少年と少女達の輝き目指す物語   作:キャプテンタディー

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どうも、キャプテンタディーです。

お待たせして申し訳ないです。
やっと完成させることができました。
なのでしばらく、自分は曜ちゃんの画像を
見て癒されてきますね( )

それでは、本編をどうぞ!





#45 千歌の本当の気持ち

 

 

 

 

 

『千歌ちゃん、大丈夫?』

『うん、大丈夫。少し考えてみるね。私がちゃんとしないと、みんなに迷惑かかっちゃうから……』

 

 

 家の前でそんな会話をして梨子ちゃんと別れて、私は部屋のベッドで横になっていた。

 寝ようとしていたわけじゃない。ただ、帰る時に遼くんに言われたことをちゃんと守ろうと、自分の気持ちを整理していた。

 

 

『やめる?スクールアイドル……?』

「…………………」

 

 

 曜ちゃんに聞かれたあの質問。私は、あの質問に真剣に向き合って、遼くんにも、みんなにも納得のいく答えを出さないといけない。

 私がみんなをスクールアイドルに()()()んだもの。私がしっかりしないと……。

 

 私は部屋の襖と障子を全部閉じて、部屋を薄暗くする。それでベッドで寝返りを繰り返して私は考えていた時に、思わずベッドから床に落ちてしまう。

 

 

 ……私は、何をやってるんだろう……?

 

 

 床に対して仰向けになって、そんな風に自分自身を戒めながら目を開ける。すると視界の上の端に、ずっと前々から襖に貼っていた、憧れの『μ's』のポスターが目に移った。

 

 

「…………………」

 

 

 届くはずもないのに、私はそれに手を伸ばす。

 『μ's』を“星”と例えるなら、私はいつか、あの星のように輝けるんじゃないかって思ってた。

 でもそれは、ただの私の理想だった。

 

 

『もし、μ'sのようにラブライブを目指しているのだとしたら、諦めた方がいいかもしれません』

『ラブライブは、遊びじゃない!!』

 

 

 私の頭には、Saint Snowの言葉とパフォーマンスと、得票数『0』という数字が頭をよぎる。

 何もかも、これが()()なんだってことを私に訴えかけてきて、私の胸の奥がギュッと締め付けられるような感覚に陥る。

 

 

『“約束”だからな?破るんじゃねぇぞ?』

「……………っ」

 

 

 そしてまた、帰り間際に遼くんの鋭い視線で言われたあの言葉が思い浮かぶ。

 明日には、ちゃんとしっかりみんなに伝えないといけない。続けるのか?やめるのか?

 

 みんなへ話す一言が、私の、みんなの未来にかかっていることを想像したとき、私はμ'sのポスターに伸ばしていた手を、床に力なく下ろした。

 

 みんな、私の答えを受け入れてくれるのかな?

 薄暗い静かな部屋で、私は不安を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜※※※※〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝、午前6時を過ぎる頃

 

 

「んっ、はぁ……」

 

 

 今日はどんよりとした曇り空。

 そんな空を見てため息をつきながら、俺はいつものごとく、毎朝のランニングのために家の前で準備運動をしていた。

 

 

「1、2、3、4、5、6、7、8……」

 

 

 屈伸、伸脚、アキレス腱伸ばし、上体の前後屈、体側、旋回、跳躍、深呼吸。

 1つ1つのストレッチをゆっくりと数えながら、じわりじわりと自分の身体を温めていく。走ってても身体は温まるけれど、この準備運動がとても大事だから、特に俺はこれを入念にやっている。

 

 いい運動は、いい準備運動からって感じにな。

 

 

 

 ガチャリ!

 

 

 

「…………!」

 

 

 その時、曜の家の玄関が突如として開かれる。

 こんなに朝早くから曜の家族で家を出る人を見たことがなかったから、突然開いた玄関に俺はビクッと身体を跳ね上がらせる。

 

 でも、家から出てきたのはあいつだった。

 

 

「あっ……遼くん」

「曜……」

 

 

 曜。昨日からずっと千歌のことで頭がいっぱいで、頭が爆発寸前にまでなっていたやつが、玄関を開けて俺の前に姿を現す。

 しかも、昨日の私服姿のままだった。

 

 

「どうしたんだよ?昨日の服のまんまじゃん」

「あっ、うん。それは分かってるんだ……」

「もしや、まだ……」

「うん。ちょっとね」

 

 

 困った表情のまま頬をポリポリと掻く曜を見て、どうやら彼女は未だに昨日のことを引きずっているような感じだった。こいつの気持ちは、分からなくもないけれどさ……。

 俺に超強引に約束された千歌は、今日には答えを出してくれるはずだろう。

 

 そうでないと、俺や曜たちが困る。

 

 “続ける”のか“やめる”のかで、千歌を含めた6人の未来は大きく変わる可能性は十分にある。続ければ彼女たち次第でどうなるか分からないけど、千歌がやめると言ったら、統廃合の件は、きっとそっちに向けて前進することになるだろう。

 

 東京で言われたことに挫けず、スクールアイドルを続けるのか?それとも、そこで諦めて、今までの努力を無駄にするのか?

 

 さて、千歌はどちらを選ぶのだろうか?

 全ては今、彼女にかかっている。

 

 

「遼くんは今からランニング?」

「あぁ。曜も一緒に走るか?雨が降りそうだけど、朝のランニングは気持ち良いぞ?」

「うーん、分かった。私も一緒に走る」

 

 

 それで曜はそう言っては、俺と朝のランニングをするために一旦家へと戻っていく。

 正直なところ、曜をランニングに誘ったのは頭に抱えている千歌のことを少し忘れさせたいため。

 曜は何かと色々抱え込んでしまうタイプだから、時たま俺が何かするときには、俺から曜を誘ったりはしている。

 

 でも、それは一時的なものに過ぎない。

 すぐに浮かない顔に戻るからさ、曜も曜で本当の気持ちを話してくれないことが多い。

 後々、あいつもそうなるのか?

 

 

「お待たせ〜!」

 

 

 そんな時、準備を終えて俺のところに戻ってきた曜だったが、俺は彼女の姿に呆然とする。

 

 

「……変えたのは靴だけか?」

「うん。着替えるの面倒くさいし……」

「おいおい。年頃の女の子が言うかそれ……」

 

 

 彼女は服装を一切変えないまま、靴をランニングシューズに変えただけで俺のところに戻ってきた。

 着替えるのが面倒くさいとか、年頃の女子が言うような言葉じゃないと思うけれど、彼女がそういう格好でいいのだったら、好きなようにすれば良いと俺はこの時そう思っていた。

 

 

「まぁいいや。それじゃあ走るぞ?」

「うん!ヨーソロー!」

 

 

 そんで曜のいつもの掛け声のあとで、俺と曜は朝のランニングを始めていく。

 家から車が走る大通りへと出て、そこから永代橋通り、国道414号線と道なりに沿って走って、俺と曜が向かうのは千歌の家がある方向だ。

 

 別に千歌へ会いに行くわけじゃない。

 あくまで朝のランニング。俺が所属してる部活の練習の一環である。

 

 ただ、それよりも……

 

 

「ハァ……ハァ……!」

「……………………」

 

 

 家から曜と走っているわけなのだが、どうも今の曜の様子がおかしいし、いつもの元気もない。

 やっぱり、千歌の事が関係してるのはまず間違いないと思う。特に昨日のことに関してが、何よりも1番に関係しているのは確かだ。

 

 

「朝のランニング、とても気持ちいい!空が晴れてたら、もっと気持ちいいのに……!」

「あぁ、そうだな……」

 

 

 偽りぶった笑みを浮かべながら、朝のランニングを楽しんでいるつもりの曜。

 もうなんか、今の曜は精神的に色々とヤバそうに見える。辛い気持ちを隠して、無理してランニングを一緒に走って……。

 俺が誘ったことがまず悪かったな、これ。

 

 しばし俺は、曜をランニングに誘ったことを後悔しながら走る。千歌のことで思い詰めていた曜を、ランニングに誘うこと自体にね。

 

 

「千歌ちゃん!千歌ちゃ〜ん!」

「んっ……?声が聞こえる」

 

 

 そんな時、曜と2人で走っていてだんだん千歌の家に近づいていくと、微かにながら、千歌の名前を叫んでいる声が聞こえてくる。

 

 

「あれは……梨子ちゃん?」

 

 

 その声は、千歌の家に近づいていくたびに大きくなって、曜の声に連れられて浜辺へと視線を向けると、海に向かって叫ぶ梨子の姿があった。

 そんな梨子の姿を見て俺たち向かわずにはいられなくて、俺も曜も、ランニングを途中でやめて梨子の元へ駆け寄る。

 

 

「梨子ちゃん!」

「あっ、曜ちゃん!遼くん!」

「梨子ちゃん。一体どうしたの?」

「大変、大変なの!」

「り、梨子!ひとまず落ち着け……!」

 

 

 そしたら梨子は、目に涙を浮かべて泣いていた。

 それはまるで、自分の力が頼りなく、大切な友達を救えなかった友人のようだった。

 

 

「一体どうした?何があった?」

「千歌ちゃんが海に向かったのが見えて、私も千歌ちゃんを追いかけてきたんだけど、千歌ちゃんの姿が全然見当たらなくて……」

「えぇ!?」

「おいおい……」

 

 

 梨子曰く、千歌の姿が見当たらないらしい。

 海に向かったと証言し、それでも千歌の姿がないということは、俺たちは今、『最悪の事態 』に直面してしまったのかもしれない。

 俺の言う『最悪の事態』っていうのは、少し簡単な説明になるけどこうなる。

 

 海への投身による、()()

 

 

「まさか、自殺じゃないよな??」

「違う!千歌ちゃんがそんなこと絶対しない!」

「ひとまず、千歌ちゃんを呼びましょう!」

 

 

 俺だって絶対にそれは信じたくない。でも千歌の姿が見当たらない以上には、それを考えてしまうのは仕方のないことだった。

 

 

「千歌ちゃ〜ん!千歌ちゃ〜ん!!」

「千歌ちゃん!千歌ちゃ〜ん!」

「千歌〜!どこだ!?返事しろ〜!!」

 

 

 俺たちはそれから、千歌の名前を呼び続けた。

 薄黒くて、穏やかな海へ向かって、千歌の名前を必死になって何度も何度も呼びかけた。

 

 そしたら俺たちの声に反応してか、千歌が海の中から顔を出す。

 

 

「ぷはっ!あれ?梨子ちゃん?曜ちゃん?遼くん?どうしてみんなここに?」

「……っ!千歌ちゃん!!」

 

 

 俺たち3人がどういう理由でここにいるのか彼女はいざ知らず、俺たちの姿を見た千歌は、首を傾げ疑問の声を呈する。

 こいつもまた昨日の服装のままで、海の中に飛び込んだせいで服がずぶ濡れだ。それにも関わらず、曜は千歌に勢いよく抱きつく。

 

 目に涙を浮かべ、大切な友達が生きていたことに嬉しく思いながらな。

 

 

「良かったっ、良かったよぉ……」

「よ、曜ちゃん?どうして泣いてるの?」

「分からない?私も遼くんも心配してたのよ?」

「あっ。あはは……ごめんなさい……」

 

 

 千歌は泣いて抱きついてる曜の姿と、梨子の分かりやすい説明のおかげで全てを察してくれた。

 彼女は曜を自分の身体から少し離れさせてから、千歌は俺たちに向かって、頭を深く下げて謝った。自分の行動が、ちょっとした誤解を生んでしまったことに、千歌は反省の色を見せていた。

 

 それでちょっとした誤解が打ち解けたあとで、俺は千歌に聞いて当然のような事を尋ねた。

 

 

「それで?どうして海に飛び込んだんだ?」

「えっ?あっ、うん。海に行ったら、なにか見えるのかなって思って。ずっと探してた……」

「こんなに暗い海なのに……?」

「うん。探してみたくなっちゃったんだ」

 

 

 海に飛び込んだ理由。

 多分きっと、千歌はこの前の梨子と同じような事をしたんだと思う。“海の音”を聞きにいった時のように、海に行けば、何か見えるんじゃないかって。

 破天荒というかなんというか、突発的な発想だ。

 

 

「それで、それは見れた?」

「……ううん。何も、何も見えなかった」

 

 

 梨子の質問に、千歌は微笑んで答える。

 今この薄黒い海の中で、何かが見えるはずなんてないのに、千歌の声やその話し方は、いつもの千歌とは思えないくらいに落ち着いていた。

 

 ただその微笑みは、梨子や曜を逆に心配させる。

 2人の表情がそれを物語っていた。

 

 すると千歌は、俺に向かって言い放つ。

 

 

「でもね!遼くん、私決めたよ!“続ける”」

「……………………」

「私、まだ何も見えてないんだって。先にある物がなんなのか。このまま続けても『0』なのか、それとも『1』になるのか、『10』になるのか。ここで止めたら、全部分からないままなんだって……」

「千歌ちゃん……」

「だから私は“続ける”よ!スクールアイドル!」

「……そうかい」

 

 

 千歌の口から発せられた『続ける』という言葉を聞いた俺は、安心して胸を撫で下ろす。

 てっきり『やめる』って言うんじゃないかと一瞬だけドキッとしたけど、彼女のその言葉を聞いて、俺の内心はホッと安堵していた。

 

 

「だってまだ“0”だもん。“0”だもん……」

 

 

 でも千歌の表情は、だんだん暗くなっていく。

 イベントでの得票数が『0』であったことを話に持ち出して、彼女の手は次第に強く握られていく。

 そして一緒に声も少しずつ震えていて、千歌自身も我慢が出来なくなっていることを俺は感じた。

 

 

「あれだけみんなで練習して、みんなで歌を作って衣装も作って、学校のためにPVも作って、頑張って頑張って、みんなに良い歌聞いて欲しいって……、スクールアイドルとして輝きたいって……」

 

 

 自分の思いを口々に重ねていくうちに、千歌の声は掠れて涙声になり、そして…………

 

 

 ドゴッ!

 

 

「……っ!?」

「なのに“0”だったんだよ!()()()じゃん!!」

「千歌ちゃん……」

 

 

 千歌は自分の両手で、自分の頭を強く殴る。

 みんなを明るく引っ張る千歌が、自分の頭を殴るくらいにまで悔しい感情を滲ませている。その行動の意味として、彼女自身の思う気持ちが、俺たちの目に見えるほどに表れていた。

 

 

 ドゴッ!

 

 

「他のスクールアイドルと差が凄いあるとか、昔とは全然違うとか、そんなのどうでもいい!悔しい!やっぱり私、悔しいんだよ……うっ……」

「…………………」

 

 

 千歌はもう一度頭を強く殴って、悔し涙を流して声を上げずに泣いている。

 やっと千歌は、自分の本音を打ち明けてくれた。

 東京のイベントのあとから、千歌は今までずっと我慢してきたと思う。みんなに悔しい姿を見せたくないって、この瞬間までそう思ってきたと思う。

 

 でも、それももう終わりだ。

 俺たちに隠すことも何もない。

 

 悔しいなら悔しいと、思う存分に泣けばいい。

 お前の近くには『喜怒哀楽』を共に共感出来る、大切な()()がいるのだから。

 

 

 ギュッ!

 

 

「……っ!梨子ちゃん、曜ちゃん……」

「良かった。やっと素直になれたね」

「私も、千歌ちゃんが素直になってくれて嬉しい」

 

 

 梨子と曜。2人も目に涙を浮かべて泣いている。

 服や靴が海の水で濡れようとも関係なく、梨子は千歌の背中からギュッと抱きしめ、曜は千歌の横に立ち、手を肩に置いて寄り添っていた。

 

 俺を含め、3人は千歌が素直になってくれたことを心から喜んでいる反面、千歌は涙を拭いながら、俺たちに尋ねるように話をしてくる。

 

 

「だって私が泣いたら、みんな落ち込むでしょ?今まで頑張ってきたのに、せっかくスクールアイドルしてくれてるのに、悲しくなっちゃうでしょ?」

「…………はぁ」

「だから、だからぁ……」

 

 

 千歌の中でも、色々と気にはしていたみたい。

 自分がみんなをスクールアイドルに誘ったから、私が泣いたらいけないとか。私がリーダーだから、みんなを明るくさせなきゃとか。

 

 千歌は千歌なりに、明るく振舞ってみんなを引っ張ろうとしたんだろうけど、結局それは、みんなの心配を煽るようになってしまった。

 こうなったのはもう仕方のないことだ。次からはちゃんと、自分の口から本音とか言うようにすればいい。ただそれだけの話だ。

 

 

「馬鹿ね、千歌ちゃん」

「えっ……?」

 

 

 千歌が涙ながらに言ったことに対して、梨子は『ふふっ』と笑って千歌に話を始める。

 

 

「みんな、千歌ちゃんのためにスクールアイドルをやってるんじゃないの。みんな、自分で決めたの。私も、曜ちゃんも……」

「そうだよ千歌ちゃん。ここにいないけど、ルビィちゃんも花丸ちゃんも善子ちゃんも、みんな自分で決めたんだよ」

 

 

 『Aqours』としてスクールアイドルを始めようと決心したのは、千歌ではなくて誘われた本人。

 それを証言するようにして、梨子と曜は、千歌に笑いかけながら話をする。

 

 

「でも、でも……!」

 

 

 でも千歌は、未だにそれを自分の責任だと思い込んでいるようだったから、仕方なく俺も千歌の元へ歩み寄り、千歌に言葉を投げかける。

 

 

「もういいんだよ、千歌」

「遼、くん……」

「いい加減素直になりやがれ。感じたことや思ったことを声にして、素直にみんなにぶつければそれでいいんだよ、ド阿呆」

「……っ!うっ……うぅ……」

 

 

 大きく怒鳴り散らすことなんてしなくとも、俺の言葉はちゃんと千歌に伝わっている。彼女の頭を優しく撫でれば、千歌はまた大粒の涙を流す。

 今日は仕方ない。こいつには目一杯泣かせてやろうと思った俺は、果南直伝のアレで、千歌を俺の身体へと思いっきり抱き寄せた。

 

 

「ほれ千歌、ハグ」

「……うん」

「千歌ちゃん」

「千歌ちゃん!」

 

 

 千歌が濡れてるとか関係ない。

 俺が千歌を抱き寄せれば、梨子も曜も、左右から千歌に抱きついて静かに涙を流す。

 それで俺や梨子の言葉を聞いたのを最後に、千歌の我慢は、まるでダムが決壊するように崩落した。

 

 

「みんなで一緒に歩こう。一緒に……!」

「全く、心配させやがって、馬鹿野郎……」

「うっ、うぅ、うわあぁぁあん!」

 

 

 声を上げ、千歌は泣く。みんながいつもそばにいてくれることの安心感を認識した千歌は、俺の胸のあたりに顔を埋めて、一緒に泣いてくれる梨子や曜よりも、大きな声で彼女は泣いた。

 

 しばらくそのまま彼女を泣かせ、千歌が泣き止んで落ち着いたところに俺はまた話をする。

 これは彼女に、希望を与えるような言葉だ。

 

 

「なぁ、千歌」

「うん、なに遼くん?」

「今から“0”を『50』とか、『100』とかにするのは無理だとしても、その“0”を、『1』にすることは出来ると思うんだ」

「……っ!」

 

 

 実際、『0』は1番下で底辺に位置する。

 でも『0』というどん底であることは、つまりはもうそれ以上に下がることはないということ。もう彼女たちは、上へのし上がるしかない。

 その上で俺は、千歌たちにまず地道に上へ登っていこうという意味で、その言葉を告げた。

 

 

()』から『()』へ

 

 

 俺の話を聞いていた梨子と曜も、千歌の両隣で『やろう』って話をしていた。

 

 

「私も知りたい!それが出来るのかどうか」

「そうだね!私も知りたい!」

「千歌は、どうする?」

「…………うんっ!!」

 

 

 俺の話に彼女たちは、ほぼ満場一致だった。

 涙を浮かべたまま、千歌は笑って頷く。

 

 やっと千歌は笑った。散々暗い顔をしてみんなを心配させていた彼女に、ようやく笑顔が戻った。

 もう彼女はきっと、みんなの前で悩むことなく、素直に話をしてくれるだろう。自分の気持ちをも、はっきりと言ってくれるはずさ。

 

 そんな俺たちを照らすようにして、雲の隙間から太陽が顔を出す。

 

 

「「「うわぁ〜!!」」」

 

 

 なんか、太陽が千歌たちに『頑張れっ!』とでも言っているかのようだ。

 千歌たち3人はその太陽をじっと見つめて、気持ちを新たに胸に秘めているようだった。

 

 この先、Aqoursがどんな道を辿っていくのかは俺も彼女たちも分からない。ここから飛躍するかもしれないし、また挫折するかもしれない。

 千歌たちみんなが力を合わせ、どんな未来を切り開いていくのか、俺も少しワクワクしてきた。でもまぁ、俺が彼女たちの力になれるように頑張らないといけないけどな……。

 

 

「よ〜しっ!みんなでまた頑張ろう〜!」

「おぉ〜!!」

「お〜っ!」

 

 

 なんの具体性もない、ただ『頑張ろう!』という言葉だけを発した千歌だったが、いつもの明るさと元気を取り戻したせいなのか?はたまた俺の感じ方のせいなのだろうか?

 

 千歌が言った言葉には、希望が溢れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜※※※※〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の放課後、部室

 

 

「これでよしっと!」

 

 

 私は部室にあるホワイトボードに、1枚の用紙を貼り付ける。それは東京のイベントで貰った、投票の結果が書かれている用紙。

 

 30. Aqours …… 0

 

 紙の1番下に、その名前は書かれている。

 私たちにとって、それは一つの悔しさであることはまず間違いない。それは、とても変えられることじゃないけれど、遼くんの言葉があの時の私を助けてくれて、希望をくれた。

 

 

『今から“0”を『50』とか、『100』とかにするのは無理だとしても、その“0”を、『1』にすることは出来ると思うんだ』

 

 

 『0』を『1』にするなら、私たちなら出来そうな気がする。今すぐに出来るわけじゃないけれど、いつしか、出来たらいいなって思う。

 

 でも、そのためには……

 

 

「じゃあ、練習しに行こう!」

「「「「「うんっ!」」」」」

 

 

 みんなで上に行けるように、もっとたくさん練習をしなきゃね!そうしないと、私たちが目指してるラブライブに出られないんだから!

 

 

「ヨーソロー!!」

「頑張ルビィ!!」

 

 

 これから私たちは、『0』から『1』へ向かって走っていく。悔しい気持ちはあるけれど、もうここで立ち止まってなんかいられない。

 憧れている『μ's』みたいになれるように、光り輝く眩しい光に向かって、私たちは、そこへ全力で走って行くんだ!

 

 

 悔しさを乗り越えて、『0』から『1』へ!

 

 

 

 

 

 






ということで、第8話の終了ですっ!
千歌が素直になってみんなに本心を打ち明ける
場面は、1期・2期全部の中でも名場面だなって
個人的に思ってます。

次回はちょっと、第9話の話には入らずに
個人回 or 3人組のどっちかで話を作ろうかな
と考えています。

次回も是非楽しみにしててください!
感想や評価、誤字脱字等、まってます!



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