内容はすでに本編で登場した少女静利の視点で入学初日午後からとなります。では、どうぞ。
銃声、爆音、何かが床を打ち付ける音が連続して響く。
そこは薄暗い地下の広大な空間、その天井を這う複数の機械の標的とそれを撃ち抜く人影が駆け抜ける。
その人影は小柄な体に黒い生地の戦闘服とその上に胴体と各関節を保護する半透明の防具に身を包んだ、赤色がかった茶色のショートボブの少女だ。
少女は広大な室内を縦横無尽に駆けながら
その一連の動作に少女は息を切らした様子も見せず、次の標的にもう1丁のショットガンを構えては撃ち抜くを繰り返す。
少女は一連の動作を一度止めて天井を動く標的のひとつに視線を向けると、
標的がガクンッと何かに押さえ付けられたように動きを止め蜃気楼のようにその空間が揺らめく。
「爆ぜろ」
たったそれだけ呟く、ほんの一瞬後に標的が爆発する。
爆発は標的を粉々に吹き飛ばして室内に炎を纏った破片が飛び散り一部が少女に向かうが、破片は目の前で見えない壁に遮られたように弾かれた。
『仮想標的のすべての破壊を確認、訓練を終了します』
◇◇◇
「ふぅ」
肺から押し出すように息をついてからロッカーの鍵穴に合鍵を差して開け、着替え始めた。
今着ている黒い戦闘服を脱ぐため胴体、各関節を保護する半透明の防具を順に外してから戦闘服を脱ぎ、部屋に置かれている容器に入れてから今私が生活するアカデミーが指定するツナギに着替える。
着替え終わりロッカーの戸を閉め鍵を差して回し部屋から出ると、私にとって馴染み深い少年がタオルとペットボトルを持って待っていた。
「お疲れ様、静利」
「ありがとう。いつもすまないな、和希」
労いと共に差し出してきたタオルを受け取って礼を言うと本人は「気にしないで」と答えた。
私が普段過ごすアカデミーの一日はもて余す暇の少ない内容だ。
明朝
適度な運動で思考が醒めたら集中力を鍛えるイメージトレーニングを正午まで続け、
食堂で食事を済ませた後は第2教育大隊の専属教官の指導で先程のような、十代半ばの少女には非常識と言える模擬戦闘訓練をこなす。
私は元々日本の関東、神奈川県の一般家庭で生まれた普通の子供だった。
両親はそこそこ裕福だったらしい、会社でそれなりに実績を上げた父親と同じ職場で働く母親は私が生まれて大事にしてくれていた記憶がある。
悲劇が起こったのは今から6年前のことだった。
あの頃私は9歳で小学校に通っていた。
お気に入りの赤いランドセルを背負って通学路を当時の友人と通学して、
教室で朝礼をして授業を受けて、
昼にも仲の良い友人と給食を食べて何かを語り合っては笑って、
午後の授業を終えて帰宅したら宿題を済ませてから友人と遊んだりした。
ほんの些細なことだったのだ。
あの時一緒に遊んでいた友人が公園のジャングルジムから転落して、頭から地面に激突しそうだった。
その後私は、気付いたら目の前の友人に怖れられていた。
それからは私がジャングルジムから転落した友人を手を使わずに空中で受け止め、地面に下ろしたことが当時の証言で分かった。
同時に私が超能力者で、これまでに類を見ない程強大な力を持っていることもだ。
その事は両親が知るところとなり、間も無くして拒絶された。
むしろ仕方ないと思う、自分達から生まれた愛娘が超能力という得たいの知れない力を使い、それが危険なものかもしれない。
ならそれに恐怖しないのは普通とは違う価値観を持っているか、余程の愚か者だろう。
そして私の身柄は神奈川区、横浜市とより強い権限を持つ自治体にたらい回しにされ、
最終的には日本政府を介して茨城県つくば市に存在する国連特災対策センター、それに付属するサイキックセンターに保護された。
私にとっての恩師、
最初会ったときの第一印象は、母性的だった。首を傾げて留めずに伸ばした髪を揺らした彼女は、
『貴女が藤宮、静利ちゃんね? こっちにいらっしゃい、紹介したい子がいるから』
第一声がそれだった。その時浮かべていた表情は恐怖でも、嫌悪でもなかった。
元超能力者だという彼女は自衛隊に協力し国連の超能力者として当時の対ゴジラ作戦に参加。
更に過剰な放射能の吸収で暴走したゴジラと破壊の化身とも言えるデストロイアの戦いを見守り、
ゴジラの最後を見届けて当時のゴジラジュニア改め
先代ほどの攻撃性が認められないと判断されると共にその役目を終えた。
それからは懇意にしていたGフォースの隊員新城功二と結婚して子供を産み、初めて出会ったときのような慈愛に満ちた表情を浮かべる母親になった。
そして、私は二人の超能力者に会った。一人は私の目の前にいる
「静利」
一瞬の間に今まで経験したことを思い出しながらタオルで汗を拭いていると、通路の先から声が響いてくる。
「麻里か。どうだった? 機龍科の面子でやっていけそうか?」
少し過保護かと自覚しているがどうしても心配になる未稀が引き合わせたもう一人の超能力者の少女、
「ん。大丈夫、それに。静利が……直前に言ってた候補生、顔合わせで会ってきた」
「なに? それは本当か。名前は、何て言っていた?」
「勝一って、言ってた。名字は神に山と書いて神山、下は勝負の勝に、漢数字で一と書いて勝一」
「勝一……勝一か」
繰り返しその候補生の名を呟いてから今日新品川商店街であったことを思い出す。
「そう言えば今日の昼過ぎに商店街に行ってたんだよね。そこで絡まれたって聞いたけど大丈夫だったの?」
心配そうな表情で和希が訊いてきた。
「大丈夫だ。それに絡まれた時は勝一、今年入った候補生が助けに入ってくれてな」
あの時は日用品を補充するために買いに出ていたが、最近流行りの風潮に染まった候補生3人に絡まれていた。
罵声を浴びせる男を軽く流しているうちに腕が振り上げられ、寸前で避けて見せようと思っていたその時に彼が群集の輪から飛び出し、降り下ろすところだった相手の腕を掴んで止めた。
その後の彼の睨みも最近まで普通の一般人だったとは思えないほど威圧感が感じられたが、次に彼が口にした言葉の方が私には驚きだった。
私が自分達と同じ感情を持った人間だと、同じ空気を吸い、同じ水を飲み、同じように食べなければ生きていけない人間だと。
…………始めに十代半ばの女の子とも言っていたな。
「そうだったの!? じ、じゃあ、その助けてくれた候補生って?」
少し、いやかなり慌てた様子だが、こう答えておこうか。
「あいつは今の風潮に染まっていない、私達を怖れも差別もしない。………只の女ったらしさ」
翌日私は午前に基礎体力を鍛える訓練に参加、そこでもう一度勝一達第6期生に出会い、昼の食事で和希と麻里も含め彼らと打ち解け、親睦を深めた。
彼、勝一のことは色々と気掛かりではあるが今こうして明るく過ごせていることを考えれば、気にすることでもなかった。
だがそれでも、胸のうちに形容しがたい予感と引っ掛かりは、残ったままだった。
初めての外伝の話でした。今回はいつものコーナーはやりませんが、次回はスーパーX3Rで出撃した黒木特佐が本部に帰還して、様々な人物と各方面の対応をしていく話になります。では、次回もお楽しみに!