ありんす探偵社へようこそ   作:善太夫

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怪盗ヘロヘロ団 再び

 城砦都市エ・ランテルベーカリー街221B『ありんす探偵社』、美少女探偵ありんすちゃんの朝は香り高き一杯の紅茶で始まります。ありんすちゃんは紅茶を飲まずに、カップの中に短冊形に切った紙を次々に浸けています。一体何をしているのでしょうか?

 

 もうじき七夕の時期なので、オリジナルの短冊を作っているのでしょうか? ……乾かし終わった短冊にえんぴつで何やら懸命に書いていますね。うーん? 『一万円』……これは七夕ならぬ棚ぼた……ゴホン。

 

 入り口の扉に付けられた鈴がチリンチリンと鳴りました。ありんすちゃんは顔を上げずに声を掛けます。

 

「ありんちゅ探偵ちゃにようこちょ。ご用はなんでちょうか?」

 

 来客はナザリック地下大墳墓の守護者統轄のアルベドでした。ありんすちゃんは一生懸命に黄ばんだ紙に一万円と書き込んでいて、全く気がついていません。こんな時、助手のキーノがいれば取り成しが出来たのですが、今日に限ってキーノは休みでした。

 

「……それは何かしら? ……もしかして一万円札?」

 

「ちょうでありんちゅ。今度こちょオークション勝ちゅでありんちゅ」

 

 アルベドの頬が少しひきつったみたいでした。

 

「残念ね。ありんすちゃん。アインズ様の添い寝権、いいえ、添い寝券は私が落札したのだから」

 

 ありんすちゃんは顔を上げました。そして来客がアルベドだとわかると目と口を丸く開けてビックリした表情で固まってしまいました。

 

「まあ、そんな事はどうでも良いわ。今日は依頼に来たのだから。実は、怪盗ヘロヘロ団から『アインズ様の添い寝券をいただきます』という予告状が届いたの。是非ともヘロヘロ団から添い寝券を守って欲しいの」

 

 ありんすちゃんの灰色の脳細胞が突然活性化します。即座にありんすちゃんは『ありんすちゃんにとって最適な解答』を考え付きました。

 

「わかりまちたでありんちゅ。では、しょい寝券はありんちゅちゃがあじゅかりまちゅ」

 

 アルベドはいかにも疑わしいといった目でありんすちゃんを見ましたが、ありんすちゃんは正義の探偵です。決して添い寝券が欲しくてそういう提案をしたのではありません。

 

 ……多分……

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 結局、ありんすちゃんが預かる事は諦めて、ナザリック地下大墳墓の第九階層のロビーで警備する事になりました。

 

 ロビーのガラステーブルの上に置かれた鍵つきの箱にアインズ様の添い寝券が入れられています。そして周りにはアルベド、ありんすちゃん、戦闘メイドのソリュシャン、ユリ、シズが見守ります。さすがにこれだけ厳重な警備なら、いくら怪盗ヘロヘロ団でも手が出せないでしょう。

 

「ちょっと待ちゅでありんちゅ。ありんちゅちゃが確認しゅるでありんちゅ……えーと……あ、い、ん、じゅ、しゃ、ま、の、しょ、い、ね、け、ん……ちゃんとあるでありんちゅ」

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ──一時間後

 

「そろそろ予告時間でありんちゅ。ありんちゅちゃが確認しゅるでありんちゅ……えーと……あ、い、ん、じゅ、しゃ、ま、の、しょ、い、ね、け、ん……まだ、ちゃんとあるでありんちゅ」

 

 ──三時間後

 

「また、ありんちゅちゃが確認しゅるでありんちゅ……えーと……あ、い、ん、じゅ、しゃ、ま、の、しょ、い、ね、け、ん……大丈夫。ちゃんとあるでありんちゅ」

 

 あれ? ちょっと待って下さい。ありんすちゃんは漢字が読めないはずでしたよね? ……と、すると、『アインズ様の添い寝券』は『アインズ・の・い』しか読めないはず……まさか、このありんすちゃんは偽者で、その正体は怪盗ヘロヘロ団?

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 美少女探偵ありんすちゃんは本物でした。そして、残念ながら『アインズ様の添い寝券』は既に盗まれていました。箱の中身はすり替えられた『アインズさまのそいねけん』と書かれた単なる紙きれが入っていただけでした。

 

 なんという手際の良さでしょう。箱の中に入れる際に、盗賊スキルがあるソリュシャンに念入りにスキルで罠を仕掛けていたのにもかかわらず、見事に盗み出されてしまったのでした。

 

 当初、ありんすちゃんが何度も開けて確認したのが原因と思われましたが、最初にありんすちゃんが確認した時には既に入れ替えられていたのですね。

 

 ありんすちゃんは打倒怪盗ヘロヘロ団という志を胸に、エ・ランテルに戻るのでした。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 ──ナザリック地下大墳墓第九階層、アインズの寝室──

 

 久しぶりに戻ってきたアインズはベッドに寝そべりました。今日に限ってシーツが黒っぽいものに替えてありました。

 

「……うん? シーツを替えたのか?」

 

 今日のアインズ番の一般メイドに尋ねてみましたが、わからないようでした。

 

(まあ、良いか。大した問題ではないしな……)

 

 そう結論付けてベッドに寝そべるアインズの耳もとで懐かしい声が聞こえてきました。

 

「……お久です。モモン──アインズさん。…………」


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