少年と少女達の輝き目指す物語   作:キャプテンタディー

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どうもキャプテンタディーです。

今回も前回からの続きになります。
この話を含め、この小説は30話に到達です。
有り難や、有り難や。

それでは、本編をどうぞ!!





#30 PVを作ろう!

 

 

 

 

 

 千歌ちゃんの発想で、この内浦の街の魅力を伝える『PV』を作ることになった私たちAqours。

 

 それから次の日、私たちは長浜城跡に来ている。

 理由はもちろん、PVを作成するためである。

 

 

「じゃあここで撮ろうよ!」

「そうだね!」

 

 

 天気は快晴で富士山も見えるし、長浜城跡から見える海もキラキラしてて綺麗だった。

 撮るにはここが最適だと言った千歌ちゃんに対して、私はビデオカメラとサンバイザーを取り出し、カメラマンになりきる。

 

 私、こういうのやってみたかったんだ!

 すると梨子ちゃんが千歌ちゃんに尋ねる。

 

 

「でも、まず最初にどうするの?」

「まず最初に、私たちがこのPVを作った理由を知らせるために、ここでみんなで話をするの!」

 

 

 PVを作るために、まず最初に何をするのかと聞いた梨子ちゃんに対し、千歌ちゃんはそう答える。

 それで千歌ちゃんは、そのあとに何故か善子ちゃんを名前を呼ぶ。

 

 

「それでね、善子ちゃん!」

「ヨハネ!」

「ちょっと来てくれる?」

「むぅ……何よ?」

 

 

 千歌ちゃんと梨子ちゃん、そして善子ちゃんの3人は輪になって何かを話し合っている。

 私から少し離れて、同じように様子を見ていた花丸ちゃんとルビィちゃんも、なんの話をしているのか気になっている様子だった。

 

 

 2分後

 

 

「よしっ!じゃあよろしくね、2人とも!」

「わ、分かったわ……」

「まっ、普通にやれば大丈夫でしょ?」

 

 

 話し合っていた輪は解かれると、千歌ちゃんは2人に期待を込めるような言葉をかけ、梨子ちゃんと善子ちゃんはそんなことを呟く。

 一体何を相談していたんだろうと考えていると、千歌ちゃんが私に近づいてきた。

 

 

「曜ちゃん!」

「千歌ちゃん。今からなにするの?」

 

 

 だからちょうど私はそのことを尋ねたら、千歌ちゃんはフフッと笑みをこぼし、私に話す。

 

 

「今から梨子ちゃんと善子ちゃんの3人で話すんだけど、曜ちゃんのそのビデオカメラで、その様子を撮っておいて欲しいんだ!」

「……あっ、なるほど!そういう事だね!」

 

 

 私は千歌ちゃんの話を聞いて、今から3人でなにをするのか、すぐ理解することが出来た。

 それに気づいた私を見た千歌ちゃんは、嬉しそうに笑い、梨子ちゃんと善子ちゃんに今から始めることを告げる。

 

 

「それじゃあ位置について!」

「「は〜い!」」

 

 

 梨子ちゃんと善子ちゃんは位置に着く。

 千歌ちゃんと梨子ちゃんが私に対して背中を向けて立ち、善子ちゃんはそこからちょっと離れたところに腕を組んで立つ。

 

 そしたら千歌ちゃんは、私に合図を送る。

 

 

「じゃあ曜ちゃん、始めるね!」

「ヨーソロー!いつでもいいよ!」

 

 

 背中を向けながら私にそう言ってきたから、私はビデオカメラの録画ボタンを押して、千歌ちゃんと梨子ちゃんが映るように撮影を始める。

 

 

「じゃあ行くよ〜!3、2、1、はい!」

 

 

 千歌ちゃんは右手を3にして、カウントダウンによる合図によって、PVの作成がスタートした。

 

 

「内浦のいい所?」

「そう!東京と違って、外の人はこの街のこと知らないでしょ?だから、まずこの街のいい所を伝えなきゃって!」

 

 

 滞りなく、作成は続く。

 ビデオを回している間、梨子ちゃんは緊張している様子もない。さっきまで千歌ちゃんとの会話の受け答えに、オドオドしている様子はあったのに……。

 

 

「それでPVを?」

「うん!μ'sもやってたみたいだし、これをネットで公開して、みんなに知ってもらう!」

 

 

 善子ちゃんのぶっきら棒な質問にも、千歌ちゃんは笑顔でそう答えていく。

 だけど次の瞬間、千歌ちゃんは花丸ちゃんとルビィちゃんの元へ行って、2人に話を振ったのだ。

 

 

「というわけで、一つよろしくっ!」

「えっ、えぇ!?」

 

 

 梨子ちゃんと善子ちゃんの3人だけで打ち合わせをしていたから、突然に話を振られた2人はどうしようと慌てていた。

 

 

「いや、マ、マルには無理ず、いや無理……」

 

 

 表情がすごく強ばっている花丸ちゃん。

 ただ花丸ちゃんは慌てている様子を見せたけど、いつもの『ずら』は言うことはなく何とか耐える。

 花丸ちゃんが否定的な言葉を発したら、それを聞いた千歌ちゃんは今度はルビィちゃんに話を振る。

 

 

「じゃあルビィちゃん!」

「ピ、ピギィ……!」

「んっ……?」

 

 

 私はルビィちゃんが映るようビデオカメラを向けた瞬間、ルビィちゃんはビデオカメラに映らないように画面から逃れ、そして、私が直に目で見る一瞬のうちに、姿まで消してしまった。

 

 

「あれ?ルビィちゃん?」

 

 

 その近くにいた千歌ちゃんたちも、ルビィちゃんの行方を知らず、どこ行ったんだろうと心配そうに首を振って探し回る。

 

 するとその時、善子ちゃんが言い放つ。

 

 

「見える!あそこ〜よっ!」

 

 

 左手でいつもの堕天使の手をしては、右手で近くにそびえ立つ大きな木を指差す。

 ルビィちゃんはそこにいると善子ちゃんはそう発言をするものの、ルビィちゃんって木を登れるの?

 あまりそういう事は聞いたことない。ルビィちゃんだったら木を登れなさそうな気がするし、登れたとしても降りられなさそう。

 

 それはまるで、猫みたいに……。

 

 

「違いますぅ〜!べ〜〜っ!」

 

 

 私がそんなことを考えていたら、善子ちゃんの指摘にルビィちゃんが声を上げる。

 ルビィちゃんは、案内板の陰に隠れていた。そしてそこから顔を出し、口から舌を出して『べ〜っ!』って善子ちゃんを煽る。

 

 

「ルビィちゃん、見っけ!」

「ピ、ピギィ〜!」

 

 

 私はビデオカメラをルビィちゃんがいる方向にすぐさま向けたけど、ルビィちゃんは映りたくないのか、また逃げ出してしまう。

 ルビィちゃんはどうやら、ビデオカメラに映るのか嫌いな様子が伺えて、カメラの前で話すのも何だか苦手な様子が伺える。

 

 PVの作成は、少し困難を極めそう。

 

 

「おおっ!なんだかレベルアップしてる!」

「そんなこと言ってる場合!?」

 

 

 千歌ちゃんは私にもよく意味が分からないことを言うと、梨子ちゃんがツッコミを入れて、千歌ちゃんに対して怒る。

 

 本当……大丈夫かなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜※※※※〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 撮影は無事に終えることが出来た。

 けれど、PVを作るための撮影が、こんなに大変だったなんて思わなかった。

 本当に、困難を極めたって感じだった。

 

 内浦から見える富士山は絶景。

 広大に広がる駿河湾はキラキラして綺麗。

 寿太郎のみかんは美味しい。

 

 ただ、内浦の街には……何もない。

 内浦の街は、そこから見える景色はとても良いとは思ってもらえるかもしれない。だけど、内浦の街自体には、変わってどこにも良いところがない。

 

 沼津へと私たちは足を運んで、商店街があって色んなお店がたくさん並んでいると、沼津の街のいいところもたくさん動画に収めた。

 だけど内浦から沼津までは、バスで1時間弱はかかるし、バスの運賃だって500円もかかる。だから交通の便に関しても、内浦という街は、決して良いところとは思って貰えなさそう。

 

 これを鞠莉さんやダイヤさんに見せたら、2人から一体なんて言われるんだろう。

 

 

「はい!お待ちどうさま〜♪」

「ありがとうございます」

 

 

 それで私たちは今、撮影の帰りにみんなで喫茶店の『松月』に立ち寄っている。

 撮影の疲れもあるからと、ここでケーキでも食べて一休みしようっていう、千歌ちゃんの意見でこうなったわけである。

 みんなで頼んだケーキを、店員さんが運んで来てくれるたびに私たちはお礼を言って、お皿に乗せられたケーキを受け取る。

 

 

「こんなに大人数なんて珍しいわね」

「すみません。こんなに大人数で……」

「いいのよ。ごゆっくり!」

 

 

 あまり大人数でお店に来られることがあまりないからと、店員さんも珍しいってすごく驚いていた。

 それでみんなのところにケーキが行き渡ったところで、善子ちゃんがなんでここに来たのかの理由を、千歌ちゃんに尋ねる。

 

 

「どうして喫茶店なのよ?」

 

 

 目の前にある苺のショートケーキをじっと見つめ、その質問をする善子ちゃん。

 その質問に付け加えるように、ルビィちゃんは少し怯え、千歌ちゃんの方に振り向きながら尋ねる。

 

 

「もしかして、この前騒ぎすぎちゃって、家族の人に怒られたりしたんですか?」

 

 

 ルビィちゃんが話したのは、梨子ちゃんがシイタケから逃げてて、千歌ちゃんの家から自分の家のベランダにジャンプして逃げた、あの時の話。

 

 その後で、家族から何か怒られたのではないかって、ルビィちゃんは気になっている様子。

 だけどその質問に対して、千歌ちゃんはフォークでケーキを一刺しにすると、そのケーキを食べようとする直前に、みんなに向かって答える。

 

 

「ううん、違うよ。梨子ちゃんったら酷いんだよ。うちのペットのシイタケがいるから、絶対に私の家には行かないって……」

「ち、違うわよ!行かないとは言ってないわ!ちゃんと繋いでおいてって言ってるだけ!」

 

 

 ペットのシイタケがいるから、絶対に千歌ちゃんの家にはいきたくない。

 犬が苦手な梨子ちゃんなら言いそうな理由だけど、千歌ちゃんが言ったことは間違いだって、梨子ちゃんは慌ててその間違いを訂正する。

 

 そんな梨子ちゃんに、私はペットの話をする。

 

 

「でも梨子ちゃん、ここらへんじゃ、家の中だと放し飼いの人のほうが多いかも……」

「そ、そんなぁ……」

 

 

 大体の家は、ペットは家の中で飼っていることが多い。シイタケもそれは例外じゃない。

 いつもは旅館の正面入り口にある自分の家にいるけれど、結構な回数で家に上がっている時もあるから、大体の家はそんな感じだと説明をする。

 

 その話を聞いていた梨子ちゃんは、ガックリと肩を落とし、“ず〜ん”と落ち込んでうなだれる。

 そして梨子ちゃんの背後には、小さな犬がいた。

 

 

 ワンッ!

 

 

「えっ……!?」

 

 

 鳴き声を聞いた梨子ちゃんは、恐る恐る後ろを振り向く。まるで壊れかけのロボットのようにガクガクと振り向いた先には……

 

 

 キャンキャン!

 

 

 まだ幼い、小さな黒い柴犬がいた。

 

 名前は、ワタちゃん。

 全身ほぼ真っ黒な毛に覆われ、首輪は緑色に風呂敷の模様がついた、とても可愛いオスの柴犬。

 この店の、いわゆるアイドルなんだ。

 

 

「うわぁ!可愛い♪」

 

 

 その犬を見たルビィちゃんは、笑顔で声を上げる。

 ただそれに対して梨子ちゃんは、ワタちゃんを見ては恐怖を抱き、悲鳴の声を上げる。

 

 

「ひいぃ!?」

 

 

 こんなに小さくて可愛いのに、梨子ちゃんは大きさにかかわらず、犬はとても苦手なようだった。

 

 

「こんなに小さいのに!?」

「大きさは関係ないの!その牙!そんなので噛まれたら、ひいぃ〜!」

「噛まないよ。ねぇ〜ワタちゃ〜ん!」

 

 

 ワタちゃんは噛まない。

 そう言い切る千歌ちゃんは、ワタちゃんを持ち上げては名前を呼び、ワタちゃんの顔とでウリウリして楽しそうにしている。

 でもそれを見ていた梨子ちゃんは、未だに怖がりながらも千歌ちゃんに注意を促す。

 

 

「あ、危ないわよ!そんなに顔近づけたら……!」

 

 

 梨子ちゃんはもしかしたら、犬に噛まれたこと原因で犬が嫌いになったのかもしれない。梨子ちゃんの言い方に、私はそう感じた。

 

 すると千歌ちゃんは、ある行動をする。

 

 

「そうだ!ワタちゃんで慣れるといいよ!」

「ひっ……!」

 

 

 そう言って千歌ちゃんは、両手に掴んだワタちゃんを梨子ちゃんの目の前に持っていく。

 千歌ちゃんがそうしたのは、犬に慣れるため。

 ただ目の前で嫌いな犬を見せられている梨子ちゃんの体は、ビクビクと小刻みに揺れ、怯えていた。

 

 その様子を見兼ねたのか、なんとワタちゃんが梨子ちゃんを落ち着かせようと、とある行動に出たのだ。犬にしか出来ない、あの行動……。

 

 

 ペロッ

 

 

 そう……“舐める”ことである。

 

 

「ひぃっ!いやあぁぁぁああ!」

 

 

 でもそれは、梨子ちゃんにとっては逆効果。

 鼻の先端をワタちゃんに舐められた梨子ちゃんは、大声の悲鳴を上げ、お店のトイレに駆け込む。

 

 

「梨子ちゃ〜ん!」

「私のことはいいから!早く続けて!」

「はぁ、しょうがないなぁ……」

 

 

 もうここまで来ると、梨子ちゃんが犬嫌いを克服するには当分時間がかかるかもしれない。最悪、克服できないかもしれない。

 梨子ちゃんには、早く犬嫌いを克服して欲しい。

 

 

「善子ちゃん、出来た?」

「えぇ、簡単にまとめたわ」

 

 

 それで梨子ちゃんがトイレに立て篭もる中で、千歌ちゃんは善子ちゃんに、今日に撮影したPVの編集をお願いさせていた。

 

 簡単にまとめたと、生放送とかでパソコンの扱いが慣れている善子ちゃんは言うけれど、善子ちゃんから出た言葉は、あまり良くない印象だった。

 

 

「だけど、魅力的とは言えないわね…」

「そっか。どうしよう……」

 

 

 善子ちゃんの言葉に、千歌ちゃんは大きくため息をつく。

 それにはルビィちゃんも同じように頭を悩ませては、みんなに向かってボソリと呟く。

 

 

「やっぱり、ここだけじゃ無理なんじゃ……」

 

 

 内浦の街や、沼津の街だけを撮影して、PVを作るなんて無理なんじゃないかと、ルビィちゃんは下に俯きながらそう呟く。

 

 ただ、その瞬間だった。

 

 

「何が無理なんだ?」

「「「「「……!?」」」」」

 

 

 ルビィちゃんが言い放った言葉に反応する声が、店の入り口から聞こえてくる。

 私たちは入り口の方向に一斉に顔を向けると、ここには決して現れないであろう人物がそこにいた。

 

 

「よっ。PVの作成は頑張ってる?」

「遼くん!?」

 

 

 遼くんが現れたことには、千歌ちゃんは驚きの声を上げる。梨子ちゃん以外のその場にいたみんなも、驚きの表情を見せていた。

 もちろん私も、遼くんが来るとは思わなかった。

 

 

「なんでそんなに驚くんだよ?」

「いや、だって、遼くんがここに来るなんて思ってなかったし、それより、どうしてここにみんながいるって分かったの!?」

「……ただの勘だ」

 

 

 ズッテーーン!

 

 

 遼くんの全然まともじゃない理由に、みんなは盛大にその場でずっこける。でもこう見えて、遼くんはちゃんと考えて行動する人。

 千歌ちゃんもそれは知っているから、千歌ちゃんは怒ってもう一度だけ彼に聞いた。

 

 

「嘘つき!そう言って本当はちゃんと分かってるんでしょ!ちゃんと答えなさい!」

「お前は俺の母かよ。まあいい。曜からはPVのことは聞いていたし、撮影の疲れを癒すならここしかないだろうと思っただけさ」

 

 

 遼くんの考えは、ものの見事に当たっていた。

『撮影の疲れを癒すために』喫茶店に立ち寄ったことだって、ものの見事に正解している。

 

 千歌ちゃんは、その答えに呆気に取られいた。

 

 

「なんだ?全部当たってますって顔だな」

「うん。全部当たってます……///」

 

 

 そして自分が怒って、遼くんに尋ねたのが間違っていたと思ったのか、千歌ちゃんは恥ずかしさのあまりに顔を真っ赤に染め上げた。

 

 

「うぅ、なんか恥ずかしくなっちゃったよ…///」

 

 

 千歌ちゃんは遼くんに顔を見られたくないと、その場でしゃがんで縮こまる。その様子がすごく微笑ましく思ったのは、みんなには内緒ね?

 それでそれを見ていた遼くんはため息をついた後、彼は今度はルビィちゃんに話を尋ねた。

 

 

「それで、ルビィちゃん」

「は、はい!?」

「ルビィちゃんが言ってた“無理”って話なんだけど、一体何が“無理”なんだ?」

「あっ、あった、それは……」

 

 

 遼くんがやって来た時、その時は、ちょうどルビィちゃんがあることを話していた時だった。

 

『やっぱり、ここだけじゃ“無理”なんじゃ……』

 

 この言葉をルビィちゃんが発した時、同時に遼くんはやって来た。だから遼くんは、その『無理』という言葉が気になっている様子が分かる。

 遼くんからそう聞かれたルビィちゃんは、視線を遼くんから逸らし、目を泳がせながらどう答えればいいか迷っている。

 

 だけどある方向にルビィちゃんの目が止まった時、ルビィちゃんは視線を遼くんに戻しては、左手である方向へ伸ばして答える。

 

 

「そ、それはですね。善子ちゃんが簡単に編集した映像を見れば分かると思います」

「ちょっと!なんで私に振るのよ!?」

 

 

 ルビィちゃんにご指名を受けた善子ちゃんは、自分に話を振られたことに驚きを見せる。

 でも善子が使っているパソコンには、今の私たちの現状を知るための唯一の答えを持っている。それを察した遼くんは、善子ちゃんに尋ねる。

 

 

「善k……」

「だからヨハネよ!」

「ヨハネは確か、パソコン得意だよな?」

「えぇ。このヨハネなら楽勝よ」

 

 

 遼くんの問いに、余裕綽々と答える善子ちゃん。

 その答えを聞いた遼くんは、パソコンを見せてくれと右手を差し伸ばす。それで善子ちゃんからパソコンを受け取った後、善子ちゃんが簡単に編集してくれたPVの動画を、遼くんは見る。

 

 

「………………………」

「ゴ、ゴクリ……」

 

 

 黙っては何も言わず、じっとパソコンとにらめっこして遼くんは見ているから、その場の雰囲気は張り詰め、千歌は固唾を飲んで遼くんの反応を待つ。

 そして一通り動画を見終えたのか、パソコンをそっと閉じ、何故か両目を瞑る遼くん。

 

 

「ど、どうだった?」

 

 

 千歌ちゃんは、目を瞑る遼くんに感想を聞く。

 遼くんは千歌ちゃんの質問に対して、しばらくの沈黙のあとに動画を感想を話した。

 

 

「あまり、魅力的とは言えないな」

「そ、そっか……」

 

 

 それはあまりにも直球な言葉で、千歌ちゃんの心にグサッと突き刺さる言葉だった。

 下に俯き、酷く落ち込んで項垂れる千歌ちゃん。

 

 すると遼くんは『でも』と続けて、私たちに一つのアドバイスをしてくれた。

 

 

「でも、良いところはある」

「えっ!?本当!?」

「あぁ。ここまで撮影をしているのなら、街の紹介だけじゃなくて、いろんな観光名所とかも撮影した方がいいかもな。その方が、『ここに行きたい!』って思う人もいるだろうしな……」

 

 

 一通りに動画を見て、遼くんは思ったこと、考えたことをそのままアドバイスとして発言する。

 遼くんの動画に対してのアドバイスに、千歌ちゃんは目を輝かせ、折角のアドバイスだと遼くんの話を一生懸命に耳を傾けて聞いている。

 

 このアドバイスは、千歌ちゃんにとっても私たちにとっても、とても参考になるアドバイスだった。

 私たちみんな誰もがそう考えていた時、アドバイスを話し終え、一呼吸をする遼くん。

 

 その時の表情は、少しスッキリした表情だった。

 

 

「どうだ?参考になったか?」

「うんっ!すごく参考になった!ありがとう!」

「どういたしまして」

 

 

 千歌ちゃんも遼くんからのアドバイスが参考になって、ものすごい笑顔を見せていた。

 するとふと外を見た遼くんが、ある事を告げる。

 

 

「あっ、終バス来た」

「えっ!?うそぉ!?」

 

 

 喫茶店『松月』に、終バスがやって来たのだ。

 沼津に住む私と善子ちゃんは、急いで帰る支度をしていると、遼くんが私にこう言ってきた。

 

 

「曜、自転車乗ってくか?」

「えっ?いいの?」

 

 

 遼くんはいつもの如く私を後ろに乗せ、2人乗りで家に帰ろうと言い出す。

 

 本当なら、私は終バスで帰るつもりだった。

 だけど、遼くんとはお隣同士だし、よく2人乗りで自転車に乗っていたから、私は迷った挙句、遼くんの言葉に甘えることにした。

 

 

「じゃあ、お言葉に甘えるよ」

「うん、よしきた」

 

 

 遼くんは私の言葉にうんと頷き、両手に持っていたパソコンを善子ちゃん本人に手渡して返す。

 それから遼くんは、私に言った。

 

 

「じゃあ、日が暮れる前に帰ろうぜ!」

「……っ!うん!」

 

 

 日が暮れる前に家に帰る。

 その言葉を笑顔で言った時、私の心のどこかで、『トクン』という胸を打つような衝撃に駆られた。

 

 それがどういう事なのか?

 私は未だに分からなかった。

 

 

「もう〜!自転車なんて卑怯〜!」

「じゃあな善子!また明日な!」

「だからヨハネだってば〜!」

 

 

 終バスに乗る善子ちゃんは、いつまでも遼くんから弄られながら、終バスに乗って帰っていく。

 

 

「あぁ!私も帰らなきゃ!」

「ふひぃひゃん(ルビィちゃん)!?」

「花丸ちゃん、お口に餡子付いてるよ!」

 

 

 そしてルビィちゃんも、ダイヤさんから言われてた約束を守るため、どら焼きを食べている花丸ちゃんを連れて、急ぐように帰っていった。

 

 

「よしっ、俺らも帰るか!」

「ヨーソロー!」

 

 

 それでルビィちゃんと花丸ちゃんが帰っていったのを見送った後、遼くんは帰ろうって言ってくる。

 自転車に跨って私を待っている遼くんを待たせて、私は千歌ちゃんと、トイレに未だに隠れている梨子ちゃんに別れの挨拶をした。

 

 

「じゃあ千歌ちゃん、梨子ちゃん、また明日!」

「うん!曜ちゃんまた明日!」

 

 

 手を振って見送ってくれる千歌ちゃんを背に、私は遼くんの自転車に跨って乗る。

 

 

「準備はオッケーだな?」

「うん!準備万端だよ!」

 

 

 遼くんの問いかけに私はそう答えると、遼くんは沼津へと自転車を漕ぎ始める。

 

 そして彼は、千歌ちゃんに言い放った。

 

 

「じゃあ千歌、頑張れよ!」

「千歌ちゃん、また明日〜!」

「うん!また明日〜!」

 

 

 私も千歌ちゃんに『また明日』と告げ、私は遼くんの自転車に乗って、家に帰るのであった。

 

 結局、何も決まらなかったなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜※※※※〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜千歌 side〜

 

 

 みんなが家に帰っていった後、喫茶店に残っていたのは私と梨子ちゃんの2人だけ。

 海の水平線に沈む夕陽を、私はじっと眺めていた。

 

 

「意外と難しいんだな。いい所を伝えるのって…」

 

 

 結局のところ、PVを作成したのはいいけど、遼くんにあんなことを言われちゃうと、全然ことが進んでいないことが身に染みて分かった。

 

 それに、とても難しいと感じた。

 PVを作って人に見せるなんて簡単で、そのPVにどれだけ街の魅力を伝えられるかは分かっていたけれど、私は、本当にPVを作るのが難しいと感じた。

 そんな私の気持ちを聞いていた梨子ちゃんは、やっとトイレから出てきて話し出す。

 

 

「住めば都よ。住んでみないと、分からない良さもたくさんあると思うし……」

「うん、そうだね……」

 

 

 住んでみないと分からないこともある。

 そんな優しい口調でポジティブに話してくれる梨子ちゃんに、対して私は、ネガティヴな発言をする。

 

 

「でも学校がなくなっちゃったら、こういう楽しい毎日も、なくなっちゃうんだよね……」

「えぇ、そうね……」

 

 

 本当はなくなって欲しくない。

 曜ちゃんに梨子ちゃん、ルビィちゃんに花丸ちゃんに善子ちゃん。みんなと楽しい毎日を過ごしていた日々がなくなってしまうのが、私は凄く嫌だった。

 

 スクールアイドルを始めて、2人から3人、3人から6人とメンバーが増えていって、そこから生まれる楽しいことを私はたくさんやりたい。

 

 だからこそ、私たちAqoursが、スクールアイドルを頑張らないといけない気がした。

 

 うん、そうしないといけない気がした。

 

 

「スクールアイドル、頑張らなきゃ!」

「ふふっ、今更?」

 

 

 そう意気込む私を、不意に笑う梨子ちゃん。

 今更って、私そんなに頑張ってないかなぁ?私なりに頑張っていると思うけどなぁ……。

 

 まぁ、いっか!

 今やっと、私も気づいたことがあるし……。

 

 

「だよね。でも、今気がついた。この学校は、なくなっちゃだめだって……!」

 

 

 今までスクールアイドルをガムシャラにやってきたけど、こうしてPVを作って、学校や街の魅力を伝えなきゃって思った時、私は知ることができた。

 

 自分の中に秘めていた、学校に対する思い。

 今まで無自覚だったこの思い。

 そんな思いを、背後にいる梨子ちゃんに振り返り、私はその思いを彼女に向かってぶつけた。

 

 

「私、この学校好きなんだ……!」

「…………うん!」

 

 

 この気持ちは、間違いはないと思う。

 学校がなくなって欲しくないという思い。

 

 梨子ちゃんも私の言葉を耳にすると、梨子ちゃんは笑顔になってそう答える。

 梨子ちゃんも同じ思い。

 だから絶対、学校を廃校にしたくないと思った。

 

 

 大切な仲間と、楽しい時間を守るために……

 

 

 〜千歌 side out〜

 

 

 

 

 






曜ちゃんと自転車2人乗りしたい人生だった。
↑↑↑(違うそうじゃない)

ワタちゃん可愛い。だがそこ代われ。
↑↑↑(違うそうじゃない)

※上記は自分が書いて思ったことです。分かれ。
※作者はようちか推し。察して。

ということで、次回も続きになります。
次回も楽しみにしててください!
感想・評価、誤字・脱字等、お待ちしてます。



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