愛してる発言は瞬く間に広がってしまい、それを沈静化させるためにグレンは各クラスを回って誤解を解いていた。
「シロウ...てめぇ...おぼえてろよ......はぁ...」
「いい運動だろ。食べてばかりだと太るからな」
シロウが話の片手間に【ショック・ボルト】を的に向けて放つ。
確率は6/6とパーフェクトだが、その内の2回は奇跡で当たっているので、実際の実力では4/6だった。
そして、次はかなりの問題児であろうリィエルの番が来た。
【ショック・ボルト】を3節で詠唱して放つも的には当たる気配がない。
五回目が過ぎても当たらない。最初は興味津々で見ていたが、あまりにも魔術が下手すぎるので呆れて見てない者が増えていた。
「これ【ショック・ボルト】じゃなきゃだめ?」
「いやまぁそれ以外でもいいけどよ...軍用魔術は使うなよ」
「分かった」
リィエルは魔法陣を作り出し魔法陣と一緒に拳を地面に叩きつける。
叩きつけられた魔法陣からリィエルの髪の色のような綺麗な青色の大剣が出てくる。
「えい」
それを上に飛び上がると、全力で的に向け投擲する。
投擲された大剣は見事に回転しつつ、的を粉々にする。
グレンはそれを見て、また始末書が増えると肩を落とした。
「全くどうしたものか......リィエルに普通の学院生活をと思ったのだが、裏目にでたか?」
シロウがこの学院にリィエルを呼んだのは確かにルミアの護衛もあるが、メインとしてはリィエルに楽しい学院生活を送らせることだった。
近々遠征学修があるのでと思ったのだが、明らかに先ほどのインパクトが強すぎて、大剣投げるヤベェ幼女認定されて軽く恐れられている。
「こうなれば全員の前で何か食べさせるしかないか」
リィエルは物を食べる時はシロウですら可愛いと思う。なのでそこを見せればとリィエルを探していると、食堂にてシスティーナ達とワイワイやっているのが見えた。
「私の出番はなしか...まぁその方がいいか...」
シロウは食堂から離れルミアを監視しながら食事をとる。
リィエルが転校してきて早1週間。
最初は恐れられていたリィエルも、すっかり周りと馴染み年相応の学院生に見える。
「リィエル落ち着け取る奴はいない」
「
「ちゃんと食べてから喋れ」
「...ゴクッ...師匠の料理が」
「少し動くなよ」
シロウは手元に用意していたハンカチで、リィエルの口周りに付いているクリームを取る。
「ぅうん...」
「動くな。口周りに気をつけて食べろよ」
「ぅぅん......分かった」
普通の人間であればこんな光景を見ていれば、このリア充めぇぇ!!と睨みつける所だろうが、既に見慣れた皆に取っては親子にしか見えない(無論シロウが母親でリィエルが娘)
昼食も終わると授業が始まり、その日最後の錬金術の授業が終了するも、その教室に数人が残りリィエルの話を聞いていた。
「ここがこうなって......ズバーーンといってドガーーン......そうそれでジャキィーーン...違うそこはバッカァンン」
「意味が全然分かりませんわ」
「これって俺が悪いのか?」
「リィエルの使う錬金術は既に固有魔術の域まで達している。それを真似しようとするのはあまりオススメしない。それに最悪リィエルのを使うと廃人になるぞ」
シロウの言葉に真似しようとしていた人たちは顔が青ざめる。逆にそれを使って何も問題がないリィエルの方に驚いていた。
固有魔術であるならば仕方ないかと言って皆諦める。
そもそも固有魔術はその人にしか使えないから固有魔術なのであって、ポンポン皆が使える物の事ではない。
それでも数人は覚えたかったのか肩を落として落ち込んでいた。
遠征学修の場所は白金魔道研究所となった。その場所の近くには海がある。そう海だ...海があるのだ。
「食費を抑えて餌を少し奮発して、竿は投影すればいい...あとクーラーボックスか」
久しぶりの釣りに胸を踊らせていた。
全員の色々な思惑が交差しながら遠征学修当日になる。
今目の前に広がるのは広い広い綺麗な海に......大の大人グレンのゲロだった。
「うげぇぇ」
「だから言っただろう。酔い止めを飲めと」
「めんどくそかっおぇぇぇ」
シロウの注意をガン無視して面倒臭いの一言で酔い止めを飲まなかったグレンは、船に酔いかなり吐いていた。
グレンの背中を擦りどうにか耐えさせ遂に念願の島へと到着する。
「グレン自由時間だったな!」
「あぁ...」
「ルミアの事は頼むぞ、久しぶりに腕がなる」
シロウは大きなカバンを持つと急いで山の奥へと進んでいき、人気の少なそうな場所まで行くと釣竿を投影して釣りを開始する。
30分経過しても竿に当たりはこない。
2時間経過しても竿に当たりはこない。
その後も一向に当たりは起こらず、日は暮れ時計の針は9時を回ろうとしていた。
「くっ...何故だ......竿がいけないのか?...いやそんなはずは...」
「何か釣れましたか?」
シロウがブツブツ呟いていると不意に背後から声がかかる。
「あぁ今しがた釣れたよ...天の智慧研究会エレノア」
「あらあらまぁ」
竿を静かに地面に置き、振り向くと、そこには魔術競技祭にて軽く戦闘した相手がいた。
服装はあの時と特に変化はなく、完全にメイドだった。
「貴様は...なるほどな......姑息な真似をする物だな」
「やはり見て気づきましたか...」
「君にまた会うとはね」
エレノアの後ろから1人の誠実そうな青年が現れる。
その青年はリィエルと同じ青の髪をしていた。
「シオン...いや違うな誰だ?まぁそれは今はいいか」
シロウは夫婦剣を投影し、それを投擲する。
そして、次の日の研究所見学にシロウが現れる事は無かった。