ありんす探偵社へようこそ   作:善太夫

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大墳墓の侵入者

 朝早くから依頼者のフェメール伯爵の敷地にやって来たありんすちゃんはいささか不機嫌なようでした。

 

「すごいな……八足馬(スレイプニール)か……」

 

 二頭立ての馬車二台につながれた魔獣に探偵助手のキーノが思わず呟きます。どうやらこれだけ破格な用意をしている伯爵はずいぶん裕福なようです。これは報酬以外にもいろいろ期待できそうですね。

 

「あっ! モモンさま!……」

 

 フェメール伯爵の執事がアダマンタイト級冒険者チーム“漆黒”を伴ってあらわれました。キーノはすかさずモモンの近くに駆け寄ります。

 

 

 

「こちらの馬車をお使いください。また、野営場所の警備の為、アダマンタイト級冒険者のモモンさんとナーベさんに同行していただきます」

 

 ありんすちゃんとキーノ、モモンとナーベは挨拶を交わすとモモンが口を開きました。

 

「……君たちに聞きたい事がある。何故、遺跡に向かう? しがらみがある冒険者と違い、探偵である君たちが引き受けたのは何のためなんだ?」

 

「──それは愛のため──ムグゥ!」

 

 モモンの問いかけに答えようとしたキーノをありんすちゃんは黙らせます。

 

「ちょれはお金、でありんちゅ。お金いぱーいなんでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんの答えにモモンが続けて質問をしました。

 

「君たちの命に釣り合うだけの金を提示されたということか?」

 

「……まだ足りないでありんちゅな。ありんちゅちゅは安くないんでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは胸をそらします。

 

「なるほど……よく分かった。本当にくだらないことを聞いた。許してくれ」

 

「──うえっ! モモン様、どうか頭をあげてください。わた、私は愛のためにこの依頼を──ムググ」

 

 ありんすちゃんは助手を黙らせると宣言します。

 

「ではさっちょく宝探しを始めますでありんちゅ!」

 

 

 

※   ※   ※

 

城砦都市エ・ランテルベーカリー街221B『ありんす探偵社』、美少女探偵ありんすちゃんを依頼者のフェメール伯爵の執事が訪れたのは一ヶ月ほど前の事でした。

 

「……なるほど。依頼者はバハルス帝国のフェメール伯爵。依頼内容は王国国土にある遺跡──地下墳墓と思われる建造物の調査。報酬は前金として金貨二百枚、後金に金貨百五十枚。凄いな……」

 

 探偵助手のキーノは話を整理します。

 

「……しかし、なぜワーカーに依頼しなかったのか? 帝国ならば依頼を引き受けるワーカーに困らないと思うが……」

 

 キーノの疑問に執事は答えます。

 

「実は最初は帝国でも有数なワーカーのいくつかに依頼をしたのですが……どういうわけか依頼を受けたワーカーがことごとく大怪我をしたり行方不明となってしまい、どこにも引き受けてもらえませんでして……」

 

「……で、ありんす探偵社に依頼するのだと? うーん……」

 

 キーノはありんすちゃんの表情をうかがいます。先程から無口なありんすちゃんはゆっくりと口を開きました。

 

「この仕事はありんちゅちゃ探偵ちゃにしか出来ないでありますでありんちゅ。報酬は二倍、前に四百、後で三百、こりなら引き受けるますでありんちゅ」

 

 かくしてありんす探偵社はナザリック地下大墳墓の調査という依頼を引き受ける事になったのでした。

 

 

 執事が帰った後でキーノは不安になってきました。

 

「……たかが未発見の地下墳墓の調査にしてはずいぶん報酬が高過ぎないか? うまい話には裏がある、とも言うし危険があるのかもしれないぞ? ここは慎重に……」

 

「漆黒のモモンが同行しるでありんちゅが……」

 

「受けよう! ありんすちゃんが行かなくても私が行こう。早速準備だっ!」

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 鼻唄まじりに急ぎ足で去っていくありんすちゃんと、遅れて何度も振り返りながら去っていく助手のキーノの姿はやがて小さくなり、見えなくなりました。

 

「やれやれ、行ったな」

 

「行きましたね。しかし有能な探偵とはいえ、あんなに幼い少女です。無事に戻ってくると良いですが……」

 

「……二人とも死ぬだろ? ……い、いや、そういう心構えでいるべきだ。なにしろ今回の遺跡は未発見のもの。何が起きても仕方がないからな」

 

 モモンの言葉に執事は感嘆しました。

 

「さすがです。ご配慮いたみいります」

 

「それでは我々は先に休ませてもらおう」

 

 モモンはナーベを伴い自らの天幕に入りました。

 

 天幕の入り口を閉めるとモモンは兜を脱ぎました。なんという事でしょう! アダマンタイト級冒険者“漆黒”のモモンは実はナザリック地下大墳墓の支配者アインズ・ウール・ゴウンその人だったのでした。

 

 うーん。衝撃的な事実です。これを知ったらキーノはショック死してしまうかもしれません。……ああ、キーノもアンデッドなので既に死んでいましたっけ……

 

「ナーベ、いや、ナーベラルよ。私はこれからナザリックに帰還する。代わりにパンドラズ・アクターを送るが、何かあればお前の方で対処せよ」

 

「畏まりました、アインズ様」

 

 ひざまずくナーベを残してアインズは〈グレーターテレポーテーション〉でナザリックに戻るのでした。

 

 

※   ※   ※

 

 

「おかえりなさいませ、アインズ様」

 

「ただいま、アルベド」

 

 守護者統括のアルベドに出迎えられてアインズは玉座につきます。

 

「さて、計画通りにこれから侵入者が来る。歓迎の準備はどうなっている?」

 

「万全でございます」

 

 アルベドの答えに満足げに頷くとアインズはい並ぶシモベ達を眺めるのでした。

 

 と、戦闘メイド(プレアデス)の列から一人が前に出ました。

 

「アインズ様。私にあの小娘の声を賜りたく存じます」

 

「うん? エントマか。そうか。わかった。かまわないだろう」

 

 アインズはふと、やたらとつきまとってくる金髪の少女を思い出しました。たしか、探偵助手だったな……名前は……キーとか言ったか……

 

「さて、私は準備をしてから第六階層のコロッセオに向かう。ああ、楽しみだな」

 

 なんという事でしょう! 今回の遺跡調査の依頼は哀れな犠牲者を呼び込む罠だったのでした。果たして美少女名探偵ありんすちゃんを待ち受ける運命は? そして探偵助手キーノの声はエントマに奪われてしまうのでしょうか?

 

 

 …………つづく


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