蒼天英光譚   作:アマザケ01

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※注意、前話で触れたとおり、この作品にはオリジナルの要素が含まれております。閲覧される際にはご注意くださいませ


不滅隊からのスカウト申請

モモディさんに呪術師を教わるために案内された場所に行けば、そこには小さな子供たちがいた。子供たちと言うと彼らはやや不満げに言葉を漏らしたが、シルビアちゃんが魔法を詠唱しようとすればあわあわと慌て始め、一律して不満の声を口から零さなくなった。

 

彼らは呪術師を極めるための団体であり、リーダーとしてココブキという顔に包帯を巻きつけ、片目だけをのぞかせたララフェルの少年が応対してくれた。彼は呪術師のなんたるかを口にすれば、そのまま去って行ってしまった。……心なしかシルビアちゃんの方へと視線を向けてはぶるりと体を震わせていたようだが、気がつかなかったことにしよう。

 

「さ、ゴレ君、ひとまずは終わったけれど、どうする?」

 

呪術師ギルドを出て、シルビアちゃんが声をかけてくる。どうするか、というのはやっぱりこれからの行動のことについてであろう。

 

「そうでゴワスなぁ……うーん……」

 

そう言いながら悩んでいると

 

「そこに見えるガタイの大きな冒険者のルガディンと、それに反比例するかのようなちっちゃいララフェルの君たち、ちょっといいでしょうか」

 

といった声が背後から響いてきた。その声に反応するようにくるりと振り向けば、先ほど酒場で見かけた厳ついお面を被った人物が話しかけてきた。

 

「……シルビアちゃんのご友人でゴワス?」

 

「いや、そちらの女性とも貴方とも初対面のはず……いやまぁ、先ほど酒場で見かけたから、厳格に初対面とは言えないかもしれませんがね」

 

そう言いながら軽く頭をかきつつ、こちらへと視線を向ける。否、視線というよりお面をかぶった頭をこちらへと向けた。

 

「さて、自己紹介が遅れたことをお詫びしましょう。私はシルビー・シュエット。ただのしがないおせっかい焼きです。以後よろしく」

 

そう言いながら軽く頭を下げてくる。よろしくと言いながらも一向に顔を見せようとしないのはなんなのか気になるところではあるが、まぁ悪い人ではなさそうなので返事を返す。

 

「おいどんはゴレイヌ・レッドでゴワス。そしてこっちが……」

 

「……しるびあ」

 

と、少し声を抑えた様子でシルビアちゃんが言葉を口にする。はて、どうしたんだろうか。

 

「さて、まぁ呼び止めたのは他でもありません。私は実はそこの不滅隊というところに勤めている隊員であり、階級で言えば中闘佐を務めさせてもらってます」

 

「中闘佐、というと結構な立ち位置でゴワスよね? すごいでゴワスなぁ……」

 

「まぁ、私であれば当然のことだとは思いますが」

 

さも当然、といったように軽く言葉を口にする。思っていたより、内面的にも大物かもしれない、この人。

 

「君たちに声をかけた理由は一つ。実に見た目からして君たちは見込みがありそうですので。そのため、この私自ら君たちをスカウトすることにした、という次第です」

 

うんうんと腕組みをしながらも小さく頷きを返してくる。

 

「……まぁ、それはお眼鏡にかなって嬉しい事ではあるでゴワスが……おいどん、まだここに来たばっかりなんでゴワスが……」

 

「貴方がまだ見習い冒険者で、私なんかよりも断然弱いということは百も承知です」

 

「…………」

 

「しかしながら、そんな君でもいずれは強くなるでしょう。冒険者とはそういうものですから。そこにいるシルビアと名乗った彼女のように。彼女は相当の力がある。だからこそ、声をかけたというわけです」

 

シルビーはちらりとシルビアちゃんへと視線を向ける。その視線にほんの少しだけぴくん、と反応しつつもどう言った表情をすればいいのかわからない様子に見えた。

 

「何も怖いことはありません。実際、私は戦闘には不向きですが、頭はキレる方だと自覚しています。かのラウバーン隊長からも、信頼の念を押されております」

 

「……つまり、おいどんはオマケで、シルビアちゃんを招待したい。だけれどもシルビアちゃんは警戒していて、シルビーさんはちゃんと実績のある兵士だから安心して入隊するように、ということでゴワスかね?」

 

「理解が早くて助かりますね」

 

小さくこくり、と頷くシルビーさん。はてさて、どうしたものか……

 

「……しるびあは双蛇党に入ってるから、そっちには入れないや」

 

そう小さく呟きつつも、シルビアちゃんはちらりと見上げるように視線を向ける。その視線からは、何やら哀愁漂うような、何か想いに耽るような、そのような意思が感じ取れた気がした。

 

「おや、それはおかしい。他の隊の名簿を拝見した際、お二人のような姿の写真は見当たりませんでした。だからこそ、実力者がこんなところで埋もれているのは勿体無いとお声がけしたのですから」

 

「……行こう、ゴレ君。そろそろ出発しないと。冒険に出る準備もあるしね」

 

そう呟きつつ、シルビアちゃんは、シルビーさんから視線をそらし、その横をスタスタと歩き過ぎては最初に入ってきた街の入り口の方へと歩みを進め始めた。

 

「ふむ……嫌われましたかね。まぁ、彼女についてはまた後ほど伺うとしましょうか。それで、貴方はどうですか? ゴレイヌさん」

 

軽く顎に指を添えつつ、今度は顔をこちらへと向けながら話題を振ってきた。

 

「おいどんはオマケだったんじゃないんでゴワスか?」

 

「話を聞いてましたか? 冒険者とは、いずれ強くなるもの。でしたら今こうやって誘いかけるのも将来に向かって打つ布石の一つになります故」

 

「……なんだかおいどん、丁寧に扱われてるのかオマケとして扱われてるのかわからないでゴワスね、それ……」

 

「大丈夫です。入ってくだされば、いずれは丁寧に扱いますから」

 

こくりと小さく頷きを返してくるシルビアさん。そして、視線を向けてくれば小さく"どうでしょう、悪い話ではないはずです"と言っては手を差し出してくる。

 

ちらり、とシルビーさんの背後へと視線を向ける。その先には先ほど先に行ってしまったシルビアちゃんの後ろ姿があった。

 

「……悪いでゴワスが、シルビアちゃんを待たせてるでゴワス。だから、後々また決めるために保留でお願いするでゴワスよ」

 

そう言いつつ、伸ばしてきた手を掴むことは無くその横を同じように歩き始める。

 

「……そうですか。では、いい返事を期待していますよ。ゴレイヌ・レッドさん」

 

手を下ろしつつ、ゆっくりとこちらを振り返りながらも大袈裟にお辞儀するような仕草を取ってくるシルビーさん。自分はそれをやや視界の端へと捉えつつ、シルビアちゃんの元へと歩みを進め続けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしてゴメンでゴワスよ、シルビアちゃん」

 

「……結局どういうことになったの?」

 

「あぁ、どちらにせよ、今はまだ入らないことにしたでゴワス。シルビアちゃんが待ってるのが見えたでゴワスからね」

 

「……ふぅん……そっかそっか。じゃあ、早速行こっか、ゴレ君」

 

その言葉を聞けば、数瞬やや驚いたように瞬きをしつつも、満足げに頷きを返しては再び歩みを進め始めるシルビアちゃん。それに続くように、ゆっくりと、その後ろ姿に追いつくようにと自身も歩みを続けるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ここは、変えられた……次は、また別の場所……」


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