ありんす探偵社へようこそ   作:善太夫

3 / 50
赤毛組合

 城砦都市エ・ランテルベーカリー街221B『ありんす探偵社』、美少女探偵ありんすちゃんの昼はお風呂から始まります。お風呂を楽しんでいると助手のキーノが痺れを切らしてありんすちゃんを呼びました。

 

「もうかれこれ家賃を四ヶ月滞納しているぞ。このままでは私もありんすちゃんも路頭に迷う事になるが?」

 

 またもやキーノの小言です。そもそもキーノは漆黒のモモンのストーカーとして捕まりそうだった所をありんすちゃんが助けてあげた上、探偵助手として雇ってあげたんですよ。まあ、給料は払ってない月もたまに、たまーにありますが……

 

 お風呂から出たありんすちゃんが着替え終わると早速来客を知らせる扉の鈴がチリンチリンと鳴りました。

 

 やって来たのは赤毛を鳥の巣のように乱暴に切り揃えた女性でした。軽装のバンデットアーマーを着て、胸元には鉄のプレートを下げていました。

 

「あの……はじめまして。私はブリタ。実は最近おかしな事があって……事件なのかわかんないけど相談に乗って欲しいんだけど」

 

 ありんすちゃんはブリタの姿をじっくりと値踏みするように眺めました。

 

「ちゃれいは払えるでありんちゅか? 銅……銀貨一枚かかるでありんちゅよ」

 

 となりでキーノが驚くのがわかりました。何しろありんす探偵社の謝礼は普段銅貨一枚か二枚、多くても銅貨五枚位でしたから。しかも相手は鉄クラスの冒険者、銀貨一枚等持っているとは思えませんでしたから。

 

「……わかりました。これでお願いします」

 

 ブリタは懐から革の袋を取りだして、中から銀貨を一枚出して机に置きました。

 

「お願いします。まずは私の話を聞いて下さい」

 

 ブリタは不思議な体験を語りだしました。彼女が一人、酒場で飲んでいると赤毛の大男がやって来て一枚のチラシを見せました。そこには『赤毛組合 組合員募集 簡単な仕事で日給銀貨一枚』とあったのでした。

 

「どこでありんちゅ? どこ?」

 

 ありんすちゃんは思わず叫んでしまいましたが、助手のキーノは冷静でした。

 

「上手い話には裏がある。実際に行ってみたのか? ブリタ?」

 

 ブリタは頷きました。彼女は目隠しされて馬車で郊外の何処かの古城に連れられていきました。そこには同じように赤毛の人々が集められていて赤毛組合の組合長が来るのを待っていました。やがてやって来た細身の男はコッコドールと名乗りました。

 

「コッコドールだと!」

 

 思わずキーノが叫びましたが、ありんすちゃんはキーノに一発食らわせて黙らせます。キーノは全く成長しませんよね。

 

 コッコドールに指示された仕事は百科事典を写す事でした。そうして一日が終わると皆、銀貨一枚を受け取ってまた目隠しされた上で馬車に乗せられ帰ってきたというのです。

 

「これは犯罪の匂いがちゅるでありんちゅね。このままだと命が危ないでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは断言しました。助手のキーノも頷いていました。

 

「ふむ。コッコドールは王都の裏社会を牛耳る八本指の一人。これはきっと裏があるに違いない。悪い事は言わないから手を引くべきだな」

 

 ブリタは真っ青になりました。このままではまたしても命を危険に晒すかもしれません。そう、あの時のように。

 

 そんなブリタにありんすちゃんが優しく笑いかけました。

 

「良い考えがあるでありんちゅ。ありんちゅちゃにまかせるでありんちゅ」

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 黒い長髪のカツラで別人のようになって帰っていくブリタを眺めながらありんすちゃんは満足そうにポケットの銀貨を握りしめるのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 翌日、今度は別の依頼人がやって来ました。なんでもバハルス帝国の元貴族の娘で、大金を手に入れられる仕事を紹介して欲しいのだとの事でした。

 

 その少女、アルシェの金髪を眺めながら、ふとありんすちゃんは閃きました。昨日ブリタが置いていった赤毛組合のチラシを見せて──

 

「赤毛のカツラをがぶってこの場所に行くでありんちゅ。一日銀貨一枚貰えるでありんちゅよ」

 

 今回は二件の依頼を無事に解決したありんすちゃんでした。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。