は、すぐさまダイヤの右手首を掴んで、逃さないようにしっかり握った。
ダイヤは自分から、今1番にやりたいことを無理に塞ぎ込もうとしているんだ。
「待てダイヤ。『終わった』じゃないだろ?」
「どうして、そう思うのですか?」
「ダイヤだって本当は、あの2人と3人で、スクールアイドルをやりたいんじゃないのか?」
「……………………」
俺の問いかけにダイヤは終始無言。
ダイヤが何も反論すら言わないことが、結果的にどうすればいいのか悩んでいるように思えた。
「自分に正直になれよ」
「私は……その……」
「ダイヤは今、何がしたい?」
別に悩む必要なんてないはずなのにな。でもまあダイヤは宝石みたいに堅物だし、プライドもお高いからさ、自分の本心に関しては誰に対してもあまり口にしたくないのかもね。
だけど、もうそれは無しにしよう。
「私は果南さんと鞠莉さんと、また3人でスクールアイドルがやりたいです!」
「……ふっ。ちゃんと言えたな。よしよし!」
「ちょっと!頭撫でないでください!」
「あはは、ダイヤは可愛いなぁ〜」
「なっ!?もう!からかわないでください!」
やっと自分の口から本心を話してくれたから、俺は嬉しくなってダイヤの頭を優しく撫でると、彼女は恥ずかしくなって顔を赤くする。
果南と鞠莉姉、それからダイヤの3人がスクールアイドルを再開してくれることを心から喜ぶ俺は、校門前で待っている“あいつら”にも報告しないとと思い、ダイヤを連れて校門前へ足を運んだ。
「じゃあダイヤ、校門前に行こう」
「えっ?どうしてです?」
「あいつらにも報告しないとだろう?ルビィちゃんだって、きっと心配してるはずだからさ」
「ルビィが……?」
部室にはまだ果南と鞠莉姉がいるから、2人にはバレないように『?』を浮かべるダイヤを半ば強引に連れて行く。
そしたら俺とダイヤが戻ってくるのを、笑みを浮かべて待っている千歌たち6人の姿があった。
「どうだった?仲直りしてた?」
「あぁ。無事にあの2人は元通りだ」
「良かったずら〜!」
6人に事実を伝えれば、たちまち6人は喜びを表現する。千歌ならはしゃいで喜んだり、梨子なら笑って拍手したり。
みんなが果南と鞠莉姉の仲直りを祝福しているなかで、俺はダイヤについてみんなに話をした。
「それで、果南たちがスクールアイドルを再開するらしいんだけど、ここにいるダイヤもやろうかなって考えてるんだってさ」
「えぇ!?ダイヤさんも!?」
「ちょっと待ってください!私は生徒会長ですよ?スクールアイドルをやってる暇なんて……」
おいおい。さっき俺には『やりたい』とはっきり言ってたくせに、千歌たちの前でまた悩むのか。
せっかく俺には自分の意志を言ってくれたのに、千歌たちを前にすると言えなくなるとは、ダイヤもあの2人と同じくらい曲者だな。
ダイヤの言動に頭を抱えていたときに、俺の前に千歌が現れ、ダイヤに対して和かに話をした。
「大丈夫ですよ!ダイヤさん!」
「えっ……?」
「果南ちゃんと鞠莉さん、そして遼くん。それに、私たち6人もいるので……!」
ダイヤを安心させるような、そんな風に千歌は話をする。すると何故かだが、千歌がルビィちゃんをこちらに手招きする。
そしたらルビィちゃんの手には、赤を基調とした着物のような衣装を持っていた。そのままダイヤの目の前にやってくると、衣装を前に差し出しながらダイヤに向かって言い放った。
他の誰よりも1番大切に思っている、姉に対しての歓迎の言葉だった。
「親愛なるお姉ちゃん!ようこそ、Aqoursへ!」
「……っ。ルビィ……!」
「わぁ!?お姉ちゃん、苦しいよぉ……」
ダイヤは妹から歓迎される言葉を言われるなんて思ってもいなかったんだろう。
ルビィちゃんから誘われたことに嬉しさが勝り、ダイヤは静かに嬉し涙を流しながら、ルビィちゃんをギュッと抱きしめる。ダイヤもダイヤで妹思いで大好きだからね。
自慢の妹のお願いを、断れるはずがない。
「ありがとうルビィ。私、決めましたわ!」
「じゃ、じゃあ!?」
「フフッ。えぇっ!私も果南さんと鞠莉さんと一緒に、千歌さんたちのグループに混ざって、スクールアイドルをやらせて頂きますわ!」
「やった〜!わ〜い!!!」
「お姉ちゃん!」
そしてやっと、自分の口からスクールアイドルがやりたいとみんなにも話をしてくれたダイヤ。
一歩前に踏み出し、Aqoursのメンバーの一員として活動をすることを決めたその時、俺とダイヤの背後からあの2人がやってきた。
「あれっ?みんな?」
「どうして千歌っちたちがここ?」
本日の主役である果南と鞠莉姉。鞠莉姉が果南にべったりと左腕にしがみつき、早速俺たちに仲直りをした様子を見せていた。
それで俺たちがここにいることを知らない2人には千歌が説明し、果南と鞠莉姉はスクールアイドルを再開、千歌たちのグループに入ることを話した。
「じゃあ…果南ちゃんも鞠莉さんも、ダイヤさんと一緒にAqoursに入ってくれるんですね!?」
「うん!もちろん!」
「イェス!マリーに果南にダイヤを入れて9人!!ものすごく楽しいグループになると思うわ!」
「やった〜!」
話の中では何も問題はなく、むしろ良い意味で話は盛り上がりを見せていた。
そんでもって9人になるからさ、6人よりも断然に騒がしくなるのは目に見えている。彼女たちの面倒を見るのが更に大変になりそうだ。
そんな時、俺は鞠莉姉と目が合う。
「あら?あなた誰?」
「あはは……。まあ覚えてないよね?」
「えっ……?」
けれども俺に対してキョトンとした目をすると、初めて会うかのように俺の名前を尋ねてくる。
目が合ったのは良いものの、もう2年も会っていないとなると、忘れてしまうのも無理ないよね。
でも仕方ないから、思い出させてやる。
彼女に対して“○○姉”って呼ぶのは、俺以外には誰もいないのだからな。
「久しぶりだな、“鞠莉姉”!」
「……っ!?えっ?嘘、貴方なの?」
「俺のこと忘れたなんて言わせねぇぞ?」
「ううん!忘れるわけないじゃない!」
鞠莉姉に対して名前を呼ぶと、久しぶりに名前を言われた彼女は俺をギュッと抱きしめてきた。
まあ何せ2年ぶりの再会だからね。鞠莉姉自身も嬉しいのだろう。
「遼〜!久しぶりね!」
「あぁ。約2年ぶりだな」
「遼くん、鞠莉さんと知り合いなの?」
そして鞠莉姉が俺に抱きついてきたところを目の当たりにすれば、当然彼女たちも気にならないはずがなく、曜が俺にそれを尋ねてくる。
その問いかけにどう答えようか考えていた時に、鞠莉姉が前に出て曜たちに話をしてくれた。
だが鞠莉姉が言い放ったのと同時に、俺は彼女たちから命を狙われることになってしまう。
その理由がね、“コレ”なのよ。
「もちろん!私と遼は小学生からの友達で、お互いを大切に想い合っている“
「「「「「「「「…………」」」」」」」」
「……………………」
『カップル』とは、簡単にいってみれば恋人などの恋愛関係である2人組のことを言う。
しかし鞠莉姉がみんなに対して言ったことは全部がデタラメ。俺と鞠莉姉はそんな関係じゃないし、ましてや言い過ぎだ。
ただそれを鞠莉姉の冗談だと受け止めず、何故か真に受け止めている彼女たちがいた。
「遼くん?どういうことかなぁ……?」
「少し説明していただく必要がありますね?」
「お、お前ら!?」
俺の前には目を赤く光らせたダイヤがいて、その後ろには千歌と梨子までもが佇んでいた。
うん。もう自分の中で察したよ。
俺、下手したら今日が命日かも……。
「遼さん、お覚悟ですわ!」
「やめろ!俺はまだ、死にたくない!!」
「うるさい!問答無用だぁ〜!」
「ぎゃああぁぁああ!!!」
俺は最後までダイヤたちに弁解を求めたものの、ダイヤたちには全く聞く耳を持ってくれず、鞠莉姉によって俺はとばっちりを食らってしまった。
こうして果南と鞠莉姉との間に起きていた蟠りはなくなり、無事に終止符を打つように2人は仲直りをしてくれた。
鞠莉姉らしいあの爆弾発言には、少し久しぶりに感じてはいるけれど、こっちに飛び火が移ってくるから結構嫌なのよね……。
まぁ、今回だけは許してやるけど……。
「…………………………」
ただ俺に制裁を下してるダイヤたちの背後にて、1人の幼馴染みが唇を噛み締めて、身体を小刻みに震え上がらせているのを俺は知らなかった。
そしてそれが、あんな事になるなんてことを……
俺たちは知る由もなかった。
これにて第9話が終了しましたが、
最後はとても意味深な終わり方でしたね()
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