ペルソナ4 有里湊のif世界での物語   作:雨扇

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雪子姫の城
4月15日(金)~4月17日(日)


 家に帰ってテレビを見ているととある旅館が映っていた。「天城屋旅館」ーークラスメイトの天城の家だ。どうやらこの旅館に第一被害者の山野アナが泊まっていたらしい。

 

「……レポーターの発言、なんかイライラする」

 

 天城が困っているのにあの態度は腹がたつ。だから僕は食べてる途中のコンビニ弁当を急いで食べてテレビの電源を消した。

 

 チャンネル変えればいいとか思うけどどうせ疲れていたし、ゆっくりお風呂に入りたかったからどうでもよかった。

 

 風呂から出て天気予報を見る。しばらくは雨だそうだ。今も雨が降っている。疲れてはいたけどマヨナカテレビを今晩見てみることにした。

 

 マヨナカテレビの一時間くらい前にファルロスが現れたので少し話をして一緒にマヨナカテレビを見た。誰かに似ている。そう思ったがこの日は睡魔に負けて素直に寝ることにした。(死神コミュ2)

 

◇◇◇

 

「雪子……雪子がいないの!」

 

 4月16日。土曜日。

 

 里中が登校してきてすぐ僕らに言った。里中は僕と同じく昨日のマヨナカテレビを見たらしい。着ていた着物がいつも旅館で着ているのとよく似ていると言った。

 

「この前テレビでインタビュー受けてたときも着てた。山野アナが事件前宿泊してたからって取り囲まれて、現役女子高校生女将とかインタビュアーにセクハラっぽいこと言われてもうほんとふざけんなって感じ……」

 

「それ僕も見た。何か珍しくイライラした」

 

「だよね!」

 

 鳴上が連絡したかどうか里中に訊くと夜中にメールしたけど返事がこない。と、とても慌てた様子で言った。

 

「落ち着け里中! まずは無事を確かめるのが先だ。天城に電話!!」

 

「……うん」

 

 電話するがコール音が鳴り響くだけで出る様子がない。だんだん不安だけが大きくなっていく。

 

「雪子? よかった~ いたよー!」

 

 里中のとても安心しきった声が出た。どうやら急に団体さんが入って手伝わないといけなくなったらしい。実は年に一回はあるのだとか。

 

「早とちり」

 

「すんません……」

 

 天城の無事がわかって、その後の里中はとても上機嫌だった。

 

◇◇◇

 

 誰かがいるかクマに話を訊くためにジュネスへと向かった。

 

 鳴上が手だけいれてクマがいるか確認する。

 

「……っ!」

 

 急に鳴上は手を引っ込めた。よく見ると歯形ついてる。噛まれたらしい。

 

「……泣きそう」

 

「泣かないの。フーフーすれば治る!」

 

 ……気をとりなおして改めてクマに今テレビの中に誰かいるか訊く。

 

『誰かって誰? クマは今日もひとりで寂しん坊だけど? むしろ寂しんボーイだけど?』

 

 クマが何かショボーンんとしてるのが感じる。花村が気配とかないのかと訪ねると、「気配も感じないクマ」と答えた。ちなみにまだ鳴上は痛そう。

 

 とりあえず今日はマヨナカテレビを見ることにして、解散した。

 

 

◇◇◇

 

『こんばんは~』

 

 深夜12時。天城の声、姿が鮮明に映った。だけど……何かが違う。服装がもちろんそうだけど……テンション? キャラ? 何か違和感がある。

 

『えーと、今日は私天城雪子がなんと。“逆ナン”に挑戦したいと思います! 題してーー【やらせナシ! 雪子姫。白馬の王子様さがし!】』

 

『もぉ超本気ィ! 』

 

『見てないトコまで勝負使用……。はぁと、みたいなね!』

 

『もぉ、私用のホストクラブをブッ建てるくらいの意気込みで』

 

『じゃあ行ってきま~す!!』

 

 そして消えた。僕は衝撃が多き過ぎて一言しか言えなかった。

 

「……えっ。何、コレ?」

 

 その後鳴上に電話した。少し前に花村とも話をしたらしく、明日ジュネスで里中と集合してから考える。ということになった。

 

◇◇◇

 

 4月17日。日曜日。

 

 里中と集合したあと、警察署に来た。天城がいついなくなったか訊くことが目的だ。

 

「え、あ、うーんとね……。言っていいのかなあ? まぁ天城さんと友だちなら……特別だよ?」

 

 対応してくれたのは鳴上が居候してる堂島さんって人の部下の「足立 透(あだち とおる)」さん。

 

 足立さんによると居なくなったのは昨日の夕方くらいから。急に姿が見えなくなったって家族から電話があったらしい。失踪した人が霧の日に同じような遺体で見られていることから現在署内は過敏になっているようだ。確かに、ピリピリとした感じは伝わる。

 

 一番疑わしい柊みすずは事件当時、海外公演中でアリバイあり。旦那の生田目太郎も特になし。

 

 そしてさらに、足立さんが言うには警察は天城のことを疑っているらしい。あの人口軽いな。

 

「天城完全に疑われている。やっぱ警察じゃあてにならねぇ」

 

「テレビの中、行くんでしょ? あたしも行く」

 

 鳴上と花村が危ないから、と里中を止める。それでも里中は行く気マンマンだ。

 

「有里からも何か言ってくれよ!」

 

 話が僕のとこに飛んできた。里中が「行くからね」とでも言いたげな目を僕に向けていた。

 

「……別にいいんじゃない」

 

「おまえも知ってるだろ! あそこは危ないんだぞ。なぁ鳴上」

 

「シャドウはペルソナじゃないと倒せない。里中は身を守る手段がないんだ。とても危険だ」

 

「行きたければ勝手に来ればいい。自分の身は自分で守れば問題ない。里中は身軽な感じがするから最悪走って逃げれば後は僕たちが倒すし」

 

 里中は唯一味方した僕の手を握り「ありがとね!」とお礼を言った。別に味方したワケじゃないんだけど。……たぶん。

 

 男子が負ける形となり、里中は「自分たちについていく」といったことを条件に同行することになった。

 

◇◇◇

 

 テレビの中に行くとクマがゴローゴローとしていた。

 

「何やってんだおまえ?」

 

「見てわからんクマ?」

 

 見てもわからんクマ、教えて。

 

「いろいろ考え事してるクマ。クマは何者なのかとか、この世界はなんなのとか。ハンニンのこととか」

 

「暇を持てあましてるようにしか見えんぞ」

 

「クマはさっぱりわからないクマで、それでクマはこんなにクマってるってのに……。あ、ダジャレ言っちゃった。うぷぷ……」

 

 うん。ダジャレ言う元気はあるようだ。

 

 クマが案内してる最中いろいろ事件について話していた。

 

 本当にこの世界でマヨナカテレビを撮っている訳ではないのか……。

 

「誰かがトッてるとかそんなのないし、初めからここはこういう世界クマ」

 

 のようで。クマの考えは「天城自身に原因があって生み出されている」という気がする。らしい。

 

「雪子自身があの映像を生み出してる? どういうこと? ワケわかんない! だいたいあの雪子が“逆ナン”とかって……あり得ないっつの!」

 

「落ち着いて。別に逆ナンしたいワケじゃないと思う。それくらいの何か……暗い思いがあって、それが何故か逆ナンになった。と僕は思う」

 

「……そうだよね。あの雪子が逆ナンなんて」

 

 クマが「ハンチョー」と僕を呼ぶので「何?」と答えた。クマは僕の方を向いて言った。

 

「逆ナンって?」

 

 ……僕は無視して先に進むことにした。クマは鳴上や花村にも訊いたが、僕の思いが伝わったのか元々そうするつもりだったのかわからないが二人も無視して歩いていった。

 

 目的地に到着。目の前には大きな城があった。あのマヨナカテレビに映っていた城とおんなじだ。

 

「雪子!!」

 

「里中ひとりで行くなって!」

 

「約束だったのに……」

 

「有里悲しむなって」

 

「別に悲しんでない」

 

 里中はひとりで走っていってしまった。ちなみにこの城の中にもシャドウの反応があるようだ。急がないと里中も危ない。僕らも走る。僕は里中に追い付けるけど二人は中々追い付けない。二人に許可もらって僕だけ里中を追いかけた。

 

【……赤が似合うねって】

 

 しばらくすると天城の声が聞こえた。商店街の時みたいに天城の心の声みたいな……そんな感じ。途中でシャドウが襲ってくるのであまり声だけに集中は出来なかった。

 

【私雪子って名前が嫌いだった……。雪なんて冷たくてすぐ溶けちゃう……儚くて意味のないもの……】

 

【でも私にはピッタリよね。旅館の跡継ぎって以外価値のない私には……】

 

【……だけど千枝だけが言ってくれた。“雪子には赤が似合うね”って。千枝だけが……私に意味をくれた……】

 

「雪子……」

 

 里中が呟く。天城の声はまだまだ続いた。

 

【千枝は明るくて強くてなんでもできて……。私にないものを全部持ってる……。私なんて……私なんて千枝に比べたら】

 

【千枝は……私を守ってくれる。なんの価値もない私を。私、そんな資格なんてないのに……】

 

「雪子。あ、あたし……」

 

 扉にたどり着き里中は扉を一気に開けて中に入る。

 

【優しい千枝】

 

『優しい千枝だってさ……。笑える』

 

 目の前にいたのは……シャドウだった。

 

「……え。だ……誰? あ……あたし!?」

 

「そう。“もうひとりの里中”。もっと簡単に言えば……シャドウ」

 

「有里くん!?」

 

 鳴上と花村はまだ来ない。僕が里中に自分を否定する言葉を言わせなければまだいける。でも……花村の時だって、そう簡単に自分の奥底の本心を受け入れることは出来ない。

 

『雪子が……あの雪子が? あたしに守られてるって!? 自分にはなんの価値もないってさ!!』

 

『ふふふ。うふふふふ……。そうでなくちゃねぇ? 雪子ってば美人で色白で女らしくて……男子なんかいっつもチヤホヤしてる』

 

『その雪子が、ときどきあたしを卑屈な目で見てくる……。それがたまんなくうれしかった』

 

「違う……。あ、あたし……。そんなこと!」

 

「里中落ち着いて!」

 

 ダメだ。声が届かない。こうしてる間にもシャドウは言葉を続ける。

 

『ふふ……。そうだよねぇ。ひとりじゃなんにもできないのは本当はあたし……』

 

『人としても女としても本当は勝てない。どうしようもないあたし……。でもあたしはあの雪子に頼られてるの……』

 

「里中! ……あれは」

 

「シャドウクマ」

 

「有里!」

 

 ……よかった。間に合った。……とは思えないよな、これは。

 

「こ……来ないで!!」

 

『ふふだから雪子はトモダチ……雪子が大事……手放せない……』

 

「そんなっ……あたしはちゃんと……や……やだ。来ないで! 見ないでぇ!!」

 

『うふふ……今までどおり見ないフリであたしを抑えつけるんだ?』

 

「黙れ!!」

 

「よせ里中!!」

 

 花村が叫ぶ。でももう……遅かった。里中は言ってしまった。

 

「アンタなんか……アンタなんかあたしじゃない!!」

 

「……っ!」

 

 シャドウがニッと笑った。その言葉を待っていたと言いたげな目。

 

『……そうよ。そうよ雪子なんて本当はあたしがいなきゃなんにもできない……』

 

  シャドウは花村の時と同じようにどんどんと怪物の姿に変わっていく。

 

『あたしのほうが……あたしのほうが……あたしのほうが! あたしのほうがずっと上じゃない!!』

 

 vsシャドウ戦の第2幕が始まったのだった。


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