シロウはルミアに教えられた店で大量の調味料を購入した事により、テンションが舞い上がり徹夜で料理を大量に作っていた。
100種類程作り上げた所でふと時計を見る。
「まだ11時か...ならば次は何を...つく...る......」
夜11時ならありえない明るい光が窓を照らしていて、カーテンから零れる光は正しく朝を指し示している。
「馬鹿な!遅刻だと!いや遅刻どころではない!」
真面目なシロウは任務でも遅刻した事がなく、学校で言うところの皆勤賞レベルの事をしていたのだが、この日初めて授業をサボってしまった。
とりあえずご飯を捨てるのは勿体ないので、適当な弁当箱三つに詰め込み、風呂敷で包んで走る。
ひたすら走る。せめて昼前につくために。
どうにか全力疾走したおかげで昼飯時には間に合うと、とある噂が耳に入る。
『グレン先生の授業やばいらしいよ』
『1番聞いた方がいい授業らしいぜ』
グレンがやる気にでもなったらしい。いやはや人間どうなるか分かったものでは無い。
そのせいでグレンには質問が殺到していて、とてもご飯を分けられるような状況ではないので、とりあえずルミア達に渡したあと、自分で食べれない分を配布した。
結果として何十人もの女性のやる気を完全に殺す事になる。
その日の授業が全て終わり、日が暮れ生徒達の楽しそうな会話が聞こえてくる。
そんな生徒達を孫を見守るような暖かい目でグレンが見つめている。
「随分とやる気になったようだな」
「まぁな、てかお前サボったろ」
「その事は言うな。あれは仕方が無かったんだ」
「いやいやそんな訳」
「アレハシカタナイイイナ」
「yesマジすんませんでした」
軽く漫才をしていると女性の笑い声が聞こえ近づいてくる。
「流石は私のグレンだな」
「誰がお前のだよセリカ」
「ふっ」
「な!笑うなよシロウ!」
「元気になったようで良かったよ」
セリカの呟きに、遂にこいつボケたのか?とグレンは思い始める。
「確かにそうだな。鏡を見れば随分と変わったように思えるぞ」
「そうかね」
「あぁまだ完全に立ち直っていないようだが、今はそれでいい。それでこそ私の知るグレンだ」
「お前は何歳だってんだよシロウ」
「さぁな」
グレンに向けチョコマフィンが入った袋を放る。それを上手くキャッチしたグレンは、早速中のチョコマフィンを誰にも取られないように、口にねじ込む。
「ほふふがほふほほほ」
「食べ終わってから喋れ」
「ゴクッ...ありがとなシロウ」
「また明日も作ってやるよ」
そう言うとルミアが近づいてきたのが分かったので、咄嗟に姿を隠しいつもの追跡を開始する。
次の日どうにか遅刻せずに間に合うと、とりあえずルミアとシスティーナにイチゴのタルトを食べさせる。
「何これ美味しい」
「美味しいすぎる」
「喜んで貰えて何よりだよ。これも全てルミアのおかげだ」
結局昨日も一緒にシロウとルミアが帰ることになり、今度は調味料屋ではなくお菓子作りに必要な材料のお店を教えてもらい、今住んでいる家に釜を作るほど熱中している。
丁度二人がイチゴのタルトを食べ終わったタイミングで、チャイムがなり最近楽しくなってきたグレン先生の授業を今か今かと待つが、二十五分経過してもなかなか始まらない。
なんだこの嫌な予感は、何かが起こっている?一応グレンに確認を取るか。
シロウはグレンと連絡を取るための魔術を起動させる。グレンが出たかと思うと、爆裂音が聞こえる。
爆裂音だと!まさかこの嫌な予感は!
シロウが確信を得た時、唐突に教室のドアが開き4人の男が入ってくる。
「ちゃお。君達の先生遅れるらしいから、僕達代わりね」
「何ですか貴方達、ここは部外者以外立ち入り禁止ですよ」
「えぇいいじゃん」
頭にバンダナを巻いた男のチャラさが妙に気分を空回りさせる。さっさと追い出そうとした時その男から衝撃の一言が放たれる。
「そうだそうだ。俺達は有り体に言えばテロリストでね。ここにはあの雑魚い守衛サンを殺して来たわけ」
生徒達の顔から血の気が引いていく。
今の男が言ったことが確かならば、こいつらはかなり強い集団と言うとことになる。
魔術師の卵が多くいるこの場所の守衛達はかなり強い。なのにそんな訳がと思うが、現実はそう甘くない。
「ふ、ふざけないでちゃんと答えてください」
「ちゃんと答えてるんだけどな......そうだこれ見せたら早いかな?《ズドン》」
システィーナの横を雷線が通り、机なども貫通する。そんな威力のある雷を放てる魔術など、一つしかない。
軍用の攻性呪文【ライトニング・ピアス】
その威力、弾速、貫通力などどれをとっても【ショック・ボルト】など到底及ばない。
初歩程度しか覚えていない彼らでは、全くもって相手にならない。
「おいおい震えてんのか?随分と可愛げがあるなぁ」
「ふ、震えて、なんか」
システィーナは生で初めて感じた死の恐怖に自然と足が震える。
「さてさて君達に聞きたいことがあるんだ、ルミアちゃんて子はいないかな?」
クラス中からポツリポツリと何でと声が漏れる。
「出てこないか...なら《ズド」
「私です。私がルミアです」
「おっやっと出てきたね。まぁ君の顔は知ってんだけどね」
このようなふざけた態度の男でも、今の彼らでは勝てる相手ではない。
「ジン後は任せる」
後ろに控えていた強面の男がルミアの腕を掴むと、どこかへと連れていった。
不味いなここで離されては...だが相手の情報が少なすぎる。誰か尋問したい所だが...
シロウがグレンとの通信魔法陣を小さくして、考えているとバンダナの男がシスティーナを連れて教室出ていく。
丁度いいな。残りは二人...やろう。
シロウは手首をゆっくり回し軽くほぐす。
さて行こうとした時に、魔法陣からグレンの声が聞こてえくる。
『おい!そっちどうなってる!』
「グレン少し待ってろ...」
残っている2人がグルグルと生徒達を回り【マジック・ロープ】で作った紐で手足を縛り、その上に【スペル・シール】をかけ無力化をして回っている。
そして、遂にシロウの番がきた。
「おい後ろに手を合わせ」
ロープを持った男が言い終わる前に、腹部に飛び膝蹴りを入れ一撃で意識を奪う。
「糞ガキが!反抗するな!反抗するならこいつを殺すぞ!」
もう1人の男が近場にいた女性を1人掴み人質にする。だがシロウにとってはルミアが、最優先事項なのだ。
「
手によく馴染む夫婦剣を作ると、その両方を投擲する。
夫婦剣は弧を描くように回転し、男の両肩に突き刺さる。
「がはっ!」
「全てが遅いな」
その隙に一瞬で懐に潜り込み、首を片腕で締め上げる。
「さて貴様らの目的はなんだ?」
「俺ら...は知ら......されてねぇ......だから...頼む...助けて」
「なるほどな良いだろう眠っているといい」
肩に突き刺さっている剣を抜き、その柄を使って首筋を強打し意識を奪う。
一仕事終えたように息を吐くと剣を消し、グレンに報告する。
「私はルミアの方に行く。グレンはシスティーナの方に行け」
この日遂にシロウ=エミヤが動き始めた。