地球防衛軍~怪獣王の系譜~(リメイク)   作:東部雲

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第1話投稿お待たせしました、主のレフォートです。今回から物語が本格的に始動します。少しラブコメ甘い表現の部分があるかもしれません、登場キャラの設定の都合上仕方ないですけど。では、どうぞ。


第1章 アカデミー一年目春季
第1話 入学


『───まもなく、『新品川』、新品川。お降りの際はお忘れ物の無いように、ご注意ください』

 

 断続的に音を響かせ揺れる車内に、次の駅に停車する旨を伝える無機質な音声アナウンスが流れる。

 

 周囲の空気が変わりそれまで話し込んでいた車内の若い男女の大衆が黙りこみ、それに気付いた他の乗客達が次いで息を呑む。

 

 車内が緊張した空気に周囲が静寂に包まれる中俺神山 勝一(こうやま しょういち)もまた、これから向かう場所に辿り着く意味について思い返す。

 

 今は西暦2013年の春、冬の冷たい空気が去りぽかぽかした陽気の時期に、

 俺達は(・・)東京都を走るJR本線を利用して新品川に向かっていた。

 

 

「───いよいよだね、勝くん(・・・)

 

 架線上を走る電車に揺られる俺の側で一人の二十歳に満たない外見の女性───幼なじみの小林 彩音(こばやし あやね)(俺はアヤと呼んでいる。)が話し掛けてくる。

 

 アヤはウェーブがかった栗色のポニーテールを電車の揺れに合わせて揺らしながら、

 車両側面の窓ガラスから差し込む陽光を茶色の瞳が反射するようにも見えた。

 

 

「そうだな、いよいよここから始まるんだ……!」

 

 口から発した言葉と共に、意気込むように俺は右手を握り締める。

 

 俺達が向かう場所───新品川区は大規模な再開発地区だった。

 

 今から約60年前、世界で最初に発見された怪獣にして最強の存在───1体目のゴジラが上陸して日本の東京へ二度に渡り上陸し、

 破壊の限りを尽くして最後は一人の天才科学者の開発した薬物によって東京湾で死滅した。

 

 その後日本に幾多の怪獣達が上陸して大きな被害を出しだが、その度に自衛隊、

 または特生自衛隊(正式名称対特殊生物自衛隊)の活躍や政府の相次ぐ怪獣災害関連法案の可決や施行の甲斐あってか、

 人類は怪獣をとるに足らない存在と捉えるようになりつつあった。

 

 だが今から約30年前に出現した2体目のゴジラにより、人類のその淡い幻想は打ち砕かれた。

 

 出現した2体目のゴジラは東京に上陸して破壊の限りを尽くした直後は磁性体を利用して三原山に誘導し、

 爆破して火口に落としたらしいがその5年後にまた火口が爆破され再び復活したという。

 

 その後幾度も日本に上陸したその課程で同族を見つけ、

 最後には真紅の巨体で1994年当時に東京を恐怖に陥れた怪獣───デストロイアと交戦して最後にはメルトダウン寸前で自衛隊の総攻撃で死滅した、少なくとも俺はそう聞いている。

 

 その頃まだ俺は産まれておらず、小学校で当時義務付けられた科目───『特殊生物災害史学習』、

 通称特災史と呼ばれる過去の怪獣被害の歴史を学ぶ授業でその事を知った。

 

 その後も翌年のガメラ───全長60㍍に及ぶ巨大な亀の外見をした怪獣とギャオス───最初は3頭しかおらず脅威と見なされなかった巨大な怪鳥を巡る騒乱。

 

 2003年、2004年と続く4体目のゴジラによる災禍によって旧品川区は復興の目処がたたなくなり、

 当時EDF創設の動きが国連で活発になっていた際に日本政府と2005年に発足した国連特災対策センターの首脳が会合。

 

 度重なる怪獣の被害から復興が難しい品川区を新たに設立するEDF、

 その将来を背負う士官を教育する士官学校を建設するために土地を買収したいと言う国連特災対策センターに対し、

 日本政府は士官学校を支援する事業や施設を誘致すると同時にそれらの運営を元品川勤務の企業従業員に一任する妥協案で双方が合意した。

 

 それからまもなくして国連の指導の元ほぼ更地と化していた品川区全域を対象に大規模な建設工事が突貫して行われた。

 

 元々日本は幾度も怪獣の被害に遭い建物に大きな損害がでることは珍しくなかったために、建設技術は飛躍的に向上していた。

 

 結果、驚くべきペースで2007年には新品川として機能するための必要最低限の施設の誘致と建設が完了し、

 その中核を成す『新品川EDF国際総合士官学校』(通称アカデミー)も開校した。

 

 それと同時に催されたセレモニーとこれからEDFの未来を担う世代の第一期生の入学式が行われ、

 その様子はテレビで中継して全世界に放送され注目を集めた。

 

 ここまで説明が長くなったが、俺達は高校3年の頃に試験を受けて合格した。

 

 その第6期生でありこれから向かうアカデミーで入学式を迎えるため首都を走るJR本線を使って新品川に向かっていた。

 

 やがて窓の向こうの景色が架線から見渡す高層ビルの群れと大きな街道から、

 屋根のあるJR新品川駅のホームへと変わり、自動ドアが横にスライドして開く。

 

 俺はアヤと一緒にホームに停車した電車から一歩踏み出して降りて、決意を言葉にして呟いた。

 

 

「───さぁ、行こう。EDFに……!」

 

 

 

 新品川駅を出た俺達は区内に存在する新品川EDF国際総合士官学校───通称アカデミーと呼ばれる場所の、

 警備のスタッフが勤務する第1正門で本人かどうかチェックを受けてそれを通過。

 

 第1正門以外高いフェンスが延々と敷地を囲んでおり、その他第2、第3正門まで存在するらしい。

 

 第1正門のその先に広がる広大な敷地内に舗装された道路上を暫く歩いていくと、

 事前に配布されたパンフレットに書かれた『多目的大型ホール』と思われる一般の講堂とほぼ変わらない外見の建物が見えてきた。

 

 建物に入ると事前に指定された長いデスクにこれからの寮生活に必要な荷物の入ったバッグを肩から降ろし、

 その後職員の誘導に従って屋内のメインホールに移動してアヤと隣り合わせで椅子に座る。

 

 そこまでの課程で俺の頭の中に浮かぶのは、今までの生涯で経験した───辛い現実とそれに続いて生まれた決意だった。

 

 俺の父親───神山 啓太(こうやま けいた)は特生自衛隊の隊員だった。

 当時の90式メーサー殺獣光線車改のオペレーターで常に最前線に赴くことが求められていた。

 

 9年前のあの時だってそうだった。

 

 

 

 その日父さんは偶々オフで、家でゆっくり過ごす筈だった。

 

 

 

 その直後に呼び出しがあって───また戻ってくるからと、

 

 

 

 豪快な笑みで俺に約束して、

 

 

 

 それが最後に聞いた言葉になった。

 

 

 

 特自の関係者が直接自宅に来て、父さんが戦死したことを伝えてきた。

 

 その頃の俺はまだ10歳に満たない子供で、最初何を言われたのか理解が追い付かなかった。いや、あるいは理解したくなかったのかもしれない。

 

 だけどその後葬式は行われた。遺体が残らなかったのか、写真だけが遺影として使われていた。

 

 その時になってようやく俺は現実を理解した。

 

 それからすぐに涙が止まらなくなって泣き続けて、

 

 そんな俺に喪服を着た母さんが優しく抱き締めて来て、

 

 そして俺はよりたくさん泣いた。

 

 

 

 何で自分を置いて居なくなったのか、

 

 

 

 何で約束を破ったのか、と。

 

 そんな疑問と怒りと悲しみを母さんにぶつけて泣き続けて、

 落ち着きを取り戻した時には俺の中には既に一つの強い想いが存在した。

 

 父さんと同じように、怪獣と直接戦う組織に入って最前線で戦うと。

 

 

 そんな俺の望みは、今から4年前のギャオスの大群の襲撃による首都防衛戦に遭遇した際に、確かな展望に変わった。

 

 ガラスの割れた建物の並ぶオフィス街。

 

 瓦礫の散らばる道路、そこに立つ巨大な───かつて日本の生み出した生体ロボットによく似た、鋼鉄の竜兵。

 

 そのロボットの所属するのが当時話題になっていたEDFだと分かった時には、俺の中で選ぶべき進路は決まった。

 

 

 それから4年経った今、俺はここにいる。俺の想いを成し遂げる、その入り口に俺は立ってる。

 

 俺がそんな感傷に浸っていると、右隣に座るアヤが話し掛けてきた。

 

 

「……勝くん、何だか怖い顔してるね?」

 

 アヤの発した言葉は意外な内容だった。俺にはそんな自覚はなかった、ひょっとしたら無意識のうちに表情が強張っていたかもしれない。

 

 

「悪い、少し昔のことを思い出していたんだ」

 

 詳しい内容は出していないが、嘘はついていない筈だ。

 

 だがそんな俺の強がりもアヤには見抜かれていた。

 

 

「ねえ、知ってる? 勝くんって嘘ついてるときは大抵眉間に皺を寄せてるんだよ?」

 

 俺の心境を見透すかのようにアヤは俺の瞳を覗きこんでそう告げた。

 

 

「え?」

 

 これも意外なことだった。まさか無意識にそんな癖がついているとは。

 

 

「あのね、勝くん。わたしは勝くんのやりたいことについて、今さらどうこう言うつもりはないの。……でも、」

 

 一旦そこで区切ったアヤは、強い決意の色を湛えた瞳で俺を見据え続けた。

 

 

「勝くん一人だけで無理だけはしないで、一人だけで抱え込まないでほしいの。

わたしは都さんからお願いされたからには、これだけは約束して?」

 

 隣りの椅子に座る俺の瞳をまっすぐ視て話すアヤのその様子は必死で───どこか懇願するような印象だった。

 それに恐らく母さんはここに来る直前、もしくは少し前にアヤに依頼したのかもしれない。

 

 俺は父さんが死んでから、研究所の仕事で忙しい母さんに代わってアヤやその両親には世話になりっぱなしだった。

 

 ───ここまで必死に頼まれたんじゃ、頷かないわけにはいかないよな。

 

 

「……約束するよ、アヤ。絶対に、とは言えないけど、なるべく無理はしないように努力する」

 

 少なくとも、これが俺の精一杯の返事だった。その言葉を聞いたアヤは、安心したのか表情を緩めて頷く。

 

 

「いや~~、甘い、甘すぎるな~」

 

 突然俺達の前の席から、気の抜けたような間延びした声がした。

 

 その声に反応してバッと素早くそちらに視線を向けると、

 そこには座っているだけでも周囲の人より身の丈が大きく見える青年がにやにやした表情を浮かべてこちらを見ていた。

 日本人ではあるらしく、短めの黒いストレートの髪型をしていた。

 

 青年の様子に周囲の注目を集めているが、本人はそれを気にした素振りを見せず続けて口を開いた。

 

 

「君らさぁ、周りに人が一杯いるのに恥ずかしげもなくよくやるね?

俺が注目集める以前に、君らもそれなりに視線を集めてたのに気づかなかったの?」

 

 目の前の青年にそう指摘され、今さら恥ずかしくなってきた。

 俺は顔の温度が上昇するのを自覚して、隣ではアヤが顔を赤くしていた。

 

 さすがにこの空気には耐えられないため、ひとまずごく自然な疑問をぶつけることにした。

 

 

「そ、それより! ……あんた名前は何て言うんだ?」

 

 始めは声が上擦ったけど間を置いて落ち着きを取り戻し、名前を聞いてみた。

 

 

「ん? そう言えば自己紹介がまだだったな」

 

 俺の問いに返事をした青年はニカッと笑い、話した。

 

 

中村 淳也(なかむら じゅんや)だ。呼びやすいように、淳也と呼んで良いぜ?

まぁ、よろしくな。」

 

 そう言って椅子に座ったまま身体をこちらに向けた状態で右手を差し出してきた。

 

 その時に青年───淳也の身体の様子を見て息を呑んだ。

 淳也の身体は服越しにも発達した筋肉のためか、身体のラインがはっきりするほど大柄で、常人にはない巨大な存在感を醸し出していた。この分だと2㍍はあるかもしれない。

 

 淳也の身体の放つ存在感に一瞬気圧されたが、気を取り直して握手に応じこちらも自己紹介する。

 

 

「神山 勝一だ。呼びやすい方で呼んでくれ」

 

「初めまして、わたしは小林 彩音。好きな方で呼んでね。」

 

 俺に続いてアヤも自己紹介をして、淳也も彼女に握手する。

 

 

「それにしてもこんなところに入学なんて、君ら二人も物好きだな?

ここは日本に存在しても治外法権で、日本の法律も通用しない場所なのに」

 

 さりげなく淳也が疑問を投げ掛けながら、同時に俺達に視線を合わせて来る。その様子からどこか品定めされるような感覚がした。

 

 

「そんな場所でも、ここでしかできないことがあるからね」

 

「わ、わたしは勝一(・・)が心配だから」

 

 そんな視線に動揺しないように俺は落ち着いて答えるが、アヤは何故か変に動揺してモジモジしながら答えた。

 恥ずかしいのか、俺を愛称ではなく名前で呼んでいた。

 

 

「アヤ? 何をそんなに動揺してるんだ?」

 

 疑問に思ったので聞いてみると、

 

 

「えっ!? な、何でもないよ!?」

 

 慌てて返事をしてきた。一体どこに動揺する要素があるんだ?

 

 キィィーーーン………!

 

 俺達がそんなやり取りをしていたときだった。俺達のいるメインホール、その一番前から甲高い電子音が響いてくる。

 

 電子音が聞こえてきたのはメインホールの奥に設置された舞台で、いつの間にか職員や来賓が席についていた。

 更にその中央の壇上には、第一種礼装を着込んだ初老の男性が立っていた。

 

 ……もしかしたら騒ぎすぎたかもしれないな。

 

 壇上の男性は力強く咳払いをしてマイクに声を当てた。

 

 

「何やら騒々しいようだが、予定通りわが校に諸君を迎えるための入学式を始める」

 

 遠目でも知覚できる程に重々しい雰囲気と、苛立った様子を見せる男性。これは後で説教と懲罰ものだな。

 

 

「まず、私から自己紹介させてほしい。私の名前は一柳 和博(いちやなぎ かずひろ)、ここ新品川EDF国際総合士官学校の学長を務めている。階級は元帥だ」

 

 壇上の男性───一柳学長がそう話す頃には既にメインホールにいる新入生の喧騒は静まり、静寂が広まる中で一柳学長は続けた。

 

 

「今年もこれだけの生徒が集まったことを、私は幸運に思う。

恐らく、諸君がここ"アカデミー"に入学した理由は様々だろう。

だからこそ、諸君にはこの場でその胸に刻んでほしいことがある」

 

 そこで一柳学長は区切り、胸に手を当て更に続ける。

 

 

「ここは、地球上に住む約60億人以上の人々を、世界を我が物顔で闊歩して蹂躙する怪獣達から守るために戦う防人、その指導者を育成する機関だ。

演習を兼ねて実戦を経験するかもしれない、死ぬかも知れない可能性がある」

 

 その言葉に息を呑む気配が周囲から漏れる。その反応は半ば予想の範囲だったのか、一柳学長は構わず言葉を紡いだ。

 

 

「だが、それでも我々はEDFだ。自分たちが戦うことで守れる命があるなら、全力で対応する。そして、」

 

 そこでもう一度区切って、俺達新入生を強い意思を湛えた瞳で見据えて告げた。

 

 

「ここアカデミーに入学した以上、諸君は明日からEDFの予備戦力だ。

私以下、全職員をあげて諸君を歓迎する。───ようこそ、EDFへ!」

 

 学長がそう告げた直後、それまで座っていた職員と来賓が立ち上がり一斉に拍手をした。

 大勢の人々の出す大音量の中で一柳学長は背筋を伸ばし敬礼した。

 

 

 

 その後職員、来賓の代表から訓示の挨拶がすんで、そのまま配属される第2教育大隊第1・第2機龍小隊オフィスに行くことになるはずだったが、

 さすがに入学式が始まる直前に騒がしくしたため俺とアヤ、メインホールで知り合った淳也で呼び出された。

 

 今俺達は既に在籍していた警備科の先輩に連行されているところだった。

 

 やがて、しっかりした木製のドアの前で歩みを止めた先輩が数回ノックをした。

 しばらく待っても反応が無いため先輩は「失礼します!」と告げてドアを開け俺達を招き入れ、そのまま待っているように言われた。

 

 待つこと10分と少し、それから間もなくしてドアが開いた。

 

 ドアから入ってきた人物は、俺とアヤがよく知る人物だった。

 

 

「待たせたわね? 取り敢えず、先程起こした騒ぎについて話し合いましょうか」

 

 その人物の名前は家城 茜(やしろ あかね)。EDF日本支部の第1機龍隊に所属していた人物で、

 

 

 

 

 

 俺とアヤにとって、

 

 

 

 

 

 4年前に命を救われた英雄だった。




第1話でしたが如何でしょうか?まだ描写の仕方や文章に改良の余地があるかもしれません。それも含めて、誤字脱字の指摘、アドバイス等をお待ちしています。では、また。

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