私の王子様   作:よさこいショップMASARU


原作:ハナヤマタ
タグ:ガールズラブ なるヤヤ
 なるの惚気とヤヤの嫉妬とすれ違い。

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私の王子様

 最近なるが可愛くなった。

 もちろんそれだけならとても喜ばしいのだけど、その背景は大切だ。

 推定、彼氏ができた。

 

「昨日もあの人と会っちゃってね~」

「もうすぐその人の誕生日なんだ~」

「何あげれば喜ぶかなぁ?」

 

 大切な人らしい

 

 正直内気だったなるがここまで積極的になれたのは喜ばしい。でも私にそのプレゼントの相談を持ちかけるのはどうなのだろう。

 確かにバンドを組んでいたこともあれば、クラスでの友人も多い。なるとの付き合いも長いし相談するに妥当な相手かもしれない。

 しかしその付き合いの長さ故に私は純粋になるを応援してあげられなかった。

 

 要するに、妬いているのだ。

 

 ◆

 

 そんな夏の暑さにうんざりする日々が終わったかと思えばなるの惚気にうんざりするようになったある日の晴れた放課後。いつも通り私達は屋上でよさこいの練習に明け暮れていた。

 

「残暑厳しいってこう言うことデスね……」

 

「まあこんだけ動けばねぇ」

 

 激しい動きを伴うよさこいを日差し照りつける屋上で練習すれば、発汗量も体温の上昇も無視できない問題だ。

 

「それじゃあ休憩にしよっか」

 

 なるの提案によって休憩を取ることにした。スポーツドリンクや保冷剤をクーラーバッグから取り出す。熱中症対策は怠らない。ハナも言っていた通りまだ残暑は厳しいからだ。

 

「ねえヤヤちゃん、部活終わってから買い物に付き合ってくれるかな?」

「勿論いいわよ、なるの頼みだもの」

 

 きっと惚気けてるアイツへのプレゼントだろう。なんだか腹立たしいけど他ならぬなるの頼み。断るなど言語道断だ。

 

 ◆

 

 そうして煮え切らない気持ちを抱えたまま私はなると一緒に電車に乗って大船のショッピングモールへ買い物へ向かった。買い物の途中の休憩で食べたスイーツもどこか味を感じられないし、なるの話もあまり耳に入ってこない。冷たくて柔らかいだけのクレープを頬張りながら、虚空を見つめてなるの言葉に耳を傾ける。

 

「それでね、折角だからお揃いで身に付けられる小物がいいと思うんだ」

「ええ、いいんじゃないかしら」

 

 心ここにあらずの返事を返す。なるがそこまで積極的になるなんて相手はどんな男なんだろうか。

 普段ならば心惹かれるファッションコーナーもどこか遠い世界のようだ。サマーファッションの最先端だなんて広告が視界の隅を通り過ぎていく。

 目的もなくフロアを彷徨ううちに、私となるは本屋と文房具屋が併設された店へとたどり着いた。

 

「これなんて、どうかな?」

 

 文房具のコーナーに置かれた白いツツジのストラップをなるが見せてくる。大きさも程よく、筆箱や通学鞄など着けられる場所は多そうだ。

 

「ええ、いいと思うわ。相手のことを考えて選んだものならきっと喜んでくれるはず」

「うん……ありがとう! お会計してくるね!」

 

 そう言ってなるはレジへ駆けていった。会計が終われば件の彼氏に渡しに行くんだろう。それを考えるとなんだかとても心苦しい。私のなるが誰かに取られるなんて!

 “私のなる”? 私は一体何を考えているのかしら。

 そうよ、これは変な意味じゃない。昔っから危なっかしくて見ていられないなるが自立して私の元を離れていく寂しさ。

 って何を言っているの? 私はなるの母親じゃない! もっと違う――

 

 

「はい! ヤヤちゃんに!」

 

 

 死角からラッピングされた小物を私に差し出すなる。瞬間私の思考が停止する。

 顔を真っ赤にしたなる、きっとラッピングされた物体はさっきのストラップだ。

 誕生日? いいえ全然違うわ。なるが私の誕生日を間違えることなんてなかった。

 

 不可解極まりなくてあらゆる言葉が喉から上に上がってこない。するとなるの口から再び言葉が紡がれる。

 

「白いツツジの花言葉って知ってる?」

 

 ――初恋

 

 なるに勧められてこの間見たテレビで知っていた。思わぬ告白に戸惑うばかりで思考がまとまらない。

 

「ごめん、気持ち悪いよね。私もヤヤちゃんも女の子になのに……」

 

 私が呆然として黙ってるのを見てなるがあらぬ誤解を始めた。

 

――あらぬ誤解? 私は何を考えて――

 

 いいえ、もう心は決まってる。今までその気持ちに気付かなかっただけ。

 

 心は言葉にしなきゃ伝わらない。

 

 あの鈍くさいなるが勇気を出したんだもの、あなたが勇気を出さなくてどうするの?

 

 笹目ヤヤ。落ち着いて、応えなさい。

 

「馬鹿言わないでなる。私も大好きよ。昔からずっと――」

 

 抱きしめたなるの体温が冷房の効いた寒い室内で私に温もりをくれた。



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