魔法科高校の暗殺者   作:型破 優位

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幹比古の時間

 幹比古は、古式魔法の名門、『精霊魔法』に分類される系統外魔法を扱う吉田家の直系で、一年前までは神童と呼ばれるほどの実力があった者だ。

 吉田家の中核的術法である喚起魔法にいたっては、次期当主である兄を既に凌いでいると評価されていた。

 

 それが、一年前に起きたある事件により、力を失ってしまったのだ。

 

 それから彼は、『力』を求めた。

 失ってしまった『力』に変わる力を。

 

 この一年間、彼はかつてないほどに勉学に打ち込んだ。

 それまではあまり熱心とは言えなかった武術にも、真剣に取り組んだ。

 

 それでも、喪失感は埋まらない。

 その時、彼は二人の男に興味を持った。

 

 それは、司波 達也と潮田 渚という生徒。

 

 司波 達也。

 入学したばかりの二科生でありながら、一科の上級生を次々とねじ伏せて見せた力を持っている。

 

 潮田 渚。

 小柄な体格、中性的な顔をしているために『力』を求める幹比古にはあまり興味がなかったが、勧誘週間初日に渚がデモンストレーションで闘っているのを見かけた時、彼は度肝を抜かれた。

 

 デモンストレーションに出るということは、新入生獲得のためもあって、部活内でも腕の立つ部員だということがわかる。

 その選ばれた部員に近づいていく様は、間違いなくただの一般人。

 敵意も、当然殺意すらもなく、ただただ笑顔だった。

 

 だが、幹比古は次の瞬間には彼の評価を見誤っていたことを理解せざるを得なかった。

 あっという間に部員を倒した渚の後ろには、『死神』が見えたのだ。

 

 そこから彼は、渚にも興味を持った。

 

 そして、今日の授業。

 コミュニケーションがあまり得意ではない幹比古が余ってしまいそうになったときに近づいてきたのが、渚だった。

 

『僕も余っちゃったんだー。僕と一緒に組んでくれない?』

 

 ラッキーだと思った。

 この実習で、渚の強さの秘訣が分かるかもしれないと。

 

 実際に、渚は魔法が苦手だった。

 自分と比較しても、それは顕著に現れている。

 

 一回目のタイムは、E組でも本当に下の方だろう。

 だが、彼は一回目は『調整』に使ったと、最初はクリアするつもりなんてなかったと言ったのだ。

 

 そこが、まず幹比古には信じられない。

 自分にはそんな呑気なことをやっている暇はない、一刻も早く『力』を取り戻したいのに。

 

 そして、二回目。

 行っても、1050MSあたりだろうと幹比古は思っていた。

 いきなり120MSも早くするなんて、無理なのだ。

 

 だが、ここでも誤算が起きる。

 

 渚は、その倍以上も縮めて見せたのだ。

 それもまた、幹比古には信じられない。

 それと同時に、希望にも見えた。

 

 ゆっくりでもいいから、確実に力をつけていく。

 元は強者だった自分には、全くの無関係で、今の自分には大いに関係のあることだった。

 

 『調整』というのが何なのか、何をしたのか、彼には分からなかった。

 しかし、二回目の渚には精霊が大量にまとわりついていたのだ。

 

 精霊は、術者の思念が強く反映される。

 つまり、渚の思念がそれほどに強かったということだ。

 

 課題をクリアした渚は達也たちの元へと行ってしまったが、幹比古の心の中にあった喪失感は、少しずつ満たされていった。

 

 急がなくてもいい。

 急げば急ぐほど、周りが見えなくなる。

 

 力を取り戻したいのと、早く(・・)力を取り戻したいのとでは、精神的にも肉体的にもかなりゆとりが違うのだから。

 

――もう一回基礎からやってみるか。

 

 エリカたちが騒ぎ立てるなか、幹比古は誠心誠意の気持ちを込めていった。

 

「渚……ありがとう」

 

◆◆◆

 

「1060MS……ほら、頑張れ。もう一息だ」

 

「と、遠い……0,1秒がこんなに遠いなんて知らなかったぜ」

 

「バカね、時間は『遠い』とは言わないの。それを言うなら『長い』でしょ」

 

「エリカちゃん……1052MSよ」

 

「ああぁぁ!言わないで!せっかくバカで気分転換してたのに!」

 

 結局、いつもの愉快な仲間たちは全員が居残ることになった。

 

 エリカとレオがクリア出来ていないからだ。

 

「レオもエリカも、焦りすぎだよ。もっと力抜いてサイオンをコントロールしないと」

 

「そうだな。それと、レオは照準の設定に時間が掛かりすぎてるんだよ。こういうのは、ピンポイントに座標を絞る必要はないんだ」

 

「そうだけどよぉ……」

 

 そして、二人して達也に泣きついてきた。

 そのために、現在は美月と渚の手伝いのもと、達也の指導教室が始まっている。

 

「そんなこと言われてもよぉ……」

 

 しかし、状況はかなり深刻なようだ。

 

「そうだな……エリカは起動式を読み込むときにパネルの上で右手と左手を重ねてみてくれ」

 

「……それだけでいいの?」

 

「俺も確信があるわけじゃない。だから理由は、上手くいったら説明するよ」

 

「う、うん……やってみる」

 

 疑問は一時おいて、達也に言われたように両手を重ねて起動式を読み込むエリカ。

 それを確認した達也は、レオの指導に入る。

 

「1010MS。エリカちゃん、一気に40も縮めたわよ!本当に、もう一息!」

 

「よ、よーし!なんだか、やれる気になってきた!」

 

「1016。迷うな、レオ。的の位置は分かっているんだ。いちいち目で確認する必要はない」

 

「わ、分かったぜ。よし、次こそは」

 

 まだまだ終わりが見えてきたレオとエリカ。

 そこで、ふと視線を横にずらした渚は、幹比古が教室に戻ろうとしているのを確認する。

 せっかく仲良くなったため、少しでも話が出来れば、という思いがある渚は、達也含む四人と、ちょうど今レオたちに昼食を持ってきた深雪、ほのか、雫に一言断りを入れてから幹比古のもとへと向かった。

 

 何やら気合いを入れているような感じの幹比古。

 普通に近づいて、背中側から肩を叩きながら声をかける。

 

「幹比古……?」

 

 だが、声をかけた瞬間、幹比古は冷や汗をかきながら、警戒心剥き出しでこちらを振り向いた。

 しかし、それも目があった瞬間になくなった。

 

「なんだ渚か……ごめん、いきなり声をかけられてビックリしただけだよ」

 

「そっか。せっかくだし、お昼一緒に食べようかなって思ってさ」

 

「わかった。なら教室にいこう」

 

 後ろでレオとエリカの歓声があがるなか、渚は幹比古とともに教室へと向かった。

 

◆◆◆

 

 再び、認識を誤っていた。

 彼が一番最初に、声をかけてきてくれたとき、警戒することもなく自分と話せたために、コミュニケーション能力が余程高いんだろうな、と思っていた。

 

 だが、違う。

 大きな間違いだ。

 

 彼に肩を叩かれて名前を呼ばれた瞬間、全身に悪寒が走った。

 

 それは、恐怖。

 誰なのか正体を確かめた幹比古は、戦慄した。

 

 そこにいたのは、渚だ。

 

 つまり、彼と警戒もせずに喋れてたのは、こういうことだったのだろう。

 警戒しなくても良かったのではなく、警戒が出来なかったと。

 

 渚は、確かに二科生だ。

 しかし、その本質は、例えば、戦闘の部類でいけば達也を上回るほどの力を持っているのかもしれない。

 

 幹比古にとって、渚は、自分の道を教えてくれた人物という認識とともに、最も警戒するべき人物となったのだ。




イラスト作ろうかなっと思うときはありますが、自分の画伯的センスを思い出してやめちゃいます。
(誰か書いてくれないかなーっという切なる願い)

幹比古君は早めに焦りを無くさせました。
理由はお楽しみに。

次回は馬鹿でかい放送が流れますね。
あ、予告ですよ?

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