ありんす探偵社へようこそ   作:善太夫

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美少女名探偵ありんすちゃんのプレイアデスな日

 城砦都市エ・ランテルベーカリー街221B『ありんす探偵社』、美少女探偵ありんすちゃんの朝はお掃除で始まります。最近コスプレにはまった助手のキーノが用意したメイド服を着て事務所の掃除をします。

 

 可愛いらしいメイド服にホワイトプリムで小さなメイドになったありんすちゃんはとっても可愛いいのですが、ただゴミをほうきで右から左に移動させているだけだったりします。

 

 チリンチリンと入り口の扉の鈴が来客を知らせました。入って来たのは同じくメイド服を着て夜会巻きに髪を結い上げた女性で、知的な眼鏡を右手の人さし指で押さえながらユリ・アルファと名乗りました。

 

「ありんちゅ探偵ちゃにようこちょ。依頼はなんでありんちゅ?」

 

 メイド服を着たありんすちゃんがメイド服を着たユリに訊ねました。そこにやはりメイド服を着た助手のキーノがお茶を運んできました。

 

「……実は……私の妹が至高のお方の大切なものを隠してしまったみたいなのです。至高のお方は 寛大な処分で構わないとおっしゃってくださっているのですが、頑としてその所在を喋ろうとしないのです。……このままでは姉として厳しく処断せざるを得ないので悩んでいます」

 

 ユリの話を静かに聞いていたありんすちゃんは静かな口調で自らの意見を述べました。

 

「こうなっては潜入ちょうちゃ、でありんちゅ」

 

 ユリは驚きました。そして、今更ながらありんすちゃんがメイド服を着ていた理由があらかじめこうなる事を予見していたのでは?と思うのでした。確かにエ・ランテルでの美少女名探偵ありんすちゃんの噂は耳にしましたが、まさかこれ程までのものとは……

 

「……是非、お願いいたします」

 

 こうしてありんすちゃん達はユリの依頼を受けてナザリック地下大墳墓での潜入捜査をする事になりました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「どうして……こんな格好なんだ? ……私はメイドだがありんすちゃんのその格好は……いったい……」

 

 メイド服のキーノに対して、黒のフロックコートを着たありんすちゃんはどうやら執事のつもりみたいですね。コートの裾が長すぎて引きずってしまっているのはご愛嬌です。

 

「セバチュでありんちゅ。キーノはチュアレでありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはどうやら執事のセバス、助手のキーノは人間のメイドであるツアレに変装したみたいですね。二人はユリの案内で第九階層のメイド達の休憩部屋に行きました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 部屋の中ではソリュシャンが一人、隅の椅子に座っていました。

 

〈───はい。全て予定通りです。後は……よろしくお願いいたします〉

 

 誰かとメッセージで会話をしていたソリュシャンは部屋に入って来たユリ、ありんすちゃん、キーノを順番に見てびっくりしたようでした。

 

(……ユリ……一般メイド? ……それに……誰?)

 

「セバチュでありんちゅよ!……チョリチャはわからないでありんちゅか」

 

 眉をひそめたソリュシャンに対してありんすちゃんはプンプンしながら言いました。大きく深呼吸して気持ちを落ち着けるとありんすちゃんは言いました。

 

「ちょれでは始めるでんちゅ」

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 ありんすちゃんのセバスの前をツアレのキーノが歩きます。

 

「だいぶ良くなって来たでありんちゅ。もう一回歩くでありんちゅ」

 

「はい……んんん」

 

 ありんすちゃんのセバスに命じられてキーノのツアレがまた歩き出しました。

 

「ほらほら、少し斜めでありんちゅ。やり直しでありんちゅ」

 

「……ぐぬぬ……」

 

 ツアレ役のキーノの顔が赤くなってきました。

 

「あの……セバス様。そろそろ一旦休憩にしませんか?」

 

 ユリ・アルファが台本を見ながらセリフを言いました。ちなみに台本の表紙には『プレイアデスな日』と書いてありました。

 

「まだダメでありんちゅ。至高のアインジュちゃまは……アインジュちゃまは……」

 

 どうやらありんすちゃんはセリフを忘れてしまったみたいです。ソリュシャンは先程から始まったこの学芸会のような劇を呆気に取られて見ていました。

 

「チュアレにご褒美でありんちゅ」

 

 ありんすちゃんはアドリブでキーノのツアレを抱き寄せてキスをしました。

 

「ちょ、な……何を、……えっと、えっと……ちくちくします」

 

 ──と、突然扉が開いてセバス本人が勢いよく入ってきました。先程のありんすちゃんとキーノのシーンを目にして、真っ赤な顔をしています。ユリは思わず目を閉じました。

 

「……こ、これはなんです? ……あなた達はこちらに来なさい。ユリ、ソリュシャンもです。私にきちんと説明して頂けますか?」

 

 普段感情をあまり出さないセバスですが、この時は誰の目にも怒っている事が明らかでした。

 

 結局、その日は夜までセバスのお説教が続いたのでした。

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 

 翌日改めてありんすちゃんと助手のキーノはソリュシャンを訪ねてきました。ソリュシャンはまたもや誰かとメッセージで会話をしていました。

 

〈──ええ。予定にない外部の人間が……はい。かえって利用出来るかと。……わかりました。おまかせ下さい〉

 

 ありんすちゃんはソリュシャンに言いました。

 

「美少女名探偵ありんちゅちゃでありんちゅ。ちゃんちき君の居場所、しゃべるでありんちゅ」

 

「わかりました。では、案内します」

 

 意外な事にソリュシャンは素直に答えました。きっとこれまでのありんす探偵社の評判にソリュシャンも観念せざるを得なかったのですね。

 

 ありんすちゃんと助手のキーノはソリュシャンの案内でエ・ランテル郊外の廃墟に幽閉されていた黒いスライムの『三吉君』を見つけました。無事に『三吉君』をナザリック地下大墳墓の第九階層のアインズ居室のバスルームに戻し、依頼は完了です。ありんすちゃんと助手のキーノは意気揚々とありんす探偵社に戻りました。

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 アインズは服を全て脱ぐと全裸になりました。アインズの喜びを表すかのようにワールドアイテムのモモンガ玉が輝きを増します。なにしろ久しぶりのお風呂なのですから、つい鼻唄を歌いたくなる位、アインズはうきうきしていたのでした。

 

「……あれ? ……こんな色だったか?」

 

 バスタブを満たしているスライムは見慣れた青ではなく黒い色をしていました。しかも、どことなく見覚えがあるような……

 

「お久です。モモンガ──ああ、アインズさんでしたね」

 

 バスタブのスライム──エルダー・ブラック・ウーズ──は懐かしそうにアインズに話しかけるのでした。


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