赤き正義の味方と禁忌教典   作:暁紅

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グレンさんそりゃあ不味いぜ

 

今日も今日とていつものように気だるげに始まりの挨拶をすると、慣れた手つきで自習の準備をする。

 

あまりにも代わり映えのないいつもの光景に、たまに何かを学ぼうとする者がいる。

 

「あの先生......今のについて質問が...」

「聞くだけ聞くが?」

「さっき、先生が触れた呪文の意味が」

 

グレンは顔を机に突っ伏しながら近くにあった本を掴み、それを質問をしてきた少女リンに投げつける。

 

その本をどうにかキャッチしたリンが、戸惑うようにアタフタしていると、黙っていたシスティーナが口を開く。

 

「無駄よそいつは魔術の崇高さを理解出来てないの、だから私達だけで頑張りましょ?」

「で、でも」

「なぁ...魔術ってそんなに崇高なもんか?」

 

システィーナはグレンの発言に呆れたようにため息を吐く。

 

「何を言うかと思えば...あんなに偉大で崇高なのに理解出来ないなんて」

 

いつものグレンであれば「そうかねぇ?」の一言で終わっていた。だがその日は何故かそこで終わらなかった。

 

「何がどう偉大で崇高なんだ?説明してみろよ」

「え?...」

「どうした?魔術ってもんは偉大で崇高なんだろ?ほら説明してみろよ」

 

グレンは身体を起こしてシスティーナを挑発する。システィーナはどう偉大で崇高なのか説明しようとするが、途端に頭が真っ白になる。

 

「魔術はこの世界の真理を追求する学問なのよ」

「へぇ...」

「この世界の起源、この世界の構造、この世界を支配する法則。魔術はそれらを解き明かし、この世が一体何のために存在するのか、自分とは」

「何の役に立つんだ?それ」

 

システィーナの説明を我慢して聞け無かったのか、話の途中に言葉を放った。

 

その一言はシスティーナの思考を完全に停止させることとなった。

 

「そうよ...世界の謎を解き明かして、より高次元の存在に...」

「高次元?なんだ神にでもなるのか?」

「そ...れは...」

 

段々とシスティーナの肩が震え始める。ルミアはどうにか止めようとするが、既に停止する最終ラインは越えていてる。

 

「そもそも魔術って俺たちにどんな恩恵をもたらしてる?医術は死ぬはずだった人間をぐっと減らした。農耕技術は食料が作られ餓死者が減った。あれ?それじゃあ魔術は何をした?」

 

その言葉を聞いた生徒は誰しもが言い返せない。それは、グレンの発言がある意味真実だからだ。

 

そも魔術とは使える者が限られており、誰しもが簡単に使えるものでは無い。

 

先日のグレンとシスティーナの決闘を思い出せば、それがより明確になる。

 

学院ですらどう人間に役立っているのか?それすら教えていない。

 

だが一つだけ人間に役立っている事があった。 

 

「あっ、そう言えばあったな人間に役立ってた事が」

「それ...は?」

 

生徒全員が耳を傾け話を聞く。それは普通の授業では聞けることではないからだ。しかし聞いたことで多くの生徒は後悔をすることとなる。

 

「人殺しだよ」

 

グレンの一言に空気が凍りつく。

 

「いや本当良く考えればそうだよな。剣士が1人殺す時間があったら、魔術師は何十人も殺せる。いやはや凄いな...魔術って奴はこうも人殺しに役立つとは」

「ふ、ふざけないで!そんなわけ...そんなわけが......」

 

否定が出来ない。

 

それはこの国が何故魔導大国なんて呼ばれているのか?外道魔術師達が起こす悲惨な事件の件数とその内容。

 

考えれば考えるほど人殺しに繋がっていく。

 

「それなのに何でそんな好き好んで、こんな人殺しの術を覚えるのか」

 

グレンの頬にシスティーナの平手打ちが飛ぶ。

 

グレンは抗議しようとシスティーナの方を見ると、何も言えなくなる。

 

「違う違う違う違う違う違う!魔術は......そんな物じゃない!」

 

大粒の涙を流しながら走って教室から飛び出ていく。

 

システィーナが去った後何で泣くかねと不貞腐れるグレンが佇んでいた。

 

 

その授業を自習にするとそれ以降の授業に顔を出すことが無かった。

 

 

 

 

「全くこうなるか...はぁ......さてあの魔女(セリカ)は何がしたくて、このような事をしたのかな?」

 

今は放課後でシロウの仕事はルミアの護衛。なので、今は影に隠れながら見守っている。

 

ルミアが1人部屋に入り数分が経つと、その部屋の前にグレンが現れる。

 

「む?グレンだと?一体何をしに来た?」

 

何やら話をしているようだが盗み聞きをするほど無神経なシロウではない。 

 

じっと待ちづけると、今度は2人で一緒に部屋から出てきて、楽しく会話しながら下校を始める。

 

「これが噂に聞く禁断の恋か?いいネタが手に入ったな、セリカにでも言ってみるか」

 

盗み聞きはしない癖に、見たことは他人に言う。性根がどれだけ腐っているかよく分かる瞬間だった。

 

 

 

 

 

グレンとルミアの秘密のデートを別れ際まで見たあと、ルミアが家に帰るまで追跡していて曲がり角を曲がると、

 

「キャッ!」

 

ルミアの叫び声が聞こえる。

 

急いで曲がり角を見ると、明らかにヤンチャしているような若い男がルミアを囲んでいた。

 

「おいねぇちゃんよ。こりゃどういう事だ?」

「そうだそうだ!兄貴に謝れよ」

「ご、ごめんなさい」

「ごめんで済むと思うのか?普通は分かるよな?」

 

ルミアの手を兄貴と呼ばれた男が力強く掴む。

 

あまりの強さに「痛っ」と声が漏れる。

 

「貴様らルミアから離れろ」

 

2人の背後を一瞬でとり、首元に夫婦剣を当てる。それに加えちょろっと殺気を出せば、ルミアに手を出そうとしていた男達は泣きながら逃げていく。

 

逃げたのを確認すると、ルミアの腕を確認する。

 

「跡がついているな...少し触るぞ」

 

白魔【ライフ・アップ】を使い傷を癒す。

 

傷が癒えたのを確認すると、その場から立ち去ろうとルミアに対して背を向ける。

 

「まって、何かお礼をさせて!」

「お礼?そんな物はいら.........すまないがここら辺の店に詳しいか?」

 

お店ならとルミアは頷く。ここら辺の店であればシスティーナとよく買い物に行くので、よく知っている。

 

「ならば!調味料を扱っている店を知っているか!」

「えぇっと知ってるけど」

「よしならば今すぐ行こう。さぁ行こう」

「えっまっ」

「さぁさぁさぁ」

 

さっきまでとのあまりの空気の変化にクスッと笑うと、お礼という事もあり渋々付き合うことにする。

 

その日帰るのはかなり遅くなり、システィーナがカンカンに怒っていた。

 

 


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