「さて待ってたぜ魔人。最終決戦と行こうぜ」
『敵わぬと知りながらも立ち向かうとは、愚者の民ながら潔い』
「はっ、俺の教え子が一人お世話になったみたいだからな、お礼参りをしようってな」
両手にはめた黒の手袋をより深くハメ、右の拳を突き出し構える。
シロウから教えて貰った八極拳もどきの構えは、攻守隙はなく喧嘩上がりのグレンが少しまともに見える。
隣にいる三人の少女らも各々の構えを行い待ち構える。
『汝らの攻撃は効かぬ。それが分からなほど愚かでは無いのだろう』
「てこと、やっぱりシロウの見立て通りっだったわけだな。残りの命の残基は二つだろ、シロウの事だからあと一つかもしれないけどな」
おちゃらけた笑みを浮かべながら聞く。
そう、グレン達は敵の正体にたどり着いたのだ。メルガリウスの魔法使いに登場する魔煌刃将アール=カーンだと。
ルミアに似た謎の少女はナムルスと名乗り、逃げの選択を提案するもすぐに却下される。
「だめ、シロウを置いていけない」
「俺も同じだ。アイツは置いてけねぇよ」
『なら、どうするのアイツは不死身よ。何度殺しても勝てるわけがない』
「いいえ。シロウのおかげで正体がわかったから、確実に倒す事ができます」
そう言いながら取り出したのはメルガリウスの魔法使いの本であり、その中に出てくる魔煌刃将アール=カーンが正体だと語る。
ありえない。最初はそう思ったが、シロウの言葉が脳裏に浮かぶ。
「最低でも二回は持っていく」
あの時は意味が理解できなかったが今は確実に理解出来た。命の残基の事だと。
そこから計算し残る残基を二つと仮定すると、倒す希望が生まれてくる。
不安げだったナムルスも何処と無くムスッとした表情だが、嬉しそうな雰囲気が微かに漂う。
「シロウは絶対に私達が助ける!」
ルミアは高らかに宣言する。
『そうか。だが遅い。シロウは殺した』
魔人が放つ
嘘だと。首を横に振り否定して初撃を放つ。
迸る閃光は確実に狙いを心臓に定め穿つ。しかし、簡単に剣で払われ霧散する。
『無駄だ』
「油断大敵だぜ!白猫ォォ!!」
「分かってます!!」
感応増幅力で底上げされたシスティーナの巻き起こした突風は、空中に浮かぶ魔人のバランスを崩すことに成功する。
バランスを崩され、変化した視界の先に真銀の剣を振り下ろそうとするリィエルがいた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁああああ!」
「こっちにもいるぞ!」
グレンは己の拳を強化し、刀で裂かれないよう準備をして魂喰らいの対処をする。
ルミアはセリカから借りている真銀の剣によって、魔術師殺しの影響を受けずに戦う事ができる。
まず、この形に持っていく事が迎撃の中で最も重要だと作戦を立てていた。
そうしなければ太刀打ちが出来ない。それほどまでに魔人の力は強大だった。
「クソっ!」
『温い。その程度では殺すことなど出来ないぞ』
上手く作戦はハマりどうにかまともに戦闘は出来て入るのだが、魔人の極められた剣術により新たに命を狩ることが出来ずにいる。
ルミアとシスティーナの魔術はいくら力を底上げしても、決定的な致命傷を与えられない。
グレンとリィエルも同じで、剣に細心の注意を払っていて接近戦なのだが深く踏み込む事が出来ない。
風が魔人の足を絡めとり動きを封じる。
今だ!!二人は一気に懐に飛び込み一撃を放つ。
伸びた拳は刀の柄で弾かれ、あらぬ方向へ飛んでいき、首元を掻き切るように肉迫する剣は刀を強引に引き寄せ、身体に当たる直前に剣の前へ入れ直撃を避ける。
互いの剣がぶつかり合い、甲高い音がドーム型のこの空間に反響する。
「強すぎだろ」
「そんな...」
千載一遇のチャンスを逃したショックな大きく、顔に諦めの文字が見え隠れし始める。
『小賢しい《■■■■■■》』
聞いたことのない詠唱を始める。
明らかに不気味で異様な雰囲気が漂い始め、それが魔術らしき物だと気づくのに数秒遅れる。
頭上に太陽のような炎の球が現れ、徐々に熱気をあげていく。
それは明らかに危険だと察知しグレンは愚者のアルカナを引き抜き、固有魔術【愚者の世界】を発動する。
魔術らしき物は途端に崩れ、それが魔術であり自分の固有魔術が有効なのだといい情報を手に入れる。
魔術を謎の力に妨害され、同様が目に見える魔人の隙に畳み掛ける。
「いいいいいいやぁぁぁぁぁああああああああ!!」
「《猛き雷帝よ・極光の閃槍以て・刺し穿て》《
無防備な魔人に正面から三つの閃電が迫り、背後からはリィエルが剣を振り下ろそうとしている。
グレンにより魔術師殺しは閃電を払うには遅い。魂喰らいで引き裂く。
その間に背後から接近するリィエルに身体を縦に引き裂かれる。
『くっ』
愚者の民と馬鹿にしていた魔人は残り少ない命の一つを奪われ、残りは一つだけとなる。