城砦都市エ・ランテルベーカリー街221B『ありんす探偵社』では美少女名探偵のありんすちゃんが優雅に朝食を味わっていました。
「ありんすちゃん、ほらほらまたこぼした。やっぱりよだれ掛けをつけた方がよいぞ」
脇で給仕をする助手のキーノの小言を無視してありんすちゃんはミルクに浸されたコーンフレークを匙ですくって口に運びます。ちなみにありんすちゃんの好きなのはケロ●グでなくシス●ーンだったりします。
と、あわただしく扉が開けられて一人の男が入って来ました。
「大変だ。また、女性が殺された! ありんすちゃん様のお力で是非解決して頂きたい!」
ありんすちゃんはキーノに命じて来客を応接室に案内させ、自身は優雅な朝食を続けるのでした。
※ ※ ※
「そりでわ話聞きまちゅでありんちゅ。美少女名たんてのありんちゅちゃがまるっと解決しるでありんちゅ」
ありんすちゃんの自信に満ちた様子に依頼者は少し落ち着きを取り戻したようです。
「なんだ、誰かと思えば冒険者組合のアイザック殿ではないか。ずいぶん慌てていたようだが……」
お茶を運んできたキーノが声をかけます。
「……いや、実は──」
アイザックの話によればエ・ランテルでは最近、謎の殺人事件が連続しておきているというのでした。殺されたのは美しい女性ばかりで、しかも何故か片手にタケノコを持って死んでいるのだそうです。
「──今朝もとうとう六人目の犠牲者が出まして……それで高名な名探偵のありんすちゃん様に事件を解決して頂きたいのです」
アイザックは深々と頭を下げました。しかしありんすちゃんは難しい顔をして黙ったままです。
「……えっと……ありんすちゃん様?」
アイザックはしばらく考え込むと──
「……美少女名探偵のありんすちゃん様──」
「ありんちゅちゃにまかしぇるでありんちゅ!」
かくして依頼を引き受ける事にしたありんすちゃんと助手はアイザックの案内で事件現場に行くのでした。
※ ※ ※
「うわ! これは酷いな……これでは即死だったろうな……」
惨たらしい女性の斬殺死体を眺めながらキーノは顔をしかめました。
「……これは剣みたいなものでバッサリ、て感じっすね。ひどく驚愕した顔っすから、きっと殺されるとは思わなかったっすかね? 切り口はかなり手練れっぽい感じっすね」
テキパキと検死をする修道女
「……今回も片手にタケノコが……」
アイザックの指摘の通り女性は片手にタケノコを持っていました。まだ、泥がついているので今朝がたに掘り出したものでしょうか?
皆の視線を受けながらありんすちゃんは目を閉じて推理を始めます。
やがて十分ほど経つとありんすちゃんは寝息をたてはじめてしまいました。
※ ※ ※
「………」
「………………」
「………………………」
気不味い沈黙の中でありんすちゃんはパチリと目を開けました。
「謎はしゅべて解けちゃでありんちゅ! この女性はキノコタケノコ戦争に巻き込まれちゃ、可哀想な被害者だったんでありんちゅ!」
※ ※ ※
「──ちゅまりこの女性はタケノコを持っていちゃのでキノコ派からタケノコ派と思われちぇ殺ちゃんれたでありんちゅ!」
ありんすちゃんは長年続くキノコタケノコ戦争について熱く語りました。そしてキノコのミルクチョコとクラッカーの組み合わせの美味しさを力説しましたが、誰にも理解されませんでした。
よくわからないまま一行はキノコ派の幹部、マイコロイドの料理人を逮捕して事件は解決するのでした。
「……しかし、タケノコなんて何に使うのだろう? 食べてもお腹を壊すし使い道なんてあるのか?」
一人、助手のキーノは納得出来ない様子でしたが……
※ ※ ※
雨のエ・ランテルで一人の男がすぶ濡れのまま力なく座り込んでいました。男は灰汁抜きをしたタケノコを茹でていました。このタケノコが彼の唯一の食事だったのです。
「……シャルティアが……来る……シャルティアが……来る」
恐怖に支配された彼がなんとか生き延びたのは、たまたま刀を手に入れた時にかの東の国に伝わるタケノコの食べ方を知っていたからでした。
常に何者かに怯えた彼は朝早くに山へ行き、誰も食べないタケノコを手に入れていたのです。
そしてたまたま彼が落としたタケノコを拾ってくれた優しい女性が──
「……あの、落としましたよ?」
「──う、うわぁ! シャル、ティアぁあ!」
恐怖にかられた彼には女性が恐ろしい化け物に見えた──それが事件の真相でした。
その男、ブレイン・アングラウスがガゼフと再会し、立ち直ったのがたまたまありんすちゃんが事件を解決したタイミングだった為真相は永遠に闇の中に葬り去られてしまいましたが……