翌日行われるはずの決闘にグレンは姿を現さなかった。
その結果システィーナとレオスは結婚式を3日後に開催することになる。
何故グレンはそうなる事が分かっていてバックレたのか。それは、レオスに対抗するために大金を叩いて材料を買い、シロウと一緒に武器を作っていた。
グレンは帝国宮廷魔道士時代に戻ったような気分に苛まれていた。
「グレンいいのか?そんな姿を見せれば確実に避けられるぞ」
「あぁそうだろうな......だけどな、もう二度とセラの時みたいに何も出来ないってのが嫌なんだ」
「そうか......ならばあいつは私が殺すとしよう」
「ん?何か言ったか?」
「何も言っていないぞ。さてこういう時はパッパッと作れる簡単な食事の方がいいだろう」
シロウは覚悟を決めたグレンのために元気の出る料理を作り、自分も人を殺す覚悟を決めた。
瞬く間に3日経ち2人の結婚式はもう少しで始まる時刻になっていた。
襲撃するには一瞬の内にシスティーナを攫わなければならない。
今回行う作戦はグレンが突撃した後すぐにシロウが煙幕を張り、視界を奪った隙をついてシスティーナを強奪する。
かなり穴があるような作戦だが、これは確実に成功すると言ってもいい。何故ならレオスは、いやレオスに化けている『ジャティス=ロウファン』ならば見逃すだろう。
シロウは手に持つ煙幕を撒き散らす球を握る手に自然と力が入る。
遂に結婚式が始まり乱入がしやすいタイミングである誓いの口づけになった瞬間グレンが大声を上げて突撃して、そちらに気がそれた瞬間手に持つ球を地面に投げつけ、会場全体を覆う大量の煙を放つ。
「グレン捕獲したか?」
『したけど...暴れんな白猫!』
「とりあえず先に逃げろ、奴が何をするのか分かった物では無い。だから生徒の事は任せろ」
グレンを安心させる一言を放ち、通信を切るとまた別の人物へと通信する。
『おうおうやっと出番か?』
「あぁ頼むぞじいさん」
『よぉし!行くぞお前ら!』
通信していた相手『バーナード=ジェスター』は勝手に通信を切ると、教会内にいる生徒達の安全確保に動く。
彼らの戦闘能力は高く、ジャティスが使うであろう薬物人間では、到底勝てる相手ではないので安心して任せる事が出来た。
そして、シロウがバーナード達に守らせている間に、協会からグレンを追いかけているジャティスに追いつく。
「止まれ。さもなければすぐに殺す」
「おや?なるほど貴方が協力していたのですね」
「その薄気味悪い顔をやめろジャティス」
正体を看破されたジャティスは、姿を誤魔化すために使っていた魔術を解く。
解かると一年前と何ら変わっていない、自分の力に酔っているジャティスがいた。
「久しぶりだねシロウ」
「会いたくなど無かったがな!」
シロウは瞬時に夫婦剣を投影して跳躍して切りかかるも、ジャティスの手元から出てきた粉により
その事を予想していたシロウは夫婦剣を投擲するが、
「甘い甘いよシロウ」
「それはお前だジャティス」
シロウの手には黒い弓と刀身部分が捻れている剣が握られていた。
宙に浮かんでいながらも体制を整え剣を弓に添えると矢のように長くなり、シロウの持ちうる武器の中で最強火力の一撃が放たれる。
「
ここは狭い裏路地なので
放たれた剣は辺りの建物事を破壊して進み、ジャティスを吸い込むように消し去る。
地面に着地したシロウはため息を一度吐くと投影していた弓を消し、破壊してしまった壁を見る。
もしジャティスを仕留め損なえば多大な被害が出るため、多少の損害は仕方が無いと思っていたのだが思ったよりも破壊してしまったと後悔していた。
崩れた瓦礫などを見ていると瓦礫に足を挟まれ痛がっている少女がいた。
「助けて...」
「少し待て今助ける」
少女の足を押しつぶしている岩を軽く衝撃を与えて壊す。
助けられた少女は痛い足を引きずりながら、壁を伝って起き上がると、
「ありがとうお兄ちゃん」
「私のせいでもあるからな、足の治療をする足を出せ」
少女はシロウの指示に従って足を出し、魔術による治療をかけて治す。
治った足を数回地面に当てて、完治したのを確認するために両足を上げてジャンプをして着地すると、治ったことに喜ぶ。
「ありがとうお兄ちゃん!」
「別にいいさ」
シロウはその場から去ろうと立ち上がり背を向けると、突然少女が呼び止め胸に飛び込む。
「何を...がハッ......血だと...」
飛び込んできた少女が離れ腹部を確認すると、何かに刺された跡がありそこから血が溢れてきていた。
刃物を刺したと思われる少女を見ると、目は虚ろになり足の近くに血塗れの包丁が落ちていた。
痛みに耐えきれずその場に蹲るように倒れる。
「あはははは!!どうだい?裏切られた感想は」
「最悪だな」
「うんうんとっても僕好みの感想だよ」
「ただ」
「ただ?」
「この程度で死ぬ私ではないな」
蹲っていたシロウは突然起き上がり地面に落ちている包丁を拾うと、下から上に動かすように切りかかる。
シロウの血も完全に止まっており、自由に動いているシロウに驚いたジャティスは、
突き出された右手は手首のところから一刀両断され、右手の掌は宙を舞い手首からは血が流れる。
「騙したな!」
「君も騙しただろ?」
シロウは包丁を突っ立っている少女の眉間目掛けて投げ、眉間を貫くと夫婦剣を投擲してゆっくりとその場に倒れているジャティスに近づく。
「観念しろ。捕まった後は分かるな」
「そうか......だがまだ僕は捕まるわけに《いかない》ー!」
シロウの視界を突然閃光が覆い少しの間視界を奪うと、ジャティスはグレンのいる方へと掛けていく。
目が完全に元に戻るまでその場で座り込んで待っている間に、油断したと自分を責めていた。