落第騎士の英雄譚~破軍の眠り姫~(一時凍結) 作:スズきょろ
それではどうぞ本編をお楽しみください!
「遅いわね。何をやっているのかしら」
「同じ寮にいたなら一緒に出ればよかったんだけどね」
「しょうがないんじゃない?」
「まあ、そうだね。もう少ししたら来るよきっと。・・・・にしても意外だったな。ステラがそんなに映画に興味があったなんて」
(一輝、たぶんそれ違う・・・・・・)
三人は学校の正門で珠雫を待っていた。理由は一輝が、あの決闘のあと映画を見に行くと珠雫に誘われていることをステラにしゃべり『アタシも行く!でもそれならシオンも誘ってあげないとかわいそう』と言って今に至る。
珠雫と一輝達の寮は本校舎を挟んで正反対の場所にあるため、校門で待ち合わせをしていた。
「そうだ、シオン!次やるときは絶対に負けないからね!!」
「ほう!努力したまえ、若人よ!!」
「いや詩音、まだそんな事を言う歳じゃないでしょ・・・」
「まっ、ステラをからかっただけなんだけどね?」
「ムッキイィィッッ!!!!」
詩音がステラを鼻で笑ってバカにしたりと、そんな事をしていると、・・・・・待ち人はやってきた。
「お待たせしました。お兄様」
「あ。珠雫――」
「遅いわよ。何やって・・・・・・・・・・・・・・」
「待ちくたびれたよ・・・・・・・・・・・・」
振り返り迎える三人の表情は、かちーんと音をたてて固まった。
「すいません。少し身支度に手間取っていたもので」
珠雫の格好があまりにも綺麗過ぎて言葉を失ってしまったのだ。そんな静寂を切り裂く一声があがった。
「か・・・・・・」
「「か?」」
「可愛いっ!!なになに、珠雫、その格好っ!とっても可愛いじゃないっ!!とっっても、似合ってるわっっ!!」
「ふふ、ありがとうございます。詩音さん」
その静寂を切り裂いたのは詩音だった。詩音は可愛い物がけっこう好きである。その証拠に詩音はキグルミパジャマを愛用している。
「ちょっと何よその完璧な化粧!さてはスタイリスト呼んだわね!」
「皇女様じゃないんですからしませんよ・・・・・。私のルームメイトにやって貰ったんです」
「ね、ねぇ珠雫、私もその『アリス』に今度頼んでみていい!?」
ステラは珠雫に見とれて固まっている一輝を押しのけて、珠雫に問い詰めると珠雫はジト目でステラを見ながらそう答える。そしてルームメイトである『アリス』と言う人物もやって来る為、詩音は納得しちゃっかりお願いしていた。
・・・・・・・そんな時だった・・・・・・・・
「んも~!珠雫ったら足速すぎ!」
「「え!?」」
するとそのアリスと言う人物がやって来たのか珠雫に女口調でそう言いながら到着する。しかし・・・・一輝とステラ達は驚いていた。
「うふふ、初めまして。珠雫のルームメイトの『有栖院凪』と言うわ。アリスって呼んでくれると嬉しいわ♪」
何故なら・・・・・珠雫のルームメイトであるそのアリスと言う人物・・・・『有栖院凪』は長身の男性であったからだ。そんな有栖院は被っていた帽子を脱いで一礼し、詩音は挨拶を返した。
「うん!よろしく、アリス!私は龍切詩音、早速なんだけど今度私の服をコーディネートしてくれない!?珠雫の格好ってアリスがやったんでしょ!」
「よろしくね詩音。もちろんいいわよ、こっちからお願いしたいぐらいだわ」
「ありがと!」
一輝とステラが困惑しているうちに、話が進んでいき二人は有栖院に挨拶をして目的地である大型ショッピングモールに向けて出発する。
その道中ステラと珠雫が一輝の取り合いを詩音と有栖院は遠くから苦笑いをして見守っていた。
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ショッピングモールに着いた五人は、今日の目的である映画館には直接行かなかった。珠雫が、今日見る予定の映画が始まるまで時間があると言ったので、五人は有栖院の勧めで、一階のフードコートに足を運んでいた。
「ん~~このクレープ美味しい~っ」
「確かに、クレープなんて無駄に高いだけだと思って食べていませんでしたが、コレはいけますね」
「そうね。私もクレープがこんな美味しいなんて!モキュモキュ・・・」
「でしょう?それでね、このモールにある喫茶店のティラミスが―――」
有栖院に勧められた購入したクレープを食べながら女子たち(?)は甘いものの話を始め、一輝は少し輪の外てその光景を眺めていると、一輝は珠雫と詩音の頬にクレープのクリームがついているのを見つけた。
(ありゃりゃ、折角オシャレして来たのに可哀想だよなぁ。それに詩音もなんか小動物感がすごいな・・・・)
「珠雫、詩音。ちょっと」
「はい?なんですかお兄様」
「モキュ?・・・ふぅ、どうしたの一輝?」
二人を振り向かせ一輝は手を伸ばし、唇のすぐ横についたクリームを指でぬぐい、
「ほっぺたについてたよ。折角綺麗な格好しているんだから、気をつけないと。詩音もだよ」
クリームをなんの抵抗もなく舐め取った。瞬間――
「っっ~~!!///」
「いい、いっき!?にゃ、にゃにお!?///」
珠雫は有栖院の背中に隠れ、詩音は顔を真っ赤にして舌が回らなくなり手をあたふたさせて、焦っていた。
「あらあら、珠雫に詩音。貴女たち守備力がないタイプ?」
「ううう、うるさいアリスッ!///」
「一輝のバカッ!アホッ!馬に蹴られろッ!///」
「何で!?」
その後、何とか平静を取り戻した二人は、いつものように振る舞った。そして、珠雫は映画を見に行こうと提案し移動した。
「トイレに行ってくるから、僕の分のチケットを買ってくれない?」
「じゃあ、あたしも行こうかしら?」
「分かりました。二人の分は買っておきますね」
「ごめん。よろしくね」
「行ってらっしゃ~い」
一輝と有栖院はトイレに向かい、その途中で有栖院がこんなことを言ってきた。
「ふふっ、やっと二人きりになれたわね」
「アリス、僕にそんな趣味はない・・・・」
「冗談よ。いきなりだけど一輝、貴方は気づいているのかしら?」
「何を?」
「自分の心の悲鳴に――」
「!?」
「一輝。貴方は傷つけられることに慣れすぎている。いつかそれを吐き出さないと――」
「僕の心が折れてしまう、か」
「その通りよ。あたしは、貴方の心の悲鳴に気づいてもらえる人が出来ることを、友人として祈ってるわ」
「そうだね。そんな相手がいるとしたら・・・・」
一輝はそう言われ一人の友人を、詩音を思い浮かべたときだった。
「でも詩音はやめておきなさい」
有栖院は、一輝の友達を真っ先に否定した。
「何で!?詩音は僕の心の許せる友人だよ!!何でダメなのさ!!」
「それはね、あの子はもしかしたら貴方以上の深い傷をおっているかも知れないからよ」
「ッ!?」
「そんな素振りは見せていないでしょうけど・・・あの子は心には確実に深い傷があるわ。もしかしたらあの子自身気づいてないかもしれないわ。でも詩音自身がその傷に気づいて貴方に話してきたら、ちゃんと受け止めてあげなきゃダメよ?」
「分かってる。詩音は僕の親友だからね」
有栖院は一輝の言葉を聞き微笑んでいたが、何かに気付くと顔が険しくなった。
「アリス?」
「一輝ちょっとこっちに来なさい!」
「え?」
「早く!!」
有栖院に腕を引かれトイレの個室に二人で入ると外から聞こえたのは、銃声と悲鳴だった。
「不味いわね・・・」
「アリス、外でいったい何が?」
「《
「!?」
有栖院のはっきりと言った組織に目を見開いた一輝。《
「にしても本当に不味いわ・・・」
「ステラ、か」
「ええ、彼女は一国の皇女様だもの。ばれたりしたら・・・・」
「そうだね、助けにいこう。その前に霊装の使用許可を出さないと・・・」
一輝は生徒手帳で霊装の使用許可を黒乃にも貰って、《
『詩音を奴らと戦わせるな。アイツは家族を殺されている。生き残っていたのはアイツ自身とその姉だけだ。
(ステラ、詩音、珠雫待っていてくれ!今助けに行くッ!!)
──────────────────────
時間を遡って、一輝たちがトイレに行くところまで戻る。
「トイレに行ってくるから、僕の分のチケットを買ってくれない?」
「じゃあ、あたしも行こうかしら?」
「分かりました。二人の分は買っておきますね」
「ごめん。よろしくね」
「行ってらっしゃ~い」
一輝と有栖院はトイレに向かい、その姿が見えなくなり珠雫は詩音に話しかけた。
「あの、詩音さん」
「どうしたの?」
「お兄様の事、ありがとうございます」
「ど、どうしたの?」
珠雫は深々と頭を下げお礼をいってきた。それには詩音も驚き狼狽えた。
「お兄様があんなに楽しそうに笑っているのを見れてとても嬉しいんです。私は詩音さんがこの一年お兄様の心の支えになっていたと思うんです。ですからお礼を」
「なるほどね。じゃあありがたく受け取っておくよ」
詩音は一輝が家でどんな扱いを受けていたか知っている。それを知っていながらも友達になってくれた詩音に、珠雫は感謝していた。
「にしても珠雫」
「はい、なんですか?」
そんな珠雫にたいして、詩音は爆弾を投下した。
「一輝の事好きでしょ?」
「ッ!・・・え、ええ、もちろんです///」
「そんな珠雫にコレをあげよう!」
詩音はポケットの中を探り、USBメモリを取り出し珠雫の手に置いた。
「コレは?」
「一輝の写真」
「ッ!!ありがたく頂きます」
珠雫と詩音は手を組んで笑みを浮かべていたが、詩音は何かに気づき顔をこわばらせた。詩音の視線の先には自分と似た白い髪をもった女性が写っていたことを、もちろん珠雫は知らない。
「珠雫ちょっとお花摘みにいってくるね」
「行ってらっしゃい。ステラさんには私から伝えておきますので」
「ありがとう。いってくるね」
ステラと珠雫と別れた詩音は、さっきの女性を見た所へ向かうとその女性はいた。
「こんにちは、詩音」
「こんにちは、エーデルワイス。貴女何してるんです?」
詩音の見掛けた女性、名はエーデルワイス《比翼》の名を持ち、世界最強故に逮捕することを諦められた国際指名手配犯その人だった。詩音とエーデルワイスは面識があった、面識があるどころではなかった。その理由とは、
「ちょっとお散歩をしていたんです」
「本当は?」
「可愛い家族の様子を見に来ました!」
「はぁ・・・」
「それと詩音、私の事をそんな他人行儀で呼ばないでください!家族なんですから」
「わかったよ、お姉ちゃん・・・」
「はい!お姉ちゃん、嬉しいです!」
そう詩音とエーデルワイスは、血の繋がった家族だった。姉であるエーデルワイスはいわゆるシスコンだ。それも重度の・・・
「様子を見にきたって、お姉ちゃん暇なの?」
「そうですね、暇です。だから可愛い可愛い妹の写真を・・・!!」
「そうですか、じゃあその写真を消すので撮影したものを渡してください」
「なぜ消そうとするんですか!」
「何となくです」
「ダメです!今日は詩音の照れ顔を撮れたんです!絶対に渡しません!」
それを聞いた詩音はエーデルワイスからカメラを奪おうと顔を真っ赤にしながら迫った。
「あ、あの写真を撮ったというのなら、余計に渡してください!」
「イヤです!それでは、お姉ちゃん帰りますね!さよなら!」
「あっ、ちょっとお姉ちゃん!速すぎっ!!
はぁ・・・戻ろう」
詩音は全速力で逃げたエーデルワイスを追いかけるのを諦め、駆け足でステラと珠雫の元に戻った。
「お待たせ、二人は戻ってきた?」
「まだよ。全く何をして・・・」
ステラが言葉を言い切る前に、突然銃声と悲鳴が響いた。
「一体なにが!?」
「わからないわよ!?」
「ちょっとよくないね・・・・」
「どうしたの詩音?」
「それはあの人がしゃべってくれそうだよ」
詩音が指を指した先にはアサルトライフルを構えた男が数人立っていた。
「我々は
「ここは従うしかなさそうね・・・」
「そのようですね・・・」
「ステラはコレを被っていなよ。有名人なんだから」
「ありがとう」
詩音はステラに帽子を渡しステラは顔を隠した。そして詩音とステラと珠雫、他の一般人は
(一輝、アリスなるべく早くお願いね?じゃないと・・・こいつら全員、殺してしまいそう・・・・)
詩音は溢れ出そうな殺気を必死で押さえていた。
いかがだったでしょうか。
エーデルワイスがお姉ちゃん、自分的には大満足です。
皆さんはどうでしたか?
それではまた次回!