雲ひとつない、蒼天ような晴れ晴れとした空。その空の下に広がる世界「エオルゼア」そして、さらにそのエオルゼアの世界の中、モードゥナという町に一人の新米冒険者が現れる。もちろんここに来るまでにレベルの高いモンスターが軒並みいたが、彼は馬車に揺られ、無事に街へとたどり着く。着いたやすぐ、彼は町の人々に対しとある人物を探している、どこにいるのか知らないか、と尋ねていけば、酒場に彼はいると言われ、急ぎ足で歩みを進める。
興奮している様子で彼は酒場のドアを押しあける。ギィッ、と鈍い音が響き渡り、酒場にいた何名かの視線がその冒険者へと注がれる。彼はその視線を見返すように視線を中へと向け、一点に止まれば急ぎ足で再び自身歩き出す。
彼の視線の先にはバーのカウンター。そしてそこには片足を組みながら椅子に座り、ハープのようなものを奏でる吟遊詩人。ここモードゥナでは彼のことを異邦の詩人と呼ぶ。
「……やぁ、初めて見る顔だね。僕に何か用かな?」
ぽろん、ぽろんと奏でるようにハープの弦を弾く。その音は聴くものを落ち着かせるような音色に変わり、意気込んでいた冒険者の呼吸が次第に落ち着いていく。切れかけていた呼吸が整えば、彼はある人物達の話について話が聞きたい、とその人物へ言葉を投げかける。
「あぁ、彼等の話か。ここのところ、毎日のように代わる代わる君のように人が来るからね。聞かせる話も偏ってしまうよ」
異邦の詩人は軽くて笑みを浮かばせつつ、先ほどとは違う、今度は穏やかな音色へと音を変える。
「いいよ、そこに座って……さぁ聞くといい。この世界……エオルゼアを救うために奔走した、とある英雄達の冒険譚を」
ガラガラガラガラ、と馬車は揺れる。否、馬車ではなく、この場合はチョコボキャレッジと呼ばれる乗り物である。何故なら、この車を引くのは馬ではなく、チョコボと呼ばれる黄色く二本の足で走る動物だからである。二頭のチョコボが砂漠の街、ウルダハへと向かって走り出している。町に向かう途中の景色には、川や小村がある他に、サボテンや小さなモンスターなどが辺りにぞろぞろと蔓延っている。
その走るキャレッジの上に、二人の人物が座り込んでいる。一人はどこにでもいそうな、この荷台の持ち主であるヒューマンの男性。もう一人はとても体が大きく、赤く長いロングヘアーをたなびかせ、口元や目元などに切り傷が付いている2mは優に超えようといったほどのルガディンの男性であった。ヒューマンの男性は片手に酒瓶を持ちながら、そのもう一人の男性へと言葉を投げかける。
「さて、兄ちゃん。もうあと数十分程度でウルダハに着くんだが……あれかい、やっぱり兄ちゃんも冒険者になろうってやつかい?」
そう呟いた男性は、ちらりともう一人の男性へと視線を向ける。
「そうでゴワスね。おいどんは冒険者になるためにウルダハにむかっているでゴワスよ」
「……この荷台に乗せてくれって言われた時から思ってたんだけどよ、兄ちゃんの口調面白いな。あぁいや、もちろんいい意味で、だけどな」
「よく言われるでゴワスから、気にしなくていいでゴワスよ」
「へぇ、そうかい。ちなみになんだが、兄ちゃんは冒険者になるのに、何を目的に冒険者になるつもりなんだい? 差し支えがなけりゃあ教えて欲しいものだが」
そう言われれば、大柄な男性は少し考え込むような仕草を見せつつも、思いの丈を口にする。
「おいどんは……英雄になってみたいでゴワスね。伝承に残るような偉大な功績はいらないでゴワスが、一人でも多くの人達を救えるような、冒険者に」
そのまま初老の男性へとにこりと微笑みを浮かばせる。その笑みを見た男性は少しきょとんとしつつ、くっくっく、と楽しげに喉を鳴らしながらも同じように笑みを浮かばせる。
「それは楽しみだ。じゃあいつの日か、俺のことも守ってもらうとしようかね。言い忘れたが、俺の名前はブレモンド。ただのしがない商人さ」
「おいどんはゴレイヌ。ゴレイヌ・レッドでゴワス。よろしくでゴワス」
二人はキャレッジの上でくすくすと笑みを浮かばせあう。
「さ、そろそろウルダハに着くから準備しておけよ。これから先、お前の冒険の噂を聞くのを楽しみに……」
「そこの物資を運ぶ車よ。止まるが良い。其方等の物資、我らアマルジャ族が貰い受ける」
ブレモンドが楽しげに笑みを浮かばせながらも言葉を綴る途中、そのような声が辺りに響けば、どこから現れたのかチョコボキャレッジの周りには数台にも及ぶモンスターの影が忍び寄り、チョコボの行く手を止めるように正面へと回り込んだ。二頭のチョコボは驚いたように声をあげつつ、急停止をするように歩みをそこで止めた。
「な、なんでゴワスか、このモンスター達は……!?」
「こいつ等はこの辺りに縄張りを敷いている、アマルジャ族って奴らだ。腕は立つし、なんだか小難しいことばっかり言ってくる奴らだ、くそっ」
憎々しげに軽く舌打ちをしつつ、ブレモンドはアマルジャの集団へと目線を向ける。
「弱肉強食。それ即ちこの世の理と道理。さぁ、すぐに物資を献上した方が身の為である」
先頭に立つアマルジャ、と呼ばれるモンスターの一人が歩み寄ってくる。
「さぁゴレイヌ。早速出番だ。俺を助けてくれ」
「ははは、何を言うでゴワスか。おいどんが冒険者になったらって言ったでゴワしょう。おいどんまだ普通のルガディンでゴワス」
お互いがお互い、顔をひくつかせながら冷や汗を垂らし、苦笑いを浮かばせる。ここからウルダハまでの道のりはまだ遠く、ウルダハに住む衛兵たちが駆けつけたとしても時間がかかる。
そう考えている合間にも、彼ら、アマルジャのメンバーは歩み寄る。
「くっ……畜生が……」
ブレモンドが苦々しく言葉を口にしては諦めの様子を見せる。ゴレイヌも同様に顔を伏せる。ここまでか、と感じたその時
「ストンガ」
小さい女性の声が辺りに響く。その瞬間、詰め寄るアマルジャ族とチョコボキャレッジの間に巨大な岩が一つ降り注ぐ。どこからともなく現れた岩に両者驚きの目を開き、辺りを見回す。
「どこにいる、出てくるが良い!」
アマルジャグループのリーダー格とも言える存在が言葉を張り上げる。その声が響いて数巡後、一人の少女が姿を表す。少女と言うのは比喩ではなく、ただ、本当に少女なのだ。見た目としてはとても小さく、5歳児と言っても見分けがつかないほどの身長である。
少女の姿は白のローブに似た服装に赤いラインが入った服装、髪は一見桃色の髪に見えるものの、よく見ればローズレッド色のメッシュが入っている。そして、さらに特徴といえば頭部である。彼女は頭にうさ耳を生やしていた。被り物なのか生えているのかはわからないが、確かに白く小さな耳が生えていた。
そんな少女はこちらへとちらりと視線を向ける。そして、自分と目が合えばくすり、と小さく笑みをもらしたような気がした。そして、そのまま少女はアマルジャ族に目線を向け、持っていた杖をかざせば、一つ静かにこう呟いた。
「ねぇ、動き理解した?」