ありんす探偵社へようこそ   作:善太夫

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元祖ローブル聖王国からの使者

 城砦都市エ・ランテルベーカリー街221B『ありんす探偵社』、美少女探偵ありんすちゃんの本日の朝は一杯のホットミルクで始まります。

 

「……ふう。心が温まるでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんは口の回りに白いわっかをつけたまま、しみじみといいました。助手のキーノはそんなありんすちゃんが昨日はココアを飲んで全く同じセリフを言っていたのを知っていましたが、黙って聞き流します。

 

 と、入り口の扉の鈴がチリリンと鳴り来客を知らせました。来客の姿を見た瞬間──「殺気!」──キーノが身構えました。

 

「うわ! ……あの……すみません」

 

 身構えたキーノの圧力に気圧された来客の少女が尻餅をつきました。

 

「……あの……私は元祖ローブル聖王国の聖騎士団見習い、ネイア・バラハと申します。実はありんす様宛てにわが聖王国聖王女陛下からの親書をお持ちしました」

 

 キーノは慌てて少女──ネイアを助け起こします。鋭い目つきは殺人者を思わせますが、殺気はありません。

 

「キーノはオッチョコチョイでありんちゅね」

 

 ありんすちゃんは親書を受けとると封を開け、読み始めました。

 

「なるほど。ありんちゅちゃに依頼ちたいでありんちゅか? で、依頼の内容はなんでありんちゅ?」

 

 ありんすちゃんがネイアに尋ねると入り口からもう一人の女性が入ってきて答えました。

 

「それは私から。先日は世話になった。ローブル聖王国聖騎士団団長、レメディオスだ」

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 キーノは用意してきた紅茶の入ったティーカップを来客とありんすちゃんの前に置き、自分の席に着きました。

 

「依頼というのはカルカ様についてなのだ」

 

 ありんすちゃんはすぐさま反応しました。

 

「あの『ちんこ付いてるカルカ聖王女』でありんちゅね」

 

 キーノは思わず吹き出しました。レメディオスは顔を真っ赤にしながら言葉を続けます。

 

「いや、カルカ様は付いていない。しかし、その付いていないのに関わらず付いているとされる事について是非とも力を貸して頂きたいのだ」

 

 話が分かりにくくなってきましたが、かつてヤルダバオトによって『カルカ様は付いていて夜な夜なケラルト、レメディオスと出来ている』という噂が広まり今ではヤルダバオトに占領された『真ローブル聖王国』、カルカに反旗を翻して独立した南部の『本家ローブル聖王国』、そして解放されたカルカ聖王女が戻ったローブル聖王国(元祖ローブル聖王国)と混乱状態になってしまいました。そこでなんとしてもカルカ聖王女に対する風評被害を無くすべく、聖騎士団団長のレメディオスがありんす探偵社に依頼に来た、という訳です。

 

「ちゅまりカルカはちゅいているけど本当はちゅいていないでありんちゅか? ちゅまらないでありんちゅね。本当はちゅいていないけど、はえているでありんちゅ」

 

「いや、カルカ様には生えてもいない。彼女はれっきとした女性だ」

 

 ありんすちゃんはなかなか納得いかないみたいですね。

 

「……ふーん。実際に見ないとわからないでありんちゅ」

 

「……ありんすちゃん、その話は後にした方が良いな。今回の依頼の件、私にアイデアがあるのだが?」

 

 珍しく助手のキーノが提案しました。かくてありんす探偵社では総力を上げて『カルカ聖王女は本当は女性です』大作戦が行われる事になりました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「これは? ……舞踏会か?」

 

 会場にレメディオスとケラルトを従えた聖王女カルカが入って来ました。三人共普段とは異なり、ドレスで着飾っています。

 

「ふふん。エ・ランテルでも最高の宿屋、黄金の輝き亭のホールを貸し切っての舞踏会だが、ただの舞踏会では無い。これは『ごうこんぱーてぃー』というものなのだ!」

 

「──なんだ、と?」

 

 レメディオスは聞き慣れない言葉に警戒心を持ちました。カルカはレメディオスを制するとキーノに向き合いました。

 

「これで私達に対する噂を打ち消す事が本当に出来るのでしょうか? 一体どうやって……」

 

 大きく背中が空いた紫色のイブニングドレスに大きなリボンで着飾ったキーノが説明します。

 

「簡単な事だ。お前たちは素敵な男性のパートナーをこの会場で見つければ良い。そうすれば女同士でなく、普通の、男女間での色恋に興味がある女だと世間が見るだろう? そうすれば──」

 

「──ちょうしゅればカルカにちんちんはえてるなんて思わなくなるでありんちゅ」

 

 

 キーノの台詞を奪ってありんすちゃんが登場しました。ありんすちゃんも豪華なドレスで着飾っていました。

 

 徐々に会場には招待客が満ちて来ました。かつて探偵社に依頼をしてきたジルジルもいます。キーノは落ち着きなくキョロキョロと周りを見回しています。

 

「──ヒルマ。“漆黒”は来るんだろうな? アダマンタイト級冒険者の……」

 

「はい。招待状をお出しし、参加するとの返事を頂いております。ご安心下さい。……他にも王国の貴族、フィリップ──」

 

「──わかった。なら良い」

 

 キーノはヒルマを遮るとありんすちゃんに振り向いた。

 

「私はホステス役として来客を出迎える。ありんすちゃんはカルカ達のサポートを頼む」

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 普段ポニーテイルにしている黒髪を降ろして身体の線を協調したタイトなドレスを着こなしたナーベを伴って会場に戻ってきたキーノは明らかに元気がなくなっていました。

 

「……何故だ? 何故モモン殿は来れなくなったのだ? どうしてこううまくいかない? ……」

 

 キーノは小さな声でブツブツ呟いていました。

 

「では、『ごうこんぱーてぃー』開催でありんちゅ!」

 

 ありんすちゃんの宣言にカルカ、レメディオス、ケラルトは頑張るぞ、と心に誓うのでした。

 

 

 

 パーティーは大成功でした。カルカ達はなかなかの美貌だったのでなかなかの人気でした。とはいえ真の主役はやはりありんすちゃんでしたが。

 

 ありんすちゃん程ではないもののナーベの人気も中々でした。こうして失意のキーノは残念な結果ではありましたが、本来の目的である『カルカは普通の女性である』アピールは大成功に終わりました。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 城砦都市エ・ランテルベーカリー街221B『ありんす探偵社』、美少女探偵ありんすちゃんがくつろいでいると扉の鈴がチリンチリンと鳴りました。

 

「……あの……すみません。お久しぶりです。私は元祖ローブル聖王国の聖騎士ネイアです。……実は──」

 

 聖王女カルカの『付いている』疑惑は晴らされたが、今度は『カルカ棒』なるものが真ローブル聖王国で話題になっているという。その『カルカ棒』を使えば女性同士でもどうとかこうとか……らしいのでカルカ達はまたもや怪しげな噂の的になっているのだそうです。

 

「……キーノ、今度はキーノにまかちぇるでありんちゅ」

 

 キーノはやれやれとため息をつくのでした。


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