ありんす探偵社へようこそ   作:善太夫

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メイド殺人事件

 城砦都市エ・ランテルベーカリー街221B『ありんす探偵社』──所長の美少女探偵ありんすちゃんは暇をもて余していました。何しろありんす探偵社で扱ってきた事件のほとんどが便利屋みたいな仕事ばかりで、先週の依頼は行方不明の飼い犬探し、川に落とした財布探し、好きな相手に出すラブレターの代筆という内容でしたから。

 

「さちゅ人事件でも起きないでありんちゅかね?」

 

 名探偵コ●ンとか金田一少年の事●簿だと身近でちょくちょく殺人事件が起きます。しかも連続殺人ばかりで、一年間ではだいたい百人位死んでいます。でも、エ・ランテルではなかなか事件が起きません。

 

「キーノ。事件を起こしてくるでありんちゅ」

 

「冗談は止めろ。私はそんな事しない」

 

 ありんすちゃんはため息をつきました。せっかく探偵社を作ったのに殺人事件が起きないなんて……

 

 ありんすちゃんが机に突っ伏してゴロゴロしていると扉の鈴がチリンチリンと鳴りました。

 

「大変です。殺人事件が起きました! …………………………わん」

 

 ありんすちゃんが顔を上げると真ん中に縫い目がある犬の顔をしたメイドが立っていました。ありんすちゃんはムクリと起きると尋ねました。

 

「詳しく話すでありんちゅ」

 

 犬の顔をしたメイド──名前はベストレーニャ・ワンコといいました──によると、新しく建てられた孤児院の開園準備をしていた同僚のメイドが殺されたとの事でした。ありんすちゃんと助手のキーノは早速ベストレーニャの案内で現場に急ぐのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「これは惨いな……おそらく即死だったろうな」

 

 現場では髪を夜会巻きに結い上げて眼鏡を掛けたメイドの斬首された惨い遺体がありました。キーノは思わず目をそむけましたが、ありんすちゃんは現場をじっくり観察します。

 

 切断されたメイドの首をじっくり調べていたありんすちゃんは思わず叫びました。

 

「この死体おかちいでありんちゅ。この首は血が一滴も出ていないでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは目を閉じて灰色の脳細胞を活性化させます。やがて、パチリと目を開きました。

 

「犯人がわかったでありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんは自らの推理を披露し始めました。

 

「このせちゅ断された首からは血が一滴も出ていないでありんちゅ。これは血がしゅべて吸われてなくなったからでありんちゅ! つまり、犯人は──」

 

 ありんすちゃんは大きく息を吸うと告げました。

 

「犯人は吸血鬼でありんちゅ!」

 

 その瞬間、何故かキーノがギョッとした顔をしました。そして何故だか推理したありんすちゃんまでがちょっとギョッとしたように見えました。

 

 しばしの間、静けさが辺りを支配し……その静けさが永遠に続くかと思われた頃……

 

「ふぁーあ。よく寝た。……? ボクになにか?」

 

 さっきまで死体でしかなかった身体が起き上がり、頭を拾って首に載せました。

 

「……犯人はユリ・アルファでありんちゅ……」

 

 何はともあれありんすちゃんは無事、殺人事件を解決したのでした。

 


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