ダンジョンに手柄を求めるのは間違っていないはず   作:nasigorenn

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第43話 ベルは墓参りをする

 リヴィラの街、その中でも特に人目に付かないような薄らとした一角にて、この神は周りの集団に声をかける。

 

『あの生意気な新人(首狩り)にお灸を据えないか?』

 

その言葉に最近話題の新人のことを快く思っていない先達達は大いに盛り上がりを見せる。何せ自分達が何年かけてやっと到達したレベルを僅か数ヶ月で追いついたというのだから。別に自分達が努力していないわけではない。あれだけやってそれでいて何年もかかってやっとなったというのに、その新人は僅か数ヶ月。理不尽としか言いようが無く、何かしらズルをしているとしか思えない。だがその不正を正したいのではない。正直に言えば気にくわないのだ。新人が調子づいているということが、自分達が侮られているということが。故にこの鬱憤を晴らしたい。レベル2というのはそう甘いもんじゃないのだと、その肉体と精神に叩き込みたいのだ。

 故にこの理不尽な鬱憤を晴らせると盛り上がる者達。だがその中の一人………その新人に関わったことがある男は目の前の神に疑問を投げかける。

 

「アンタの申し出は嬉しいんだが、何でだ? アンタ、あの首狩りの仲間だろ?」

 

そう、この神はあの新人と行動を共にしているのだ。まず仲間であることが窺える。そんな仲間を貶めるような真似をする意図が分らないからこそ、猜疑心を抱く。

 そんな男に神はニッコリと笑う。

 

「確かに俺は彼と行動を共にしているけど、別に仲間意識がそこまであるわけじゃないさ。寧ろ俺は彼の被害者だ。そういう点では君達と同じというわけさ。俺だって彼には少し痛い目を見てもらいたいんだよ」

 

そう語る神ではあるが、その胡散臭さが信用させない。それが本人も分っているからこそ、彼は信用の証としてそれを彼等の前に見せるように差し出した。

 

「そのためにこうして秘蔵のマジックアイテムを君に貸すんだよ。これはね………」

 

悪い笑みを浮かべながら神はそのアイテムの効果を語る。その効果は彼等からすれば信じられない程に凄まじく、まず新人では勝ち目がないだろうと思った。だからこそ、皆ノリ気であった。仮に自分達が同じ目に遭わされたらまず何も出来ずにボロボロにされるだろう。故に勝てると誰もが逸った。

 そんな盛り上がりを見せる彼等に神は更に笑いながら話しかける。

 

「それに今、彼の元には彼の弱点が側にいるんだ。それを使わない手はないだろう」

 

自分の友神を売る彼は最低だろう。だが彼はそんなこと気に止めなかった。それまで酷い目に遭ってきたのだ。主神である彼女も道連れである。

 ただ不安なのはひとつだけ。

 

(これでもし、彼が無傷だったらどうしよう…………寧ろ今度こそ俺の首が………!?)

 

あの化け物の弟子である。非常識の塊のような男だ。レベル2に何かしら与えたとしてそれで勝てるかどうか…………。

 そう考えるとゾクリと背筋が凍るような感じがして震える神。だがもう賽は投げてしまったのだ。今更止まれない。それが例え自分の大切な子供の元からくすねたアイテムを貸してしまったことがバレてしまって怒られたとしてもだ。

 だが…………彼は知らない。かの新人はあのレベル7と真正面から殺し合うことが出来る本物の化け物だということを。

 

 

 

 リヴィラの街の観光を楽しんだベル達一行は現在拠点であるロキ・ファミリアのテントへと帰ってきた。

 そこで女性陣は水浴びに行くと言って近くの泉へと出かけていく。その話を聞いたのか、ロキ・ファミリアの団員達などはいつの間にか帰ってきていたヘルメスに唆され、皆水浴びを覗きに行こうと盛り上がる。その様子を見ていたまともな面々は呆れ返り失敗することを察する。

 さて、本来の歴史ならそこでヘルメスに唆されて覗きに同行するベルだがここにいるのは薩摩兵子。酷い話が性に興味などない真性の手柄馬鹿である。そんな話に乗るわけがなく、彼はその話が出た時点で散歩に出かけていた。

 ゆっくりと森の中を歩いて行く。太陽はないが、それでも暖かな日差しがさす木漏れ日の中はゆっくりとした雰囲気を醸し出す。

 

「ふぁ~~~~~~~~~……何だか眠くなってきたね」

 

彼にしたらあまりらしくないと思われがちなのだが、実はそうでもない。ベルの師匠である豊久も平時はどちらかと言えばのんびりしておりよく昼寝などをしているのだ。いつも猛っているわけではない、紳士的なこともあってのんびりとしがちであった。そんな眠気に誘われながらの散歩。どこか気持ちよさそうなところはないかと探索しながら歩いて行く。

 そこで丁度良さそうな日差しを浴びている木を見つけた。直ぐ側に湖もありその上を通っていいく風が涼風となって頬を撫でていく。

 

「丁度よさそうかな」

 

その木陰へと歩いて行くベル。その途中湖の方に白い何かが目に入った。

 それは真っ白い肌をした綺麗な女体。後ろ姿だけであるが、それでもその肉体は美しくどこか儚げな雰囲気を醸し出す。扇情的というよりも先に綺麗だという言葉が思い浮かぶ、そんな美しさがそこにあった。

 その光景に年頃の男なら魅入ってしまうものなのだが、ベルはそんなことなく普通に声をかけた。

 

「あれ? リューさん?」

 

急に声をかけられた彼女………リューは身体をビクリと震わせて急いでベルの方を向くと、そこで更に驚いた。

 

「く、クラネルさん………!?」

 

驚く様子を見せた後に少しして彼女は急いでその肢体を隠すように手を回し、真っ赤になった顔で慌ててベルに言う。

 

「み、見ないで下さい!!」

「あぁ、これは失礼。ごめんなさい」

 

ベルはあぁ、と今気付いた様で謝ると取り敢えず視線を逸らし彼女を視界から外す。

 ベルの視線を感じなくなっても恥ずかしい彼女は身体に回した手解かずにベルに変わらず真っ赤な顔で叫ぶ。

 

「そういうときは目を瞑って下さい! 絶対に見ないで下さいね!」

 

普段の彼女からは考えられない程の動揺する姿は新鮮だが、恥じらう女性をそのままにするというわけにもいかない。なのでベルは言われたとおりに目を瞑り、リューは急いで岸に上がると服に着替える。

 そして改めてベルと向き合い目を開ける様に言うと彼女はジトっとした目で睨み付けてきた。

 

「クラネルさん、弁明はありますか」

 

如何にも怒っていますという顔をするリュー。別に表情はそこまで変わらないのだが、視線からその怒りが伝わってくる。

 まぁ、だからといってこのベルが怯えるわけがなく、彼は普通にここに来た経緯を伝える。それを聞いたリューはそれならば仕方ないと許してくれたようだ。

 そうして落ち着いてきたリューはベルに話しかける。

 

「クラネルさん、少し付き合ってくれませんか」

 

その言葉に従いベルはリューの後を付いていく。その際に一切の会話がなかったのは彼女のどこか覚悟を決めたような表情の為である。紳士の時なら気遣いが出来る男、ベル・クラネルである。

 そして歩くこと数分、それは生い茂る木々の合間にひっそりとあった。こんもりと盛られた土の山に幾本の剣が突き刺さっている。

 

「リューさん、ここは?」

 

ベルの問いかけに彼女は過去の後悔を思い出しながら答えた。

 

「私の仲間達の墓です」

 

 そして語られるリューの過去。それは正義を志したファミリアの悲劇とその悲劇によって復讐に駆られたエルフの惨劇。正義を胸に秘めた彼女の悪行に彼女は今でも苦しんでいる様子を見せる。矛盾していながらも仕方ない感情に駆られ、摩耗し復讐を果たし、燃え尽きるところを今の親友に助けられてこうしていると。

 そして彼女はベルに自嘲的な笑みを浮かべ浮かべながら話す。

 

「つまり私は横暴で恥知らずのエルフだということです。クラネルさんの信用を裏切ってしまう程の」

 

その言葉を聞いたベルはというと…………。

 

「え、なんでですか?」

 

さっきまで暗い話をしていたとは思えない程の呆気にとられた顔をしていた。

 

「いや、聞いてなかったのですか! 私は正義を志しておりながら復讐を!」

 

その言葉をリューが吐き出すと、そこで彼女は気付いた。ベルの目に温厚な物がなくなりギラつく殺意が宿っていることに。紳士から薩摩へと変わる瞬間を。

 それと供にベルは堂々と口にする。

 

「それのどこが恥じ入ることですか」

 

当たり前だと言うベルに当然リューは否定しようとするのだが、ベルははっきりとした口調で告げる。

 

「貴女は仲間の為に仇を取った。そしてそれは貴女が討たなければならないのだから当たり前です。仲間が復讐を望んでない? それこそ偽善でしょう。殺されたのなら応報せよというのは当然だ。だからリューさん、貴女は正しい」

 

その言葉にリューは言葉を詰まらせる。そしてその言葉を理解しても自分がどうかは分らなかった。ただリューはベルに静かに告げる。

 

「クラネルさん、貴方は強い。いや、強すぎる。その強さに尊敬しますが怖くもあります。でもその心は尊敬に値するお人です」

 

そう告げるリューは少しだけ笑っていた。

 

 

 

 尚、結局覗きは見つかり荷担した者達は皆捕まり女性陣から私刑(リンチ)に会うことに。その中でリリルカは悔し泣きしながら叫ぶ。

 

「どうしてリリを覗きに来なかったのですか、ベル様! リリはいつでも見られて良い様にしてるのに~~~~~~~~~!」

 

恋する暴走小人族はそう叫び、ヘスティアはそれを見てドン引きし、そしてアイズは顔を赤らめながら考える。

 

(ベルがいなかったのは良かったけど………少しだけ残念な気がする………)

 

 

こうして覗き騒動は終わりを迎えた。


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