リィエル愛のため少し長くなってしまった。
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システィーナには最近新たな日課が出来た。
もしその日課が周りにバレれば確実に変な目で見られる事間違いなしだろう。
「はぁ...はぁ...」
「ギブアップか?君はその程度で終わらせるのか?」
「そんなわけない......私は私は」
「だったらもっと力抜け。そうしないと出来ないだろ」
「で、でも」
「それに私はもう少しで帰らねばならない。だから急げ」
「うぅぅ分かったわよ」
木に凭れかかるような体制だったシスティーナは立ち上がり、しっかりと腰を下ろす淑女がするには恥ずかしい格好をとる。
その羞恥心は並ではなく、いくら見られないようにと朝早くにしているとはいえ、近くには男2人がいるのだ。全く恥ずかしくないという訳もなく、顔は耳まで真っ赤に染まっている。
「これでいいんでしょ!」
「もっと腰を落とせ、手伝おう」
シロウはシスティーナの腰に触れると急に下に力を加える。
その衝撃に倒れそうになるが、どうにか耐える。それよりも触られた事の方がダメージがでかい。
「それをキープしたまま拳を突き出せ」
「えい」
「もっと気持ちを込めろ」
「でも」
「はぁ......1度手本を見せよう」
シロウはすぐに腰をシスティーナよりも低くして拳を突き出す。
「は!」
突き出された拳が木に直撃すると、殴った場所にクレーターのように丸く削れ、そのまま水平に木にひびが入り倒れる。
「「うそぉん」」
システィーナとグレンの口から情けない声が漏れる。木を倒すぐらいなら魔術を使えば簡単に引き起こせる。
だがこの現象を引き起こしたシロウは魔術を一切使用せずに木を倒した。
シロウはこの力を『八極拳』と言っていたが、グレンは『マジカル八極拳』と言っていた。
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学院に行く道の途中にある噴水にてグレンとシロウは座って人を待っていた。
「にしてもどう思うよリィエルが来るなんて」
「いいと思うがね。リィエルはまだ若い、それならば友ぐらい必要だろ」
「それを同い歳の奴が言うかね」
「言うだろ」
そうグレンのクラスには新しい仲間が増える。その目的はシロウと同じルミアの護衛だった。
まぁそのリィエルを呼んだのがシロウだとはバレていないようだった。
「先生」
「奇遇だなルミア」
「態とらしいぞグレン」
「全くグレン先生は」
グレンが軽く笑いながら進み始めると、それに釣られ動こうとした時、シロウはとある少女の存在に気づきシスティーナとルミアをグレンの側から離す。
そのシロウの働きと同タイミングで、グレンに向け大剣が振り下ろされる。
「ぐぉぉぉぉ!!」
それを何とか白羽取りして持ちこたえる。
「リィエル言っただろもっと重量を使えと」
「焦った...ごめんなさい」
「別にいい。さてさっさとその剣を振り下ろして殺れ」
「分かったグレン倒す」
「だぁぁ!まてや!あの時のは解決しただろ!!」
「解決?何の事だ?面白い事を言うなグレン」
「てめぇぇぇ!覚えてろよぉぉ!!!」
「先に行きましょルミア」
「うんそうだね」
当たり前のように2人はスルーして先に学院へと向かう。
そのお遊びを数十分すると急いで学院へと向かう。
リィエルがグレンとクラスに入ると、辺りは騒然とする。まぁ確かに顔だけを見れば問題ない...そう顔だけなら
グレンが雑談を止めさせるとリィエルは自己紹介を始める。
「リィエル=レイフォード。帝国軍が一よ...痛い師匠」
確実に機密情報すら吐きそうな勢いだったリィエルの頭を思いっきり叩き黙らせると、ため息を吐き耳元で何を言えばいいかを呟く。
「将来?...帝国軍への入隊を目指して?......出身地は...イテリア地方......らしい......年齢は十五らしい......趣味は...なんだっけ?」
「スイーツ巡りだろ」
「そうスイーツ巡り」
軽く片言なのが気になるが、今はそんな事より新たな仲間に大量の拍手を送る。
転校生と来たら定番の質問タイムが待っていて、それにリンが手をピンと上げる。
「イテリア地方と言っていましたが家族はどうなされているんですか?」
「家族...兄がいる...いた?......兄」
「あぁすまんこいつに家族の話は止めてやってくれ、ちょっとデリケートな話でな。家族以外ならどんどん質問してやってくれ」
リンはやってしまったと見るからに肩を落とす。普通にこんな話をすれば気分が落ちるのも当たり前だろう。
その空気を壊すためカッシュと言う勇者が立ち上がる。
「リィエルちゃん。何かグレン先生とシロウさんと親しいみたいだけど、その理由を教えて欲しいなぁ」
「それ、私も気になっていましたわ」
カッシュの出した新たな話題に皆が「俺も」「私も」と声を上げる。
それとカッシュの発言の中で「シロウさん」と呼ばれているのは、誰かが怪我をするとすぐに直したり、服に穴が空いたら直ちに修復するので、まるでお母さんみたいだと尊敬の意味を込めて「シロウさん」と呼ばれている。
シロウ本人は全くこのあだ名が気に入っていないが。
「私はリィエルとは家が近くてね...」
シロウは適当な理由を上げるとリィエルの耳元で何かを呟く。
その行動に頭を傾げる。その行動はすぐに答えを出した。
「グレンは私の全て。グレンがいなければ私は生きてない。グレンを...愛している?これでいいの?」
「あぁバッチリだ」
「なんでこうなるぅぅぅぅ!!!!」
愛しているの意味は深く理解出来ていないリィエルは、とりあえず好きだとシロウに教えられていた。loveかlikeかではlikeの方なのだが。
リィエルの発言を聞いた皆は当たり前のように騒ぎ声を上げる。
「きゃぁぁぁ!!まさか生徒と教師の禁断の恋なのぉぉ!!」
「うぎゃぁぁ振られた!!!」
「そんな...シロ×グレが......」
「リィエルちゃんがぁぁ...」
何か聞き流してはいけない言葉が聞こえた気がしたが、シロウは無視をする。
そんな騒ぎを起こした張本人のリィエルは頭を傾げ、システィーナは頬を少し膨らませそっぽを向いていた。