少年と少女達の輝き目指す物語   作:キャプテンタディー

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どうも、キャプテンタディーです。

今回でサンシャインの第5話、善子ちゃんが
Aqoursに加わるお話が終わります。

もう5話目も終わる……のか。
はい、前置きはもうこれでおしまいです!

それでは、本編をどうぞ!





#26 ありのままの自分で

 

 

 

 

 

ダイヤさんにきつい言葉をぶつけられた私たちは、沈む夕陽に照らされながら、海の堤防に背中合わせで座っていた。

 

 

「失敗したなぁ……」

 

 

千歌ちゃんはため息混じりにそう呟く。

 

ダイヤさんから言われたことが、千歌ちゃんの心の中で相当に堪えてしまったのだろう。

 

もちろん私も、順位が一瞬で3桁から4桁まで落ちていたのが心許なくて、とてもショックを受けた。

 

でも、それが現実なんだって改めて思った。

 

 

「確かにダイヤさんの言う通りだよ。こんなことでμ’sみたいになりたいだなんて、失礼だよね……」

 

 

体育座りで縮こまり、ダイヤさんの言葉に私以上にショックを受けている千歌ちゃんは、溜息を吐きながらそう呟く。

 

μ’sみたいになりたいと思っている千歌ちゃんは、とても深く反省していた。

 

 

「ち…千歌さんが悪いわけじゃないです!」

 

 

だけどルビィちゃんが千歌ちゃんを励ますように、千歌ちゃんが悪くないという風に声をかける。

 

自分自身がやっていたことがダイヤさんにバレて、それで怒られてしまったのだからと、ルビィちゃんは千歌ちゃんを励ます声をかける。

 

それは、善子ちゃんも同じだった。

 

 

「そうよ……」

「「「「「えっ?」」」」」

 

 

ただ、その“同じ”という意味が、ルビィちゃんから発せられたことの話とは別物だった。

 

 

「いけなかったのは、私の“堕天使”よ」

「えっ?」

 

 

まるで…自分を責めてるような口調。

 

千歌ちゃん…いや、私たちみんなで堕天使アイドルをしようってなった原因は、全て自分にあるという口調の善子ちゃん。

 

その善子ちゃんは、縮こまって話す。

 

自分の……改めて感じたことを呟いた。

 

 

「やっばり…高校生にもなっても通じないよ」

「違う!それは違うよ善子ちゃ……」

「いいの!」

「…っ!善子…ちゃん……」

 

 

千歌ちゃんは善子ちゃんの言葉を否定する。けど、善子ちゃんはその否定を拒絶するように叫ぶ。

 

もうしたくない。もうそもそも、堕天使ヨハネなんて存在するはずなんてないって…!

 

心から湧き上がる、善子ちゃんの悲しい叫び。

 

 

「…………………」

 

 

その背中を、私は支えてあげられなかった。

 

 

「よいしょ……っと…」

 

 

それから善子ちゃんは立ち上がり、背伸びをする。

 

そして私たちに見向きもせず、何故かスッキリしたような声を出して、夕暮れの空を見上げながらボソッと呟いた。

 

 

「なんか、スッキリした。明日から今度こそ、“普通の高校生”になれそう」

「じ…じゃあ、スクールアイドルは?」

 

 

その話に、ルビィちゃんは不安げに尋ねる。

 

でも善子ちゃんはルビィちゃんに顔を一切向けず、『う〜ん』と考えたのちに、ルビィちゃんの質問に否定するように答えた。

 

 

「やめとく。迷惑かけそうだし……」

「善子ちゃん……」

 

 

心配そうに善子ちゃんの名を呼ぶ花丸ちゃん。

 

でも善子ちゃんは振り返ることもなく、私たち5人に別れの挨拶を告げた。

 

 

「じゃあ…ね?」

 

 

そう言って背を向けて、善子ちゃんは歩く。

 

それで2、3歩と歩いたとき、善子ちゃんは私たちに振り向いて話し出す。

 

それは、堕天使に付き合ってくれたお礼だった。

 

 

「少しの間だったけど、堕天使に付き合ってくれてありがとね。楽しかったよ!」

「「「「「………………」」」」」

 

 

善子ちゃんがようやくこっち振り向き、私たち5人に見せた顔は楽しかったという笑顔の顔。

 

そしてその後にまた背中を向け、善子ちゃんは足早に歩き出す。寂しさが思い募る背中を見せながら、善子ちゃんは姿を消してしまった。

 

 

「どうして…“堕天使”だったんだろう?」

 

 

善子ちゃんがいなくなり、海のさざ波の音しか聞こえないこの場で、梨子ちゃんはそんな疑問を抱く。

 

それは私を含め、花丸ちゃん以外のみんながずっと思っていたことで……。

 

 

「マル……分かる気がします」

「えっ…?」

 

 

善子ちゃんが堕天使であることの真実を、幼稚園の頃から知っている花丸ちゃんが教えてくれた。

 

 

「ずっと、“普通”だったんだと思うんです」

「堕天使が…“普通”だった?」

「はい」

 

 

善子ちゃんは、“堕天使ヨハネ”があって普通なんだと花丸ちゃんはそう話す。

 

でも、それが他人から蔑まされている原因で、普通になりたかった善子ちゃんは、普通になりたくてもなれなかった。

 

だから花丸ちゃんは、善子ちゃんにとっての普通というのは堕天使ヨハネであることなんだって、花丸ちゃんは下に俯きながら話す。

 

 

「私たちと同じで、あまり目立たなくて、そういうとき思いませんか?これが…“本当の自分”なのかなぁって……」

「本当の…自分……」

「元々は天使みたいにキラキラしてて、何かの弾みでこうなっちゃってるんじゃないかって……」

 

 

花丸ちゃんの話を聞いていると、善子ちゃんは多分堕天使ヨハネという存在が、本当の自分を見失っているような、そういう考えが思い当たってくる。

 

それを考えたら、善子ちゃんがずっと普通になりたいって言っていることが、何となく分かる。

 

すると花丸ちゃんは、夕暮れの空を飛び行くカモメを見ながら、幼稚園の頃の善子ちゃんのことを少しばかり話してくれた。

 

でもそれが、今の善子ちゃんに繋がっているんだって思うくらい、花丸ちゃんの話ははっきりしているものだった。

 

 

「幼稚園の頃の善子ちゃんは、いつもこう言ってたんです。『私、本当は天使なの!いつか羽が生えて天に帰るんだ!』って……」

「善子ちゃんが、そんな事を……」

 

 

今の善子ちゃんは、その時からああだったみたい。

 

その時の善子ちゃんは自分を天使と思い込んでいるけれど、花丸ちゃんの言う通り、何かの弾みがあって“堕天使ヨハネ”になってしまった。

 

そう考えたとき、千歌ちゃんは言う。

 

 

「だったら、善子ちゃんを助けようよ」

「「「えっ?」」」

 

 

千歌ちゃんは立ち上がり、私たちに言葉を投げかける。善子ちゃんを…私たちの手で救おうってね。

 

 

「善子ちゃんは、堕天使ヨハネがあって善子ちゃんなんだよね?だったらそれが、善子ちゃんなんだよ。それが、ありのままの善子ちゃんなんだよ!」

 

 

花丸ちゃんの話を聞いていて、千歌ちゃんはそんな答えを見つけた。それは、私も同じ答え。

 

ううん…みんなも同じ答えだった。

 

 

「そうね。それが…善子ちゃんの本当の自分なのかも。たまに変なこと言ったりするけど……」

「はいっ!確かにそれが、善子ちゃんなのかも!」

 

 

梨子ちゃんもルビィちゃんも、千歌ちゃんが話したことと同じ意見を述べて賛同する。花丸ちゃんも、それに笑顔を見せながら話す。

 

 

「マルもそう思うずら。ここまできちゃうと、逆にそれが善子ちゃんらしいんだって思うずら!」

 

 

花丸ちゃんも同じことを考えていた。

 

 

「曜ちゃんは?」

「あはは、ここで聞いちゃう?」

 

 

そしたら千歌ちゃんは、私に尋ねてくる。

 

でもそれって、野暮なんじゃない?

 

 

「私もみんなと一緒だよ!」

「よ〜しっ!満場一致だね!」

 

 

私は千歌ちゃんにそうとだけ話すと、千歌ちゃんは笑顔を見せては両手を拳にし、そのままオレンジ色の空に向かって突き上げる。

 

それから千歌ちゃんは、私たちにいきなりとんでもないことを言いだしてきた。

 

 

「それじゃあ、善子ちゃんを探そう!」

「「「「えぇ〜〜!?」」」」

 

 

突然すぎるその言葉に、私たちは声を上げられずにはいられないのであった。

 

本当…いきなり過ぎだよ千歌ちゃん……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜※※※※〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…疲れた疲れた……」

 

 

今日も部活の激しい練習が終わり、俺は部室で練習着から制服にせっせと着替える。

 

 

「おいくっすん!今日ラーメン食ってこうぜ!」

 

 

そんな時、同じ部でクラスメイトの高城からラーメンを食べに行こうぜと声をかけられる。

 

だが俺は今日はそんな気分じゃなく、さっさと家に帰りたい気分だったから、高城の誘いには今日はお断りさせてもらった。

 

 

「悪りぃ!今日はお断りさせてもらうわ!」

「オッケー!次はちゃんと付き合えよ!」

「分かってるよ!それじゃあ、またな!」

「おう!またなくっすん!」

 

 

高城と別れの挨拶をした後、別の部室で談笑している先輩たちにも挨拶をし、俺はさっさと帰るために部室を飛び出す。

 

因みに、高城から言われている“くっすん”っていう前名は、俺の“楠神”の苗字から出来たあだ名だ。

 

高一の時からあいつに言われててな、そのせいでそのあだ名が定着してしまって、同期からも先輩からもそう呼ばれている。

 

嫌ではないが、他のあだ名を作っておけば良かったと、俺は心の奥底でちょっと後悔していた。

 

 

カシャカシャカシャカシャ!

 

 

いつも家から自転車で通っている俺は、夕日を背にして自転車を漕ぎ、学校を出る。

 

学校から家に帰るまでは、約20分かかる。

 

それまでの通学路は必ず沼津駅の前を通り、それから沿岸に沿って帰るのが俺のいつもの通学路。

 

 

「〜〜〜〜♪」

 

 

この間に千歌たちが歌っていた、『ダイスキだったらダイジョウブ』っていう曲を鼻歌に、俺は普段と変わらずに自転車を漕いでいた。

 

 

ただ、今日はなんか違った。

 

 

その理由は、俺の目に映った少女の姿にある。

 

 

「これでいいのよ……これで……」

 

 

彼女と俺がいるのは、海に合流する大きな川がある住宅街であり、道路を跨いで反対側には、とても大きな海の堤防がある。

 

声が小さくて何を言っているのか分からないが、俺にはその子を放ってはおけなかった。

 

彼女は海の堤防に体育座りをして、小さくうずくまっている。俺はその子の近くに自転車を止め、彼女にゆっくりと近づきながら彼女を観察した。

 

体育座りだから体格とかはいまいちピンとは来ないが、彼女が着ているのは間違いなく浦女の制服で、胸のリボンの色が黄色。

 

そして何よりも彼女の特徴のして印象に残ったのは、頭の右側にお団子ヘアをしていること。

 

それを見たときに俺は、彼女は“あの子”だってことがすぐに分かった。

 

 

「あ…あの、君」

「………っ!」

 

 

俺は彼女に声をかけると、その子は頭を上げてこちらを見るや、驚いた表情を見せる。

 

いきなり知らない人から声をかけられたと思っている彼女は、体育座りの体勢を崩しつつ、俺に警戒心を抱きながら尋ねてくる。

 

 

「い…いきなり何ですか?あなた誰です?」

「あまり警戒したり、怖がらなくていい。俺は君を知っている子の友達だよ」

 

 

俺は彼女の警戒心を解くべく、その子に対して優しく声をかける。名前を伏せるのもあれだけど、本当かどうか分からないから一応の処置ね。

 

 

「君は、津島 善子ちゃんだよね?」

「えっ!?何で私の名前を知ってるのよ!?」

 

 

だが、名前を言ったらその反応。

 

どうやらビンゴだったようだ。

 

とりあえず俺は、初対面の善子ちゃんの名前をなぜ知っているのか理由を話す。

 

 

「君の友達の花丸ちゃんから聞いた。ていうか俺は、Aqoursっていうスクールアイドルのちょっとしたお手伝いをしている」

「あっ、そう…なのね……」

 

 

“Aqours”って単語を出した途端、彼女はすんなりと理解してくれた。警戒心も解け、胸をなでおろすように小さく息を吐いた。

 

すると善子ちゃんから、ある事を尋ねられる。

 

 

「ていうか、何で私の住んでる場所を知っているの?まさか…ずら丸に聞いたんじゃないわよね?」

「…………えっ?」

 

 

聞かれたのは、善子ちゃんの住んでいる場所をなぜ知っているのかということ。

 

ていうか俺、たまたま善子ちゃんを見つけたからたまたま声をかけただけで、ていうか善子ちゃんの住んでる場所なんか知らないし。

 

でも善子ちゃんが言うには、ここの近くにこの子は住んでいるということが分かった。

 

てか“ずら丸”って誰?あっ、花丸ちゃんか…。

 

 

「待て待て!俺は君に声をかけたのは、君がすごく悲しんでいる顔をしていたからだ!」

「…………っ!」

 

 

とりあえずまず、俺は誤解を解く。

 

俺が善子ちゃんに話しかけた理由を、単純で分かりやすく、強い口調で説明をした。

 

そしたら善子ちゃんは、また体育座りをする。

 

 

「私、普通になるんです」

「へっ?ふ…普通?」

 

 

そして突然、善子ちゃんは変なことを呟いた。

 

善子ちゃんは確か、自分を“堕天使ヨハネ”と謳っていて、パソコンとかでも生放送をしているって花丸ちゃんから聞いた。

 

でも普通って…一体なんの普通なんだ?

 

 

「普通って…なんの?」

「普通は普通よ!私はなんの変哲もない、一般的で普通な女子高生になりたいの!もう堕天使ヨハネとか、そんなものはもういらないの!」

 

 

あぁ…なるほどね。

 

 

「堕天使ヨハネとか、ルシファーとか、元々そんなものは存在なんかしないんだし、周りのみんなから蔑まされるだけ……」

 

 

花丸ちゃんから少し話は聞いていたけれど、相当に重症みたいだね。彼女の様子でよく分かる。

 

堕天使ヨハネという存在が、善子ちゃんにとっては不必要で、その堕天使を忘れて普通の女子高校生になるというのが、善子ちゃんの願い。

 

ただ、どうしても堕天使ヨハネが出てきてしまう事から、彼女はとても苦しんでいた。

 

 

「どうしても、普通になりたい?」

「勿論よ!明日には堕天使グッズはパンドラの箱に封印して、永久の彼方に消滅させるの!」

「善子ちゃん、堕天使出てる」

「ハッ…!?またやってしまった……」

 

 

俺は善子ちゃんの隣に座り、彼女の話を聞く。

 

パンドラの箱、きっとダンボール箱。

 

永久の彼方に消滅させる。つまり捨てること。

 

それをわざわざ堕天使っぽくして難しく言うあたりでは、絶対に普通にはなれない。

 

じゃあどうすればいいか?答えは簡単。

 

 

「一層のこと、そのままがいいよ」

 

 

変わらずに、ありのままの自分を大切にすべきだ。それが、きっと善子ちゃんの個性なのだ。

 

だが、善子ちゃんはそれを許さない。

 

 

「嫌よ!このまま堕天使を背負うなんて……」

「だって、今さっき出てただろ?」

「うっ……」

 

 

でも俺はそう話すと、善子ちゃんは返す言葉が思いつかず、口を噤んでしまう。

 

 

普通になりたいって口だけならなんとでも言える。だが口で言ったとしても、行動で堕天使が出てきてしまえば元も子もないのだ。

 

 

「お前、堕天使好きなんだろ?」

「なっ!私は別に……」

「堕天使出ちゃうんだろ?『堕天、降臨!』って、ついポーズして言っちゃうんだろ?」

 

 

俺はそう言えば、善子ちゃんは強がる。

 

ただその後には何も言わず、ずっと口を塞ぐように閉じている善子ちゃん。きっと俺の話を聞いて、さっきまでの考えが崩れているんだろう。

 

私はやっぱり…堕天使でいいのかなって……。

 

だから俺は、あと一押しに言葉を投げかける。

 

 

「だったら、善子ちゃんはそのままがいいよ。自分の好きなものは大切にして、ありのままの自分を、みんなに見せればいいんだ」

「…………………」

 

 

ありのままの自分。

 

 

即ち、堕天使ヨハネの魅力を見てくれているみんなに見せびらかし、それが私が1番好きなものだってことを、みんなに分かってもらえればいい。

 

たった、それだけの話なのだ。

 

 

「本当に…それで分かってもらえるかしら?」

「あぁ。善子ちゃんなら大丈夫さ」

「………っ///」

 

 

俺が返したその言葉に、善子ちゃんの顔は夕陽に当たっているせいか、真っ赤に染まっていた。

 

そしてそれが、善子ちゃんにとって“嬉しい”という喜び溢れる感情であることが、そのときの俺はまだ知るよしもなかった。

 

 

 

そんな時……

 

 

 

「善子ちゃ〜〜〜ん!」

「んっ……?」

 

 

どこからか小さい声で、善子ちゃんを呼んでいる声が聞こえてくる。

 

するとその声はだんだんと大きくなってきて、俺はふと声がした右側に顔を向けると、ちょうど千歌、曜、梨子、花丸、ルビィの5人の姿があった。

 

 

「あれ?千歌たちじゃん」

「あれ!?遼くん!?」

 

 

千歌が最初に俺のことを発見すると、彼女たちは凄く驚いた様子を見せ、どうして俺と善子ちゃんが一緒にいるのかと、千歌が尋ねてくる。

 

 

「遼くん!?どうして善子ちゃんと?」

「この子、堕天使のことで少ししょんぼりしててな。俺が話に付き合ってたんだ」

 

 

とりあえずあまり話を拗らせると、変なことに思わされがちになるから、俺は出来るだけ簡単に、彼女たちに対して何をしていたのか説明をした。

 

それで千歌たちは納得し、逆に今度は俺が彼女たちになぜここに来たのかを尋ねる。

 

 

「んで?千歌たちは何の用なんだ?」

「私たちはね、善子ちゃんを…Aqoursのメンバーにするために来たんだよ」

「えっ!?私を…Aqoursに…!?」

 

 

すると千歌の答えに、善子は後退りする。

 

それで千歌たちは善子ちゃんの前に横並びになって立ち、千歌が一歩前に出て笑顔で話し出す。

 

 

「善子ちゃん、ううん、堕天使ヨハネちゃん!」

「な…何よ?」

「スクールアイドルに入ってください!私たちAqoursに!堕天使ヨハネとして!」

 

 

その話は、善子ちゃんをAqoursに勧誘する言葉。

 

そして千歌の言い放った言葉は、俺がさっき善子ちゃんに話した事と同じようなものだった。

 

 

「何言ってるの?話したでしょ?私はもう……」

「いいんだよ!堕天使で!善子ちゃんが好きなら、それでいいんだよ!」

 

 

ほら……ね?

 

千歌も、並んでいるみんなも、善子ちゃんはありのままの自分で良いんだと訴えていた。

 

 

「生徒会長にも怒られたでしょ!」

「それは私たちが悪かったんだよ。だから善子ちゃんはいいんだよ!そのまんまで!」

 

 

ダイヤといざこざが、またあったのかなんてことはいざ知らず、俺は彼女たちのやり取りを、そばからじっと見守っていた。

 

善子ちゃんのためにも…俺はそばいた。

 

 

「私ね!μ'sがどうして伝説を作れたのか、どうしてスクールアイドルがそこまで繋がっているのか、考えてみて分かったんだ!それはステージの上で、自分の好きを迷わずに見せることなんだよ!」

 

 

それから千歌は、憧れのμ’sの話を持ちかける。

 

見てくれている人に、自分の好きなもの…ことを見せる。それが、μ’sが伝説を作った所以であると、千歌は説明をする。

 

 

「お客さんにどう思われるかとか、人気がどうとかじゃない!自分が一番好きな姿を、輝いてる姿を見せることなんだよ!」

 

 

お客さんから不評とか言われてしまうのではないかという恐怖とか、人気が落ちてしまうとかそれ以前に、千歌は好きな姿を…輝いている姿を見せることが大事なんだと、善子ちゃんに説明をする。

 

それは善子ちゃんに対し、ありのままの自分を大事にしてと訴えているように俺は聞こえた。

 

善子ちゃんも、少なからず思ってるはず……。

 

そして千歌は、善子ちゃんに言い放った。

 

 

「だから善子ちゃんは捨てじゃだめなんだよ!自分が、堕天使を好きな限り!」

「………っ!」

 

 

真っ直ぐに、善子ちゃんに思いを乗せて。

 

その言葉を聞いた善子ちゃんは右手を胸に当てて、ギュッと制服を握り締める。

 

善子ちゃんの表情には、迷いがある。

 

 

堕天使ヨハネとして生きるか?普通に生きるか?

 

 

その迷いが生じている心を解き放ってやるしかないと思った俺は、善子ちゃんの背中に周り込み、両肩をポンっと置いて彼女に話をしたのである。

 

 

「こうやって君のことを許してくれる仲間がいるんだ。だから、もうそうやって自分を苦しめるのは、もう止めよう?」

「………………はい」

 

 

そして俺の話を聞いたあとに、善子ちゃんはとうとう屈するのであった。

 

普通になるのを諦め、“堕天使ヨハネ”として自分を大事にするという、そう決心する声を上げる。

 

その言葉を聞いた俺は、ホッと一安心したのち、彼女の背中を軽く押して上げる。

 

 

「じゃあ、ほれ!」

「わっ……!」

 

 

驚いた彼女は、思わず怒って膨れっ面で俺を見てくる。だが俺は、その表情に笑顔で返す。そしたら、彼女も笑顔になった。

 

善子ちゃんはそれから千歌たちに顔を向け、ちょっとしたやり取りが繰り広げられた。

 

 

「本当にいいの?変なこと言うわよ?」

「いいよ!」

「時々、儀式とかするかもよ?」

「そのくらい我慢するわ!」

「リトルデーモンになれって言うかもよ?」

「嫌だったら、嫌だって言うから!」

 

 

ただもう千歌たちも、善子ちゃんに心を許していた。善子ちゃんのいかなる質問にも大丈夫と、彼女をAqoursとして歓迎していた。

 

もちろん、俺も大歓迎だけどね。

 

 

「だから改めて言うね!善…堕天使ヨハネちゃん、Aqoursに入ってください!」

 

 

千歌がそう言ったあと、少しの沈黙が流れる。

 

が、その沈黙はすぐに破られた。

 

 

「はい!よろしくお願いします!」

「やったぁ〜!」

 

 

Aqoursのメンバーになるとそう告げた善子ちゃんの言葉に、千歌を始め、みんなが善子ちゃんに勢いよくギュッと抱きついた。

 

おいおい……って、いきなり善子ちゃんに何してんだよと思っていた俺だったけど、今回は許してやるかって、そう思った俺である。

 

善子ちゃんはみんなから抱きつかれて、嬉しすぎて泣きそうな表情が浮かんでいた。

 

 

信用してくれる仲間が見つかって、良かったな。

 

 

こうしてAqoursには善子こと堕天使ヨハネが加わって、メンバーはなんと6人になった。

 

あれから1年生が3人も加わることなんて思ってもいなかったけれど、いい意味で良かったんじゃないかなって、俺は思う。

 

 

 

 

 

 

だがしかし…………

 

 

 

 

 

 

「鞠莉さん!」

「ダイヤ。どうしたの?」

「あのメールはなんですの!?」

「何って、書いてある通りよ?」

 

 

俺たちがそうしている裏側で、千歌達が通っている浦の星女学院に、史上最大の危機が訪れていることを、俺も、彼女たちも、

 

 

 

「そんな……嘘でしょ……」

 

 

 

まだ、知らなかったのである。

 

 

 

 

 

 






ということで、サンシャインの第5話
これにて終了となります!

善子ちゃんも無事にAqoursに加わり、
善子(ヨハネ)推しの方たちも大歓喜でしょう。

それでもって次回になりますが、
個人回の第2弾として千歌ちゃんを書きたいと
思っております。(千歌推し大歓喜)

次回も、ぜひお楽しみに!
感想・評価等、お待ちしています!



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