天音   作:脳髄

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この作品は視点を変えて変えて変えますがsideはつけないでいくのでそこだけよろしくお願いしもっす。


これは私の

雨雲がお空を覆っていた。

 

そろそろ一雨来そうだ。

 

びしょびしょになると服が体に貼り付いて気持ちが悪いから公園を探すことにした。

 

初めて見る街並みは小さなことの一つ一つが新鮮に感じて不安にも感じて、迷路のような気がした。

 

ーーーでももう身体はもたなかった。

 

雨がポツポツと降り始め、すぐに大雨に変わってしまった。

お空には光が見えなくて少なくとも小時間では止まない。

 

もうどれくらい歩いただろう。目的地もまともに決めないで来てしまった。

 

それでも歩いて歩いて、気が遠くなるほど歩いて、やっと雨宿りできそうな公園を見つけた。

 

 

ヤドカリのような滑り台があってそこで雨宿りをする。

 

雨脚はますます強くなる。水たまりがいくつも出来ていて、次第に川のように一つにつながった。

 

そのうちゴロゴロと唸りあげてカミナリが鳴り始めた。

 

 

怖くなった。もし私が雨にうたれれば雨のように流されていつか乾いてしまう。雷に打たれれば激しい音で私は消えてしまう。

 

そんな不思議な気分になった。多分弱っているからこんな気分になったんだろう。

 

運が良かった。こんな大雨の振り始めに雨宿りをするところがあることが私にはとても都合がいいことだ。

 

 

いく先のあてもなければ、やりたいこともない。

もう、やりたかったことはできてしまったから。

この先のためになんてことは微塵もなくて何も私は用意をしてこなかった。

この一瞬のために、苦心して私は寒空の下走り抜けたのだから。

 

 

 

 

だんだん心身ともに冷えてきて、頭が痛くて肌寒い。

悪寒が巡る。

 

これは罰だ。

 

誰にも優しくして、心を開かせて、私は心を開かなかった。

何もみないし、見させなかったから私のことをちゃんと知っている人なんていない。みんなみんな騙して欺いてきたのだから。

 

大人はみんな嫌いだったけどみんな優しい子ばかりで私たちはどんな仕打ちも励ましあって乗り越えてきた。

私だけだ。私だけが最後まで嘘八百を並び立て最も汚れていた。

 

今頃、どうなっているだろう。多分、みんなは八つ当たりにあっているのかも。

いや、絶対に躾られている。二人めの私が出ないように。

雨の中みせしめに誰ががもしくはみんな乱暴されてるかもしれない。

それも私より2つ3つ年下の子もそれ以上に下の子も。

全ては私のせいで。

 

 

 

でも知らない。私は知らない。そう決めたんだ。

誰に疎まれようとも、仇にされても、愛されてほだされかけても

 

私は私のまま裏切る。

 

辛いから裏切る。

面倒だから裏切る。

愛して止まないから裏切る。

 

だから、これが罰で死んでしまうなら

 

それさえ裏切ってやる。

 

 

何は無くとも生き延びてやりたい。

お母さんとお父さんに誓ったことなのだから。

 

 

 

 

雨は止むことを知らない。これは私の心から全てを捨てるためだ。

だからことが済むまで止まないでほしいと願った。

 

 

 

 

 

結局、心だけが空回りして私はヤドカリの中、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

それが学年でいうと小学校三年の時の話だった。

その後、私は紆余曲折あり、保護されることになった。

風の噂によるとあそこはその後、数々と問題が発覚されて大手新聞会社にも取り上げられてマスコミに矢面に挙げられたらしい。

 

しかし、私はそれ以上に、私が逃げ出した施設の子どもたちがどうなったかを知りたかった。

裏腹に私は知りたくないという感情も共存させていた。

 

結局わたしは素知らぬふりを決め込んだ。

 

あの日、私は確かに助かったみたいだった。

 

なんせ私は意識を失っている間に助けられたのだから。

 

命からがらで助かったと聞かされた。

私は自覚しているほどの物を何も持ってない。

わずかなものも全部、雨に流されて雷に焼ききれてしまった。

空っぽの私が出来上がりだ。

 

あの日私は、契約をしていたのだ。一人を殺してその後を手に入れるという条件で。

 

 

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放課後のこと、私は生活指導の平塚先生に呼ばれたみたいだった。

 

別に呆けているわけじゃなくてクラスの友達伝いで告げられたから呼ばれたみたいという結果に至っただけで詳しく要件を述べない辺りなにかしてしまったのかもしれないと思った。

 

目をつけられることはしてないと思うけど....。

 

今日は誰かと一緒に帰る予定もないし、特にやらなければいけない課題もないので早く帰ろうと思っていたのに。

仕方ないので早く済ませて帰宅するべく、私は職員室に向かった。

 

 

平塚先生のところには先客がいた。

 

えーっと名前は...うん。

クラスは....うん。

 

私の知らない人だ。

 

あっ!殴られた。でも、かなり手加減してる。

 

所謂愛の鞭かな。素晴らしきかな、生活指導の鏡。

 

「おや、九石《さざらし》、君もやっと来たか」

 

「はい、何かご用件でもあるんですか?」

心当たりがまったくないのである。

 

「君もそこのと同じだ」

平塚先生先生の右手が突きつけたのは私の作文である。

 

何か不味いことを書いたことは無いと思うけど。

 

「まぁ、確かによく出来た作文だよ。それは文法的にも内容的にも」

思ったよりも高評価だった。教師に面と向かって褒められたことは割と少ないので普通に嬉しいのだが、

 

「しかし、言ってはなんだが薄ら寒い。とにかく気味が悪い。君はどんなことを思ってこれを書いた?」

 

不味そうな料理が出て来たときの態度である。

 

だいぶ、失礼なことを言われた気がする。

 

私の横にいる男の子も思わず平塚先生にうわぁーっと少し引いてる。

 

「フィクションというものありがたみ、ですかね」

 

「書き直しだ馬鹿者」

 

丸まった作文で軽く私の頭を叩く。

痛くない。

 

大きく溜息を吐き、私と隣の子を交互に見直して

 

「比企谷、九石、少し付いて来たまえ」

 

そう言って白衣を翻して私と隣の子、比企谷くんを連れた一行は平塚先生を先頭に先導されるがまま、ある教室についた。

教室の入り口のプレートに何も書かれていないので空き教室で間違いない。

 

平塚先生はノックもせず、勢いよくドアを開ける。

 

「雪ノ下はいるかねー」

 

「平塚先生、ノックをしてください」

 

「雪ノ下、君はノックをしても返事をしないじゃないか」

 

「私が返事をする前に入るからです」

 

平塚先生らしいエピソードだと思う。たしかにこの人はそれくらい平然とやりそうだ。思春期のお子さんがいらしたら大変子どもは反発しかねないだろう。

 

「平塚先生、そこのぬぼーっとした人とボヤッとした人は?」

 

なんとかさんが平塚先生に問いかける。

よく見るとなんとかさんは大層な美人さんだ。

少々、キツイイメージがあるけどそれがまた、一種の味なんじゃないかなと考える。

 

にしてもボヤッて。的確だよ。

 

「入部希望者だ」

 

平塚先生はサラリと言ってのけた。

 

 

 

 

 

そこからはゴタゴタあって比企谷くんは部活をやりたくない、雪ノ下さんは願い下げ物だけど仕方ないから、本当に仕方ないから受けてやる。平塚先生はいつの間にか教室からいなくなっていた。

というより、私がボンヤリしていて、いなくなったことに気づくのが遅かった。

 

 

 

 

「それじゃ変わらないじゃない!」

 

空き教室に声が響く。

雪ノ下さんと比企谷くんが何をしゃべっていたか気にしていなかったので、聞いていなかったけど感情的な声で少しびっくりした。

 

そして平塚先生が再登場。とても機嫌が良さそうだ。多分廊下で聴きながらニマニマしていたのだろう。

容易に想像できる。

まともに人が通らない廊下、先生がニヤニヤとバレないように息を潜めてしゃがみながら壁に耳を当てる姿が。

 

壁に耳あり、このことである。

 

 

 

平塚先生の活躍を要約すると、はい、こちら。

 

平塚先生考案の元、不思議な学園バトルが火蓋を切って落とされた。

 

勝者は好きなことをなんでもだそうだ。

 

ちなみに私はオブザーバーという異質な役割を任されることになった。

 

私自身、部活に入って、一文の得もないが親に部活に入ったと告げるのは少しの徳があるかもしれないということで引け受けることにした。

 

平塚先生も気が済んだのか、回れ右して職員室に戻った。

 

訪れた何度目かの静寂。

 

 

とりあえずボンヤリしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

「あなた、さっきから聞いているの?」

 

雪ノ下さんの声が聞こえた。

さっきまでなにか言っていたみたいだけど聞いてなかったので何が何だか分からない。

 

「ごめん、ちよっと聞いてなかった」

私は素直に謝る。

 

「はぁ、まぁいいわ。貴方はたしか九石 綴さんだったかしら?」

 

「あ、うん、九石 綴《つづり》です。以後よろしくお願いします」

当たり障りなく気の利いたことも言わずに挨拶した。

 

「えぇ、正直貴方が入った理由はよく分からないのだけれど聞かせてくれないかしら?」

 

「うーん。原因は作文にあるけど、問題点は特に何も言われてないよ? まぁ胡散臭いとか薄ら寒いとか言われたかな」

 

そう、一応、貴方もそこの比企谷君と同じということね、とこちらを残念そうに見た。

 

「まぁ、辞めるまではよろしく頼むよ、雪ノ下さん」

 

「あなたが自ずから頑張るのよ、九石さん」

 

それはそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「教室を閉めるわ。出ていってちょうだい」

 

 

鶴の一声で初めての部活は終了した、

今日は依頼が来なかったから雪ノ下さんは読書、比企谷くんも同様に読書。かくいう私も鞄から単行本を取り出し、読んでいた。

 

三人いても誰もまともに喋らないのでとても静かで読書は家ほどではないが捗った。

 

私はオブザーバーという役割を任されたが今日、あの二人を見て、特に思うこともないわけで平塚先生の真意がさっぱり分からない。

 

帰り道、この時間になると人通りが少ないこの道を好んで歩いていると黒猫が私の前に現れる。

 

黒猫は不吉の象徴だ。

 

「ねぇ、私ってなんだろうね?」

 

茜色の空、夕焼けの光が私の影は大きくする。

 

触ろうとしたら、そそくさと人が通るには狭い道に逃げて行った。

猫の警戒心は強い。というより甘えどきじゃないのかな。

 

そう感じた今日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




底には何がある。

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