ペルソナ4 有里湊のif世界での物語   作:雨扇

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4月15日(金)

『いつまで媚びへつらっていいヤツ面して生きてんだよ。商店街もジュネスも全部ウゼーんだろ!』

 

「何言ってる……?」

 

 シャドウ陽介(?)は追い詰めるように次々と言葉を発する。それが真実なのか嘘なのか僕らにはわからないが、花村の様子を見るに「隠したい本音」みたいな、そんな感じなのだろう。

 

『そもそも……今の退屈な生活が……。田舎暮らしがウゼーんだよな!?』

 

「俺はそんなこと思ってない」

 

『何焦ってんだ! 俺には全部お見通しなんだよ。だって俺は……「おまえ」なんだからな!』

 

『ここに来たのもおまえは単にワクワクしてたんだ。「小西先輩のためにこの世界を調べに来た」なんてらしい口実もあるしな』

 

「シャドウ……生まれたては初めて見たクマ。それにセンセイやハンチョーみたく直接出て来たものだからすごい力を感じる」

 

 この世界で生きるクマが言うのだからそうなのだろう。花村は頑なに否定する。

 

「違う!! おまえなんなんだ! 誰なんだよ!?」

 

「ねぇクマ。嫌な予感がする」

 

「ハンチョーも気づいたクマか? クマもとーっても嫌な感じがするクマよ……」

 

「花村……」

 

 花村とシャドウ陽介の会話を聞いているととても嫌な感じがする。理由を聞かれてもわからない。けれど、まるで“負”の感情がシャドウ陽介に集まってる。そんな不気味な感じ。

 

『違わないさ!! いいぜぇ、もっともっと言いな!』

 

「ふ……ふざけんなっ! おまえなんか……俺じゃない!!」

 

『もっと! もっとだ!!』

 

「おまえなんて……」

 

 そして……。僕の「嫌な予感」通りになった。

 

「俺じゃない!!」

 

『ああそうさ! 俺は俺だ! おまえなんかじゃ……ない!!』

 

 シャドウ陽介はいきなり返信した。いや、「本来の姿になった」と言った方がいいのか。よくわからない。上が人で……下がカエル? とりあえず何か素早い感じのヤツだった。

 

「イザナギ!」

 

「オルフェウス!」

 

 僕と鳴上はとっさにペルソナを召喚した。シャドウは花村を狙っていた。

 

「クマ、何であいつは花村を狙うんだ?」

 

「あれはもともとヨースケの中にいたものクマ!」

 

「つまり、花村が受け入れなかったから“暴走”したと?」

 

 クマは頷いた。僕はある人たちを思い浮かべていた。そうしている時ではない。そうわかってはいるのだが、つい思い出してしまった。

 

 ストレガの三人……タカヤ、ジン、チドリ。そして荒垣先輩。荒垣先輩は僕らとの関わりはたった一ヶ月くらいしかなかったけど、とても頼れる先輩の一人として尊敬していた。

 

 真田先輩に荒垣先輩はしばらくペルソナの“制御剤”を使っていたことを聞いた。荒垣先輩はそんなことしなくてもよかったそうだが、ストレガの三人は別だ。制御剤を使わないと「自分のペルソナに殺される」

 

 まるで……今、この状況みたいに。

 

「クッ……!」

 

「鳴上、平気か?」

 

「あぁ」

 

 雷弱点のシャドウと風弱点のイザナギ。お互いに不利な状況だ。僕のオルフェウスは火属性。効きすぎでもなく効かなすぎでもない。

 

「オルフェウス!」

 

『チッ……。おまえ一番ウゼーな』

 

 シャドウは僕に攻撃を集中させる。避けるのが精一杯になってきた。今のうちに鳴上の体力とか回復してくれればいいのだが。……手っ取り早いのは、花村に自分だと認めさせること、だよな……。

 

「違う……。あんなの、俺じゃ……ない」

 

 こりゃダメかも。シャドウの標的が僕である以上、花村を出せば変えるかな。やっちゃおうかな。

 ……って割りきれたらS.E.E.Sのリーダー、やれてなかったよなぁ。

 

「有里」

 

「わかってる。……オルフェウス!」

 

 そんな僕の合図でオルフェウスは琴でシャドウを殴り、鳴上は“花村”を殴った。

 

「いってぇ! 何すんだよ!」

 

「あ、間違えた」

 

「はぁ!?」

 

 絶対ウソだ。だってさっき僕に目線で言ったじゃん。と言ったら怒られそうなのでやめておく。それにもしも鳴上が殴らなかったら僕が殴るから。

 

「小西先輩のこと、好きだったんだろ? ……花村は、このままあいつ(シャドウ)に殺されるつもりか。そうしたかったのか! そうなってほしかったのか!! このままあいつにやられるつもりなら。俺がおまえを倒してやる」

 

 ……カッコいいな、鳴上は。僕なんかよりずっと、カッコいい。僕は、花村に何も声をかけることが出来なかったのだから。

 

 彼が僕と同じ「ワイルド」の力を持つのなら、きっとその内に「世界」のアルカナを持つことになる。今回は、大丈夫だろうか。僕の戦いみたいに世界が滅ぶ、なんてことないだろうか。彼は死んでほしくない。いなくなってほしくない。僕なんかより、ずっと頼れるから。

 

「……俺は、先輩ともっと話したかった。先輩のこともっと知りたかったよ。もう、遅いかな。できるなら……救ってやりたかったよ。でも、そんなこと言ったら先輩はきっとウザイって言うんだろうな」

 

 話している花村の表情は、何かすっきりしたような顔だった。悩みを一つ解決した、そんな感じだ。

 

「思い出したよ。先輩と初めて会ったときのこと……。あの頃はこんな田舎って見下してたっけ。……今でもそうなのかな。そんな俺に先輩は『親は親。キミはキミ』って言ってくれたっけ……。あれ、本心だったのかな? そうじゃなくてもうれしかったんだ。先輩の言葉で俺、初めてこの町も悪くないかなって思えたんだ。先輩……先輩、ありがとうな」

 

 そして花村は僕らの方を向いて言った。

 

「先輩に紹介した転校生二人。こいつらのお陰で俺は……気づけたんだ。もう大丈夫」

 

『何だよ何だよ!! ざっけんなぁぁ!! カッコつけやがってよおぉ。田舎暮らしにうんざりして! この世界があると知ってワクワクして!! 先輩にも盛大にフラれただろうが! なのに「ありがとうな」ってふざけんじゃねぇ!!』

 

 急にシャドウが弱くなった気がした。花村が自分の“本音”を受け入れたからか? とにかく、今がチャンスってこと。

 

「鳴上!」

 

「イザナギ!!」

 

 シャドウの弱点属性の雷魔法の「ジオ」をイザナギが放った。弱まっていたシャドウは攻撃をモロに受けた。

 

「センセイ、ハンチョー! シャドウの反応がとーっても薄くなったクマ!」

 

 目の前には倒れているシャドウ陽介の姿があった。

 

「ヨースケ。あれはもともとヨースケの中にいたものクマ。ヨースケが受け入れなかったらまた暴走するかもしれないクマ」

 

 花村はシャドウの元に歩み寄る。

 

「ムズいよな……。自分と向き合うってさ。わかってた……けどみっともねーし、どうしようもなくて。認めたくなかった……。でも、そういうの全部ひっくるめて俺は俺ってことだな。……おまえは、俺だ」

 

 「おまえは俺」ーーその言葉を待っていたかのように、シャドウは少し微笑んで、姿をペルソナへと変えた。「ジライヤ」。花村の、ペルソナだ。

 

◇◇◇

 

 最初のスタジオに戻ってきた。

 

「なぁ……“犯人”絶対見つけよーぜ。放っといたらこの先また誰が犠牲になっちまうかわからねぇ。俺らならまた誰かが放り込まれてもその人を救えるかもしれねーし」

 

「当然やる。鳴上は?」

 

「やる気だな、有里」

 

 鳴上は少し驚いた表情で僕に訊いた。やる気? そんなのはないよ。ただ……。

 

「クマと約束したから」

 

「約束、守ってくれるクマか!?」

 

「有里の言う通りだな。約束しちまったし」

 

「それに、そうじゃなきゃ俺たちをここから出さないって。クマが言ったんじゃないか」

 

 俺たちは少し笑顔になれた。クマも元気が出たようで、張り切って帰りのテレビを呼んでいた。僕たちが帰る時、クマはずっと手を振っていた。

 

 ……そう言えば、何かと言うか……誰か忘れている気がする。

 

◇◇◇

 

 ジュネスの家電製品売り場へと戻ってきた。

 

「忘れてたと思ったら、里中だった」

 

 僕はようやく思い出した。里中はかなり泣いており、僕らに文句を言っていたが聞き取れなかった。お詫びとして奢ることを条件に許してもらえた。

 

◇◇◇

 

 外はもうすっかり夕暮れだった。鮫川の河川敷から見る夕日はとても綺麗だ。高台からだともっと綺麗だと花村が教えてくれた。

 

「有里、鳴上。これから……よろしく頼むぜ。……なんてカッコつけてるけどよ。正直いろいろ不安なんだ。でも……俺、おまえらとなら犯人見つけてこの事件を解決できそうな気がするんだ」

 

 僕と鳴上は頷く。すると花村は真剣な表情から急にいつも通りの顔に戻った。

 

「なぁ。おまえら二人とも同じくらい俺にとってはカッコいいワケ。どっちかを“相棒”と呼びたい、ってかどっちも呼べばいいのか?」

 

「相棒は二人三人もいるもんじゃないでしょ」

 

 僕がそう指摘すると花村はうなった。鳴上が僕に譲ろうとするのが横目で見えたから、すぐに僕が辞退して鳴上に譲った。

 

「別に相棒と呼ばれるのが嫌だからってワケじゃない。ただ……僕にはもう、そんな感じの関係の人がいるから」

 

 本人がどうかは知らない。けど、僕にとっては……順平。あいつが、相棒なんだ。

 

「そっか。じゃ鳴上が相棒だな。よろしく、相棒」

 

「あぁ!」

 

 花村と鳴上はしっかりと握手した。僕はそれを少し後ろから見ていた。いいね。青春かぁ。

 

「おい有里」

 

「ん?」

 

 二人とも、僕を見ていた。そして下を少し見ると二人とも手を出している。

 

「おまえともこれからよろしくって意味」

 

「握手だ」

 

 僕は別世界の二年前、特に理由があるわけでもなく「頼まれた。世界のため」そんな感じで戦ってた。S.E.E.Sは、そんな人たちで構成された雰囲気だった。

 

 でも、この二人は違った。二人とも同じ目的、意思を持った“親友”だ。僕らは仲が悪いわけではなかったけどギスギスとした時はあった。こういう関係の中、僕は上手くやっていけるかな。

 

「僕も握手するの?」

 

「当たり前だろ。俺たちはもう“友達”だ! な、鳴上」

 

「あぁ。“親友”と呼んでもいいんじゃないか?」

 

「いいなそれ!」

 

 僕も、“親友”。……どうやら、僕の不安は考えすぎだった。

 

「……よろしく。鳴上、花村」

 

「よろしく。有里」

 

「よろしくな。「有里ハンチョー」!」

 

「それ止めてよ」

 

 この二人を見ていると、いつも思うんだ。例え別世界でも、あの時綾時を殺さずにニュクスと戦う意思を持ったこと、命を使って封印すること。その行為は間違っていなかったかもしれない。と。

 

ーー新たなコミュニティ。「魔術師:花村陽介コミュ1」

 

ーー新たなコミュニティ。「永劫:鳴上悠コミュ1」




アニメ、マンガ、オリジナルをかなり会話文に盛り込んだかと思います。

鳴上くんの初ペルソナチェンジはシャドウ千枝戦で、有里くんはシャドウ雪子戦で行います。ちなみに鳴上くんのペルソナは大方アニメ版の構成になるかと。

有里くんの召喚可能アルカナーー「正義」「死神」「魔術師」「永劫」「愚者」

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