ナザリック地下大墳墓第九階層の厨房を訪れたセバスは美味しそうなケーキが入った箱を副料理長のピッキーから受け取っていました。真っ赤なイチゴのショートケーキ、純白のレアチーズケーキ、などなど様々な種類のケーキが六切れ。どれも副料理長の特製で美味しそうな逸品です。
「たまには
セバスは小さくため息をつきました。
「これでツアレがいくらかでも気不味い思いをしなくなれば良いのですが……」
箱の中の六個のケーキ──それが後に事件となるとはその時のセバスは思いもしませんでした。
※ ※ ※
城砦都市エ・ランテルベーカリー街221B『ありんす探偵社』、今日のありんすちゃんはクルクル回っています。
「……ありんすちゃん、それはなんなのだ?」
探偵助手のキーノが文句を言いました。最近財政難となってきたありんす探偵社で、ありんすちゃんが新しく買ってきた安楽椅子がなかなかの値段のものだった為、つい、小言を言いたくなってしまうのでした。
「こりでありんちゅちゃは今日から
ありんすちゃんは得意そうに胸を張りました。うーん。でも安楽椅子探偵って推理が得意で頭が良い探偵ですからありんすちゃんとは正反対──ゲフン、ゲフン。
「いやいや、安楽椅子探偵って別に安楽椅子に座ったら出来るわけではないと思うが……そもそもそんな値段が高い椅子を買う余裕なんて──」
キーノが更に小言を続けようとしていると入り口の鈴が鳴って来客を告げました。
「ありんちゅちゃ探偵ちゃによこそでありんちゅ」
依頼人は夜会巻きに黒髪を結い眼鏡をかけたメイド服の女性でした。
※ ※ ※
「……フムフム。しゅるとケーキの中でモンブランだけがいつの間にか無くなっていちゃでありんちゅか……こりは大事件でありんちゅ。モンブランぬしゅむなんてゆるちゃないでありんちゅ!」
ありんすちゃんは鼻息を荒くします。
「……いや、それほど大事件か? 誰かが盗み食いしただけだろ?」
「……キーノはまだまだでありんちゅな。モンブランぬしゅみ食いはありんちゅちゃがゆるちゃないでありんちゅ! すぐに行くますでありんちゅ!」
ありんすちゃんはキーノを叱りつけます。そして安楽椅子探偵のありんすちゃんは……
「……やれやれ。まさか安楽椅子に座ったありんすちゃんを運ぶ事になるとは……またまたありんすちゃんには困ったものだ……」
疲労困憊なキーノをよそにありんすちゃんは高らかに命令しました。
「では早速容疑者全員あちゅめますでありんちゅ!」
※ ※ ※
安楽椅子に座ってクルクル回り続けるありんすちゃんの周りを囲むように集められた六人の
「私はユリ・アルファ。セバス様から箱入りのケーキを預かりました。その時には間違いなくモンブランケーキもありました」
「ルプスレギナ・ベータっす。モンブランが無くなったんすよね? もしかしたら犯人わかっちゃったっすよ。怪しいのはありん──」
「──ソリュシャン・イプシロン。今回の犯人は私ではありません」
「……ナーベラル・ガンマ。ミルフィーユが残っているなら別にいいわ」
「シズ・デルタ。……妹が怪しい」
「わたしぃはエントマ・ヴァシリッサ。この探偵助手、なんかムカつくぅ」
あい変わらず安楽椅子でクルクル回り続けるありんすちゃんは宣言します。
「犯人は、この中にいるますでありんちゅ!」
ありんすちゃんはクルクル回りながら指を突きだしました。
「犯人はおまいでありんちゅ!」
ありんすちゃんは指を突きだしたままクルクル回り続けます。やがて安楽椅子の回転が遅くなり……まるでルーレットのようにありんすちゃんの指先が一人を指して止まりました。
「……いや……私は犯人ではないぞ……」
ありんすちゃんに指を指されたキーノは思わず呟くのでした。
※ ※ ※
ナザリック地下大墳墓第八階層の桜花聖域でオレオール・オメガはモンブランケーキを堪能していました。
「……勝手に選んじゃったけど良いわよね。私だって
たまたま彼女がケーキの箱を見つけた時にセバスからの一枚のメモがありました。
──『戦闘メイドの皆様でどうぞお召し上がりください』と。