ロクでなし魔術生徒の残念王女   作:サッドライプ

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疾風(サイクロン)!愚者(ジョーカー)!

…………変なネタが浮かびそうだからここまでにしとこう(戒め




ルミアと相乗りする勇気、ある?

 

 

 三日後。

 

「よく来てくれたね子猫ちゃん達!僕たちは全力で歓迎するよ!!」

 

「……だってよ白猫」

 

「だから、私はっ、猫じゃないってば!!」

 

 ビックスの頼みを結構あっさり引き受けてしまったルミアと、変なことはないと思うけど一応心配になって付いていくことにした私は、休校日の学園裏門前に集合していた。

 そこにはビックスの他に三人の制服姿の男子が居て、雰囲気からして上級生の先輩ということだと思う。

 

 うち、どうにも爽やかというよりは軽くて浮ついた感じの茶髪の先輩が両手を拡げて言葉通り歓迎のポーズを取る。

 それを白けた顔で見やりながら、ルミアは私も気になったことを訊ねた。

 

「で、新歓って聞いてたんだが、他の生徒は?」

 

「「「………」」」

 

「……ああ、いいや。大体分かった」

 

 先輩達のにこやかな表情そのものは変わらないけど、その表情で固定されたまま乾いた沈黙が雄弁に物語っていた。

 

 新入部員、全滅、と。

 

「男三人で、どうしろって言うんだ……」

 

「言うな、バリー。分かっていたことじゃないか」

 

「そうだよ、それに我が弟、ビックスが今年期待の戦力となってくれた。

 現にここに二人もこんなに可愛い女の子を連れて来てくれているじゃないか!!」

 

「ああ、その通りだリンド!ルミアちゃんにシスティーナちゃん、こんな可愛い子達が来てくれている時点で僕達の苦労は報われたんだ!」

 

「声を掛けては迷惑そうにされ、近寄れば逃げられ……それでも勧誘を続けたあの苦労は、無駄じゃなかった、のか?」

 

「無駄じゃない。何一つ無駄なものなんて、ないんだ!」

 

 

「いや、悪いけど俺今日だけだぞ、顔出すの」

 

「私も、ルミアの付き添いで来ただけだから………」

 

 

「「「ぐああああああっっっ!!!?」」」

 

 なんだか変な熱を帯び始めた空気をばっさりと切ったルミアの言葉が、まるで身を裂く刃になっていたかのように、胸を押さえて崩れ落ちる先輩達。

 なんというか呆れる気にもならなかった。

 

 その脇で、さりげなくごめんなさいのジェスチャーをしているビックス。

 こんな兄達でも見捨てられない、ということなのかしら。

 わりと義理固い奴なのかもしれない。

 

「―――つーかこれなんの部活なんだ、そもそも?」

 

「知らないで来たの!?」

 

 ふと耳に入った聞き捨てならない言葉に、私は咄嗟にルミアに詰め寄った。

 ちょっと女の子――それもかなり可愛い――として警戒心が無さ過ぎる。

 こんな馬鹿げたやり取りをしていなければ、休日の人の居ない学校に女の子を呼び出して男四人で囲む、なんて聞いただけで裏しか感じないような状況にも拘わらず。

 

「って、ああもう、よく見たら制服もまた変に着崩して!」

 

「~~っ!?白猫、いきなり手伸ばすな、くすぐったいっ、やぁぅ!?」

 

「おおっ!………、あ…」

 

 よく考えたらルミアが休日とはいえ学校に来る以上制服を着ている、という時点で凄いこと――私も当然制服だけど――でも、だらしないせいでくびれた腰元とかの肌色面積が大きくなっているのを急いで修正する。

 その時慌ててたせいで間違えてちょっと変なところ触って、ルミアが妙な声を出してしまう。

 

 それに興奮した後ルミアがきちっと制服を着たことに落胆したのが後ろを見なくても分かって、私は上げたばかりのビックスの株を底値にした。

 

 という一幕はともかく、話を戻すと。

 

 

「【グラウンド・クルーザー】?」

 

 

 どこかで聞いたことがあるような、と不思議な感覚で首を捻る私の横で、ルミアが胡散臭げにその部の活動内容を繰り返す。

 

「説明するより一目見た方が早いかな。

――――《土塊より生まれし剛馬よ・我が手綱に従いて・踏み鳴らせ》」

 

 先輩達が左手を斜め下に翳して呪文を唱えると、地面が隆起した後、低過ぎるソファがちょっと大きな車輪と一体化したような妙なオブジェがそこに現れる。

 そこまで見れば私の知識にも引っ掛かった。

 【フライ・レビテーション】と同じ移動用の魔術で、地面を走行する為の魔術があった、と。

 

「こいつで遠出してひとっ走りするのが僕達の活動内容さ」

 

「この魔術は地味に優れ物でね、馬よりも速度が出るし、学生レベルの魔術師で帝都まで休みなしで行ってもマナ欠乏にならないくらい消費も少ないんだ」

 

「へえ……」

 

「あーはいはい、そーゆーこと」

 

 意外に中身のある活動で感心して思わず声を上げる横で、ルミアは何かに納得していたようだった。

 少し気になって彼女に問いかけようとして………私も遅れて“それ”に気付く。

 

「君たちは流石に一年生だからまだこの魔術は使えないよね!」

「問題ないさ、俺の隣に乗るといい!」

「いやいや僕の隣が空いているよ。最高の乗り心地を提供してあげる!」

「ルミア様、この下僕めがご案内いたします!」

 

「「………」」

 

 ビックス含めて展開している【グラウンド・クルーザー】は妙に横幅が広いというか、頑張れば二人座れるくらいの大きさになっている。

 とはいってもぎりぎりの広さだから、彼らの誘いに乗ればこの先長時間密着し続けることになるに違いない。

 そして、間違いなくそれを期待されているのが判る。

 下心があからさま過ぎていっそ爽やかな程の先輩達の顔を見るまでもない。

 

………帰ろうかな。

 

 私は至極当然の判断を下す、その前にルミアが悪戯げに笑って左手を斜め下に翳して呪文を唱えて。

 

 

「白猫、乗れ」

 

「あ、うん。よろしくね、ルミア」

 

 

 当然のようにルミアも修得していた【グラウンド・クルーザー】に誘われるがままに乗って、私達は車輪の回転と共に駆け始めた。

 あっと言う間に置き去りにされた背後のバカ共の方から、悲嘆の叫びを浴びながら。

 

「あァんまりだぁぁぁっ!!?」

 

「こんなのってないよ、あんまりだよ!!」

 

「この世界に、神はいない……っ!」

 

 

「―――男子って、ほんとバカ」

 

「ま、いいんじゃねーの。楽しんだもん勝ちだぜ、色々と」

 

 男子の純情(と呼んでいいのかは大いに疑問だけど)を弄んでからかったルミアが愉快そうに、けれどどこまでも明るく笑う。

 速度が上がるにつれて吹き始めた風が金髪をさらう中で覗くその可愛い笑顔を見ていると、確かにこの時ばかりは細かいことを言う気も無くなったのだった。

 

 

 

…………。

 

「そういえば先々行ってるけど、先輩達に先導してもらわなくて大丈夫なの?」

 

「適当に乗り回すだけだろ?ここら一帯で変に迷うような地形を通る訳でもなし、あと流石に無いとは思うがあの上級生達が変な場所に誘い込むつもりって可能性も一応あるし」

 

「あ、一応そういう事は考えてたのね」

 

「まーな。俺一人なら別にいいんだけど、白猫もいるし」

 

「前言撤回。やっぱりルミア、無頓着過ぎ!」

 

 風と共に、帝国領の広大な草原地帯を駆け抜ける。

 まばらに見える牧畜用の納屋をアクセントにしながら、長閑な優しい緑色の景色を風を浴びながら進むのは、成程これを趣味にしようと思っても不思議ではない程度には心弾む時間だった。

 微かな草の匂いを嗅ぎながら、とりとめもなくルミアと談笑する時間も、いいものだと思う。

 

………気分をあっさり切り替えたのか後ろでぎゃーぎゃーはしゃいでる先輩達は、取り敢えずいないものとして。

 

「こうしてみると、【グラウンド・クルーザー】って結構良い魔術だと思うのだけど、あまり聞いたことないのよね」

 

「そりゃ、まず黒魔術と錬金術の両方にそれなりに熟練してる必要があるしな、これ。

 一年のビックスが使えるのも、割と凄いんじゃね?」

 

 じゃあ当たり前のように使ってみせているルミアは何なのか。

 どうにも魔術師として優秀であることを隠しもしないのに、それで得意になったりひけらかそうという雰囲気が無い、そんな却ってちぐはぐなところがこの子にはある。

 

「……つってもビックスはあの兄に付き合わされて【グラウンド・クルーザー】だけ使えるように頑張って練習したってさっき言ってたけどな」

 

「よくできた弟ね」

 

「お前はあーゆー弟が欲しかったりすんのか」

 

「え?いらないわよ」

 

 がくん。

 

――――ビックスぅぅぅ!!?

 

 後ろでスピンしたような音と悲鳴が聞こえた気がするけど多分気のせい。

 ルミアも特に謎の騒音に触れることなく、軽口を叩いて会話を続ける。

 

「そーだよなお前にはもうおねーちゃんいるもんなー?」

 

「いないって言ってるでしょうが。

 それより話を戻すけど、この魔術がマイナーなのって、修得難度のせい?

 なんだかんだ学生で使いこなせるってことは、言う程のものじゃないと思うけど」

 

「おお、白猫やるじゃん。

――――確かに修得難度もあるが、ぶっちゃけその割に使いでが微妙ってのがかなりデカかったりするんだよこれ」

 

 ぴ、と指を立てながらルミアはこの魔術の欠点を上げていく。

 その指の数が増える度に私も微妙な気分になった。

 

「ひとつ、この魔術を行使中は他の魔術を使えない。

 ふたつ、魔術の使用痕跡がかなりばればれで、ここにいるぜって叫びながら走ってるも同然だから隠密にも逃走にも使えない。

 みっつ、なのに出せる速度が馬より速い“程度”って、だったら多少消費が激しくても普通は飛行魔術の方を使う」

 

「……言われてみれば」

 

 使い道がそこまで多くない上に、この魔術を使ったところで目覚ましい効果が挙がることは稀。

 それこそこんな風に道楽の為に使うようなことが一番多いという。

 

「最後に―――魔術師って変にプライド高いバカが多いからなー。

 『御者や荷車引きの真似事なんぞしてたまるか』、ってな。

 だから存在を知っても覚えようと思う奴はあまり居ない」

 

 物資輸送にはそこそこ有用になるが、下手にこの魔術を覚えていてそんな“雑用”をやらされてはたまらない、という声もあるらしくて。

 道楽の為といっても大多数は華やかに空を舞うのと地を駆けるのを比べるとどうしても前者を選ぶし。

 

「なるほどね……うん、やっぱりルミアの解説は分かりやすくていいわね。

 言い方はもうちょっと気を遣って欲しいけど」

 

「取り繕ってどうすんだそんなもん。

 魔術なんてどこまでも演繹的な学問でしかねーんだから、役に立つか立たないかの二元論以外でどうやって語れって話だし、そんなツールに品性だの矜持だの求めても虚し過ぎるわ」

 

 魔術師としてプライドを持つ側である私には受け容れがたいけれど、どこか乾いた表情で語るルミアを見ていると反駁することも躊躇われる理屈。

 まず魔術が絶対的に演繹的な学問ということ自体初めて聞いたけど、ルミアの出した結論がそれなら、並大抵でない魔術の腕と知識を持ちながらこの子がそれを自慢げにしない理由も分かった気がした。

 

 ルミアは魔術を道具としてしか見ていない。

 

 筆は字が書きやすければそれでいい、食器は清潔で食べやすければそれでいい、不必要に飾り立てたところで道具の本質はそこには無いから、魔術(どうぐ)を高尚なものとしてありがたがる人間を見ても全く共感を覚えない。

 

 魔術は亡き祖父との約束であり、繋がり。そんな私にとってルミアの物言いは悲しいし淋し過ぎる。

 理解はできても納得はできない理屈だけれど、反発するより先にルミアがどうしてそんな極端な考え方をするようになったかの方が気になった。

 

「………」

 

 でも、それを聞ける雰囲気でもない。

 流れる景色の中でゆっくりと回転し続ける魔法陣を左手に纏い、高速で走る乗り物を操りながらも、どこか見えない壁を張ったような雰囲気で暫しの間ルミアは黙り込んでいた。

 

 






 原作設定に整合性が取れるかを深く考えずにオリ魔術をぶちこむ勇気………!



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