「りせ」
「あ、有里先輩。それにお店に来てくれた人たち……」
「あとで全部ゆっくり説明するから今は……」
「……? どうしたの千枝?」
里中の言葉が止まった。里中は僕たちの後ろを見ている。
「……クマ」
声をかけてみるが反応がない。
「本当の自分なんて……いない?」
クマの後ろに黒いモヤモヤが集まりだす。
『“本当”? “自分”? ククク……実に愚かだ……』
モヤモヤが集まり形となって生まれのは……クマの“シャドウ”だった。
「クマのシャドウ……内面ってことだよね……」
「たぶんそう……。でも何かの……強い干渉を……」
『真実を得ることは不可能だ……真実は常に霧に隠されている。手を伸ばし何かを掴んでもそれが真実だと確かめる術は決してない……。
なら……真実を求めることになんの意味がある? 目を閉じ、己を騙し、楽に生きてゆく……そのほうがずっと賢いじゃないか』
「な……何言ってるクマか! おまえの言うことぜーんぜんわからんクマ! クマがあんまり賢くないからってわざと難しいこと言ってるクマね!
失礼しちゃうクマ! クマはこれでも一生懸命考えてるの!」
『それが無駄だと言ってるのさ……おまえは“初めから”カラッポなんだからね』
シャドウクマの言葉はクマの思いや行動全てを“否定”することになる。
『失われた記憶などおまえには初めからない。何かを忘れているとすればそれは……“そのこと”自体にすぎない』
“そのこと”自体……つまり、「失われた記憶なんてない」ということを忘れていた、ということだろうか。
「ややこしいね。完二わかった?」
「全然っス!」
「だよね」
「わかってるなら何で完二に訊いたんだよっ」
「一番わかってなさそう」
「おいっ! ……でも、これだけはわかったぜ。クマの奴……すっげぇ辛そうだ」
「うん、僕もそう思う」
僕は目線をクマの方に戻す。
『なら言ってやろうか。おまえの正体はどうせただの……』
「やめろって言ってるクマー!! ヌオワ!!」
「クマさん!!」
クマがシャドウクマに殴りかかろうとしたら衝撃波みたいなのに弾かれた。
『おまえたちも同じだ……』
シャドウクマは今度は僕たちに向かって話しかけた。
『真実を探すから辛い目に遭う……。そもそもこれだけの深い霧に包まれた世界……。正体すらわからないものをこの中からどうやって見つけるつもりだ?』
「どういう意味だゴラァ!」
完二がイラついて怒鳴るがシャドウクマは至って冷静だ。
『ククク……愚か者は見ていて飽きないな……。特に、“関係ないはずなのにわざわざ付き合っている愚か者”はな……』
「……え」
別世界から来たのを知っているのはベルベットルームの人たちと何故か知ってるガソスタの店員。どうしてシャドウクマが知っている……? いや、別世界から来たことを知っている訳ではないのかもしれない。関わろうとしなければ、ということかもしれない。
『真実が欲しいなら簡単なことだ。おまえたちが“真実”と思えばいいだけさ……。ではひとつ、真実を教えてやろう……。
おまえたちは、ここで死ぬ』
地響きが鳴る。立ってはいれるけど揺れは結構スゴい。
『知ろうとしたが故に、何も知り得ぬままな……』
「みんなっ! 跳んで!!」
りせの指示で一斉に跳んだ。地面を壊し現れたのは大きくなったシャドウクマ。所々空洞があり、目が怖い。
「……わっ! 吸い込んでくるっ!」
里中が叫ぶ。吸い込みの力が強くなり僕たちはどこかに掴まる。
「ギャーッス! クマー!!」
クマだけはペラペラ状態だから掴むことが出来ない。体を巻き付けるようにして掴まっているけどいつまでもつかわからない。
「クーマー」
「ク、クマくんっ!」
「クマきち!」
やっぱあのペラペラじゃいつか吸い込まれるとは思ってた!
クマとか瓦礫とか吸い込んでるのに全然力が弱まらない。
「鳴上先輩。私と……“ヒミコ”を支えてて」
りせのペルソナ、ヒミコ。頭にアンテナがあり敵の情報を得る。支援タイプのペルソナ。
鳴上はりせを、イザナギがヒミコを支える。シャドウクマの“中”を探っているらしい。
「今度は……私が助ける番」
◇◇◇
りせがアナライズ始めて一、二分経った頃。集中していて動かなかったりせがピクリと動いた。何か掴んだのだろうか?
「鳴上先輩……有里先輩も! 胸の辺り!」
「わかった! イザナギ!」
「僕も? はいはい……オルフェウス!」
イザナギの刃とオルフェウスの琴での物理攻撃がシャドウクマの胸にヒットした。
『グ、グオォォォォ!!』
うめき声をあげ元の姿に戻っていくシャドウクマ。吸い込まれたクマも無事に戻ってきた。中で何か話したのだろうかクマの顔は少しだけ悩みが解決したような表情だった。
「クマ……クマは……自分が何者かわからないクマ……。ひょっとしたら答えはないのかも……なんてたしかにときどきそんな気もしたクマ……。
だけど……だけどクマは今、ここにいるクマよ……クマはここで生きてるクマよ……」
いつも元気のいいクマも、ちゃんと考えてる。みんながみんな、能天気ってわけじゃない。誰しも考えて、悩んで、苦しんでるんだ。
「……関係ないからって助けを求めている人を助けないわけにはいかないよ」
気がつくと僕はそうシャドウクマに言っていた。みんなの目線が僕に向いていてスゴい恥ずかしいけど、言わないといけない気がした。
「僕はもう……仲間を……親友を……死なせたくないだけだよ」
そう言えば最近「どうでもいい」って言った回数がかなり減っていた。確かに、たまにだけど本当に「どうでもいい」って思うことはある。
けど、シャドウ関連で人が死ぬのは嫌なんだ。
「クマはひとりじゃない」
横を向くと鳴上が僕の肩に手を置いていた。
「センセイ……ハンチョー。ホントに答え……見つかるクマ? クマはもう……ひとりで悩まなくてもいいクマか……?」
「なーにいまさら言ってるんだよ!」
「そうだぜ! 水臭ぇじゃねぇか!!」
「この世界のこと探っていくうちにクマさんのこともきっと何かわかると思う」
「うんうん! あたし達がいるんだから、安心しなよクマくん!」
「よ……よよよヨースケ……み……みんな! クマは……クマは……クマは果報者クマ! およよよ……」
『……フ。自ら辛い道を往くか……それもまた……』
そう言い残し消えたシャドウクマ。そして現れたのはペルソナだった。
ペルソナーー“キントキドウジ”。クマも……これで“ペルソナ使い”になったんだ。
「それ……すごい力感じるよ……よかったねクマ……」
「りせちゃん!」
どうやらかなり体力を消耗したらしい。無理もないだろう。ペルソナを得て、回復するまもなくもう一戦したのだから。
「しばらくひとりにしてほしいクマ」
「お、おい……」
クマが珍しく何やら真剣モードだ。
「自慢の毛並みもカサカサだし、鼻も利かんで迷惑をお掛けしてるし……毛が生え変わるまでトレーニングにハゲしく励むクマ! 誰もオラを止めることはできね! あソーレ!」
クマが急に腹筋を始めた。花村が戸惑いつつ「きゅ……急にどしたんだよ……」と声をかける。
「話しかけないでほしいクマ! あソーレ! ふんっ! ふんっ!」
「そっとしといてやろうぜ……男にはひとりで越えなきゃなんねぇときがあるもんなんだよ……」
「そんなハイブローな話……?」
ともかく一件落着。僕たちは順番に現実世界に戻っていく。
「センセイ、ハンチョー」
クマに呼ばれた僕と鳴上はクマに近づく。クマは腹筋しつつ言った。
「センセイとハンチョーの力には……どこか特別なものを感じるクマよ。きっとクマにもクマだけの役目がある……。
センセイとハンチョーといるとそんな気がするクマ。だから、それを探すために強くなるクマ!」
そして「クマーッ!」と大声をあげ腹筋のスピードを上げた。僕たちも元の世界に戻った。
◇◇◇
そして夜。恒例のファルロスと話そうのコーナー……。
眠いんだけど。このコーナーこそどうでもいいと思う。まぁ、彼は楽しそうだからいいんだけど(死神コミュ6)
りせ&クマ編終了!! 長かった!
シャドウクマ戦はアニメ版にしました。待ってる方々にとってはシャドウクマ戦はかなり早く終わったんでしょうね。湊くんはただ飛ばされないように掴まるだけでした。
メインはシャドウりせ戦。ゲームではイベント戦闘みたいな感じでしたがこちらではこっちがメインっぽくしました。
P3終了後ってことは「どうでもいい」と余り思わなくなった彼なのでもしかしたら精神攻撃も効くのでは→効きました。
タナトスを出したのは一回くらいださないと出番かなり後なので出そうかな、という気まぐれ。
またまた日常編挟んでからの次はシャドウ美津雄戦です。お楽しみに