少年と少女達の輝き目指す物語   作:キャプテンタディー

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どうも、キャプテンタディーです。

今回も前回からの続きとなります。
私情により、前書きが最近適当になってきた。
でも自分、執筆は頑張ります。

是非最後まで見ていってください!
それでは、本編をどうぞ!





#32 知らされる真実

 

 

 

 

 

 学校からあの家に向かうまで、約30分。

 結構遠い道のりだが、俺にとっては朝飯前。後ろに人を乗せたとしても悠々と自転車で行けるくらい、俺にとって余裕な距離なのだ。

 実はあの家に向かうまでに、一度千歌の家の前を通る必要があるのだ。千歌を含め、6人はきっと家で相談をしているだろう。

 

 

「おっ、やってるやってる」

 

 

 家の前を通る時、ちょうど梨子が縁側から部屋の中を覗き込んでる様子が見える。

 きっとペットのシイタケのことを気にしているんだろう。これでも俺、梨子が犬嫌いを知ったのは、ごく最近の話である。曜から話を聞いたのだ。

 都会の人は動物好きとかって思い込んでて、犬が嫌いな人なんてこの街にはあまりいないから、俺からしてみると“意外”の2文字が思い浮かぶ。でもそれも人の個性だから、気にしたら負けなのかも。

 

 

「……頑張れよ」

 

 

 俺はみんなに向かって小さく呟く。

 鞠莉姉に色々言われて落ち込むところもあるだろうけど、あいつに認められるまでやるといい。

 めげずに精一杯やって、それでもダメなら、またみんなで考えればいい。それを繰り返してやっていけば、いずれは認めてくれるだろう。

 鞠莉姉にも、あいつにも……。

 

 

「いやあぁぁぁぁぁあああ!!!」

「ぷふっ…!」

 

 

 そんなことを考えていたら、千歌の家から梨子の虚しい悲鳴が聞こえてくる。それが俺には可笑しくて、俺は思わず笑みをこぼした。

 きっとシイタケとバッタリ会っては、あんな事やこんな事をされて襲われているんだろう。

 ご愁傷様だな、梨子のやつ。

 無事に生きている事を、切に願うよ。

 

 

「梨子、無事でいろよ」

 

 

 そんな映画みたいな台詞を梨子へと呟いた俺は、急いであいつの家へと向かう。

 空は朱色に染まり、夕暮れ時だ。

 だんだん空も暗くなってしまうから、俺は急いで自転車を漕いで行った。

 

 それで千歌の家から自転車を漕いで5分。

 目的の家に、俺は着いた。

 

 

「ふぅ……やっと着いた」

 

 

 ここに来るのは本当に久しぶりだ。

 2年ぶりだな、ダイヤの家に来るのも……。

 

 自転車を止め、目の前に見据えるは木造で作られた大きな門。横には木板に“黒澤”と黒い文字で描かれ、胸の高さで門に引っ掛けられている。

 

 

 ドクンッ

 

 

 不思議な気分だ。

 2年ぶりにダイヤの家にやって来ただけなのに、ダイヤが家にいると考えると、心臓がドキドキして破裂しそうだ。

 ここひとつ、深呼吸……深呼吸……。

 

 

「すぅ……はぁ……」

 

 

 よしっ。行こう!

 何かしらでドキドキしてる時、大きく深呼吸すれば大体は落ち着きを取り戻せる。

 それをこの時でも使い、しっかり身を整えて俺は家の玄関へと向かう。

 部屋の明かりは付いてるな?

 よしっ、ビンゴだ。

 あいつは絶対、家にいる。

 

 

 

 ピンポーン♪ピンポーン♪

 

 

 

 そう思って、玄関のインターホンを鳴らす。

 あいつならきっと俺が家にやって来たことに驚くだろうと考えながら、玄関が開けられるのを目の前でじっと待つ。

 そしてその後の数秒後、閉まっていた玄関の引き戸がゆっくり開けられる。出てくれたのはダイヤかと思っていたが、顔を出したのはダイヤではなく、ダイヤのお母さんだった。

 

 

「はい、どちら様ですか?」

「こんばんは。突然すみません」

「あら?あなたは確か……」

「お久しぶりです。金子さん」

 

 

 名前は、黒澤 金子。

 『かなこ』な?『かねこ』じゃないからな?

 まぁ確かに、世の中にはそんな苗字あるけどな。ってそんなこと話してる場合じゃない。

 

 

「自分、ダイヤの友達の楠神です」

「あらあら!楠神くんじゃない!」

「はい。お久しぶりです!」

 

 

 金子さんは俺に気づいてくれた。

 そのことにホッとする俺は束の間に、家にやってきた用件を金子さんに伝える。

 

 

「金子さん、ダイヤはいますか?」

「いるけれど、ダイヤに何か用でも?」

「はい。少しお話がしたくて……」

 

 

 この時間に家を訪れること自体に関し、金子さんには凄く申し訳ないとは思っている。

 でもダイヤと早く話をしないと、俺の中で何かが手遅れになってしまうような感じがして、どうしてもダイヤと話さずにはいられなかった。

 

 

 “あの時”の話も、ちゃんと聞きたいから。

 

 

 すると金子さんは、俺に対して何も言うこともなく、ダイヤの部屋へと易々と案内してくれた。

 

 

「いいわよ。案内して差し上げますわ」

「あ、ありがとうございます!」

 

 

 和かな笑顔を見せる金子さん。ついそれに見とれてしまい、俺はハッと我に返ったときは、それがとても恥ずかしくて仕方がなかった。

 これは、あいつの前では見せられないな……。

 

 ダイヤの家は、簡単に説明するなら廊下がとても長い。だから玄関から部屋まで距離があるし、何にしろ家の中での移動が大変だと俺は感じている。

 ずっとここに住んでいるダイヤや、ルビィちゃんがそう感じることは、まずないと思うけど……。

 とにかく、ダイヤの家は建物的に広いのだ。

 

 

「さっ、ここです」

「ありがとうございます」

 

 

 それで前を歩いていた金子さんは、とある部屋の途中で立ち止まって俺の振り向きそう話す。どうやら、ダイヤの部屋に着いたみたいだ。

 そのあと金子さんは目の前の襖を少し開けると、そこから中に顔を出し、中にいるであろうダイヤへと声をかけた。

 

 

「ダイヤ、お客様よ」

「お母様。このお時間にですか?」

「えぇ。あなたと話がしたくて来たそうよ」

 

 

 すまないなダイヤ。こんな時間に押しかけて。

 俺は金子さんが気を遣って開けてくれた襖の陰から、中にいるダイヤに姿を現す。

 

 

「よう、ダイヤ」

「えっ!?遼さん!?」

 

 

 俺の姿を見た瞬間、ダイヤは自分の右手を口元に当て、いつものキリッとした表情から、目を見開いて驚きを隠せない表情に移り変わっていた。

 ダイヤとは沼津の砂浜で会ったとき以来の再会。

 会った時期が千歌たちの最初のライブ前だったから、約1月と半月ぶりだ。

 

 

「この時間にすまんな……」

「え……えぇ。大丈夫……ですわ……」

 

 

 ダイヤは動揺している。

 電車の“ダイヤ”が乱れているくらいに動揺してはいないけれど、俺から視線を逸らして、何かを考え込んでいる姿があった。

 

 それで俺が一歩、ダイヤの部屋に足を踏み入れたとき、金子さんはまた俺に気遣ってくれた。

 

 

「それじゃあ、お茶を淹れてくるわね?」

「すみません。ありがとうございます」

 

 

 俺のために、お茶を淹れてくると言ってきた。

 でもそんなに長居するわけにもいかず、本当は話を済ませてすぐ帰ろうと思っていたけど、金子さんにあんな対応されるとすぐには帰れる気がしないが、まぁ、お茶だけ頂いていこうと思う。

 

 金子さんが部屋を後にして姿を消すと、途端に部屋は一気に静かになる。一言に言い表すなら、『無』が当てはまるかもな。

 

 

「砂浜で会った以来だな」

「えぇ。そうですわね」

 

 

 俺の言葉に、ダイヤは素っ気ない声で返す。

 ダイヤは目の前にあるテーブルを正面に、綺麗に正座して座っていたから、俺はダイヤの正面に来るようにあぐらで座り込む。

 ひとまず目的の人物に出会えたことにホッとすると、ダイヤは俺に話を切り出してきた。

 

 

「それで、私に何の用ですの?」

 

 

 口から発せられたのは、俺がダイヤに会いにきた理由だ。そう思うのは当然だ。何も事前に告げることなく、いきなり家に押しかけてきたのだからな。

 そこは、ちゃんと話をしないといけない。

 

 

「聞きたいことがあってここに来た」

「そうですか。では早急に私に質問してください。私はこれから、用事があるので……」

「……わかった」

 

 

 用事。お前にそんな忙しい用事があったか?

 確かにダイヤの家は綱元で、昔から古風な家系。昔は習い事とかであまり遊ぶ機会がなかったダイヤだが、今はそんな風には見えない。

 気品で、綺麗で、大和撫子と呼ぶに相応しい人柄に育ったように俺は見える。だがそんなダイヤが、こんな時間に忙しい用事だと?

 俺の中では色々と考えられることは挙げられる。けど、とりあえず俺は彼女に尋ねた。

 

 

「どうしてダイヤは……ううん、違うな。どうしてお前らは、スクールアイドルをやめた?」

「…………っ!」

 

 

 直球に、超ど直球に彼女に尋ねた。

 これは、俺が2年間ずっと思ってきたことだ。

 

 

「2年前、あんなに楽しそうにやっていたお前たちが、どうしてスクールアイドルをやめた?」

「……………………」

 

 

 2年前、ダイヤはスクールアイドルをしていた。

 鞠莉姉と、果南の3人でな……。

 

 このことについては、ルビィは知っていると勝手に俺は考えている。ダイヤの妹だし、何かしら知っていると思っている。

 ただ、千歌や曜たちは知らないはずだ。ダイヤがスクールアイドルが好きだったと知っても、果南と鞠莉姉が一緒にスクールアイドルをしていたなんて多分考えられないだろう。

 

 

「……………………」

 

 

 それで黙って下に俯き、俺の質問に対して何かを考えていたダイヤは、やっと重い口を開く。

 

 

「あなたに、答える必要はありませんわ」

 

 

 ダイヤはそう言って俺の質問に答えようとせず、俺に対していつもの硬度さが発揮される。

 俺は更にダイヤに問い詰めた。

 

 

「どうしてだよ?」

「あなたには関係のないことだからですわ」

 

 

 だが俺の問い詰めに答える気配もなく、そう言って話をはぐらかそうとするダイヤは、いつも以上に口が硬くなっていた。

 本当に、答える気がないのだろうか?

 

 

「本当に何も、答えてくれないのか?」

「…………………」

 

 

 その質問にも、ダイヤは何も答えない。

 相当に口が硬くなったようだ。昔は質問責めして押せば、大体の質問や悩み事をダイヤは打ち明けてくれたというのに……。

 いつからそんなに、たった1人で何もかもを背負うようになってしまったのだろうか?

 

 ダイヤの背負うものを、俺も背負ってやりたい。

 俺は、ダイヤの助けになってやりたいんだ。

 

 

「俺は、ダイヤの助けになりたい」

「………っ!」

「お前が背負ってる重荷を、俺も背負うよ」

「…………遼さん」

 

 

 その気持ちを、俺は彼女に打ち明ける。

 今日のところはもう遅いし、ここでダイヤが真実を話してくれなければ、俺はもう帰るつもりだ。

 本当に長居するつもりなんてさらさらない。後々に千歌たちに行動がバレたら、色々と面倒なことになりそうだからな……。

 

 でもまぁ……また来るつもりだけどね。

 そんな自分の考えを、頭の中で整理させていた。

 その時だった。

 

 

「はぁ……分かりましたわ」

「……えっ?」

「本当に、あなたにはこの事を話したくはなかったのですが、目の前で私にそんな想いを言われてしまうと、やっぱり私の中では、あなただけは許せるのだと思いますわ……」

 

 

 ダイヤはため息をつき、俺に対してそう話す。

 ただ俺は最初、ダイヤが一体何を話していたのかさっぱり分からなかった。

 ただダイヤが話した事をもう一度自分の頭の中で再生したとき、俺はダイヤが話していた事をやっと理解することができた。

 

 

「話して、くれるのか?」

「さっきも言ったでしょう!ちゃんと話しますわ!果南さんと鞠莉さんとの、2年前のことを……!」

 

 

 丁重にもう一度彼女に尋ねると、ダイヤは目の前のテーブルに身を乗り出し、俺に自分の顔を近づけて鬼気迫るようにそう答える。

 でもあまりにもダイヤの顔が近かったので、俺はダイヤに顔が近いことを告げる。

 その瞬間、ダイヤは顔を赤らめた。

 

 

「ダイヤ、顔が近い……」

「あっ、す、すみません……///」

 

 

 照れているダイヤが凄く可愛い。2年経っても、その照れ顔は相変わらず変わらないようだ。

 俺からしてみれば、その照れ顔をずっと見てみたい気もするが、ここはちょっとばっかし我慢だ。

 また次の機会にダイヤを照れさせよう。

 あっ、これは絶対本人に悟られないようにしないとね。本人に気づかれたら元も子もない。

 

 気づかれたら多分、殺されるかもね。

 しれっと言ってるけど、結構ダイヤは怖いよ?

 

 

「とにかく、早く話してくれよ」

「わ、分かってますわ!」

 

 

 とりあえず俺は、顔が近かったことを未だに照れているダイヤを急かすように声をかける。

 ダイヤは分かった素振りを見せながらも、両手で髪を整えるなり、右手を胸に当てて深呼吸を何度もしたりと、少し忙しい感じが見てとれた。

 それが、今から俺に話すことの前ぶれなのかは知らない。けど、ダイヤから聞かされる事は、心してちゃんと聞かなければならない。

 でないと、ここに来た意味がないからな。

 

 それからダイヤは一つ咳払いをすると、俺に対して胸を張って言い放つ。

 ダイヤに張れる胸なんて、ないのにね……。

 おっと、つい本音が出てしまった。

 

 

「準備はよろしいですか?」

「あぁ、そんなのはとっくに出来てる」

 

 

 俺もダイヤと同じように胡座から正座に体勢を変え、ダイヤの話を聞くように心掛けた。

 

 

「では、話しますわ」

「……うん」

 

 

 そして俺は、ダイヤから発せられる言葉に耳を傾け、2年前の事をこと細かく全てを聞いた。果南と鞠莉姉との3人の間で起きた出来事まで、ダイヤが全部、全てを丸裸にしてくれた。

 その話を聞いた俺は、衝撃を受けた。

 言葉が出ないくらい、凄いくらいにね。

 

 それで同時に、どうしてダイヤがそれを1人で背負い込んでしまったんだろうと、俺は、1人それをずっと考え込んだ。

 俺もその場にいれば、ダイヤが1人で全部背負うことなんてなかったのに……。

 俺は、とんだ大馬鹿野郎だ。

 

 唇を噛み締め、1人俺は悔やんだ。

 3人の間に起きてしまった事に、俺が直ぐさま関われなかった事に対して、俺は、暫くダイヤに申し訳ないと感じていた。

 

 

 ごめんな、ダイヤ、と……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜※※※※〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 30分前、千歌の部屋にて

 

 

「うぅ…シイタケ、いないわよね?」

「大丈夫。シイタケいないよ」

 

 

 襖からキョロキョロと首をしきりに回す梨子ちゃんに、私は安心させるために言葉をかける。

 梨子ちゃんはまだ、シイタケに慣れない。

 それよりか、逆に梨子ちゃんがシイタケを避けるようになった。別にシイタケは、好きで梨子ちゃんを襲ってるわけじゃない。

 

 なかなか、上手くいかないこともあるんだなぁって、私は梨子ちゃんの様子を見てそう感じた。

 

 でも今はそれより、PVを作るのが最優先。

 街や学校が魅力に感じよう、また一からPVを作り始めないといけない。

 それは、善子ちゃんの第一声から始まる。

 

 

「それよりもPV、どうするの?」

「確かに、まだ何にも決まってないずら……」

 

 

 善子ちゃんの話には、部屋の奥のベッド側に座っている花丸ちゃんもネガティブな発言をする。

 実際本当に、何も決まってない。

 PVをどうするか決めるために、千歌ちゃんの家に集まっているのだけれど、いい案は思い浮かばず、みんな苦戦していた。

 

 

「みんな、いらっしゃ〜い!」

 

 

 するとそこへ、志満さんが部屋に顔を出す。

 志満さんの右手にはお盆で、そのお盆の上にはお茶が入った急須と、人数分の湯のみがある。

 

 

「みんなで相談?」

「はい」

 

 

 私は志満さんの質問に答えると、襖の陰にずっと隠れていた梨子ちゃんは、志満さんの邪魔にならないように私の右隣に座る。

 梨子ちゃんのすぐ背後には千歌ちゃんのベッドがあって、千歌ちゃんは家に来てから、ずっと自分の布団に潜っている。

 千歌ちゃん、具合でも悪いのかな?

 さっきまでそんなに具合が悪い顔をしている様子はなかったのに、一体どうしたんだろう?

 

 千歌ちゃんの容態で私はそんな風に考えていた時に、テーブルに急須と人数分の湯のみを置いた志満さんから、ちょっとした注意をされた。

 

 

「別に構わないけど、明日みんな朝早いんだから、今日はあんまり遅くなっちゃだめよ?」

「「「「は〜い!」」」」

 

 

 志満さんの言葉に、私を含め、千歌ちゃんと梨子ちゃんを除く4人が返事をする。

 千歌ちゃんはまだ布団に潜っていて、梨子ちゃんに関しては、志満さんは一体何の話をしているのかと、少々アタフタと困惑していた。

 

 

「ねぇ、明日は何があるの?」

 

 

 その勢いでか、梨子ちゃんは私に尋ねてくる。

 その質問を答えないわけにはいかないから、私は梨子ちゃんの質問に答えようとした。

 

 

「それは、明日の朝早くに……」

「海開きだよ!!」

 

 

 だけどそこへ、思わぬ人物が私の答えを単刀直入に省略し、襖から顔を覗かせながら言い放つ。

 しかもその人物は、私はベッドの布団に潜っているとずっと思っていた人物だった。

 

 

「えへっ…♪」

「「千歌ちゃん!?」」

 

 

 襖から顔を出す千歌ちゃんに、私も梨子ちゃんもびっくり仰天で顔を驚かせる。

 そして、私はすぐに悟った。

 布団にくるまっているのが千歌ちゃんじゃないのなら、一体何が布団にくるまっているのか?

 私は、すぐに理解することが出来た。

 

 

「じゃあ……もしかして……」

 

 

 梨子ちゃんもその事にようやく気づいたようで、顔をカチコチに強ばらせ、恐る恐るとベットの方に振り向く。

 すると何という事でしょう。くるまっている布団がどんどん膨らみ、布団がペロンとめくれ、布団に包まっていたものの正体が明らかになった。

 

 

 

 ワンッ!ワンッ!

 

 

 

 正体は、ペットのシイタケ。

 梨子ちゃんは、私たちが耳を塞いでしまうほどに、とても大きな悲鳴をあげた。

 

 

「いやあぁぁぁああ!」

「「「「「……!!」」」」」

 

 

 もうシイタケは、梨子ちゃんからしてみれば天敵と言える。うん、もう絶対的にそう言える。

 それで梨子ちゃんはというと、シイタケがいるその場から離れようと、熊と出会った時の対処法を梨子ちゃんは試みる。

 

 相手に背中を見せず、ゆっくり離れる。

 

 その対処法を使って、梨子ちゃんは千歌ちゃんの部屋から難なく抜け出せると、私も彼女自身もそう思っていた。

 

 

 けど、千歌ちゃんがそれを邪魔した。

 

 

「それっ!捕まえた!!」

「ち、千歌ちゃん!?」

 

 

 私、渡辺曜は、千歌ちゃんの行動にはびっくりだった。千歌ちゃんがそんな行動をするなんて、全くもって考えてもいなかったから……。

 

 

「千歌ちゃん、離して!いやぁ!」

「こ、こら!暴れちゃダメ!」

 

 

 今の状況を説明すると、簡単に言ってしまえば、千歌ちゃんは梨子ちゃんを背後から捕まえている。

 どう言っていいのか分からないんだけど、なんかプロレス技っぽいんだ。

 背後から梨子ちゃんの腕に両腕を引っ掛け、そこから梨子ちゃんの腕が、肩と平行か上になるように持ち上げる。それで千歌ちゃんががっちりホールドして、梨子ちゃんの肩は動かせなくなり、肘から下の腕部分しか動かせなくなってしまった。

 

 フリーになっている千歌ちゃんの両手は、梨子ちゃんの頭を挟むように捕まえていた。

 梨子ちゃん、ちょっと苦しそう。

 

 

「千歌ちゃん、離してよぉ……」

「ふふ〜ん♪」

 

 

 でも、千歌ちゃんは離さない。

 すると、どういう風の吹き回しなのだろうか?

 

 

「ルビィちゃん!花丸ちゃん!梨子ちゃんの両足、しっかり捕まえといてね!」

「は、はい!」

「分かったずら〜!」

 

 

 ルビィちゃんと花丸ちゃんは、千歌ちゃんの言うことを聞いては、梨子ちゃんの足にしがみつくように捕まえたのだ。

 右足にルビィちゃんで、左足に花丸ちゃん。

 

 

「いや、離してぇ〜!」

 

 

 梨子ちゃんはがむしゃらにもがくも、3人は決して離さない。梨子ちゃんの肢体は、きっちり3人によってホールドされていた。

 

 ていうか、こんな説明をしている私の知らない所で一体何の策を練っていたのだろう?

 ルビィちゃんも、花丸ちゃんもそうだ。

 どうして千歌ちゃんの言うことに素直に従って、どうして善子ちゃんはシイタケに悪魔の耳が付いたカチューシャを身に付けさせているのだろう?

 

 

「フッフッフッ……」

 

 

 そんな事を考えていた私に、善子ちゃんがいつもの堕天使言葉で教えてくれた。

 

 

「さぁ魔獣ケルベロス。我に従い、あそこで怯えるリトルデーモンに、大いなる愛を捧げなさい!」

 

 

 ワンッ!ワンッ!

 

 

「愛っ!?いや、やめて!近づけさせないでっ!」

「…………………」

 

 

 もう私、何がしたいのか分かっちゃった……。

 千歌ちゃんごめん。それはダメだよ。

 それは、一番やっちゃダメなやつ……。

 

 ていうかシイタケは魔獣でケルベロスじゃない。ましてや頭も3つもないから、善子ちゃんの堕天使言葉にはツッコミたいところがいっぱいありすぎて、何を言えばいいか分からないや……。

 

 

 

「曜ちゃん!みんなを止めてっ!」

「…………………」

 

 

 そして梨子ちゃんは、私に助けを請う。

 梨子ちゃん自身も何をされるのか分かったみたいで、若干涙を溜めては私に助けを求めた。

 だけど時すでに遅し。シイタケは既に梨子ちゃんの目の前、梨子ちゃんの足元にいた。尻尾を左右に振って、今にも梨子ちゃんに飛びかかろうと、身をかがめている状態。

 

 もう、全部が遅かったんだ……。

 だから私は、梨子ちゃんにこう告げた。

 

 

「梨子ちゃん、もう無理だよ……」

「…………っ!?」

 

 

 慈悲はある。だけど、ごめんね梨子ちゃん。

 もう私、助けられないや……。

 

 そうした表情で梨子ちゃんに訴えた瞬間に、千歌ちゃんと善子ちゃんは言い放つ。

 

 

「さぁ来て!シイタケ!」

「ケルベロス!行きなさい!」

 

 

 ワンッ!ワウゥ!

 

 

 その声にシイタケは、身をかがめた状態から梨子ちゃんめがけて飛びかかる。

 そして梨子ちゃんは、誰にも助けてもらえないことに対して、虚しい叫びの声を上げたのだった。

 

 

 

「いやあああぁぁぁぁああ!!!」

 

 

 

 

 

 






曜ちゃん、無慈悲。
梨子ちゃん、悲しい結末。
そして遼、一体何があった?

という事で、次回で多分ですが、
第6話分が終わると思います。

次回も是非、お楽しみに!
感想・評価、誤字・脱字等あれば、
よろしくお願いいたします!



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