ナザリック地下大墳墓第六階層にある大きな樹の外観をした住居ではアウラとマーレが何やら相談しています。
「うーん……なんかありんすちゃんに負けたままって感じで嫌なんだけど。マーレ、何か良いアイデアない?」
「……うーん……あ、そうだ。お姉ちゃん、一休さんの話って知ってる?」
「……いっきゅうさん? あたしは知らないけど。なにそれ?」
マーレはアウラに説明しました。マーレがよく利用する最古図書館『アッシュールバニパル』にある絵本のひとつに『一休さん』というタイトルがあり、それには一人の小僧さんがとんちで解決する話が描かれているのでした。
「……うーん……橋のまん中を歩く……それが何故答えなの? あたしには良くわからないんだけど?」
「……えーと、それはね、橋の端っこでなくまん中だから──」
いまひとつ納得いかない様子のアウラにマーレは丁寧に説明しますが、どうにも難しいようです。
「……ふーん。まあ、いいや。でさ、これでどうやってありんすちゃんにギャフンと言わせるわけ?」
アウラの疑問にマーレはある計画を話しました。どうやらありんすちゃんへの依頼にかこつけてとんち対決をしかけるみたいですね。
うーん……大丈夫でしょうか? ありんすちゃんにはとんちどころかトンチンカンの才能しかない──ゲフンゲフン。
※ ※ ※
「この先に依頼ちゃが待っちぇいるんでありんちゅ」
ありんす探偵社の美少女名探偵ありんすちゃんと助手のキーノは橋のたもとにやって来ました。
橋の手前になにやら立て看板が立っています。ありんすちゃんは声に出して読んでみました。
「……このは、しわ、たる、べ、からす……ありんちゅちゃはちゃんと読めちゃでありんちゅ」
ありんすちゃんは得意そうに橋を渡っていきました。
「──ちょっと! ありんすちゃん! 看板に橋を渡るなって書いてなかった? ダメだって!」
橋の向こうからアウラが叫びながらやって来ました。
「はしはわちゃる為にあるんでありんちゅ」
残念ながらありんすちゃんの主張はアウラに却下されてしまいました。
「ありんすちゃん、仕方ないな。依頼人の機嫌を損ねるわけにはいかないからな。こうなったら別の手段を使うしかないな」
助手のキーノに従ったありんすちゃんはシモベの蝙蝠を羽根代りにしてバサバサと飛んでいきました。
※ ※ ※
「……橋はわちゃらないで来ちゃでありんちゅ」
ありんすちゃんに続いてキーノも〈フライ〉で館の入り口にたどり着くと早速ありんすちゃんは扉を叩きました。すると直ぐに扉が開き依頼人が姿を現しました。
「……えと、僕が依頼人のマーレです。あの、橋を渡らなかったのですよね?」
ありんすちゃんはフンスと鼻息を荒くしながら胸を反らします。
「ありんちゅちゃは飛んできちゃでありんちゅよ」
「……あ、ああ。そ、そうですか…………」
マーレは残念そうです。
「……じゃあ、依頼ですが……この大きな絵に描かれた魔獣が夜な夜な絵から抜け出して暴れるので……あの、退治してもらえますか?」
「──馬鹿な! そんな事起きるわけが──ウグッ!」
ありんすちゃんはとっさに助手を黙らせます。
「しゅごいでありんちゅ! 絵から出てくるであるますでありんちゅか!」
ありんすちゃんは目をキラキラさせながら叫びました。
「名探て、ありんちゅちゃにあまかちぇしるでありんちゅ!」
かくしてありんすちゃんとキーノは絵に描かれた魔獣退治という依頼を引き受けるのでした。
※ ※ ※
「……なかなか出てこないでありんちゅね……」
「……いや、出てけるわけないだろ──アタッ!」
絵の前で一週間が経ちました。
「……今日はこりで食事にしるでありんちゅ」
ありんすちゃんはアウラとマーレに催促します。すると配下のエルフ達が食事を用意します。
ありんすちゃんは食事を終えるとお風呂にいきます。
「……いい加減帰ってもらわない?」
「……でも、どう説明したら、あの……いいかな?」
ありんすちゃんの姿がなくなるとアウラとマーレはヒソヒソと相談を始めました。
「……このままだとさ……『今日も出てこないでありんちゅ』ってずっと続けるんじゃないの?」
二人の小言は終わりそうにありませんでした。
一人探偵社の留守番に戻っていた助手のキーノのもとにありんすちゃんが帰ってきたのはそれから一ヶ月後の事でした。うーん……