「えええーーーわたしが秘書艦!!」と、ここで唐突に時間は戻る。
「ああ、提督が是非君をと指名してきたのだが」
提督不在の間の艦隊指揮と連合の旗艦を務めていた戦艦長門先輩が今は席を外している提督に代わって私に伝えた。
「いえいえ、そ、そ、そんな事いきなり言われても無理!無理です」
ブンブンと思い切り顔を横に振りさらに両手も豪雨用に水を横にはじく車のワイパーの様に全力で振りつつ答える。
「あら、そこまで重要なポジションじゃないからそんなに気負うこと無いわよ」
長門先輩の隣に居る同型の2番艦の陸奥先輩がニコリと笑いウィンクしながら私に言う。
「いやでも陸奥先輩、秘書艦ですよ?」
「そう、公務の多い提督をサポートするのが秘書艦。 でも任務や作戦を指示する訳ではないから責任能力が問われる重要な立場ではないと思うのだけれど」
「でも、そんな事いきなり言われても…」
「任務や作戦などの公務については我々も同室してサポートする様にする。 来てまだ、間もない提督の心証を悪くしたくない…どうか引き受けてくれないだろうか?」
「・・・・・・・・」
ガッツリと両肩を掴みジッっとこちらを見つめる長門先輩、これではもう断れなかった。
☆
「…と、言う訳だったのよー」
夜の宿舎、入渠を済ませ寝間着に着替えた私は大きく嘆息した後、ベットへうつ伏せにダイブした。
「それが呼び出された内容だったんだ、それにしても瑞鶴が秘書艦だなんて…ふふふ」
ちゃぶ台に飲んでいたホットミルクのカップを置き翔鶴姉が口を押さえて笑い出した。
宿舎は3人部屋なのだが今この部屋は私と翔鶴姉の2人きりで使っている。
「笑い事じゃないわよ! どうして私なんかが秘書艦になんて…ブツブツ」
「でも提督が是非にって言われたんでしょ? 名誉なことじゃない」
「そもそも正規空母の私が何で戦闘じゃなく提督の補佐をしないといけないのよ?」
「瑞鶴!!」
急に翔鶴姉の表情と口調がきつくなった。 こういった時はおふざけ抜きになるので、ベットでうつ伏せにしてた私も起き上がり正座する。
「この世界で艦娘として生を受けた私達は深海棲艦を倒し海域を取り戻す事が唯一の使命。 しかし、未だ謎の多い深海棲艦相手なので戦闘は膠着状態…でも私はあの提督こそが、この状況を覆すクサビになるかもと!」
「あの提督ってそんなに凄い存在なの? なんで?」
「まぁそう言ってたのは、この鎮守府に来るまで護衛してきた一航戦の先輩達ですが」
「一航戦の2人が!?」
「ええ…恐らくあの提督は私達が艦娘になる前の過去も知っているみたいだと」
過去の記憶、恐らくほぼ全ての艦娘が脳に残っている別の姿をして様々な想いを乗せ戦い、時には仲間の轟沈を看取り、時には自分も姉妹達と散る過去の悲しい物語…
「そんな過去の記憶まで私達を知っている提督があなたを秘書艦にしたいと言ってきた、これは何か重要な意味がある事だと思うの」
「翔鶴姉ぇ?」
ベットの上で正座する私を翔鶴姉は優しい顔で近づき。
「わたくしも提督と瑞鶴の為なら精一杯サポートするつもりです。 だから一緒に頑張ってみませんか?」
ギュッと私に抱き耳元で囁いた…
「…うん、わかった…」
私も翔鶴姉の細い体にに腕を回して力一杯抱きしめた。
第一章 空母瑞鶴、秘書官はじめます! おわり