6月13日。月曜日。
今日から衣替え。やっぱ夏服の方が動きやすいな。
そう言えば今日の放課後にバイクがくる。何か「ナンパ作戦」とか花村がマジで計画してるらしく、沖奈市に行くのだとか。一応沖奈くらいには行けるようにしておかないと。放課後、今日はバイクの試運転に使おう。
◇◇◇
一通り乗ってみた。意外とすんなり出来た。慣れるととても楽しい。これならすぐに乗りこなせそうだ。ナンパ作戦……どうやって逃げるか考えておかないと。
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6月14日。火曜日。
放課後。高台に行くと風花がいた。ここからの景色について話していたらいつの間にかペルソナの話になった。展開が謎過ぎたけど考えたら余計に分からなくなったので諦めた。(隠者コミュ2)
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6月15日。水曜日。
「今日行くぞ! “ナンパ作戦in沖奈”!!」
「ほ……」
「ほ?」
「ほ……」
「??」
「ホントにやるとは思わなかったよっ!!」
思わず「静かキャラ」を崩してしまった僕。それも無理はないと思いたい。
時は朝のHR前。鳴上と話していると花村が登校してきた。僕と鳴上は普通に挨拶した。だけど花村は挨拶の代わりに言ったのだ。
「今日行くぞ!」
◇◇◇
沖奈市。
「自転車でも追い付くなんて。流石完二」
「あざっす! 有里先輩もいい走りっぷりで!」
「走りっぷりとかどうでもいい。ナンパ作戦を今から決行するぞ!」
僕、花村、鳴上。そして何故か自転車でついてきた完二。花村はさっそく行うと言っていたが非常に僕は帰るか沖奈市を探索したい。
「3分だな」
「カップラーメンが出来るっす」
「鳴上、君は拒否する側だと思っていたよ」
そう信じていた僕がバカみたいではないか。
そしてマジでナンパ作戦が始まった。ルールは簡単。女の子から連絡先を教えてもらうこと。
「あの……湊くん?」
「僕が本気でナンパとかすると思ったら大間違い。だと思わない……ですか?」
「えっ、お……思うよ!」
喫茶店「シャガール」。目の前に座っているのは風花だ。逃げようと思ってこの喫茶店に入ったら偶然いたので連れだと嘘を言って無理矢理座った。
「懐かしいなぁ。私が高校二年生の頃ね、屋久島行ったんだ」
……うん。よく、知ってる。
「順平くん、ゆかりちゃん、美鶴先輩、真田先輩……そして琴音ちゃん。特別課外活動部って言って湊くんたちの集まりと一緒。シャドウと戦う為に集まった集団でね。みんなで行ったんだ。あそこ、美鶴先輩の別荘があるの」
……それも、よく知ってる。
「順平くんと真田先輩がナンパをしていたらしくね。男子って必ずナンパをするのが定番なのかな?」
「それはないんじゃない? 興味ない人だっているよ」
「そうだね。現に湊くん、とってもつまらなさそう」
風花は笑った。
これは完全に言えないよね。僕が「つまらなさそう」なのは“興味ない”ではなく前の世界で“すでにやったことがある”からだということを……。
「そう言えば知ってるかな? この沖奈市に小さい“古本屋”があるの。その人ね、琴音ちゃん……あ、湊くんと同じ「ワイルド」の能力をもつんだけど、知り合いだったんだ。知らなかったなぁ」
古本屋……。もしかして。
「ありがとう風花。僕もう出る。これ、僕の分のお金。なんか急に押し掛けた感じですみません」
「いいの。湊くんと話すと昔のことを思い出せて懐かしい感じがするから」
風花の目は少し悲しそうだった。
ニュクスを封じる代償。……僕の世界でもみんなは悲しんでくれているだろうか。
僕は風花にお辞儀をし、外に出た。駅前で絶賛ナンパ作戦中の三人は置いておき、僕は風花が言っていた古本屋を探す。この世界での僕の担当である汐見琴音が知り合いだと言うのなら僕も別世界で知り合いだった可能性が高い。
◇◇◇
「いらっしゃ~い」
「……どうも」
僕の予想は当たった。
「北村 文吉」ーー文吉じいさんと「北村 光子」ーー光子ばあさんだ。
「前は辰巳ポートアイランドの方にあったと聞きましたが……」
「よく知ってたねぇ」
「あそこの学園にはね、柿の木があって離れたくはなかったんだけどね……」
じいさんもばあさんも少し悲しそうだった。二人はあの柿の木を大事にしていた。だからそれを放っといてこちらに来るなんて不思議なのだ。
「いろいろとワケあってねぇ。しばらくはここで店を開くんだよ」
なるほど。
「お前さん、名前は?」
「有里湊」
「ふむ。湊ちゃんか。湊ちゃん、また来ておくれ。サービスするぞい」
文吉じいさんはそう言って笑った。湊ちゃんなんて呼ばれるの久しぶりな気がする。何か恥ずかしい。
今日は挨拶程度に一冊本を買った。暇潰しによく読むからこういう店はありがたい。
ーー新たなコミュニティ。「法王:古本屋コミュ1」
ちなみに、ナンパ作戦のことはこの頃から本気で忘れていた。三人に結果を訊いてみると見事に失敗。花村に至ってはバイクが壊れる事態になった。
「ナンパしようとした罰じゃない?」
そう軽口を言ってみたけどいつも花村からのツッコミがなかったので本気で心配することになってしまった。
花村だけ電車で帰ることになった……。
〓〓〓
6月16日。木曜日。
昼休みの屋上。完二抜きの四人でカップ麺を食べていた。
「ついに明日かぁー」
かなり花村が浮かれていた。明日……林間学校だ。でも楽しいさ満開って訳でもなく、ただゴミ拾いをひたすらするだけらしい。夜は飯ごう炊さんとか、テントで寝たりとか。そこは楽しいのだとか。
◇◇◇
放課後。ジュネスに飯ごう炊さんの材料を買いにやって来た。
「そういえば去年は河原で遊んで帰ったよね」
ふと天城が言った。その発言を聞き逃すことはなかった花村。泳げるのかどうか訊いた。
「あー、泳げんじゃん? 入ってるヤツいるよ毎年」
「そっか。泳げんだ……」
そう呟くと花村は駆け足でどこかに向かった。買い物は僕たちに任せて。
「鳴上。僕たちは端で待ってない?」
「あぁ」
女子に任せて端っ子に行く僕と鳴上。僕らはあの「ムドオン弁当」を食した勇者とも言えるだろう。
「里中は平気だと思う」
「俺も。……だといいな」
「僕もそう思うよ……」
女子の会話の中に「キムチ」とか「チョコ」とか「コーヒー」、「ヨーグルト」……「コーヒー牛乳」。「なまこ」。
何故か里中も納得顔。これ……まさか里中“も”、なのではないか……?
隣の鳴上の表情を見てみると僕と同じことを思ったけど勇気がないせいで固まっていた。最初は「ムド」程度だと思っていたけど……これじゃあ「ムドオン」に強さが上がってしまう。覚悟、決めておこうかな。
次回はついに林間学校当日。カレーのご登場。