ペルソナ4 有里湊のif世界での物語   作:雨扇

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5月19日(木)

 誰も……もちろん僕も扉の前に立つだけで開けようとしない。自分から開ける人なんてここにはいないのだ。

 

「こういう時は男子から、ほら」

 

「はぁ!? っておい里中押すなよ!」

 

 花村が反論するが里中は僕ら男性人の背中を押すのをやめない。「わかったから」と観念し押すのをやめてもらった。

 ゆっくり、そーっと開ける。

 

「おい!! 動くんじゃねぇ!」

 

『いいね! もっと!』

 

 僕らはすぐに扉を閉めた。

 

「……さ、帰ろ」

 

「帰ろう」

 

「これ以上いたら俺たちの心と体はボロボロだ」

 

「おい男子たち待てぇ!」

 

 帰ろうと出口に向かって(本気で)歩きだそうとすると里中と天城、クマに止められた。君らはさっきの光景を見てないからそんな幸せでいられるんだ!

 

「あれはダメ! 里中も見てみろってマジ無理だからっ!」

 

「あれは……ないわ」

 

「そ、そこまで言うんだ」

 

 次は女性人プラスクマが先頭だ。彼女らもゆっくりと開ける。その瞬間閉めた。

 

「ダメダメダメ!!」

 

「あれはないクマ! ダメクマ!」

 

「やっぱ灰にしていいんじゃないかな」

 

 どうやら彼女らもわかったようだ。それでも助けないと完二の命が危ないので泣きの一回だ。全員で突入する。

 

「ほらやっぱり……」

 

 完二とシャドウ完二は取っ組み合いをしているのだが、格好からして最早アレにしか見えない。二度と見たくない光景だ。

 

 とりあえず何とか離れてもらった。

 

『おっと、邪魔するならこうだっ!』

 

 シャドウ完二は何かマッスルポーズをすると横のお湯が漏れて足元に浸かる。

 

「……? 何これ、これが何だって……うわぁ!」

 

「千枝! ……えっ、きゃあ!!」

 

 こ、これはローション!? あのぬるぬるの!?

 

「おい里中、天城大丈夫か……」

 

 花村が固まった。花村に向けてた視線を女子の二人に戻す。

 

「な、何よこれぇ……」

 

「ぬるぬるしてて気持ち悪い……」

 

「鳴上、録画出来るもの持ってないか!?」

 

「くっ、ない!」

 

 確かに写真撮りたい気持ちはわからなくは……ないな。これを順平が見たら花村並に興奮しそう。

 てかクマは? と思ったらクマはローションで滑ってた。

 

 邪魔者(僕たち)が足止めされたのを見ると、シャドウ完二が話し出した。

 

『もうやめようよ嘘つくの……。人を騙すのも自分を騙すのも嫌いだろ? やりたいことやりたいって言って何が悪い?』

 

「……! オ、オレぁ……」

 

『ボクはキミの“やりたいこと”だよ』

 

「違う!」

 

 僕らがいるからだろうか。バレたくないの一心で必死に反抗してる。でも、それじゃあシャドウの思う壺。

 

『女は嫌いだ……。偉そうでわがままで怒れば泣く。陰口は言う。チクる、試す、化ける。気持ち悪いモノみたいにボクを見て変人、変人ってさ……。で……笑いながらこう言うんだ』

 

 いつの間にかふざけている表情から真剣な表情になっていたシャドウ完二。

 

『裁縫好きなんて気持ち悪い。絵を描くなんて似合わない。男のくせに、男のくせに、男のくせに……!』

 

『男ってなんだ? 男らしいってなんなんだ? 女は怖いよなぁ……』

 

「こっ、怖くなんかねぇ」

 

『男がいい……。男のくせにって言わないしな。そうさ男がいい……』

 

「ざっ……けんな! なんなんだテメェ。人と同じ顔してフザけやがって……!」

 

『キミはボク……。ボクはキミだよ……。わかっているだろ……?』

 

「違う……違う、違う!」

 

「ダメだ完二!」

 

「完二くん!」

 

 僕と天城が叫ぶ。けど、既にヒートアップしたのか聞こえなかったらしい。言ってしまったのだ。

 

「テメェみてぇのが……。“オレなもんかよ”!!」

 

『ふふ……ふふうふふ……。ボクはキミ、キミさァァ!!』

 

 シャドウ完二は姿を変える。巨体に薔薇……。

 

「天城と里中のシャドウの方がまだいいと思わない?」

 

 クマに訊いてみる。クマは静かにウンウンと頷いた。

 

『我は影……真なる我……。ボクはジブンに正直なんだよ。だからさ……。邪魔なモンには消えてもらうよ!!』

 

 雷攻撃で完二を攻撃しようとするシャドウ。僕たちはペルソナでどうにか完二を守る。

 

「これ……完二くんの本音なの!?」

 

「こんなの本音じゃねぇ! タチ悪く暴走しちまってるだけだ!!」

 

 シャドウに攻撃するが中々通らない。二体の別のシャドウが邪魔をしているからだ。クマが言うにはこれもシャドウ完二の一部だとか。

 

「イザナギ!」

 

 イザナギが突っ込む、が片方に捕まった。うわ、気持ち悪っ。

 

『ふふ、いい体ね』

 

「チェ、チェンジで!」

 

 鳴上はイザナギを引っ込める。イザナギを捕まえた奴を天城のコノハナサクヤが攻撃する。

 

『効く~!』

 

「えっ、火が効かない!?」

 

 火の耐性持ちのようだ。

 

「トモエ!」

 

 もう一体をトモエが“ブフ”で攻撃する。

 

『ヒンヤリ~!』

 

「えぇーっ!?」

 

 こっちは氷耐性らしい。

 

「ペルソナッ!!」

 

 鳴上が“ラクシャーサ”を召喚し、ジライヤとオルフェウスで突っ込む。魔法が効かないなら物理でいこうとした、が。

 

『捕まえたっ』

 

「チェンジで!」

 

「チェンジ」

 

「うわっ! おまえらずりーぞっ」

 

 ……うっ! 何か後ろから強烈な視線を感じる!

 

「うっ」

 

「ひっ」

 

「ギャー! センセイとヨースケがドクドクマー!」

 

 二人はその……尻を触られた。色々と終わった感を出して倒れてる。僕は狙われなかったようだ。ホッ。

 

「わっ」

 

「ギャー! ハンチョーまでドクドクマー!」

 

 油断していた……。まさか僕まで標的だとは。

 

「男子がやられた!」

 

「大丈夫。私たちには興味ない、はず……」

 

 さっき僕らを毒にしたヤツが天城をジーっと見ていた。たぶん火耐性のヤツだ。そいつは天城を上からジーっと見ると一気に言った。

 

『ミスマッチ、レッド!!』

 

「何ですって!!」

 

 怒った天城はコノハナサクヤで攻撃を連発。しかし火耐性のせいで全然効かない。

 

「ちょっと雪子!? ……へ?」

 

 次は氷耐性のヤツが里中を見ていた。そして何か言うのかと思ったら……。

 

『……』

 

 里中の肩に手を乗せて「うんうん」と頷くだけだった。

 

「何か言えよっ!!」

 

 里中も怒って氷攻撃を連発させた。こちらも全然効かない。

 

「みんな落ち着くクマーっ!」

 

 唯一無事なのは非戦闘メンバーのクマだけ。

 男性人は毒を受け、女性人はヤケクソのバットステータスを受けてしまった。

 

「二人スゴい怒ってるぞ」

 

「あぁ、そーだな」

 

「こっちの方が精神的ダメージなのわかってる?」

 

「……そう、だな」

 

 女性人は怒ってるだけで倒す気満々だからまだいい。けど、僕らは精神的にやられてしまったのだ。花村と鳴上は色んな意味で苦しんでいた。もちろん、僕もだ。

 

「何とかしないとなぁ」

 

「俺、しばらく立ち直れそうにねぇぞ」

 

「何するんだ有里?」

 

 そろそろこれする頃合いだと思うから、今回は先に僕が鳴上に手本を……あぁもう説明するのもめんどいのでやっちゃう。精神的にしんどすぎ。毒は治ったけど。

 

「行くよ、“イゴール”」

 

 聞こえてるのかどうかわからないけど、とりあえず言ってみた。するとまさかの聞こえたらしく返答が返ってきた。

 

【“合体”、をなさるのですな】

 

 僕は頭の中で合体するアルカナの属性を思い浮かべる。今回は“戦車”と“太陽”だ。

 

 合体の召喚には銃はいらない。目の前に魔方陣が見え、左右に合体するアルカナカードがある。後ろのみんなが驚いていたことを見るにみんなにも見えているのだろう。

 

「鳴上、よく見といて。これが……“合体”だ」

 

 一気に二枚を合わせる。カードは一つになる。僕はそのペルソナをそのまま召喚する。

 

「こいっ!」

 

 “剛毅”のペルソナの「オニ」。見た目そのまま名前通りのオニだ。

 

「いけっ!」

 

 オニは物理攻撃(木っ端微塵斬り)をする。少し体力が減った気がするが今はそんなの気にしない。それでも倒せる気はしないが少しずつダメージを与えられている気はある。

 

『な……なんだよぉ……。自分らだって“ヘン”って思ったクセに……。心の底じゃ認めてないクセにッ!!』

 

 どんどん力が強くなってる。だんだんとこちらが押される状況になってしまった。

 

『ボクはもう押し通すって決めたんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。絶対に負けるもんかぁあああああああああッ!!』

 

 攻撃一発一発がとても重い。とくに雷攻撃が強力。雷弱点のジライヤはかなりキツいだろう。

 

「花村無事?」

 

「何とか、だな」

 

「回復は任せて」

 

 ガンガーのディアラマを定期的にかけて花村を助ける。それでも二連続きたときは死ぬかと思った。

 

『……まだ生きてたんだ。ホンモノは消えてもらうよっ!』

 

「完二くんが!」

 

「危ないっ!」

 

 女性人が叫ぶが完二との距離はシャドウの方が近い。でもその雷攻撃は防がれた。

 

「相棒!」

 

「くっ……」

 

 鳴上がとっさにイザナギで防いだのだ。イザナギは雷耐性だけどダメージはかなりきたようだ。鳴上は膝をついた。

 

「鳴上、もう一回くるよ!」

 

 シャドウは攻撃のモーションをとる。絶体絶命……そう思ったが、問題なかったようだ。

 

「あれはさっき有里がやったやつ、だよな」

 

 鳴上もペルソナ合体を始めた。召喚されたのは“月”のアルカナ「ヤマタノオロチ」だ。

 

「有里くん、これ完二くんに」

 

 その時、天城が僕にウサギのストラップを渡した。少年が完二に渡してほしいと。

 

「完二、これ!」

 

 僕は鳴上の後ろにいる完二に渡した。そこまでの道のりは若干危なかったけど花村がサポートしてくれた。回復のお礼だと言っていた。

 

「それ、完二が作ったのか?」

 

 鳴上が完二に訊いた。完二は恥ずかしそうに「悪いかよ」と言った。鳴上は首を横に振って否定する。

 

「いいんじゃないか? ……かわいいよ、完二」

 

「……一応訊くけど完二の人間性、だよな?」

 

「……それ以外にあるのか?」

 

 天然だコイツ! 天然だ!

 

 その後、鳴上のヤマタノオロチで邪魔な二体を倒し、残るはシャドウ完二だけになった。シャドウ完二の攻撃は鳴上が防いでる。

 完二は渡したウサギのストラップを握りしめると前に歩きだす。鳴上は何をするか察したのか右にずれた。

 

「うおぉぉぉぉっ!!」

 

 完二は走りだし、シャドウのお腹を……えっ、殴った!?

 

「うわ、あれで倒れた」

 

「本人ならいけるってことじゃないのか?」

 

「それか完二だから出来たとか?」

 

 初めてホンモノがシャドウを倒した瞬間だった。

 

『……ッグ、ウフフ……ふふふ』

 

 シャドウの姿は元に戻ったが、まだ諦めてないようだ。

 

「ま、まだ向かってくるクマ! よっぽど強く拒絶されてたクマか……?」

 

『誰でもいい……ボクを受け入れて……。誰でもいいんだ。誰かボクを受け入れてよおおおおおお!!』

 

「やめろって言ってんだろぉ!!」

 

 シャドウは完二の一声で止まった。そんな完二の表情は先程とは違っていた。……もう、大丈夫のようだ。

 

「たく……情けねぇぜ……。こんなんがオレん中にいるかと思うとよ……。知ってんだよ……。テメェみてえのがオレん中にいることくらいな! 男だ女だってんじゃねぇ……。拒絶されんのが怖くてビビッてよ……。自分から嫌われようとしてるチキン野郎だ。」

 

「テメェがオレだなんてこたぁとっくに知ってんだよ。テメェはオレで“オレはテメェ”だよクソッタレが!」

 

 完二は心の底から思いっきり言ったからなのかとてもスッキリとした表情になっていた。シャドウ完二もさっきまでと変わっていい表情になってペルソナへと変化した。

 

 完二のペルソナ。「タケミカヅチ」ーー黒くて大きい。たくましいペルソナだ。

 

「今回も、無事救出成功。だな」

 

 花村の言葉にみんな頷いた。無事に、今回も終わったのだ。

 

「それにしても、さ」

 

「……そうだな」

 

「疲れたよなぁ……」

 

「もうここに来たくない……」

 

「そうだね」

 

「クマも疲れたクマよ……」

 

 クマは何もしてないよね?

 

ーーランクアップ。「愚者:自称特別捜査隊3」




原作では愚者コミュアップは18日ですがここでは完二救出後にしました。

サウナ回終了です。次の話からまた日常回へと戻ります。さらにコミュニティを発生させる予定です。

湊くんのペルソナは話によって決めることにしました。
この時点で登場してるのは「オルフェウス」「ガンガー」「オニ」「ジャックフロスト」ですが、合体に使ったペルソナなど名前を出さないやつもいます。

日常回の大まかな予告→コミュをしたりバイトをしたり。あと、p3キャラまだまだ登場予定。

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