赤き正義の味方と禁忌教典   作:暁紅

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シロウの弟子はかなり強い

やっちまったぜ、

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試合の開始と共にグレン達は独特な形へと変化する。

 

この試合では真ん中が敵の本拠地に1番近いせいで、大体は真ん中に戦力が集まる傾向がある。

 

だからと言って決して真ん中以外の両サイドが弱いと言う訳ではない。なのにも関わらず、両サイドには相手に見えるように一人づつしか立っていなかった。

 

 

「あっちは大丈夫だろうか」

 

シロウが自ら鍛えた3人の事を考えていると、一人だと油断している生徒が三人一組(スリーマンセル)一戦術単位(ワンユニット)の形で接近してくる。

 

だが幾ら何でも馬鹿だろとしか言えない。

 

例え敵が1人でも戦場で警戒を怠るなど自殺志願者のすることだ。

 

「《雷精の紫》」

 

攻撃魔術の詠唱を完成させる前に、一瞬で懐に飛び込むと、そのままの勢いで肘を相手の腹部に叩き込む。

 

その技はシロウの使用する八極拳の基本的な技『肘撃(ちゅうげき)』と呼ばれる物で、使う者によっては岩をも粉砕する威力となる。

 

無論シロウはその域に達しているが、手加減として少しばかり骨を砕いた。

 

仲間が吹き飛ばされた事に気づいたが、あまりの早業に周りにいた仲間は何が起きたか理解出来ず唖然としている。

 

 

もしこれが軍隊の正式な人間であればすぐに状況判断して、立ち直るのだろうがそこは学院生、そこまで早い切り替えなど出来ない。そして、そんな隙があればシロウにとっては充分事足りる。

 

地面を強く踏みつけ、掌を2人の腹部に叩き込む。

 

震脚はその独特な踏み込むで全ての攻撃の威力を底上げする、それを今回は川掌と合わせまた骨を砕く。

 

2人は血反吐を出してその場に倒れ込む。

 

後ろに控えていた6人は顔を真っ青にして逃げ帰る。

 

「リィエルは大丈夫だろう......セシル達は少し心配だな。確認に行くか」

 

シロウはその場に佇み敵を威嚇していた。

 

 

 

シロウが撃退したのと同時刻、真ん中の森争奪戦では衝撃的な事が起きていた。

 

「どこからどこから狙撃をっ...」

「な!バイル!クソ!隠れろ!!!」

 

本来なら届くはずのない狙撃が届いているせいで、レオス軍は上手く攻められていなかった。

 

 

 

ありえない長距離狙撃を行っているセシルは一人丘の上で、魔法陣の上にうつ伏せになっていた。

 

「一人......隠れられた......なら岩ごと砕く」

 

敵が隠れている岩の部分に狙いを定めると、詠唱を始める。

 

「《雷精よ 紫電の衝撃もって 打ち倒せ》─!」

 

セシルによって綴られた三節の【ショック・ボルト】は、本来届くはずのない森を超え敵の隠れている岩に直撃して、岩を破壊して隠れていた敵を吹き飛ばす。

 

吹き飛ばされ隠れる場所のなくなった敵に対して、今度は一節の詠唱の 【ショック・ボルト】で意識を刈り取る。

 

 

本来なら届かないのに何故届くのか、それほセシルの下にある魔法陣に秘密がある。

 

この魔法陣はシロウの知識を総動員した作られた、魔術能力を上昇させるおまじないのような物だった。

 

そのおかげで届くのだが、当たり前のようにデメリットがある。それは魔法陣から出ると著しく体力を持ってかれ、時には意識を失う場合がある。

 

なのでセシルは狙撃にしか力を込めていない。

 

そも狙撃者とは一度狙撃したら、すぐにその場から離れ違う場所から狙撃を始め、位置を悟られないようにするのがセオリーである。それが出来ないセシルは普通ならビクビクとしているはずなのだが、セシルは近づいてくる敵には見向きもせず中央地点の者ばかりを狙撃する。

 

 

セシルの狙撃の位置を特定して急いでその場に急行していたレオスの生徒達6人は、鬱蒼と生い茂る草木を掻き分けながら進んでいた。

 

「そろそろのはずだ。多分護衛が数人いるはずだ気をつけろ」

「確かに警戒するのはいい事だけど、少し緊張し過ぎだと思うよ」

 

突然前方から聞こえる男の声に驚愕するも、とりあえずその場にある木に姿を隠す。

 

隠れた6人が6人とも近くに他の男がいないか確認する。

 

「安心していいよ。ここは僕1人だけだ」

 

敵の言葉をそう易々と鵜呑みにするほど馬鹿ではないのか、男の声を聞きつつも当たりを探る。

 

結局誰も他にいない事が分かると、木から出て声の聞こえた方へと向かう。

 

そこには、森には似合わない人工的な豪華な椅子に座って、メガネをかけ直している男子生徒ギイブルがいた。

 

「ならお前を倒せばいいんだな」

「その通りだよ」

「ならば、大人しく倒れろ!《雷精の紫電よ》─!!」

 

他の5人と比べ1人だけ実力の高さが伺える男が、一節で【ショック・ボルト】を作り放つ。それをギイブルは鼻で笑う。

 

「《遅い》─」

 

ギイブルはたったそのフレーズで【ショック・ボルト】を起動させた。

 

システィーナの得意とする技だが、ギイブルはそれをシロウとの過酷な戦闘の時に使えるようにした。いや使えなれば死んでいたと言った方がいい。

 

今でもあの戦闘を思い出すと吐き気がするが、今は過去のあの戦闘に感謝していた。

 

ギイブルに向かってきている【ショック・ボルト】は簡単に躱され、ギイブルの放った方は敵に直撃して意識を刈り取る。

 

「な!」

「《跪け》─」

 

ギイブルの手から投げられた圧縮空気球が、5人の近くで炸裂して、5人とも意識を刈り取る。

 

遊び相手がいなくなったギイブルは、フカフカの椅子に腰を降ろすとため息を吐いて空を見上げる。

 


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